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少女漫画と小説の感想ブログです

主要キャラで 読者人気も高いはずの俺が、最終巻では顔もないモブと同じ扱い、だと⁉

テリトリーMの住人 11 (マーガレットコミックスDIGITAL)
南 塔子(みなみ とうこ)
テリトリーMの住人(てりとりーえむのじゅうにん)
第11巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

瑛茉(えま)、宏紀、怜久(りく)、こま、郁磨(いくま)。テリトリーM、5人の恋と青春、完結! 瑛茉と宏紀の関係は何も障害なく、日々距離が縮まっていきます。ところが、瑛茉と怜久が事故チューしてしまい…。それを知った宏紀の様子が…!? 出会った時とは大きく変わったそれぞれの関係。瑛茉がつかんだ今の幸せの形は? 笑顔で迎える最終巻です。

簡潔完結感想文

  • 集中していた前半に比べて最終盤の雑さは目に余る。ネタの使いまわし多すぎ。
  • 2人の仲は 暗雲のちに快晴。でも これ前巻と全く同じ展開…。最終巻で恋愛脳。
  • 主人公を もう一度テリトリーの外に出すための進路。3年生と秋冬はスキップ。

たも本格的な秋冬と、本格的な受験勉強はスキップされる 最終11巻。

本書には秋と冬という季節が存在しない。
ヒロインの瑛茉(えま)が高校1年生の時は夏休み中から約半年の時間のスキップがあったし、
高校2年生も まだ袖をまくるぐらいの秋の入り口でスキップしている。

これには何か意味があるのでしょうか。
私は しつこく、アイス=愛す の食べ頃だからじゃないかと思っていますが。

学校イベントも 今回の修学旅行ぐらいしか ありませんでしたね。
これは学校が山吹中央(やまぶきちゅうおう)高校で、頭文字がMじゃないからでしょうか。
単純に1歳下の宏紀(ひろき)が登場しづらくなる、という面もあるでしょう。


作品の最終巻は、これでいいの?と首を傾げることが多い。
ヒロインの行動が一気に振り切れてしまうというか、
これまで積み上げてきたものを全部 壊しにかかっている感が出てしまう。

内容は違えど、全体的な構成の違和感は『ReReハロ』の時と全く同じ感想です。
中盤から新キャラの乱立と退場に疑問が出て、最終巻が近くなると全てが雑になっていく。
この辺は、長編3作目の成長を感じられなかったところですね。


最も違和感を持ったのは、ヒロインの幸福度がMAXになると、
知性が欠落して恋愛脳になり、更に お花畑状態で羞恥心や気配りが消失すること。
最終巻の瑛茉は、テリトリーを壊しにかかっているのではないか、というぐらいデリカシーに欠けている。

5人組の中でカップルが2組成立した『9巻』の時点で、
駒井(こまい)ちゃんから「みんなで遊ぶ時は少し… 前と同じノリにしない?」と提案されていて、
私は この気遣いが互いを思い遣るテリトリーの作り方なのだな、と感心した。

が 今回、幸せに浮かれているのか瑛茉は無視し始める。
自分が振った怜久(りく)を含めた仲間5人限定で見られるInstagramっぽいSNSに、宏紀とのキス写真を載せたのだ。
確かに怜久とは変な気遣いはしないという話にはなったが、
そもそも瑛茉って こんなことする人だっけ…?というキャラに似合わない行動に見える。
リアルと同様に、ネット上でも慎みは大事であろう。
現代の高校生らしいSNSの利用法という描写なのかもしれないが、瑛茉には して欲しくなかった。
こんなに周囲に配慮できない人だったっけ?

5人の関係性の変化を繊細に描いてきた作品で、
こんなにデリカシーの欠片もない言動を見させられるのには正直、失望した。

そして特に怜久ファンでもないが、最終巻は 恋愛の敗者=怜久に対する仕打ちが惨い。
怜久が彼氏との比較対象でしかなかったり(『10巻』)、
瑛茉の恋愛の踏み台にされたりと、利用されまくっていることに腹が立つ。

恋愛が順調なら問題ないでしょ とばかりに、
テリトリーMを大事にしない作者の荒い姿勢ばかりが悪目立ちした。


茉が転んだ際に、怜久と唇が触れてしまう事故チューが発生。
これに過剰反応するのは怜久。
皆の前で ぎこちない態度を取ってしまうほど動揺していた。

そして瑛茉も、宏紀の気分を害さないようにと事故自体を隠蔽にしてしまう。
いよいよヒロイン的な行動を見せる瑛茉(ダメな方向に)。
ヒロイン的な裏工作を怜久として、表面上を取り繕おうとするが、その会話を宏紀に聞かれてしまった。

