《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

白泉社の通例とは逆に鈍感なのはヒーロー。権力も腕力も この世界で一番の皇帝陛下ヒーロー。

帝の至宝 2 (花とゆめコミックス)
仲野 えみこ(なかの えみこ)
帝の至宝(みかどのしほう)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

村の裏山で倒れていた青年・志季と出会った香蘭! 傷の手当てをきっかけに仲良くなった二人だが、志季の正体はなんと帝! 優しい志季に惹かれる香蘭だが、志季には子供扱いされていて…。そんな中、志季に縁談!? 付き人として晩餐会に潜入することになった香蘭は…!?

簡潔完結感想文

  • 恋を自覚したけど相手は帝。500人の美女とのお見合いが間近に迫り…⁉
  • またまた香蘭は暗殺者の顔を見てしまう。犯人捜しに奮闘するはずが逆に…。
  • 遠距離恋愛の危機と当て馬で鈍感ヒーローに恋心を自覚してもらうはずが…。

愛にシフトするのは早いが、成就は きっと遅い、の 2巻。

白泉社作品は設定の説明が終わったら、恋愛要素を無視して日常回を続けることが多いが、本書の場合は この『2巻』から恋愛方面にシフトしている。

更には恋の相手が帝ということもあり、妃を娶る、世継ぎを作るといった具体的な話へと動き出す。本書に停滞の文字は無い。…と思いきや、当然 ヒロインとの恋愛が唯一の恋になるように設定されており、恋愛成就までは他の白泉社作品同様 長い長い道のりを辿る。

相手にちっとも好意が伝わっていない という白泉社恒例の状態も、男女が逆になると かなり悲しい。

いきなり お見合いの話が持ち上がるが帝である志季(しき)は まだ結婚するつもりはないと宣言。側室も作る気はないし、彼らの恋愛が保留する時間は まだ確保できるらしい。

でも現実的に考えると、あまり政治基盤が盤石じゃない志季が悠長に熟考している暇なんてないのだろうが、そもそも妃を取る身でありながら、年齢的には妙齢の女性を自室に上げている時点で評判が悪かろう。

もう一つ現実的に考えれば、世継ぎがいないことで政情が不安定になり、自分が退位する可能性が出ると、ここまでの政策も継続できなくなる。志季が本当に この国のことを考えるのであれば、自分の御代を長くするためにも、後顧の憂いは断つべきなのである。賢帝である志季には そんなこと分かっているのかもしれないが、純愛を守るために、敢えて無視しているのが気になる。ちょっと物語が綺麗すぎるような気がする。


感最強ヒロインが恋に気づかない白泉社作品だが、本書では鈍感なのはヒーロー。そしてヒーローの志季は間違いなく最強の鈍感ヒーローである。なぜなら彼は一国の皇帝陛下だから。時に権力を使い異論を封じ込め、時に腕力を使いヒロインの敵を排除する。間違いなく白泉社ヒーローでも最強ランクに位置する志季が、少しずつヒロインへの想いを高めていく様子が描かれていく。

きっと本書のヒロイン・香蘭(こうらん)の外見が幼いのも、鈍感ヒーローが彼女の見た目に引きずられて、恋心を自覚しにくい仕掛けなのだと思う。決して一般的な男性に受けない容姿をしている香蘭を、しっかりと恋の相手とすることが、見た目ではなく心で惹かれたという恋愛の純度を高めるために必要なのだろう。まぁ その外見のせいで読者も香蘭の実年齢を忘れて、ロリコン疑惑が浮かんでしまい、2人がイチャイチャするような場面でも親子や兄妹のような、色気のない場面に見えてしまうという弊害もあるが。

そういう設定の妙や、通常とは違う恋するヒロインの切なさが描かれている部分は読んでいて楽しい。


だ早くも『2巻』でパターン化しているのが気になる。恋の矢印の方向こそ違うが、どれも香蘭が焦燥から空回りして失敗し、それを志季が権力と腕力でフォローするという お決まりの展開が何話も続いている。少女漫画としてはヒーローの格好良さが際立つシーンは正しいのだろうが、続けて読むとヒロインの無能さが悪目立ちしている。

