《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒロインを取り巻く 心が仏の祐介による頭ポンポン vs. 顔が神の怜太の壁ドン。

私たちには壁がある。(2) (デザートコミックス)
築島 治(つきしま はる)
私たちには壁がある。(わたしたちにはかべがある。)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

「なんでそのひと言をいっちゃうかな……。」幼なじみの菊池怜太(きくち・れいた)とワケあって付き合うフリをすることになった桜井真琴(さくらい・まこと)。俺様(+お馬鹿)な態度に呆れながらも、怜太の不器用な優しさを少しづつ意識してしまう。だけどその気持ちを「好き」と認められなくて……!? 俺様幼なじみと山あり谷あり壁ありラブストーリー!

簡潔完結感想文

  • 負けず嫌いが発動して自分の首を絞めていくのに素直になれないヒロインという地獄。
  • 自分を女性として扱ってくれる祐介を真琴が意識することが当て馬を生む一因になる。
  • 怜太が本気で好きだといっても それを真琴が信じない無間地獄。『2巻』で進展なし。

をするつもりのないヒロインに男たちの(一方的な)戦いが繰り返される 2巻。

『1巻』のラストも『2巻』のラストも、親友・祐介(ゆうすけ)のヒロイン・真琴(まこと)への接近に危機感を抱いた怜太(れいた)が割って入る、という同じような構図で終わっている。相変わらず真琴は恋をするつもりはないし、『2巻』全体は何も起きない虚無といっても差し支えがない。

人からの恋心を拒絶してばかりのヒロインを主人公に据えた作品は何を楽しめばよいのだろうか…。

恋をするつもりのないヒロインに2人の男性が群がるという話に既視感があったと思ったら、春田なな さん『スターダスト★ウインク』があった。この作品も途中の巻(『6巻』と『7巻』)で読者を惹きつけるためのラストシーンがほぼ同じという無間地獄が広がっていたが、本書も早くも似たような停滞感に襲われている。そういえば『スターダスト★ウインク』も幼なじみの話で、男2女1の微妙な関係性を描いた作品である。この作品も幼なじみとの間に恋愛を持ち込みたくないヒロインがウダウダしている作品で私の評価は低い。少女漫画の幼なじみモノは鉄板ジャンルであるが、ヒロインが恋を知らない子だと こじれすぎてイライラしてしまう話が完成するみたいだ。
また、ヒロインの行動が周囲の人に何かを言われることで決められているという外圧ばかりの自主性の無さも共通しているように思う。真琴も怜太の不憫を見かねた親友・樹里(じゅり)や全てを見通す仏のような祐介の言葉に影響されて動いており、人の意のままのように見える。本当にバカなのは真琴なんじゃないかと思えてくる。

何より いよいよ怜太が真琴に告白するというビッグイベントがあったにもかかわらず、真琴は それにも苛立つばかり。いつまでも怜太の気持ちを踏みにじり続けることで自分の平和な世界を継続させている。

『1巻』の感想文でも書いたが、本書の立場が男女逆だったら ありがちではあるが受け入れやすい作品になったと思う。堅物の幼なじみの男性にヒロインが何度も挑戦する姿は共感も得やすいだろう。本書の設定でも怜太を主人公にして、少年誌のラブコメみたいにするのはアリだと思う。

だが本書の場合、ヒロイン・真琴が主人公で、彼女が堅牢な壁を築いていて、壁ドンで壁を壊そうとするヒーロー・怜太のアプローチを にべもなく却下するだけ。通常は難攻不落の人を攻略するから面白いのだが、本書の場合、何物でもないヒロインが いつのまにかに難攻不落の高嶺の花ポジションになっているのが構造として不可解なのだ。一般的な少女漫画はヒーローの方が優秀で、「堅物の幼なじみ」という設定なら生徒会長とか成績優秀者とかスポーツに打ち込んでいる、または単純に顔が抜群などの長所が設定されている。だが真琴の場合、外見も内面も取り立てて優れたところはない。なのに幼なじみ特権と謎の高嶺の花ポジションで怜太の言うことは全部 拒絶しているだけだからワガママに見えてしまう。

