樋野 まつり(ひの まつり)
めるぷり メルヘン☆プリンス
第02巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
魔法王国(アステール)の王子アラムは、愛理の家に居候中。お陰で大騒ぎの毎日だけど、生意気王子にちょっとドキドキ★ ある日アラムは一時帰国。ふと彼の名をつぶやいた瞬間、残された愛理も魔法王国へ来てしまい…!?
簡潔完結感想文
- 目指すは濃縮急展開。2巻で早くも結婚話が出て、後は余生・蛇足?
- 舞台があちらこちらに移って目まぐるしい。腰を据えたテーマがない。
- 美麗な絵と内容の薄さが合わない。原作者が付き作品に挑戦して欲しい。
話の構成は これで正しいのか疑問だらけの 2巻。
作者曰く「『1巻』の展開が ゆっくりすぎたので『2巻』はかなり濃縮急展開を目指した」らしい。
確かに『2巻』は色々なことが起きる。
三角関係に、日常回、魔法王国への潜入、
そして最終回のような結婚の誓約、
それが終わったら学園モノに移行して、旅行回まで起こる。
確かに色々なことが起きる。起きすぎている。
ハッキリ言って、せわしない。
そして どこに行ってもヒロイ・愛理(あいり)がギャーギャーと騒いでいるだけにしか見えない。
本人は身持ちの固い人と幸せな結婚をする安定志向の人だが、
いきなり魔法関係者の闖入が続いて、
理想とは ほど遠い日常が到来するというギャップが楽しいのだろう。
だが、愛理は騒動に巻き込まれた時に、責任を自分の外にばかり向けている。
2人の兄弟王子は厄介ごとしか持ってこないと、怒りに任せて暴力を振るうし、
自分の血筋が問題であれば ご先祖様を恨むだけ。
2003年(『2巻』連載時)と2021年の女性像の違いかもしれないが、
行き当たりばったりに行動しては騒動を起こし、
そして最後には男性の助けを借りる、という愛理が何もしない展開に辟易する。
愛理自身が鼻にかけることはないが、彼女は単純に美人でスタイルも良い。
そこに魔法王国の者と因縁がある血筋が加わり、絶対的なヒロインとなった。
だが、それだけ。
彼女自身の魅力が あまり伝ってこない。
本書においては わざと無個性にしている訳ではないと思うが、
今回の展開といい、これではまるで乙女ゲームの主人公ではないか、と思った。
本書の趣旨はイケメンがわんさか登場する、ことにあるのかもしれない…。
この『2巻』での最大の疑問は話の構成。
早くも愛理とアラムの間に「結婚の誓約」が成された。
まるで最終回だと勘違いするような展開が続いた。
作者としては もしかしたら そこに気持ちがない形式的な結婚であるから、
その後、2人が本当に想いを重ねる場面がクライマックスと考えているのかもしれない。
だから2人が様々な困難や、政敵、恋敵(こいがたき)に立ち向かって、
本当に想いあうための過程に、何人ものイケメンを配置したのだろう。
だが 結婚が決まった後に、いくら他のイケメンが続々と参戦しても後の祭りで無味乾燥。
登場人物が多いのが白泉社作品の特徴だが、
もう1つの特徴は、ヒロインとヒーローが恋に鈍感で、
お互い好き同士なのに、なかなか恋仲にならないというものがある。
途中でマンネリにより中弛みしても、読者がついていくのは、
2人を見届けたいという気持ちがあるから。
そして物語に明確なゴールがあるから。
だが本書は その慣例を破った。
それは別に問題ではない。
問題なのは、本書のゴールが何なのか読者に見えにくいことである。
しかも将来的に結婚することは決まった。
まさかアラムにかけられた呪い(魔法)の解除がメインテーマなどとは言うまい。
そんなものは作者の都合で1話で解ける。
読者は、夢のような恋の魔法にかかりたいのだ。
正式な婚約者を一方的に無視して、自分たちだけが結婚の約束をする恋に、魔法はない。
作品を通して読者も一緒に楽しむ、というよりは、
結論だけを見させられている気分になる。
