《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

お約束通り 三角関係の始まりの3巻は、トラウマとコメディも盛り込んだ本書のピーク。

PとJK(3) (別冊フレンドコミックス)
三次 マキ(みよし まき)
PとJK(ピーとジェイケー)
第03巻評価:★★★★☆(9点)
 総合評価:★★★(6点)
 

カコと功太はラブラブ通い婚生活中♪ だけど2人にとって因縁の不良DK・大神が、なにかと絡んで大騒動に!? 一方、功太の過去に起きた『あの事件』とは──。

簡潔完結感想文

  • 同棲現場に親族登場は少女漫画の定番。結婚式の約束をした夫の言葉は死亡フラグ
  • カコは恋人じゃなく妻だと自覚した功太のトラウマ告白。最終回への伏線が張られる。
  • 学校イベント × 警察官。功太が学校に登場するコミカル回は序盤のみで本書の理想形。

ういう話が読みたい!という読者の願いが形になっている 3巻。

読みたかった日常回に加えて、少女漫画読者が大好きなトラウマが良いバランスで混在しているのが『3巻』だろう。とにかく作中の雰囲気が良い。これ以降は心から笑っていられるような内容じゃなくなり、雰囲気が重くなりすぎるのが本書の欠点である。警察官の功太(こうた)がヒーローとしてかつやくしなければ ならないので仕方ないけれど。

特に今回は学校イベントと功太の絡ませ方が秀逸。学校内の事件を解決する功太は まるで探偵のようで混沌とした現場を一瞬で調律してしまう支配者のような輝きが見られる。また少女漫画においてはコスプレ大会と ほぼ同義の学園祭では、読者が望む功太の姿を しっかりと描いてくれていて手を合わせたくなる。

職業もあって妻や女子高生に手を出せない=女子高生から自由に もてあそばれる功太の「コスプレ」。

しかし問題が1つある。それは このような手法は何度も使えない、ということだ。警察のお世話になるような事件を何度も同じ学校で起こす訳にはいかないし、部外者の功太でも学校に入れる文化祭も1年に1回で、高校2年生のカコにとっては次がラストチャンス。功太@学校が無理なく使えるのは今回限りかもしれない。

また、ほぼ交際0日婚をした新婚夫婦の距離が縮まる様子も手に取るように分かり、夫婦でありながら まだまだ恋愛イベントが残されているのも長期連載を支える強みとなっている。

そして私が「少女漫画あるある」として考えている「3巻は三角関係の始まり説」を地で行くような展開も見逃せない。ある意味で本書の中心的な人物といえる大神(おおかみ)の本格的な活躍が始まるのも この巻からだろう。カコは今回で功太の過去を知ったが、大神はカコの現在を知る。そんな圧倒的不利な状況からヤンキーでありながら純朴・純情の大神が どうアクションしていくかを見所にする読者も多かろう。当て馬が支持を集める作品は人気も出るというものだ。
そして同時に楽しめるのが、功太と大神の関係。といってもBL的な何かではなく、大神の中に過去の自分を見つける功太だからこその言動が一つ一つ見逃せない。もしかしたら これは完読してからの方が よく見えることかもしれない。単純な三角関係だけじゃない、人間関係の深みが作品の深みに繋がっていて、長期連載化にあたって用意したであろう男性たちの過去が上手く機能し始めている。

このような設定だけじゃなく会話のキレも増していて『3巻』は私にとって本書の理想形であった。


祭りの夜、功太を心配させまいと結婚指輪捜索をしたカコは、功太をかえって心配させた。少し浅慮なところがあるけれど天真爛漫に育ったカコに比べて男性たちの背景は複雑らしい。

功太には何やら過去があるらしいし、自分はカコの両親に何度も謝罪している大神だが彼の親がそれに同行しないのも、今回の件で身元引受人が親ではないことも何か理由がありそう。カコは功太の過去を問い質そうとするが、功太はそれに真正面からは答えない。

そんな険悪な雰囲気の中に登場するのが功太の姉・薫(かおる)。両親が亡くなっている功太にとって唯一の肉親で、そして子供の頃から親代わりをしてくれた逆らえない人。カコは薫と2人きりで話をすることで、知りたかった事とは別だが、功太の過去を少しずつ知っていく。自分と同じ年頃の彼のこと、元ヤンだったこと、姉が持ってきた その頃の写真が載る卒業アルバムをカコは撮影し、待ち受け画面にする。

薫によって計画されたのはウェディングサロンでのドレスの試着。功太は社会人でカコのことをしっかり考えてはいるが、やはり男性的な視点から物を考えるため、カコが言い出せないことまでは察せない。それを埋めるのが姉の役割となる。親族で物語を動かすのは少女漫画の中盤の お約束。
功太も自分の中では結婚式についても考えてはいたのだが、数々のドレスを見て表情を輝かすカコを見ると、姉への感謝も湧く。だからカコに対してハッキリと高校卒業後の式を約束する(死亡フラグではない)。

姉といいサロンのお姉さんといい同僚といい、功太は周囲からイジられキャラとして愛されている。

うして功太の中で、自分たちが夫婦になり、そしてカコは年下で幼くても妻だという実感があったところで、彼は自分が過去遭遇した事件について話を始める。
それは、警察官であった功太の父が殉職し、その現場に功太もいた、ある有名な事件だという。