特に香蘭の場合は、理想的な言動が目立つ。彼女は絶対に弱い人・傷ついている人を見捨てないのだが、本当にその人を助ける力や大局的な物の見方が出来ていない。だからいつも彼女は自分の理想を叶えられずに、途中からは志季をはじめとした男性たちにフォローされることで失敗を帳消しにしてもらう。

読者にヒーローに夢中になってもらうことが少女漫画の目的の一つだろうが、これでは あまりにも女性が無力で読んでいて悲しい。そんな役立たず疑惑のフォローとしては、香蘭の正義感100%の行動が志季にも良い影響を与え、つまりは国内に良い施策が発表されるという好循環を生んでいて、香蘭は国民から称えられるべき人物なのだろう。でも それも志季の権力と実務能力があってのことで、香蘭が何かを達成したわけではない。私は こういう よくよく考えるとヒロインが無能に描かれている作品は あんまり好きになれない。

香蘭も理想論ばかりで、外見だけじゃなく精神的にも彼女の年齢が幼く見てしまう要因になっている。正しいことを声高に叫んでいることが少し恥ずかしくも思え、正しすぎる強情さに少し辟易とさせられる。あまりにも分かりやすいヒロイン像・ヒーロー像で、それが連続して発揮しているから どれも構造的に似た話になっている。良くも悪くもキャラたちは作者に過保護に育てられているなぁ、という印象を受ける。


述の通り、白泉社作品には珍しく、ヒロインの方が先に恋心を自覚する本書。相手の志季も香蘭に優しいが、それは幼い香蘭の見た目につられるかのように子供に接するように優しいだけで、恋愛相手として優しさではない。

帝となった志季には国の存続も仕事の一つ。妃を迎えて、世継ぎを作るのも帝に課せられた義務。このままでは香蘭は、相手の結婚、そして子供まで見せつけられる運命。身分の差もあるのに、相手が既婚者になったら完全に この恋は終わってしまう。

しかし香蘭は見合い相手の候補にも選ばれず、志季本人からも友人認定をされて、失恋を自覚する。

お見合い当日、香蘭は、学校の友人・夸白・夸紅(こはく・ここう)姉妹の付き人として お見合いに参加する。だが、こういう席で香蘭が痛感するのは身分の差。『1巻』でも学校を見学に来た陛下との身分差を感じていたが、彼らは公の場で会うべきではないのかもしれない。本来なら顔を拝謁することすら許されない人と、気軽に会話しているだけで幸運なのだ。

そんな自分の境遇を再認識した香蘭は逃亡する。それを見た志季は、500名の美女を放っておいて、香蘭を追いかける。こうして読者の分身である香蘭は500人の美女よりも価値のある存在となり、読者の承認欲求はバリバリに満たされる。


つも通り、志季が政務中に部屋に入る香蘭。香蘭を この部屋に通す護衛も、陛下のスケジュールぐらい把握しとけ、と思うけど…。

そんな頃、香蘭が、友人でインチキ占い師の吏元(りげん)に帝に対する不吉な占いを要望する客に出会う。一瞬だけ、その顔を見る香蘭。これは1話の志季との出会いに似ている。

志季の身に危険が及ぶ可能性を香蘭は進言する。こうして香蘭は女官として志季の周辺に配置され、テロリスト疑惑のある男性の顔を探す。香蘭が変装して現場に出向くのは、前回の話に引き続いて同じ展開である。しかも帝に対して失態をするのも同じ。話に幅がないなぁ…。

女官としての役割のついでに一日中、志季と王宮内で一緒に過ごすことになる。これが いつか未来の2人の姿になるのだろうか。ここでの会話では、どこに敵がいるかも分からないけれど、理想を追い続ける志季の姿に香蘭は自分の背筋が伸びる。

そこで翌朝、女官として志季の役に立とうとお茶を入れる香蘭だったが、その器に毒が仕込まれていた…。

現場から離れ、犯人を捜そうとする香蘭は、あっという間に吏元の占いで出会った男に遭遇する。志季の時もそうだが、一瞬見た顔をお互い忘れないのが凄いなぁ…。その男は、志季を認めない天尚(てんしょう)将軍という名の知れた男だった。

