《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

婚約者がいながら よそから女性を拾ってきた バカ王子が起こす迷惑の数々。

めるぷり メルヘン☆プリンス 3 (花とゆめコミックス)
樋野 まつり(ひの まつり)
めるぷり メルヘン☆プリンス
第03巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

アラムたちは臨海学校で大騒ぎ!愛理に敵意を持つラズの攻撃から、彼女を男らしく守るアラム。2人は夜の海でついに“本当の”キスを…。愛理が自分の恋心に気づいた矢先、アラムの身に異変が!?

簡潔完結感想文

  • 臨海学校で学園モノは終了。再び舞台を魔法王国に戻して話は続く。
  • 正当な婚約者から相手を奪ったのに謝罪をしない強気な主人公(泥棒猫)
  • 恋の邪魔者を次々と用意する漫画は詰んでいる。展開と発展性に乏しい。

か って言ったら、お前が ばか(語彙力)の 3巻。

ヒロイン・愛理(あいり)の暴言と頭の悪さが酷い。
窮地に立った時に、ばか ばか と繰り返し叫ぶばかり。
もちろん、ばか なのは自分以外の人間。

それもこれも自分が相手から愛されているという自覚が引き起こす傲慢である。
その暴言が、8歳年下の男性への好意を認めたくない彼女の精一杯の抵抗だったら可愛げがあったのだが、
15歳の愛理が、7歳の王子・アラムへの恋心を認めた後でも、彼女の態度は変わらない。
いつでも喧嘩腰、いつでも強気。
彼女のテンションに ついていけない。

そして婚約者がいる身の王子・アラムと恋をしているが、
自由恋愛こそ正義、という態度も気になるところ。

『3巻』では愛理は その婚約者と初めて対面するのだが、
彼女からアラムを奪う形になったにもかかわらず、愛理は彼女に対抗心を剥き出しにするばかり。

アラム本人もそうだが、
愛理もまた自分の存在、この恋愛が巻き起こす問題に対する責任を負おうとしない。
多くの人に迷惑をかけ、婚約者を傷つけている現状がありながら、
その問題に関して目を背け続ける。

その一方で自分が被害者になる問題には過敏で、この恋が どれだけ辛いかを涙を流して表現する。

作者の作品に対する愛同様に、自己愛で構成されているから、
そこばかりに目がいき、物語に没入できなかった。


だし今回は、ヒロイン・愛理が、自分の力で立ち向かう時がやってきた。
いつも頼っていた王子・アラムが彼女の記憶を失くしてしまったからだ。

意地悪なことを言うと、アラムの記憶を奪われたことで、愛理は完全な被害者になれた。

自分が害を与えることは徹底的に無視し、
自分に害があることには過敏な彼女だから、ここぞとばかりに全てを恨む。

完全にキレた状態で問題に猪突猛進し、
知性の欠片もない方法で、事態を解決しようとする。
作中で彼女と敵対関係にあるラズ王子ではないが、黙っててくれ、と思ってしまうほど五月蠅い。

作者も作品がエロいかどうかばかり気にしているのではなく、
主人公が正しい立ち位置に立てるように気を遣ってほしかった。

そして繰り返しになるが作品全体に余白がない。
描きたいことが溢れ過ぎていて、窮屈に感じる。

それでいて、作者の脳内の動きを作品に落とし込められてないから、
必要なコマが抜け落ちて、所々で物事が「スキップ」している。
主人公同様に、もう少し広い視野が必要なのではないか。

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落ちるシーンはなく、落ちたシーンが既成事実としてある。作者の脳内設定を補完する必要がある。

頭は『2巻』に続いて学校イベント・臨海学校編。

女子生徒とお風呂に入っていたアラムが停電によって大人になってしまい、
どうにかバレずに脱出して、部屋の押し入れに隠れるなど、
少女漫画のお泊り回の定番ドキドキシーンを盛り込む。

