《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

愛おしさや感謝を形にしたプレゼントを渡した時の喜色満面の表情に また愛おしさが募っていく。

ハニー 5 (マーガレットコミックスDIGITAL)
目黒 あむ(めぐろ あむ)
ハニー
第05巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

矢代さんの彼氏問題も一段落して奈緒たちはますますラブラブ。そんな中、クリスマスが近づいてきます。以前から初デートの約束をしていた2人は、クリスマスを2人で過ごすことにするのですが次から次へとトラブル発生! そして当日の夜には…!?

簡潔完結感想文

  • 冬は恋の季節。クリスマス回にバレンタイン回、それだけで漫画のネタになる。
  • 彼の家族にも会い、双方の親族に挨拶済み。これでまた結婚に一歩 近づいた。
  • 照れる、笑うのリアクションに限界を感じる。甘いだけの お菓子は飽きが早い。

しずつ排他的な雰囲気を感じ始める 5巻。

基本的には本書のことが好きだけれど、甘すぎて胃もたれしそうな話が続くので、今回は辛口感想文で味変してみる。

この辺から いよいよ「姫漫画」感が出てきたように思う。多くの男性キャラがヒロインの奈緒(なお)というお姫さまを大事にして、彼女のために動く感じが出てしまっている。実際、『5巻』の中でも「奈緒ちゃんみたいに ふわっふわしてて男に守ってもらわなきゃ生きていけませーん …みたいな女の子って好きじゃないんだよね」という台詞が出ているのは、作者も その辺りのことを気にしてのことか(この発言は後に撤回されるが)。お姫様である奈緒の周囲には王子である大雅(たいが)がいて、その周囲を奈緒の叔父の宗介(そうすけ)や、奈緒に告白した二見(ふたみ)が囲む。大雅はともかく、宗介も叔父以上の感情を奈緒に抱いている節があったり、一度はフラれた二見も まだまだ奈緒を好きという気持ちを持っているように見える(好きだからこそ排除されない)。

大雅・宗介・二見・三咲とタイプの違うイケメンに囲まれる乙女ゲームのヒロインみたいになった奈緒を一喝!

そして どこまでも美男美女しか存在が許されない雰囲気が出てきた。フワフワした雰囲気のメルヘン漫画だが、その裏で強烈なルッキズムが発動している気がしてならない。目つきの悪い大雅は一般的には美男ではないのだろうが、スタイルは良い。そして分かりやすくビジュアルを強化するために宗介・二見、そして三咲(みさき)がいる。また今回から登場した大雅の母親も美女であった。しかも若い。作者の画力の問題もあるだろうが、作風的に「おばさん」は排除され、美女は許容されているような気がする。

甘い夢を見させてくれる作品だが、一度 夢から覚めると、その世界観の裏にある容姿による選民思想や、いつまでも幸せに暮らしましたとさ、という変わらなすぎる「好き」に飽きるという面がある。
そして一度 批判的に作品を見ると、主な友人たち4人中3人が家庭内に何かが欠けている、というのも私たちは可哀想なの、という読者の憐憫を呼び起こすような周到な設定に見えてしまう。

可愛い恋愛描写だと思うが、いつまでも低年齢向けの「りぼん」のような描写で「別冊マーガレット」読者が望むような恋愛・心理描写にならないのが長編化をして殻を破れなかったところのように思う。デートの約束やキス、渡せていないプレゼントなど、高校生の彼らが2か月ぐらい平気で棚上げしているのも気になる。毎日のように会える環境なのに、間が空いてしまうのは、話が進むのが学校イベントや季節のイベントの ある時だけだから。クリスマス回の次はバレンタイン回で、その間の2か月の事は語られず、会ってもいない気配すら漂う。季節のイベントを使わないと話を作れないのかと心配になる。少女漫画では季節の風物詩を取り入れるのが主流だが、もう少し 本当の日常回を作ってほしかった。


12月に入り、定期テストも無事終わり、2人はデートを考える。ここも9月の体育祭以降、彼らは何をしていたのか気になる所。そして本書は12月に雪が降る地域の話なのか。モデルになった場所はどこなのだろうか。

クリスマスが近いということもあり、2人は その日をデートに設定するが、それを聞いた矢代(やしろ)たちに その日はパーティーを開くと宣言されてしまう。そこに奈緒に体育祭で告白してきた二見(ふたみ)も参加する。奈緒は二見との距離に悩むが、二見は自然に接してくれることで救われる。二見が自然にできるのは、2か月以上の時間経過があるからだと考えられる。

気の置けない仲間と過ごす時間は大雅にとって心の底から楽しい時間となった。二見は料理の手伝いに続いて、気を利かせて矢代たちを ほど良い時間に帰らそうとする働きを見せる。

こうして2人きりになれなくて残念だったはずのクリスマスが、急に2人きりになって緊張しすぎる事態を生む。


こへ大雅の母が帰宅する。奈緒は初めて挨拶をする。これで両家の親族に挨拶をしたので少女漫画的には婚約が成立しましたね。

和やかに初対面は始まったが、お酒が全くダメな大雅が洋酒入りのチョコを食べて退場する。そして女性同士の話になった途端、大雅の母の態度が急変。意地悪な姑のように、息子をたぶらかす女として奈緒を扱い、しまいには別れて欲しいと訴える。

