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少女漫画と小説の感想ブログです

「泊まる時は いつも陛下の お部屋で お休み」している18歳 平民女性の天下一品の厚顔無恥。

帝の至宝 5 (花とゆめコミックス)
仲野 えみこ(なかの えみこ)
帝の至宝(みかどのしほう)
第05巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

志季に余計な負担をかけないため、告白を諦めた香蘭。一方、志季は春玉から、香蘭の恋心を知らされて…!?そんな中、一緒に温泉旅行に行くことになった香蘭たち。そこで志季から「好きだと聞いたけど本当?」と問われて…!?

簡潔完結感想文

  • 君の幸せを最優先に考えると自分の事情に巻き込めない。そのための現状維持。
  • 絶体絶命のピンチに一世一代の告白。でもヒロインが本気にしなくて現状維持。
  • 無自覚だったから出来ていた同衾も今は もう出来ない。ってか最初から すんな!

守交替で、いつも通りの白泉社特有の無自覚最強ヒロインが誕生する 5巻。

表面的には今日も地球は丸く、2人の関係性が少しも変わらないように見えるが、その内部では地磁気が逆転する大転換が見られる。

放火による絶体絶命のピンチに帝・志季(しき)がヒロイン・香蘭(こうらん)に秘めていた気持ちを伝えハッピーエンドを迎える。寸前で、ヒロインは身分の違う彼の告白を冗談と捉え、物語は継続する。何と言う白泉社的なリセット機能だと呆気にとられたが、これによって これまでは読めなかった白泉社の王道パターンを楽しめる仕組みになっている。これにより組織・作品のトップ オブ トップからの寵愛を受ける無自覚ヒロインが遅ればせながら誕生した。

一世一代の告白もヒロインには伝わらない白泉社作品の伝統芸。いつも通りの愛されヒロインの爆誕です。

本書は珍しく女性側が先に恋心を意識して、鈍感ヒーローとなった志季に、恋愛的にも立場的にも叶わない想いを募らせることが切なさとなっていた。それが今回、逆転の様相を見せ、同じように見えて これまでとは違う志季の香蘭への接し方が楽しめるようになっている。こういう2部構成は楽しいなぁ。

そして上手いなと感心するのは、香蘭が無自覚に愛されるように しっかりと手配している点。志季は命の危機に際して、自分の本心を告げたが、その前までは理性で自分の気持ちを押し殺し、香蘭の愛を拒絶するような言動を取っている。だから香蘭は志季の言葉を自分の命を助けるための方便だと思い込み、志季の告白の理由も聞かないまま、自分で勝手に解釈する。こうして上手にリセット機能を発動させ、だけど読者にだけは、ここから本当の意味で香蘭が帝の寵愛を受けていることを知り、ニヤニヤ出来る。

また志季の心変わりも突然ではなく、香蘭を大切に思うからこそ遠ざけているということは読み取れる。香蘭を王宮に招き入れることは反発と、もしかしたら彼女の死を招くかもしれない。自分の母を暗殺で亡くした志季だからこそ、大切な人を受け入れることは出来ないのだ。

ただ それが自分が暗殺未遂に巻き込まれ、死に直面したことで本心を表明することになった。あの告白は、いわば志季の辞世の句なのである。最後ぐらい帝という社会的立場ではなく、17歳の若者として一番好きな人のために命を使い、そして思い残すことなく死にたいという悲痛な彼の叫びなのだ。結局これを冗談に思われたことは割り切れないものがあるだろうが…。

白泉社特有のリセット機能による現状維持だが、そこまでの流れが私は大好きだ。作品の潮目が変わったことが ちゃんと分かる。


…が、終盤で上がりかけていた香蘭への評価は再び地の底に落ちる。

それが火事によって火傷をした志季の看護に一生懸命になるあまり、家に帰れなくなった際の お話である。この時、香蘭は志季の側近・円夏(えんか)から王宮内の宿泊を勧められるのだが、その時に 驚きの発言が出る。

それが「泊まる時は いつも陛下の お部屋で お休みされてたではないですか」である。

部屋の用意を遠慮しつつ、帝か王太子の部屋に潜り込もうとする。それが香蘭という女の正体である…。

なんと、これまで描かれていないだけで、香蘭は何度も朝帰りをしていたらしい(語弊あり)。今回の流れからすると、香蘭が自分のためにベッドメイクなど部屋の用意を遠慮することで、志季が それなら一緒に寝ようと提案するという流れが推察される。なぜ作者は こんな大事な場面を描かなかったのか疑問だが(後付けだからか?)、香蘭は何度も志季と同衾しているのは既成事実のようだ。