彼は香蘭に刀を向けるが、それを助けるのは毒から少し回復した志季となる。相当強いらしい天尚を一撃で倒して、権力も武力も一流であることを見せる。白泉社って完璧な人間が好きだよねー。

その後、もう一度倒れ回復した志季は天尚を手なずけてしまう。

今回は大失態を犯した香蘭だが、そんな彼女が自分を責めないように志季は、天尚に寛大な処置ができたのは、1話で自分を助けた香蘭と言う手本があったからだと教える。2人は それぞれに互いの姿勢から刺激を受け、正しくあろうとする、そんな理想的な関係であることが語られる。ここは上述の通り、ヒロイン無能説をなんとかフォローしていて、微妙な展開だ。

完璧ヒーローの精神的な支えになることで、香蘭は早くも「国母」になったとも言える?

っている学校の試験で一位になって、じっちゃんの誕生日プレゼントにしようとする香蘭。だがそれは いつもは香蘭を応援してくれる志季から見ても無謀なことだと思われていた。その言葉に反発を覚え、意地を張った香蘭は志季と喧嘩状態のまま試験当日を迎える。

試験と言っても学力だけじゃなく、生死をかけたオリエンテーリングだという。このサバイバルレースとも言える試験でも、香蘭は他者を助ける。そこで自分がピンチになっても構わない。それをフォローするのは志季から おもりを頼まれたクラスメイトの叔豹(しゅくひょう)だった。香蘭は いつも志季の掌の上で遊ばれている気がするなぁ。

だが結局、志季も直接 参加し、2人で対話することで香蘭は自分の心の動きを全て志季に吐露する。その会話で お互いの立場も浮かび上がるが、2人で協力して魚を釣ったことで、仲直りの印とする。ちょっと すれ違っても2人きりで話せば物事が順調に進む。そんな安易な展開が見え隠れする。


の試験の商品は、海外留学1年分。これは成長の機会であるが、志季と離れ離れになってしまう。この1年に志季が結婚する可能性も大いにあり、香蘭は大いに悩む。

これは遠距離恋愛の危機で、志季が香蘭をどれだけ大切に思っているのか気づく良い機会ではないか。ここから一気に物語が終結しても全く おかしくない流れである。

そんな頃、王宮内で風邪が蔓延し、香蘭と じっちゃん は治療・看護にあたる。ここで不足した薬を、香蘭と志季が取りに行く。『1巻』 話でも2人で薬を取りに行っていたなぁ…。今回は この道中で2人きりの会話となり、お互いに留学の件を話そうとするが、上手く切り出せない。

ここで香蘭は、王宮内の薬が不足しているため自分の家から じいちゃんの薬を持ち出した。だが それは村人の分であり、平民の薬を持ち出して王宮内で使えば、その効き目次第では責任を負わなければならない。香蘭は優しいが後先を考えない。それをフォローするのは志季。権力を使い、香蘭の失敗を自分が被るように取り計らう。なんか香蘭が暴走して、志季がフォローするのがパターンになっている。やはりヒロインが おバカに見えてきて、あまり好きな展開ではない。

最後に、志季もまた高熱を出したことが判明し、風邪回になる。病床で志季は香蘭と手をつなぎたいと言い、彼らは「恋人繋ぎ」をしながら語らう。そこで初めて留学の件に踏み込んだ志季だが、香蘭は その前に じっちゃんから泣かれていて留学する気をなくしていた。

鈍感ヒーローは もう少しで自分の気持ちに気づきそうだったが、気づかないまま終わる。いつでも終われる感じに用意するのが白泉社作品か。


校に入学する吏元の買い物に付き合うために、集まった香蘭・志季・吏元の3人。この国の有名人の志季との お忍びデート回とも言えよう。この話では世間知らずで天然を発揮する志季の様子を楽しめばいいのかな。

だが途中で インチキ占い師でもある吏元が 占い客に絡まれ、それを仲裁に入った香蘭が怪我をする。その事態に、その場にいたイケメンの友人たちは激怒。志季も また いつもの穏やかさとは違うギャップを見せて、事態は収まる。結果的に女1男3の逆ハーレム状態。まさか志季が後宮を作る話じゃなくて、香蘭がイケメンを囲って暮らすという話なの⁉