《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

男っぽいって言われるんですー、という競馬好きな自称サバサバ女子のウジウジヒロイン行動。

私たちには壁がある。(4) (デザートコミックス)
築島 治(つきしま はる)
私たちには壁がある。(わたしたちにはかべがある。)
第04巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

幼なじみの菊池怜太(きくち・れいた)への気持ちをついに「好き」だと認めた桜井真琴(さくらい・まこと)。今の関係が大事だからこそ踏み出せずにいる中、怜太の友人・安孫子祐介(あびこ・ゆうすけ)が真琴に本気で告白してきて……!? ドキドキがとまらない! 大人気・俺様幼なじみと山あり谷あり壁ありラブストーリー!

簡潔完結感想文

  • 「祐介とキスしたとか言えるわけないし」という大きな独り言を聞かれる謎展開。
  • 交際は拒絶するが他の女性とのデートは気になるという面倒くさいヒロイン爆発。
  • 4巻中3回目の男女3人でのラストシーン。連載の次回の「引き」に命をかけてんの?

の顔も三度まで、の 4巻。

『1巻』『2巻』に続いて この『4巻』のラストは祐介(ゆうすけ)と一緒にいるヒロイン・真琴(まこと)を怜太(れいた)が救出するというもの。同じ構図を3回も見せられたことになる。

最初の2回は ただの誤解で、今回こそが本当の三角関係なのだが、続けて読むと同じラストシーンが4巻中3巻、つまり75%の確率で起きていることに辟易して、盛り上がるべき場面で盛り上がれない。次の巻への期待を持たせる場面なのだろうが、作者の引き出しの少なさを露呈しているようにしか見えない。壁ドンも供給過多で物語を盛り上げるカンフル剤としての効果は薄れる一方だ。

そして相変わらず幼なじみの「壁」を壊すのに、いちいち他者の存在がないとダメな真琴にイライラする。色々な人を傷つけてから自分のした事に初めて気がついたり、他人に奪われそうになってから その人が自分の中で特別であることに気づいたりと自分だけで解決することが何もない。そもそも やはり彼女は幼なじみの関係を、離婚した自分の両親に そのまま当てはめている前提が おかしい。変なところを出発点にしているから、彼女の悩みが整理されないし解決もされない。


回、一番 驚いた、というか疑問に思ったのは、その真琴のトラウマともいうべき両親の離婚の原因をひっくり返してきたこと。真琴は父親の浮気が原因で、父が家を出て行くことになったことが、恋愛関係はいつか壊れるという教訓になってしまった。だから怜太との関係も現状維持を望み、彼とは恋をしないと頑なになっていた。

しかし文化祭で登場した真琴の父から怜太に語られるのは、真琴の父は浮気をしていないという証言。父は目の前で困っている人を老若男女問わず助けようとして家に連れ帰り、話を聞く習性があった。その中に部下の若い女性がいたことが妻の最終的な不信となり離婚となったらしい。これは父側の証言だから一方的な意見だろうが、善良そうな父親が自分をよく見せようと怜太に嘘を言うようには見えない。少なくとも父の仲では これが真実なのだろう。

父の話で真琴のトラウマは消失する。が、これまでの展開が全て徒労になるジレンマも生まれる。

それがどうして娘である真琴に「浮気」という父を非難するような内容で伝わったのか。その経緯は最後まで明らかにされない。この話は真琴にとってトラウマ自体が消失する希望の持てる話なのだが、それと同時にトラウマ自体が真琴の捏造にもなり、読者としては徒労感が増す結果となる。本書は この辺りの塩梅が よろしくない。真琴にとって大事な要素なのだから、もう少しカタルシスのある解決法を提示して欲しかった。

ただ この事実から分かるのは、父は祐介に似ているところがあるということ。つまり間接的にではあるが、真琴は祐介と結婚しても、彼が他者を気にかけ続ける生き方をする限り、真琴は妻として不満を持ち、別れを選ぶかもしれないという未来予想図になるのではないか。