その後は肝だめし。
愛理はお化け系がダメらしくパニック。
アラムが彼女を守ろうとするが、その腕からも逃れて自分だけ逃亡してしまう。

そうして いつの間にかに崖から落ちている愛理。
この省略は本当にどうかと思う。

他の場面でも何回か見られたが、
作者の頭の中で起きていることが、ちゃんと描き込まれてないから、
何が起きているのか、物事が繋がらないことがある。

この欠点こそ、本書の欠点のような気がする。
全てにおいて作者の思考だけで、読者という第三者視点を用いずに描かれている印象を受ける。
固有名詞連発で読者の理解のペースよりも早く物語が進んだり、
今回のように、描きたいことが多すぎて、ページの配分を誤ったり、
画力以外のところで漫画家として未熟な部分が多い。

この回も愛理のワガママが目立つ。
結婚は自分が望んだものではない、と言い出した その夜に、
「アラムじゃないと やだ―――!!」と他の男に触られるぐらいなら身投げをする始末。

確かに この時点では愛理の心までは完全にアラムに染まってないが、
何もかもに反発する彼女の姿に浅はかさを感じる。

ラズの愛理に対する怒りも分かる。
愛理の祖先が祖国での地位を捨てたから、ラズの一族は王国内での権力が弱まった。

その愛理が、現国王の息子のアラムと結婚し、
もしかしたら権力の座に戻ってくるかもしれないのだ。

自分の結婚がどういうものか理解しようとせず、
恵まれた環境に感謝しようともしない愛理の言動を見たら怒りも湧くというものだ。

そしてラズの怒りは、2人の結婚の誓約が成されたからこそ湧き上がるもので、ここの順序は正しいことが分かる。

しかしラズの暴走は王国の偉い人が登場して、あっという間に終幕を迎える。
偉い人たちが、どうやって人間世界の騒動を知り得たのかは謎。
またイケメンの登場だが、顔はレイとジェイルそのもので、描き分けが全くなされない。
彼らが以後 登場しないのは賢明な措置だと思われる。

このピンチを王子が救うことで、愛理は自分が本当にアラムを好きだということを自覚する。
ここが両想いの成立でしょうか。


想いになって本物のキスを交わしたからか、
これまでスキンシップはアラム(大)の時に行われていたが、ここからはアラム(小)でも行われる。

7歳の子供が、口移しで水を飲ませてほしいとして、
その実践を自分からするのは ドキドキするどころか、なかなか気持ちが悪い。
これ 性別逆にしたら、一定数の女性たちが怒るヤツでしょ?
(上記のお風呂の件も同じ。男子高生が女児の身体を洗ったら大問題だろう)
性欲と直接結びつかなければ、何をしてもいいのか。

学校に復帰した愛理とアラムは、交際をクラス内で宣言する。
ここは愛理が成長した部分ですね。

そして学校を休んでいる間に、このクラスにはラズと入れ替わるように転校生がやってきた。

それが魔法王国でのアラムの婚約者だったマリアベル
勝手に婚約を破棄され、愛理と結婚するという非道なアラムを追いかけてきたらしい。
彼女は正式な嘆願を経て、魔法によって成長をして学校に潜入してきた。

マリアベルに対して愛理も臨戦態勢。

ちゃんと対面したにもかかわらず、アラムも愛理も彼女への優しい言葉を持たない。
やっぱり自分勝手なカップルだ。

マリアベルはアラムに宝石箱を贈ろうとする。
だが、アラムは それを拒否。
代わりに愛理が手から宝石箱を取り、アラムに強引に渡す。

この場面も、状況が伝わりにくい。
愛理の動きや、宝石箱を持っているコマが分かりにくくて、
読み返して、状況を整理しないと、動きが再生できない。

そして、この時の愛理の行動は実にお節介で、屈辱的ではないかと思う。
アラムに惚れられているという一点だけで、
再び婚約者の関係に割って入り、王子たるアラムを従わせるように宝石箱を押し付けている。

これによってマリアベルの狙い通りの展開になったが、
泥棒猫である愛理が、謝罪一つなく、自分の意地を張り続けているだけであった。


アベルが持ち込んだ宝石箱が、アラムの愛理に関する記憶を奪う。
魔法があると、少女漫画の最終回前の記憶喪失も思いのままです。
結婚の儀式といい、最終回クラスも展開が続きます。