会話のレベルが低い2人だから、言葉でなく態度で愛を示した方が有効かもしれない。

人公の ねじれたポジションの他に、私が本書を楽しめない理由は もう1つ考えられる。

それは本書は最初から「好き」が固定されているからではないか。

本書は1話から『2巻』終了時まで、恋愛的な距離感が変化していない。不器用で おバカだから分かりにくかったが怜太は1話から真琴のことを好きになっている。なので2人の距離は ずっと固定されていると言っていい。真琴が胸キュンして一瞬だけ心拍数が上がることはあるが、それ以外は基本的に平常心である。しかも上述の通り怜太の恋心を否定するから盛り上がらない。

本書の構成の難を考えることによって私が好きな少女漫画の要素は、人を好きになっていく過程とか、想いが重なっていく様子が見たいのだと気づかされた。本書でも後者の描写はあると思うが、真琴の恋愛解禁は ほぼイコールで怜太のことを好きだと気づくことであり、改めて一から怜太を好きになっていくわけでは ないだろう。

2人の人間が精神的に近づく様子が見たいのであって、物理的に壁をドン ドンされても、胸はトキメかないのである。

そう考えると やはり本書は 嫌よ嫌よも好きの内ではないが、学校一のイケメンに好きと言われ続ける状況に読者の承認欲求は満たされるだけなのだろう。その意味では溺愛系漫画のように常に満たされているとも言えるのか。

壁を壊すことが大問題となる本書だが、逆に壁一枚しか問題がない。派手なアクションで目くらましをしているが、実は小さな小さな問題を扱っているのではないかと思ってしまうから、あまり内容を楽しめない。頑固な人の精神世界を見せられてもねぇ、という気分になる。


校で真琴が、怜太の友達・祐介に近づくことを心配した怜太だったが、その本心を真琴に言えないまま口喧嘩になる。真琴もまた精神年齢が幼く、怜太と同等レベルで口喧嘩をしてしまうから、売り言葉に買い言葉で、真琴は怜太ではなく祐介のことが好きということになってしまった。

この喧嘩を目撃した周囲の生徒によって真琴は「悪い女」になる。本書の初期は周囲の目が光っている(逆に中盤以降は主要キャラだけの世界で違和感がある)。噂はSNSなどでも拡散し、怜太ファンの女生徒から真琴は嫌がらせを受けてしまう。

だが ずっと怜太の一番 身近な女性である真琴は、怜太に彼女がいない時期には勘違いされて嫌がらせを受け続けていたから慣れている。ただ嫌がらせに離れていても悪意を受けるのはストレスになる。

怜太は、二股する彼女にも優しい自分を演じるために真琴と一緒に帰ろうとする。真琴を待つ怜太は そこで真琴の下駄箱に嫌がらせをする女生徒を発見し、真琴の現状を初めて知ることになる。そこから怜太は、学校の各所に残る真琴に対する悪意を消して回る。そんな怜太の姿を真琴は発見し、怜太の優しさを改めて知り感謝する。

その日「結構 かわいくなった」と怜太に言われたことから、真琴は怜太を少し意識し始める。もしかして真琴、怜太が素直な言葉で話せば、割とチョロいのではないか、と思う場面である。もしかして恋愛の絡んだ「好き」とか「付き合おう」とかよりも、真琴のパーソナル部分を褒め、彼女の自尊心を満たす方が近道なのかもしれない。

余談だが、真琴の親友・樹里の彼氏・大野(おおの)は一度も姿を見せない方が それが作品内の謎となって読者が楽しめたと思う。『2巻』で中途半端に外見が描かれているのが残念でならない。


太を意識し始めた真琴は彼を避ける。だが怜太も素直になれない。怜太の「俺様」が発動するのは、彼が照れている時でもあり、それが余計に真琴の心証を悪くする。

そんな素直になれない2人をハプニングが襲う。

お風呂の故障から、夕食時に真琴の家に集まり、一緒に食すことになった2家族(怜太の父親以外)。当然 お風呂も借りるのだが、そこには真琴が入っていた、という少女漫画ならでは展開となる。それにしても怜太の裸は、近年 まれにみる全裸で驚いた。まるでダビデ像で、凄いことになっているので是非 確かめてみてほしい。