が、母親の剣幕に負けないよう奈緒も必死に抵抗する。大雅がすごく好きなので、たとえ彼の母親に嫌われても、それだけは絶対に出来ないと拒絶する。そして自分が母に好きになってもらえるよう努力する、という。
これは交際をするにあたって、大雅が宗介に誓ったことと近いものがあります(『2巻』)。自分勝手かもしれないけど、幸せにできるよう、家族に認めてもらうよう頑張る、そういう根本の姿勢が この2人は似ている。


奈緒の言葉を聞いて、母は これがドッキリだと告白する。一芝居うって、奈緒の本質の強さを見ようとしたのだ。こうして奈緒を息子の彼女として認め、大雅の子供の頃の写真を奈緒に見せる。それを眺める奈緒の幸福そうな表情を見て、母は奈緒が本当に息子のことが好きなのだと実感する。その瞬間に浮かべる表情が 全てを物語るのが本書の特徴で、顔は何よりも能弁である。

話し込んで夜遅くになってしまい、大雅は撃沈、大雅の母は再び仕事に行くため奈緒はこの家での宿泊を勧められる。クリスマス回がお泊り回になる。

寝ぼけた大雅に布団に押し倒されるなどのハプニングがありつつ、夜は更けていく。ただ奈緒は保護者である宗介に連絡をしないまま朝を迎えてしまった…。


断外泊をしてしまい気まずい思いをして帰る奈緒。だが宗介は謝罪をしても苛立っていた。そんな家庭内の様子を聞いた大雅は、翌日、彼に謝りに行く。
だが宗介は大雅にとっても嫌味ったらしい態度を取る。奈緒は自分たちが悪いと分かっていても、大雅に対して失礼な態度を取る宗介に怒りを禁じえない。なぜなら宗介は奈緒のために止めたはずのタバコを吸い、そして奈緒が家に帰っても「お帰り」と出迎えてくれなかった。それが宗介の異変を物語っているのに、自分の感情を認めない宗介に奈緒は怒ったのだ。

そして家出をし、再び大雅の家にお世話になる。奈緒は宗介への態度を後悔しつつも、大雅に家にいる。携帯を置いたままの奈緒に代わって、大雅が宗介にフォローの電話を入れる。この件に対して大雅は両者の橋渡しをするように努め、宗介の心情にも気を遣う。

その会話の中で宗介は大雅には自己分析を伝える。宗介は、奈緒が大雅の家に泊まった上、宗介に連絡することが頭の片隅にも無かった事がショックだった。2人で暮らすようになってから初めてクリスマスを、叔父と姪で過ごさなかった空虚感が宗介に生まれていたのだ。

1人で抱え込んでしまう大雅と宗介は、相手を相談役とすることで自分の内面と向き合っていく。

ちなみに この日も奈緒は大雅の家に宿泊するが、奈緒が寝るのはソファでも母の部屋でもなく大雅の部屋。ここは奈緒に固辞する場面が欲しかった。とんでもないアバズレ娘じゃないか。せめて大雅の母が強引に進めるとか、同室になる理由を作るべきだったのでは。キスもまともにしたことのない2人が同じ部屋で寝ることを受け入れる、というのが やや不自然である。


言でも翌朝の買い物でも宗介のことを考えている奈緒を見かねて、大雅は奈緒を実家に強制送還する。そこで2人で話し合いをするように勧める大雅。この3人は特に、どこかの関係に綻(ほころ)びや問題が生じたときに、誰かが相談役になる、という役割分担が良いですね。大雅が奈緒との関係に悩んでいたら宗介が助言するし、今回は大雅が交渉役を買って出ている。

こうして自分の言いたいこと、思っていることを包み隠さず言う事で2人は仲直りする。この思っていることは全て吐き出し共有する、というのが家族であっても恋人であっても、本書に共通する解決策と言える。


ベントのリレーが続くので次は約2か月後のバレンタイン回となる。奈緒は矢代と一緒にチョコを作っている際、矢代から自分からキスをしてみては、と けしかけられ、意識してしまい大雅に会うドキドキが倍増する。

その矢代は三咲(みさき)にチョコを渡す際、彼がクラスの女子からいっぱいチョコを貰っていることを知って不機嫌になる。背を向けて帰ろうとする矢代を三咲が追い、矢代がチョコを渡すと彼は赤面しながら喜ぶ。その赤い笑顔に矢代はキュンとしてしまうのであった。本書における笑顔は誰もが恋をする無敵の表情なのだ。
ちなみに矢代は誰かにチョコをあげるのは初めて。元カレ・郁巳はバレンタインデーに興味がなかった。わざわざ自分の「はじめて」を告げながら渡す辺り、矢代は小悪魔なような気がしてならない。


緒は大雅から教室に呼び出され、緊張していた。だが先に大雅の方から紙袋を渡される。それは「逆チョコ」と渡せなかったクリスマスプレゼントだという。本当に、この2か月 君たちは1回も会ってないというのか…? 一体 作者は どういう交際の仕方を想定しているのか。

そして奈緒からもチョコとプレゼントを渡す。大雅は自分がチョコを貰えるとは思ってなかったようで感涙する。その彼の表情を見たら、奈緒は自然と彼に口を近づけていた。だが背の高さの違いから口まで届かず、顎キスになっていまった。更には邪魔が入りキスは未遂で終わる。季節のイベントと恋愛イベントをフル活用して、どうにか話を継続させようとする必死さが見えてしまい、それが作風と合わない。