《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

恋愛A.T.フィールドを展開するヒロインの心の壁を壊すのは、幼なじみの愚直な壁ドン!?

私たちには壁がある。(1) (デザートコミックス)
築島 治(つきしま はる)
私たちには壁がある。(わたしたちにはかべがある。)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

「そんなに彼氏欲しいならさ 俺が付き合ってやってもいいけど?」菊池怜太(きくち・れいた)と桜井真琴(さくらい・まこと)は、家が隣で親どうしが仲が良い、いわゆる「幼なじみ」。女の子にはモテるけどナルシストで俺様な怜太が、ある日突然真琴の「彼氏」になって……!? 俺様幼なじみと山あり谷あり壁ドンあり、ときめき青春ラブコメ

簡潔完結感想文

  • 本気にされないヒーロー vs. 本気にしないヒロイン。幼なじみが仲良く喧嘩するラブコメ
  • 俺様おバカ様ヒーローよりも、彼を否定ばかりするヒロインが何様なの、と好きになれない。
  • 全体的にイケメン幼なじみが 私を大好きで嫌になっちゃう、という自虐風自慢に見える。

「壁」とは何か、ゲシュタルト崩壊が起こる長期戦必至の 1巻。

んー、立場が逆、または主人公を逆にしたら面白かったのではないか、と思う作品。面白くなりそうで ならないなぁ、という思いが読書中ずっと 付きまとった。画力も高く、雰囲気もあるのだが、よくよく考えると あまり話が面白くないという評価にならざるを得ない。

あらすじ は単純明快で、イケメンだけど残念な仕様の幼なじみ・菊池 怜太(きくち れいた)に「俺が付き合ってやってもいいけど?」と言われても、怜太との関係性に恋愛を持ち込むことに躊躇するヒロイン・桜井 真琴(さくらい まこと)は一顧だにしなかったのだが…、という展開。

往来で周囲の目と迷惑を顧みず我が物顔の怜太と、その彼を冷ややかに見つめる真琴。これが本書の基本構造。

これは見方を変えれば難攻不落の真琴に怜太が めげずにアタックすることで両想いを成就させる物語である。それだけみれば典型的な少女漫画のフォーマットで努力する怜太を応援できる。ただし本書の主人公は飽くまで真琴である。なので読者は真琴が恋をしない理由、怜太を好きにならない理由を延々と読ませられる。そこに爽快感は生まれない。そして この真琴は怜太を避けるあまり周囲を巻き込んで迷惑をかけまくるから一層 楽しくない。上述の通り、怜太をメインにするか、または 顔だけが良いおバカな怜太を好きになってしまった真琴の苦悩をコミカルに描けば楽しかったかもしれない。

しかし それではきっと どこかで読んだような既視感のある作品になってしまうから、真琴の心の中のせめぎ合いをメインに据えたのだろう。最初から文句ばっかりで申し訳ないが、この心の葛藤も いまいちスッキリした解決を見せない。真琴は両親の離婚が一種のトラウマになっており、真琴が子供の頃に経験した親の離婚に対して折り合いをつけることが、怜太との交際の障壁を壊すことに繋がると思いきや、私には よく分からないタイミングで交際が始まり納得がいかなかった。真琴の心をメインに据える割に、真琴の悩みに全く共感できなくて、そこそこ楽しいお話なのに心の底から楽しめなくなってしまった。そして序盤は何度も描かれる人気者・怜太を取り巻く学校内の生徒の雰囲気は中盤以降 全く触れられることが無かったり、真琴が怜太の過去の恋愛遍歴を全く気にしなかったり、伏線っぽかったのに無視されるエピソードなど話が取っ散らかっている印象も受けた。真琴の競馬好きも すごい浅い性格設定に終わってたし。

一番疑問なのが、真琴が両親の離婚を自分の経験のように語っていること。予兆もなく父親が出て行ったことが真琴の心の傷となり、それが突然に世界が変わっていくという不信につながっている。ただし、真琴は父親との関係は継続している。父親はずっと真琴を見守ってくれているし、真琴も定期的に会って、父親と会話を重ねている。つまり真琴は一緒に住む家族は欠落したが、彼女は父親を失ってはいない。なのに真琴は まるで自分が離婚したかのように、恋愛をすると破滅が待っていると盲目的に思い込んでいる。真琴と父親との関係こそ、変わっていく関係の中でも変わらないものの象徴にのように思うが、真琴(とこの作品)は その事実に触れようとしない。こういう しっくりこない感覚が読書中 何度もあった。


して「幼なじみ」「壁ドン」「偽装交際」という「三題噺」を課せられ、そのノルマを達成していく義務があるかのような必然性のない展開も気になるところ。そのノルマをこなして、悪い意味で行き当たりばったりに物語は進んでいるように見える。
これが特殊なシチュエーションと胸キュン場面を重視する同じ講談社の「別冊フレンド」だったら その作風も納得するのだが、本書の掲載誌は私が好きな「デザート」で、わざとらしい胸キュンシーンを見せられるとは思わなくて辟易した。

アンチ壁ドンみたいな雰囲気を出しつつも壁ドンを連発して特徴にする。追い詰めたい怜太の願望なのか…?