無敵ヒーローの弱点は強すぎること。人格者にし過ぎて、喧嘩も出来ない性格に育った。

やむなく真実を話すと宏紀は笑って許してくれた。
これまでの寛大な宏紀の態度で、瑛茉は安心する。

ただ その直後に宏紀以外の4人は2泊3日の修学旅行があり、2人は意思疎通が直接とれなくなるプチ遠距離恋愛となる。
瑛茉は旅行先で宏紀の不調を知る。

『9巻』で宏紀の体調不良は1日で治ることをしった瑛茉だが、
2日目になっても彼からの応答は鈍いことに、瑛茉の中で不安が募る。

その相談に乗るのは、これまで瑛茉の全てを見てきた怜久。
恋愛アドバイザー復活である。

その会話で怜久が確認できたのは、
事故チューをしても、瑛茉には一切の影響がないこと。
肉体的接触が その精神に変調を及ぼすかと思いきや、彼女は鉄の女だった。
しかも事故チューの相手に、彼氏の相談事を持ちかける無遠慮な人間でもあった。

怜久は、瑛茉の凝り固まった思考を、今回も違う視点から見られるようにしてくれた。
母の再婚疑惑の際と同じく、心を軽くする考え方を教えてくれる。
やっぱり助言してくれる友人としては最高の存在なのだ。

ただ、今回の瑛茉の徹底的な無関心によって怜久の方も心の整理がつき始めたようで、瑛茉に対して冷静でいられる自分も確認する。


れは『9巻』で突然 湧いて出た宏紀の元カノ話、そしてキス話に対する瑛茉側のキス事件なのかな。
本命である宏紀の前にするわけにはいかなかったからか、瑛茉の元カレ・櫛谷(くしたに)とは(口への)キスしていないし。
これで同じように他の異性とキスした過去を持ち、同じように嫉妬するという対称性を生み出したかったのだろうか。

でも、それいる?
数学じゃないんだから、何もかも同等=イコールにしたからって愛が深まる訳じゃないし。
そもそも元カノ話も降って湧いた話だったのに、最終盤に事故チューってのが無理矢理すぎる。

瑛茉と宏紀のカップルが平和すぎて何も起きないのは分かるが、
過去や第三者による取り返せない事象を持ち出して、そこに嫉妬することを愛とするのは後ろ向きな感じがする。
駒井ちゃんたちは喧嘩が出来たが、宏紀を人格者に仕立て上げすぎて、瑛茉たちは喧嘩も出来ない状態になっている。
それなら2人が交際において何か間違ってしまい、それを2人で乗り越えるの方が良かった。


茉が宏紀に会える時を心待ちにする帰路。
瑛茉が新幹線のホームで見たのは、宏紀の姿だった。
不安を解消してくれるのはヒーロの先回りした行動と、太陽のような笑顔だった。

そうして一つの山を乗り越えた2人は、遂にその時を迎える。

後日、瑛茉の家を訪れた宏紀。
父親と同居し始めてから、リビングに物が溢れているため、宏紀が通されたのは、初登場となる瑛茉の部屋。

2人で会話をする中で、修学旅行中の宏紀の真相が語られる。
これは宏紀側に妄想と嫉妬が入り交じってしまい、彼が瑛茉への過度な追及を自制していたから。

こうして瑛茉は宏紀が確かに自分を好きでいてくれることを確信する。
ここも『9巻』での元カノ事件の瑛茉の心理と同じですね。
そんな2人は、これまで以上に距離を近づける。

本書ではキスよりもヤキモチが確かな愛の証拠。第三者がいないと愛は証明できない?

うやら2人のすれ違いやトラブルなどは、恋のスパイスでしかないようで、
嫉妬によって本当に愛されていることが確認されると、恋人たちは事に及ぶことになる。

この経緯は、『10巻』での駒井ちゃんカップルと全く同じですよね。
なぜ2回も同じ過程を辿らせるのか、作者の引き出しの少なさに唖然とする。
南作品は誰かを踏み台にしないと次のステップに行けないのか。

そして駒井ちゃんたちの時は、顔の描かれていない女性、もはや記号が嫉妬の対象だったが、
瑛茉たちの時は怜久が その役割を果たしている。
こうして並べると、怜久が記号にまで貶められている気がしてならない。

こんな風に同じ展開で、対応する事象が出来てしまうのなら、
駒井ちゃんたちの展開を、もうちょっと丁寧に描けば良かったのに。
アチラを雑なエピソードにするから、コチラ側で対応する立ち位置の怜久が惨めになるのだ。

『ReReハロ』の時もそうだったが、
肉体関係まで描くことが、作者にとって恋愛の到達点なのかな。
今回は双方の家族問題やトラウマ的なことも解消してから、という段階が分かりやすかった。


久にとって救いなのは、失恋後から家庭内に居場所が出来たこと。
義父との仲は急接近して(笑)、義父の作った料理を食べたりしている。

その仲を引き裂くのは実母。
幼少期の怜久にトラウマを与え、現在も男遊びの絶えない女性。
怜久は母親がいるといつも食事を別にしていた。

だが今回、3人で食事をして、怜久は母から自分にはないラーメンの具材を分け与えられる。

てっきり今の夫と上手くいかないから浮気に走っているのかと思いきや、
夫の長期海外出張が続いた寂しさを埋めていただけの様子。
この夫婦に愛がない訳じゃないらしい。

どう考えても怜久の母親は本書で一番 身勝手な女性だが、怜久も もう強く反発したりしない。
それは瑛茉と同じで、親を ただ怒りの対象にするのではなく、
自分と その人の適切な距離を見つけた、ということなのかもしれない。