作品としての狙いは分かる。志季にとって、これまでは恋心がない友情オンリーの関係だったから、幼女にしか見えない香蘭とも平気で同じ布団に入れた。だが、志季が香蘭を意識すると、風呂上がりの彼女も、同じ布団で寝ることも意識し過ぎて、それが不可能になるという以前との対比として お泊り回は使用されている。こうして「鈍感」のバトンは志季から香蘭に渡され、彼女は名実ともに無自覚最強ヒロインとなったのだ。

しかし待て、志季に恋愛・性的な感情が一切なくても、香蘭にはあるだろう。なにぜ18歳で志季のことが大好きで。いつものように やや強引に話を進められても「いつも」志季の部屋に泊まるのは もう狙っているとしか思えない。香蘭側を無自覚とするのは あまりにも無理がある。見た目こそ幼い香蘭だが18歳の女性として異性として志季を意識しまくるから切なかったのに、精神年齢まで幼くなっている。作者のバランス感覚が崩壊していないか?

しかも平民であるにもかかわらず王宮の女官に身の回りの世話をしてもらっているし、同じ部屋に寝るしで、外野から見たら完全に勘違い平民女である。合法ロリを盾にして、帝の歪んだ性癖を満たす女と思われても おかしくない。

もう香蘭が ただの あざとい女にしか見えない。読者も見た目に騙されているが、これが お色気お姉さんだったら、帝の布団に入り込もうと必死の女性は読者の嫌悪の対象だろう。それと香蘭の何が違うのか。

慎みを持て、恥を知れ俗物、と言いたくなる香蘭の あざとテクニックである。


初は お出掛け回。近郊の温泉に行くのだが、いつも通りのメンバー。
学校のメンバーがいることで恋愛色は薄まるが、志季にとって香蘭以外の学校関係者は どういう関係なのかが分からない。こういう所が、作品に香蘭を頂点とする絶対的なヒエラルキーがあることを思わせて辟易とさせる。もう少し個々人の関係性を濃密に浮かび上がらせると面白さが格段に増すのに。

この温泉地が いわくつき の場所であることが語られ、こうなると後半の展開が見える。ここのところ普通の少女漫画の文法で話が処理されているが、日常回も飽きてきた。

だが、その裏では隣国の王太子・春玉(しゅんぎょく)
が志季に香蘭の好意を伝えてしまっていたという大問題が発生していた。その事実を春玉から伝えられ香蘭は春玉を責め、涙する。これは少し意外でしたね。良い子すぎる香蘭からすれば、その場では納得して、泣くとしても独りで泣くかと思った。彼女も恋する乙女であることが発覚した。

その後、いつものように ちょっとしたピンチを志季に助けられ、2人きりで歩く道すがら、志季は香蘭の気持ちについて語りだす…。

志季が そのことを問うのは、義母というべき皇太后の圧力により、彼が そう遠くない日に妃を何人かとる からであった。これにより香蘭との関係が変わり、しかも香蘭を傷つけることが予想されるため、志季は香蘭の気持ちを確かめた。

志季の話を聞き、香蘭は気丈に振舞おうとするが、ここでも泣いてしまう。そして溢れた涙と共に、これまでは言えなかった言葉が溢れる。

志季は香蘭の好意を拒絶しかけるが、香蘭が先回りして、自分で諦め、そして彼と違う道を歩く。ここで志季が気持ちに応えないのは、彼の気持ちが固まっていないし、香蘭を妃にすることは蝶の羽を奪うことであるという彼の考えが影響しているのだろう。


うしてフラれた形になった香蘭は、これまでのように無邪気を装って志季に近づくことが出来なくなった。それから10日、香蘭は志季を忘れようと努力する。

太后は、正妃の条件として、妃同士の権力争いに耐えうる人材、そして志季の過去の薄汚い事や これからの厳しい判断を受け入れる娘でなくてはならないという。後半の2つは香蘭の性質とは合わない。だから志季も否定したのだろう。だが、上述の「お泊り事件」を見る限り、香蘭は 図太い神経の持ち主で、2人の関係を既成事実化して王宮を乗っ取ろうとさえ見えてくるなぁ…。