また、トラウマで言えば祐介のトラウマも上手に解決しない。彼の生き方を決定づけたトラウマなのに、当事者の幼なじみの女性と(偶然でも)会うようなフラグを立てながら会わないで終わるし、更には今回、トラウマの加害者とも言える祐介の兄から説教される始末で、ここも納得がいかない。兄が いつまでも被害者ぶる祐介に苛立つのも分かる気がするが、自分のことを棚に上げて祐介を中途半端だと なじる兄に唖然とした。


ラウマの処理にしても、フラグの立て方にしても、どうにも作者とは感性が合わない部分が多い。

真琴の妹・幸子(こうこ)は離婚後、父とは距離を取っているのかと思いきや今回あっさり会っていることが判明したり、祐介との事故チューが怜太にバレるのが真琴が部屋で大きな独り言を言ったからという お粗末な展開だったり、アレっ?アレっ?と思うことが少なくない。

そういう気持ちの齟齬が、理解不能な真琴の行動と合わさって、作品へのマイナス感情に変換されていく。綺麗な線の絵と雑誌「デザート」のブランドで期待が大きかっただけに、その落差で落胆も大きい。


装交際を通じて祐介は真琴のことを好きになる。祐介はフェアに徹するため、怜太にそれを告げる。こうして本当に三角関係が完成し、その中心にいる真琴はモテ期に突入する。

少女漫画としては真琴がモテモテになるのは、読者も満足な展開なのだろうけど、冷静に考えると真琴は好きな怜太を放置して、好きでもない祐介と一緒に過ごすという ただのビッチである。

祐介が怜太に黙っている真琴との事故チューも、真琴の不自然な独り言を怜太が聞いたため知られてしまう。真琴は怜太が逆上すると思ったが、怜太は悲しそうな顔をしていた。それが真琴には意外で、だからこそ自分が怜太を傷つけたこと、そして自分が怜太を好きなことを ようやく理解する。そして理解と共に再び真琴は号泣する。真琴は もっとサバサバした人間だと思っていたが、いつまでも大切なものが見えない人で残念だ。

真琴は怜太の悲しそうな顔を思い出すと、食事も喉を通らない。恋を自覚した途端に、性格まで変わっている。

恋愛への躊躇、怜太への素直な気持ちは言わないのに、秘密は わざわざ口に出す わざとらしいヒロイン。

うして いよいよ「好き」を自覚した真琴が怜太に告白しようとした途端、今度は怜太が真琴を避ける。こうして いつまでも決着が先延ばしになるのだ…。

怜太が真琴を避ける理由は、勢いに任せて真琴を押し倒してしまったことと、彼女を泣かしてしまったことによる罪の意識から。真琴が泣いたのは、彼女が怜太を傷つけたことと、自分の唐突な思いのせいなのだが、怜太は誤解している。

そんな2人の状況が生まれた中、真琴の妹・幸子は彼氏と上手くいっていない。その彼を悔しがらせるために「顔が良くて大人の人」である怜太との偽装デートを実行する。この幸子の行動は、怜太より顔が良い人を彼氏にしようと合コンに参加し、偽装交際を2度もする真琴と間違いなく血が繋がっていると思わせられるものだ。

怜太と幸子のデートの約束の話を真琴と祐介は聞いていた。

これは1人で帰路を歩いていた真琴が痴漢に遭い、ちょうどバイトの件で電話を掛けてきた祐介がその事実を知り、駆け付けたから。真琴に有無を言わさぬ態度で積極的に真琴のことに関わろうとする祐介は これまでと少し違う。その違いは自分への好意であり、怜太を好きな真琴は そこに甘える訳にはいかないのだが、それ以上に祐介が強引になっている、という愛され展開となる。私としては真琴の中途半端な態度にイライラするが、読者の中には この状況に心を満たされる人もいるのだろう。


琴は、幸子と怜太のデートが偽装だと知らないので焦る。人に取られそうになってから羨ましくなるタイプみたいだ。そして偽装交際のプロでも他人の偽装は見抜けないらしい。

その前日には真琴は押し倒したことを謝りに来た怜太から、気持ちは変わらないかと問われる。怜太と想いを重ねる絶好の機会だが、怜太が自分を一生 好きだと言ってくれたことに照れて素直になれない。こうやって先延ばしにすることで自分への愛の言葉を10も20も引き出そうという魂胆なのではないか?