また恋愛(失恋)に関しても完全に適切な距離を見つけた怜久。
そこに菜緒が現れるのだが、特に進展はない。

「他の男に 簡単にフラフラ」しない瑛茉と同じく、怜久も他の女に簡単にフラフラしないということか。
彼が菜緒に寄り掛かるような描写は一切なかったが、じゃあ菜緒は何のために出たのか。
ここが全く分からない。
彼女がいることで、怜久は段々と瑛茉との元の関係を取り戻していったのは確かだが。

作者は あとがきで この2人の未来の姿に言及している。
菜緒とは「彼女じゃないけど仕事のパートナーとかで縁が続きそう」、とのこと。
何だか、そういう未来像にすることで菜緒に存在意義を与えているようにも思える。

というか菜緒よりも国枝(くにえだ)さんの行方不明が気になる。
櫛谷に生まれていたはずの恋心も、その存在すらも どこかに消えてしまった彼女。
菜緒よりもテリトリーMにいる資格は持っていたはずなのに。

作者にとってキャラは、誰かの嫉妬を呼び覚ますための(使い捨ての)道具なのでしょうか。


述の通り、本格的な秋冬が来る前に本書の高校時代は終わる。
最終回は1年半以上経過した大学1年生の6月となる。

この話は何のために描いたのでしょうかと随分、考えましたが、
これは瑛茉が、テリトリーMを飛び出して、また「独り」になるために必要だったのだろう。
この作者の意図は ちゃんと伝わっているんだろうか、と心配になるぐらい伝わりづらい描き方なのが惜しい。

『5巻』の2年生の進級時にも書きましたが、
私立文系クラスに進んだから4人が一緒になったのに、
瑛茉以外の3人が国立大に進んでいることが非常に謎だった。

設定自体を忘れてや いませんか、と作者の集中力も疑ったが、
この1話だけの大学生編では、瑛茉を孤独んする必要があったのだろう。

高校を転校した時のように、知らない人ばかりの環境に彼女を入れる。
そのために同級生4人組を1-3に分けることで、彼女の孤独を引き立てたのだろう。

だから以前の設定は無かったことにして、
私立と国立大という具体的な学校名を出さなくても、
瑛茉だけが絶対に進路が違うという一目瞭然の差が必要だったのだろう。

この1年半で、宏紀は瑛茉の父と料理を作るぐらい親しくなっている。

本書は父親離れの話だったのかなと思う部分もある。
父と似た気質の男性を好きになる。
その恋愛をするために、彼女の頭を占有する父に退場してもらって、愛が確定したら父親を元に戻す。
こうしてファザコン気質は残しつつ、父によく似た男性を好きになる。
宏紀が料理を覚えていったのは、父親により似た性質を持つためでもあったのだろう。

万が一、連載が不評で早い段階で打ち切りの危機になったら、
瑛茉の舌に合う料理が作れた櫛谷がヒーローになったのかな?
櫛谷には未登場の弟がいて、その弟を病弱設定にすれば宏紀の家庭のトラウマを流用できるし。


学ではインカレのバスケサークルに所属する瑛茉。
瑛茉って運動好きそうじゃないけど、これも愛の力みたい。

夏休み中に参加することになったサークルの夏合宿は、修学旅行と同じく日数も2泊3日。
今回は どんなプチ遠距離恋愛を見せるのかと思ったら、ほぼ再放送で幻滅した。

今回は、お揃いで買ったピアスを失くすという事件が起きる。
これが今回のプチ遠距離での瑛茉の不安の種となる。

せめて交際直後に買っていれば、読者に思い入れもあるが、
最終回で買って、すぐに失くしても、それが どれだけ大事かは いまいち伝わってこない。

そんな悲しみから救うのは宏紀。
修学旅行の時と同じように、彼女の帰りを先に待ち、その胸で瑛茉の苦しみや悲しみを受け止める。

このピアスは、駒井ちゃんたちの居ない 知らない環境に1人で飛び込む瑛茉に勇気を与えてくれた象徴。
大学は知らない世界だったが瑛茉は、宏紀の存在を確かに感じることで一歩を踏み出せた。
これは瑛茉がテリトリーMに入ってからの努力の成果でもある。


また時は流れて宏紀は大学に合格する。
宏紀は本書の中で中学3年、そして高校3年の時と2回の受験を経験し、どちらも受験生の秋冬はスキップされている。

瑛茉のサークルの設定も ラストの展開のために用意されていたのか。
ただ彼女たちの場合、マンションが一緒だから それでいいんじゃないか、とも思うけど。

人間的に成長することで、テリトリーが広がっていくことを実感しつつも、
最後は、始まりの地ともいえる「マ・メゾン」で終わるのは良かった。
宏紀が料理し始めて以降、また瑛茉の父親が登場して以降、どんどん店の存在感が薄くなっていたけど…(苦笑)