そして、一番 物語の展開にキャーキャー言っているのは作者だという気持ちが拭えない。
読者だって愛理とアラムが結ばれることは百も承知だ。
でもイケメンを続々と参入する乙女ゲーム方式にするなら、
もっとイケメンたちに翻弄される日々を楽しませてくれても良かったではないか。
イケメン全員が愛理を好きな訳じゃないが(といっても4/5は愛理に惹かれるが…)、
乙女ゲーのコミカライズのように個人回で話を繋げても人気は出たはずだ。
なのに過剰な設定も過剰なイケメンも、雑に処理されて残念。
舞台が次々と変わるし、登場キャラも安定しないから、
どこを楽しんで良いのか分からない。
その割に『2巻』中盤から学園モノのような設定を持ち出し、
そして1巻分を過ぎた頃に、雑に放棄する。
本当に、連載の核となるものがないから、連載ならではの連続性を楽しめない。
長期連載だけが正義ではないが、
作者は連載の形式で本書の何を描きたかったのだろうか。
その答えの一つがロミジュリなのかな、とは思う。
住む世界も立場も違う2人が苦難を乗り越えるから、愛は輝くのだろう。
だが『2巻』でこの国の王であるアラムの父は2人の結婚を認めるし、大きな問題は消滅した。
あとは小さな問題だけ。
これも順序がマズい。
イケメンがじゃれ合っているだけだ。
唯一の現実世界(でいいのか?)からの参戦は仲央路(なかおうじ)くん。
だが彼は咬ませ犬。
この現実世界での普遍的な幸せを象徴するものだろう。
だけど それではつまらないと思ってしまうのが乙女心。
ドキドキを与えてくれるのはアラム。
ライバルがいるから、恋は輝く。
そして もう一人、愛理側の恋の輪郭を鮮明にさせるのは、魔法王国での婚約者の存在。
彼女は物語の後半で出てくるが、今回は ただの記号。
そして無視される存在。
アラムも、そして婚約者がいることを知った愛理も、
彼女のことに全く配慮しない。
婚約者によって恋は際立ったが、同時に婚約者によって愛理たちの身勝手さも炙り出された。
アラムに魔法をかけた兄は迷惑な人であったが、
今回でアラムと愛理も、周囲の立場や物事の順序を踏まない迷惑な人間と成り果てた。
登場人物たちの多くが私利私欲だけで動いているから、
コメディ仕立てにしても爽快感がないし、この世界が窮屈に感じられる。
魔法王国も設定だけは立派だが、少しも奥行きがない。
アラムの父親である魔法王国国王は、アラムの結婚だけでなく、現実世界での愛理との暮らしも認めた。
そこから始まるのが学園辺ということになる。
魔法王国からの使者が続々と学校に現れる。
まず、愛理に対して思うところのあるラズ、そしてアラムも大人バージョンで転校してくる。
アラムのお付きの者であるレイも愛理たちとは違う3年生として転入。
(次の回の臨海学校では保健の先生になっている。意味不明だが調べる気も起きない)
一応、レイは監督としての役目を担っているのだろう。
アラムの兄・ジェイルも教師として赴任(ちなみに担当はメソポタミア語らしい…)。
学園編・現実世界編が短いのは、この頃の白泉社の少女漫画には「紅茶の王子」がいるからだろうか。
現実世界からの撤退が早い。
愛理とスキンシップする時は大人のアラムであることが多いが、
見た目が成長していれば、何をやってもいいのだろうか。
『2巻』の連載時の2003年といえば少女漫画に過激なエロ描写が跋扈(ばっこ)した頃だと思われるが、
本書のもその影響を受けて、ややスキンシップが過剰。
中の人が7歳の少年なのに、15歳の女子高生の胸に直に手を置いてるのはいかがなものか。
作者と担当編集者が「エロい」「エロくない」論争をしているのも、
当時の少女漫画の風潮に合わせようとしているからなのか。
それともオタクっぽい乗りで、キャーキャー言ってるだけなのか。
私は茄子のヘタのような髪型をしたアラムの見ると『少年アシベ』のアシベを連想する。
アシベを美少年化したら、こんな感じ?、とアラムを見て思っている。