しかし ここで分からないのがアラムの付き人・レイの行動。
何で彼がマリアベル、そして その後ろにいるラズの思惑通りに動くのか。
これが「アラム様のためになる事」だとは到底思えないのだが、
作者の中では、レイはどういう思考経路をたどったのだろうか…。


愛理は、かつての結婚に夢見た自分と袂を分かち、自分の足でアラムの記憶を取り戻そうとする。
ようやく自分から動くヒロインが誕生しました。

…が、正式な婚約者を押しのけた愛人ポジションは愛理な訳で、
マリアベルに謝罪もないまま、喧嘩腰に物事を解決しようとしているように見えてしまう。
ここでも愛理の態度は基本的に悪態をつくだけなんですよね。

アラムのばか、という言葉は、彼女の甘えでもあるのだろうが、
こういう時に罵詈雑言しか出てこないところに、育ちの悪さを感じる。

一方で、彼女の育ちに関して不憫に思うのは その境遇。
アラムも去り、両親は海外、祖父母は世界一周旅行と、家族にも見放され、愛理は独りになる。
(アラムとのドキドキ同居のためとはいえ、なんという家族か)


理の記憶を全部 奪われたためか、
「最愛の乙女のキス」でもアラムは子供に戻ることがない。
1人の人間に何重にも魔法をかけられたら、その内 人格が壊れてしまいそうだ。

アラムは記憶を消去されながらも、愛理の存在が心を かき乱す。

彼の苦悩はアラムの身体にも影響を与え、気を失ったり、痙攣したりと苦しむ。
何だか、ここ数回のアラムは体調が悪いですね。
もだえるアラムは、一風変わった お色気シーンなのでしょうか。

実はキスの効果も時間差で現れるようで、アラムは魔法界に帰ることが出来るようになった。
愛理はそれを追い、2回目の魔法界の滞在となる。

そこで出会ったのはラズ。
アラムの記憶を間接的に奪ったのは彼だった。
そしてラズは、2つの世界を行き来できる愛理所有の鏡を割ってしまう。

学園モノは終わりをつげ、異世界編となりました。
作者がやりたいことが多すぎて、舞台が一つでは満足できなかったのかな。
読者としては、出涸らしになったとしても一つの舞台で彼らのラブコメを堪能したかったなぁ。
ここも作者と読者の呼吸が合っていない場面の一つだと思う。


しても魔法王国に全く魅力を感じない。

作者の設定だけで創り上げられており、
細かい家柄問題も右から左に通り過ぎるだけ。
もうちょっと簡素化して、読者に分かりやすく出来なかったものか。

いつまでも記憶を戻さないアラムに業を煮やして、
愛理は、アラムの胸にある婚姻の印に無理やりキスして、
彼が死なないことを自分が彼の意中の人であることを証明しようとする。

しかし記憶を失くしているアラムにとっては、女性による性的暴行でしかない。
これはトラウマものである。
女性不信になったら どうするのか。

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作者がエロさを基準に置くのは2000年代初頭に少女漫画界に吹き荒れた性的シーンの影響なのか。

布の中の暗闇で大きくなったアラムは、
愛理の胸にある婚姻の印を見ようとする。
もしかしてアラムは、愛理のことを胸の大きさで認識しているのではないか(笑)

胸を見て理性が吹っ飛んだ(訳ではないが)アラムは、泣き叫ぶ愛理にキスをして口を塞ぐ。
その後、自分の身体が元に戻ったことで、彼は愛理が本物の結婚相手だと理解するのだった…。

めるぷり 特別編」…
異母弟・アラムが生まれる前後の兄・ジェイルの初恋の話。

ジェイルの初恋の相手はレイ。
レイといい、身近な人に恋をし過ぎて世界が狭い。
嫌味ばかりで申し訳ないが、裏設定ばかり豊富でも、
本編が面白くなければ意味がない。

それにしても赤ちゃんの時のアラムはゲップの代わりに 火を吐く。
もはや人間ではないのかもしれない(魔法らしいが)。