上記の文章を読めば分かるかもしれないが、私はヒロインの真琴が好きになれなかった。俺様で おバカな怜太のことを1人の人間として扱わず、彼の やることなすこと全て否定する真琴こそ何様なんだよ、と何度も憤慨した。彼女は常に自分、自分、自分。親が子供が成長しても子供の人格をいつまでも認めないで苦しめてしまうように、真琴は怜太のことをバージョンアップしないまま、自分よりも下位の存在のように扱っていて不快だった。
怜太は少女漫画のヒーローらしく初回から2連続で真琴もピンチを助けているのだが、真琴は それに対して十分な お礼を言わないのも気になる(1回目は少し謝ってるが、2回目は文句だけ)。もう少し親しき中にも礼儀あり になっていて欲しい。

最近では ななじ眺さん『コイバナ!』でも思ったが、恋愛をする必要性のないヒロインが恋愛に強制的に関わるのはストレスを感じる。そして本書の問題は上述の通り、恋をしない真琴の心理描写がグダグダ続くことである。

そして怜太の おバカフィルターがかかっているから気が付きにくいが、結局 本書はヒロインが、イケメン幼なじみに求愛されて大変だよー、という自虐風自慢という面も間違いなくある。真琴にとって怜太の顔は見慣れたもので何と思わないと言いながら、真琴は初対面ばかりの合コンで怜太の顔を高い位置に置いて相手を見定めるダブルスタンダード。結局 真琴は、学校一のイケメンに好かれて どうしよぉ~という典型的ヒロインなのだ。

また、幼なじみの過去を後から捏造(?)するのも気になる。2人の気持ちが動く場面では、かなりの頻度で「忘れてた怜太って…」などの互いの回想が入り、それが相手を見直す契機となる。小さい頃に こういうことがあったから、というエピソードで説得力を出したいのだろうが、それが現在の恋心と直結するかは疑問である。


になるのは最初に真琴を遠ざけたのは怜太の方だということ。自分がモテると分かってから地味な真琴に「あんま人前で話しかけんなよ」と言ってきた。ただし地味に見えるのも、他の女性とは違う特別という意味にも思える。そして『2巻』の内容から察するに怜太からの「地味」は照れ隠しのような部分もあるようだ。

一方、真琴は2人姉妹だが怜太で男性への免疫がついたため、同世代の男子とは すぐ友人関係になってしまう。だが それでは恋愛の免疫がつかないし、怜太からの上から目線の交際宣言を拒否したら、怜太から一生 彼氏ができない、と言われて、つまらない対抗意識で彼氏を作ろうと真琴は一念発起する。

真琴は合コンに参加し、顔だけで相手を選び、かわいいと言われ、今度2人だけで会わない?と言われただけで舞い上がり、早々に彼氏ゲットとメールを一斉送信する。これが今後の展開に必要なのは分かるが、真琴も、怜太に負けず劣らず痛い人間で、この時点で彼らの恋がどうなろうと興味が持てない。なぜメールを全員に送るのか、そんなに自分に注目して欲しいのか。

だが真琴の行動を勘違いした合コン相手は、真琴をお持ち帰りできないと分かると目に見えて落胆し、キスだけでもさせろ、と真琴に強引に迫る。そこに現れるのがヒーロー・怜太。彼が どうして場所が分かったかの説明は濁される。ここは説明や伏線が欲しかった。こういう少女漫画ヒーローの ご都合主義の特殊能力は もう古い。

怜太に合コン会場から連行される真琴は、彼に文句を言うが、怜太に説教をされ、自分の危機を自覚する。真琴は自分のミスに対し怜太の前で泣く。そんな泣いた自分が、親が離婚した時の自分と重なり、その時も今も怜太に助けられたことを思い出す。あの頃のような彼との変わらない関係を、このまま維持したい、というのが真琴の願いになる。

だが学校では真琴に彼氏ができたという自作自演のメールが原因となり、その困った状況に怜太は自分が真琴の彼氏だと名乗り出る。こうして偽装交際が始まる。少女漫画におけるヒーローとの偽装交際は偽装ではなくなるのが運命である。話の流れがゴツゴツしていて、なんでそうなるの?と思う場面が1話で てんこ盛りである。起伏のある1話だと思うが、不自然な流れが目立つ。真琴が優先するのが自分の「見栄」というのは実に彼女らしい残念な展開ではあるが(嫌味)。