2人の再会は、志季の変化を察した側近により、香蘭が通う学校の視察が行われる時となった。

香蘭は志季を避けるために身を隠し、陛下の寵愛を受ける香蘭がいないことで、モブ女学生がヒートアップし、彼女たちの声を避けるために志季が入った書庫で泣き疲れて寝ていた香蘭を発見する。出会ってしまうのが彼らの運命なのだろう。

だが書庫の鍵が閉められて、密室状態になる。これは学園モノあるある の展開ですね。施錠した者は読者からはグッジョブと言われるが、完全にバッドジョブである。

こうして久しぶりに2人きりでの会話が始まる。その時、香蘭は、志季から贈られた簪を外している。それを身につける喜びは もう彼女の中から湧いてこないからだろう。

志季は香蘭からの告白は嬉しかった事を わかってほしい、と彼女に告げる。香蘭にとっては それが志季の優しさなのだろう。ただ志季にとっては香蘭の想いを受け入れることは、彼女に茨の道を進ませることだから、簡単に受け入れられないという事情があるはずだ。

更には側近・雨帖(うちょう)と春玉の会話によって、志季の実母は暗殺された可能性が高いという。先帝の寵愛を受けた側室の不審死は15件以上。王宮は危険なのだ(とても そうは思わない描写が続くが…)

香蘭の認識はフラれた だが、志季にとっては受け入れられないだけ、という認識の違いがあるだろう。だが2人の関係の破綻を望まない2人は、その結果として恋愛感情抜きの友達として再出発することを決める。


んな時、閉じ込められた書庫周辺で火事が起き、彼らの周囲に火と煙が迫る。

志季は小さな窓から香蘭を先に逃がそうとする。香蘭は志季の立場、そして自分が好きな人を危険に晒したくないと告げるが、志季は頑なに香蘭を退避させる。

その動機は「私だって君のことが好きなんだよ!」。

自分の生きる意味でもある香蘭に生きてほしい、その切実な願いが志季にもあった。絶体絶命のピンチに初めて本音が言えたみたいだ。

どう考えても残された志季は完全にアウトな状況だが、必死の消火活動で帝は助かる。

だが、志季が目を覚ました時、香蘭は あの時の言葉を本気にしていなかった。こうしてリセット機能が発動する白泉社らしい展開となる。現状維持なのだが、晴れて2人は両片想いとなる。

肩透かしのような展開に思えるが、このぐらいしないと鈍感な人が恋心を自覚することはないのだろう。ここからは志季の方も、しっかりと自覚しながら香蘭に接している。気づくのが遅くなった分「重い」愛が香蘭に降り注ぐことになる。

ちなみに この裏で、春玉が香蘭を想っているような描写があるのだが、これは有耶無耶になる。


季の調査によって、この火事が人為的な放火だということが発覚する。これまで平和であったが、暗殺・毒殺未遂を経験している志季には やはり政敵も多いということなのだろう。

ここからは、志季が立ち向かう諸問題について語られる。内政、外交など志季の帝としての問題、そして春玉によって彼の過去も語られていく。

また火傷を負った志季の看護をする回でもあるのだが、無自覚に香蘭が溺愛されている。この回では、これまで自然に出来ていたことが、志季が意識してしまい不自然になってしまう、という お話になる。食べ物をアーンさせたりは、お互いウィンウィンで、末永く幸せにとアホらしい気持ちすら湧いてくる(笑)

志季は香蘭と一緒に眠ることを意識してしまうこともあり、途中で寝所を後にする。そして眠れない香蘭は、王宮内を歩いている際に、志季が今も諸問題に関しての戦術を立てていることを知る。これまで香蘭には見せなかった、皇太后の言う「厳しい判断」の一つであろう。

ただ、志季は これまでも、そしてこれからも戦では最小限の犠牲で、最大限の戦果と、その後の平和を願って行動していた。それでも志季は戦を好んだ先王(父)の命に従い、戦をしたこと、そこでの犠牲を反省している。

志季の抱える問題に香蘭が どう関り、どう折り合いをつけていくのかが今後の議題になるのだろうか。そして それが香蘭にとって一種の花嫁修業となるのかもしれない。