思わず幸子と怜太のデートを尾行する真琴。その尾行には一緒にデートの約束のことを聞いていた祐介も現れ、こうして2組の遊園地デートが始まる。

怜太は この偽装デートの中で、なぜ自分が好きなのが真琴であって幸子でないのかを考える。幸子も同じように幼なじみであるから彼女に恋をする可能性もあるのに幸子には本当に「幼なじみ」という感情しか持たない。そして そんな幸子から恋愛感情をほのめかすような言葉が出ると、怜太は生理的に反発してしまう。そして それこそが、真琴の怜太に対するそれだと唐突に理解する。

一方、真琴・祐介組の方は、祐介が、真琴の怜太への気持ちを理由にフッても無意味という無敵状態宣言をする。祐介にとって その前提は承知の上で、そこから真琴の気持ちが自分にスライドすることを狙っている。そして それは祐介が諦めない限り、真琴は愛され続けるという夢みたいな状況を意味する。


化け屋敷で それぞれ迷子になる真琴と怜太。暗闇の中、怜太は真琴のことを幸子だと思って手を引く。

そうして怜太は「幸子」に対して、自分にとって真琴がなぜ特別かを語る。こうやって暗闇の中、相手が分からず素直な気持ちを話すというパターンは、修学旅行中の布団に入った際の真琴と同じである(『2巻』)。この場面、人の顔も分からない暗闇の状態で なぜ出口に向かって歩けるのか、などと考えてはいけない。

この2人は、忘れていた過去の記憶を思い出すことによって相手を見直すことが多いが、今回で怜太にとっての真琴の特別性は分かったが、では彼はなぜ他の女性と交際を重ねたかなどは語られない。ナルシストで おバカだから、来るもの拒まずだったのだろうが、その点を真琴が蒸し返すことが まるでないのが不自然である。怜太のことを好きになった真琴なら それが気になり始めるだろうに。色々と理由をつけて両想いにさせなかったのに、ある部分では とても心理的な処理が雑になっているのも気になる。

この話は、お化け屋敷で自分の存在がバレそうになったら、真琴が逃亡して難を逃れる、という雑な展開で終わる。連載1回分の終わりに盛り上がりを用意するが、それに向き合わないように話をリセットするのが本書の手法である。


うやく「好き」という気持ちを認めた真琴だが、今度は付き合うのが怖いと言い出す。

そんな状況の中、文化祭が始まる。
この文化祭には祐介の兄が来校する。この兄は状況を物事を静観しがちな祐介の心に火を点けるために存在するのだろうが、上述の通り、自分の行動を棚に上げて祐介を非難したり説教したりするので印象が悪い。

そして この文化祭には真琴の父親も来校している。ここで父は怜太に10年ぶりに再会する。久々の再会の男2人は いきなり恋愛相談となる。真琴と怜太の事情は、この日 父があった幸子から聞いているらしい(幸子が そんな父娘関係だとは思えないが…)。
怜太は どれだけ言葉を重ねても、怜太を拒絶ばかりする真琴のことが分からなくなっていた(私もだよ、怜太…)。

怜太に問われて真琴の父親が話す離婚の真相は、父が交友関係や、目の前にいる困っている人を放っておけない人で、毎日のように家庭を二の次にして目の前の人と交流していたら、父親として夫として失格の烙印を押されたらしい。

どうやら真琴の父は祐介と同じようなタイプみたいだ。父は祐介ほど気疲れしないのだろうが、慈愛に満ちており、それが原因で一番 守るべき家族を守れなくなってしまった。


こうして怜太は真琴の父親から真琴が恋愛への不安を克服する仕方を学び、そして祐介は兄に感化されて動き出す。祐介は真琴に交際を申し込んだのだ。

祐介は幼なじみとの関係が壊れることを知っている。真琴の恐れを一番理解できる人だから、真琴とうまくいくと信じている。トラウマの最大の理解者と一緒に居れば、トラウマを回避できる、それが祐介のアドバンテージか。

『1巻』『2巻』のラストに続いて3回目となる真琴と祐介の急接近を認めた怜太は、その阻止に全力を注ぐが…。