功太は母を5歳の時に自己で亡くし、それ以降は姉が母がわりに面倒を見てくれた。警察官の仕事で忙しかった父は不在がちで、思春期を迎えた功太は次第に父と距離が出来てしまう。父の転勤と姉の就職が重なり、功太は父親と2人暮らしになり、新天地に馴染めない功太はヤンキーと化した。
父と口喧嘩をした その日の夜、街をぶらついていた功太は、何か大きな事件が起きた現場で働く父の言葉がヘッドフォンによって遮られ無視をし、看過する。だが功太が進んだ その先に刃物を持った男性がおり、その刃物から功太を守るために父は殉職した。
死後に痛感するのは、互いが互いを心配しながらも傷つけ合うことしか出来なかった不器用な自分たち父子の姿。功太は後悔する。父の中では、息子に嫌われたままだと思われてしまったこと、そして その認識を改める機会は2度とないこと。自分の父に対する好意や尊敬は伝わらない。

その後悔があったから『1巻』でカコが大神から功太を庇って怪我をした時、自分が後悔しない道として職業倫理や自制を飛び越えて、自分がカコに対して好意を持ち始めていることを認めようとした。一足飛びの結婚の話にも理由はあったということだ。功太がカコのヒーローであり続けたのも、彼がカコを守ろうと気を張っていた結果であった。
ただ、あの時の功太の描写や表情からは そこまでの切実さは認められず、批判もあったであろう拙速な結婚へのエクスキューズにも見えなくはない。

功太の話を聞いて、彼を抱きしめたくなったカコ。年長者として情けないと思う彼を肯定するのは、かつての姉の言動に通じるものがある。功太自身もまだ認められない過去を、カコは現状のまま受け止めてくれた。そういう存在が身近にいることが結婚するメリットの1つであろう。


節は移ろい夏になりプールの授業が始まる。そこで大神が泳げないことが判明。
その授業中にクラス内で盗難事件が発生。アリバイがないのは授業中に教師から教室での用を頼まれたカコだけ。
クラス内での雰囲気の悪さを察したカコの友人・三門(みかど)とジロウが警察を呼び、そこに登場するのが功太であった。学校内に功太を召喚するためとはいえ、ヤンキーの警察官襲撃に加えて盗難事件と この学校の治安の悪さと言ったら酷いものだ。

功太と気まずい再会を果たすカコだったが、周囲から犯人扱いされるカコを見て大神が「自首」をする。功太たち警察官に尋問される大神だったが、彼は功太に喧嘩腰に答えるだけ。大神は功太の後ろにこれまで関わってきた警察官の影を見ているらしい。
またカコ自身も大神に庇われたことが嬉しいとは思えず、モヤモヤするが、功太たちの捜査によって別の人が犯人だということが判明する。

この回で功太が大神の態度について口うるさく言うのは、そこに かつて自分の姿を見ているからだろう。警察官に対する反発、そして自分の守りたい者(カコ)に対しての間違った手法、それらは功太が父に対して取っていた態度と同じだからこそ、功太は かつて自分が姉から言われた「前を向け」というメッセージを大神に伝える。功太の過去を読者も知ったからこそ、彼の言葉に重みが出てきた。

大神は自分の中の恋愛感情を自覚し始める。そして それと同時に、カコが若い時の功太をスマホの待ち受け画面を見てから、カコの学校外にいるという「彼氏」が誰であるかを察したように見えたが…。


いては学校イベント、文化祭回。この回は学校が舞台であり、内容も非常にコミカルで とても理想的である。やっぱり本書は気楽に喧々囂々(けんけんごうごう)と賑やかなぐらいが丁度いい。

だが学祭のことを功太を知らせても、彼は来校することに乗り気にならない。そこから上手く彼をコントロールさせて、彼を操っている所を見ると、年齢的には年下でも、姉さん女房のような夫の操作術である。ちなみに全て三門の作戦らしい。本番は三門は功太の弱点を着実に分かっていて面白い。三門は全ての事情を知っているから功太にとっては一番 厄介な友人だろう。
そして今回は三門の入れ知恵だったが、将来的にカコと功太は、カコの両親のような婦唱夫随の関係になるかもしれない。そういう意味では犬猿の仲の功太とカコ父は同じ穴のムジナなのだろうか。
『2巻』における功太の、「(カコの)もっとも近しい親類のひとりだ!」発言と同じように日本語マジックを駆使した会話は面白い。カコの父親も含めて男性の意地やプライドがくすぐられるような言動が いくつも出てくるのが本書の面白い所。

そして少女漫画における文化祭はコスプレをするためにあると言っても過言ではない。現役高校生の大神はもちろん、功太も逆コスプレをして一般男子高校生になる。
功太と大神が廊下でぶつかる場面なんて、俺たち 入れ替わってるーーっ!? である。

いつもと立場が逆転した姿で互いをディスり合う2人は まるで親友同士ではないか。だが その交流があったからこそ、大神は功太こそが自分の恋のライバルであることを知ってしまう…。

ちなみに季節が夏になったので『2巻』でのジロウ登場の番外編と時間がリンクし始める。読切短編のヒロイン・楓子(ふうこ)が本編に出てくる日も近いのだろうか。