その後の展開も異質で、全裸のまま逃亡した怜太は、全裸のまま母から鉄拳制裁を受けノックアウトする。こんなにも全裸を見られるヒーローも珍しい。

しかし このハプニングで緊迫感が薄れ、真琴と普通に話せるようになったが、怜太は肝心の言葉は言えないまま。せっかく前の回で真琴をドキッとさせられたのに、怜太は自分のせいで一進一退を繰り返すことになる。

ちなみに この回の、真琴の妹・幸子(こうこ)の話の意味はあるのだろうか。まるで幸子も怜太に並々ならぬ感情を抱いているように見えたのは私だけではあるまい。怜太は幸子にとっても幼なじみで、本当の兄のようである、ということを描いているのだろうが、幸子の挿話自体が本編に全く関係なく見える。


イトを始めた真琴だったが、祐介が店で有名なクレーマーに上手に対処したことから彼もバイトにスカウトされる。怜太の恋心を見抜いていたから安全圏にいたはずの祐介が当て馬一直線である。

真琴も祐介から女性扱いされることで、女性としての自覚が出てくる。そして祐介の優れた人格を知ると、偽装交際している自分が恥ずかしくなり、つい真実を話してしまう。
これは祐介からすると、実は私 フリーなんだ、とわざわざ伝達したことになり、それは つまり好きになってもOKというサインに取れる。以前も怜太との喧嘩のダシに祐介を好きになるとか言ってたし、真琴は祐介に対して変なサインを出しまくりである。それを祐介が笑える状態ならいいのだが、彼の恋愛スイッチを入れてしまいかねない。

偽装交際を知る人が また1人増える。でも もはや偽装交際の描写も、偽装交際の意味も行方不明だが…。

学旅行が始まる。
樹里は真琴が怜太を避けていると真琴の急所を突くが、認めたくない真琴は、ここでも樹里の口車に乗って怜太の恋心を問うことになってしまう。頑固な真琴を動かすためには、外的要因が必要なのだろうけど、真琴が操られている印象ばかりが強くなる。

ようやく怜太と対面して話をして、真琴は怜太に「好きだ」と言われ彼の気持ちが本気であることを悟る。

怜太から本気で告白されて、真琴は困惑する。1つは自分を散々に言ってきた続けてきた怜太の急な転換が信じられない。そして もう1つは、恋愛を持ち込むことは破滅が待っているという真琴の信念があるから。

だから真琴は取り合おうとしない。結局、真琴の態度は同じ。これまでの経緯から怜太にも多少は原因はあるが、真琴が自分が信じたい世界に閉じこもろうとするだけ。


学旅行の夜といえば、男子部屋の訪問と先生の見回りによる、布団への緊急避難。そこで真琴は怜太の布団に入ったと思い、これまでで一番 落ちついて率直な気持ちを話す。それが真琴の怜太の告白に対する答えだった。

だが その相手は怜太ではなかったことを真琴は知らないから、真琴は自分が気持ちを話したのに、怜太は何のリアクションも示さないから不満が募る。

そんな真琴の様子を見た祐介は、昨夜 一緒に布団に入っていたのは自分だと告げ、真琴の誤解を訂正する。祐介のお陰で心の整理がつき、真琴は もう一度怜太に向き合うことにする。

一方、怜太も祐介に負けていると思っているので、真琴に近づく祐介を非常に警戒する。少しは状況が違うが、『1巻』のラストと同じような場面で終わる。『2巻』では男性のライバル関係の強化だけがされた気がする。それだけしか進んでいない気がする。

この修学旅行で怜太は捨て猫を発見し、自宅まで連れて行く。この猫に何か意味があったり、重要な役割を果たすとかなら良かったのだが、特に そんなこともなく怜太の奇行、で終わっている。幸子の話と同じく、意味がありそうでない、唐突なだけの話に思えてならない。