(偽装)交際は、お互いの母親の知るところとなり、怜太の母からは動物園のチケットを貰ってしまう。そこから始まるデート回。

それにしても働いているはずの真琴の母親が2話連続で日中 家にいるのは何事か。ちなみに真琴の母がベランダから怜太が入ってくるのを気づいていないという設定。真琴の両親が離婚した小学生の頃から10年近く怜太はベランダから真琴の部屋に侵入しているのに一度も気がつかないとは、何と言う鈍感家族なのか。実は気づいてたけど…、みたいな設定があっても良かったが、それもない。小学生の頃は毎日のように怜太は夜、真琴の部屋に入って一緒に寝ていたらしい。小学生時代の事だから毎回 親が起きる前に絶対に家に戻っている というのも無理がある。お互いの母親が1回も気づかない 何てことがあるとは思えない。これは秘密の密会という興奮を高めるだけの設定なのだろうか。

動物園デートで怜太と過ごしても真琴はドキドキしない。むしろ真琴は怜太との仲に恋愛感情を持ち込みたくない。というのも真琴は両親の離婚が一種のトラウマである。信じていた 疑いもしない世界が突然に変わってしまったから。離婚の原因は父親の浮気が原因だと真琴は遅れて知った。それで怜太とも恋人になったら2人の関係は絶対に変わってしまうし、破滅が待っていると思い込んでいる。

初期から真琴の両親の離婚を問題にしながらも、結局 真正面からは取り上げないという変な構成。

装交際開始から3週間、学校で1番のイケメン・怜太の「彼女」である真琴を見に来る人は耐えない。一番の親友にも黙っていて、彼女は真琴と怜太がキスぐらいしているものだと思い込んでいた。

怜太の態度を真剣に考えない真琴は いつも感情的で怜太を部屋から閉め出し、彼をベランダに放置する。そのせいで怜太はカゼをひき、風邪回が始まる。真琴はお詫びも兼ねて怜太の食べたい彼の好物をコンビニで買ってくるが、怜太には学校の女子生徒からの差し入れもあった。義理と義務でしか動かない自分に対し、怜太を真剣に想う彼女たちの存在に真琴は罪悪感を覚える。

夜になっても真っ暗な怜太の家を見て、真琴は怜太が心配になり訪問する。ソファで1人で寝ている怜太を発見すると、この日 怜太の母は法事で帰らず、父親は出張だそうだ。昼に お見舞いに行った同じ日、という確証はないが、同じ日なら日中の訪問で真琴と怜太の母は顔を合わせているのだから、一言あっても良いと思うが。話の流れが飛んでいて、描きたい場面や描かなくてはいけない見せ場までの進ませ方が雑だ。

真琴は怜太の看病するが、熱で朦朧とする怜太にベッドの中に引きずり込まれて、そこで話をする。沙紀の罪悪感もあって真琴はそろそろ偽装交際の終了を申し出る。だが、それは怜太の本気の気持ちを害してしまった。

だから その後、真琴が怜太からカゼをうつされた後、怜太はベランダ越しにキスをする。自分の本気を見せるために…。


かし自分の思考を一から十まで説明する語彙力も論理力も怜太にはなく、ただキスという結果だけを真琴に示したため、当然 真琴は混乱する。
怜太の方はキスという達成感もあり内面の喜びが外見を輝かす。だが怜太は調子に乗ったまま真琴に会い、彼女に鉄拳制裁を食らう。

逆に彼女の心の動きが分からない怜太は部屋に こもって迷走を続けていた。そのことを怜太の母から聞いた真琴は、今度は自分からベランダを乗り越えて怜太に会いに行こうとする。だが、ベランダの隙間に落ちそうになり怜太に助けられる。

そのことから真琴は、親が離婚した頃、怜太が危険を冒しても毎日 会いに来てくれたことを思い出す。父は家を出て行ったが、その代わり怜太が絶対に自分の傍にいてくれる。それを思い出し、真琴は怜太を「好き」だというが、それは怜太の人間的な評価であって、怜太が欲する恋心とは違うものであった。

ちなみに この頃、真琴は父親と会っている。この時に、父の田舎で遊んだ佐原(さはら)という兄弟の話が出てくるが、実際の登場は かなり後になる。凄いロングパスである。連載が好評につき長期化しなければ、この佐原という人物が2人の距離を近づける当て馬になる予定だったのだろうか。どうも作者の伏線の張り方は雑というか、私の好みではない。


から真琴は怜太の元カノたちが、別れた後に彼のことを悪く言うことを快く思わない。それは怜太が元カノに別れの原因があっても、絶対に彼女たちを悪く言わないし、何なら元カノの事を気に掛ける優しさを持っているからである。
そんな時は真琴が助けに入ったりしたし、高校生の現在でも怜太の評判を下げる発言をする元カノを注意していた。

一方、怜太は自分の親友・安孫子(あびこ)が真琴に急接近しているのではないかと気が気ではなく…。

壁ドンが売りなんだろうけど、壁ドンさせるために人物が不自然に動いて気が散る。私は全く壁ドンというものに ときめかないのだが、想像力豊かな人は自分がされることを連想して心拍数が高鳴るのだろうか。