《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

偶数巻でも三神家の新キャラは登場せず。その代わり ヒロインが三神家の人間になります!

三神先生の愛し方(8) (別冊フレンドコミックス)
相川 ヒロ(あいかわ ヒロ)
三神先生の愛し方(みかみせんせいのあいしかた)
第08巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

三神先生の勢いまかせのプロポーズに怒ったなつめは思わず「エッチだってまだだし!」と言っちゃって!? なんと2人は、別荘にお泊まり旅行へ行くことに…!! ついに、ついに、そのトキが…!? 溺愛ハッピーエンディングを見届けて☆ 最愛の完結巻!

簡潔完結感想文

  • 1話と最終話を比べてヒロインの精神年齢や言動が何も変わっていないことに唖然とする。
  • 下げて上げる胸キュン展開を用意するのが「別フレ」。それ以上でも それ以下でもない。
  • 自分のことを好きな、そして自分が振った男を最後までキープする聖母という名のビッチ。

末年始も親は お仕事で不在という闇…、の 最終8巻。

今回、笑ったのはヒーロー・惣介(そうすけ)の「子供部屋おじさん説」の全力否定。当初は養護教諭だった彼は、溺愛する なつめ と一緒にいるために終盤で高校生になった。それは これまでは収入があった彼が事実上の無職になったということを意味する。
こうして親のすねを かじって実家に居座り、親の家と金で暮らしているのかと思いきや、どうやら彼には資産があることが最終巻で発覚する。その一つが今回 滞在する別荘。どうやら学生時代に起業して「お小遣い」を稼いで買ったらしい。スケールの大きいエピソードだが惣介が格好いいとは感じられず、むしろ どうにか惣介のメンツを保とうとする作者の必死さが伝わってくるばかりだ。26歳の男子高校生が親の別荘に彼女を連れていくのは少々格好悪いから、別荘そのものを どーんと用意したのだろう…。

実家ではなく、自分で建てた別荘で初めての夜を迎えさせたかったか。脱・子供部屋おじさん宣言。

しかし考えてみると惣介は高校生≒無収入のままプロポーズしている。これは格好がつかない。このエンディングにするのなら惣介を高校生にするのは やはり悪手だったのではないか。読み終えて思うのは、はよ働け、だろうか。


終巻なので性行為への発展、そして結婚の約束など、2人の関係性を勧めるエピソードが盛りだくさん。ただしヒロイン・なつめ は幼稚性は相変わらず。最後まで自分の思い通りにならないことにキレて、そのせいで惣介と距離が生まれたら心配になって自分を反省するという『1巻』から同じことの繰り返しで終わった。

そして『7巻』で当て馬・白瀬(しろせ)からの想定外の好意に戸惑い、自分の脇の甘さを思い知った なつめ ですが、結局、白瀬もずっとずっと なつめ を想い続けるというヒロインに都合の良い友達エンドで終わる。

最後のターンなんだから、なつめ が白瀬とは一線を引き、もう同じ失敗は繰り返さないという成長を見せて欲しかった。これでは また同じ失敗をし、同じように惣介にフォローされる日々が続くだけである。急遽、連載化した前半は同じことの繰り返しでも仕方がないが、せめて物語を閉じることが決まった最終盤は、なつめ の成長を感じられるようなエピソードを用意して欲しかった。『1巻』と最終『8巻』に何の違いも見いだせないのが、長編を読んできた者としては残念だった。

作中で唯一、惣介との仲を引き裂こうとした惣介父とも簡単に和解し、この愚行を弱みとして なつめ は三神(みかみ)家の女王として君臨することが約束されるのだろう。


後まで謎なのは なつめ の両親の不在と、三神家の母親の不在。最後に収録されている「番外編」は大晦日の話なのだが、そんな日でも なつめ の両親は物語に出てこない。まさか仕事だとでもいうのだろうか(仕事の人もいるだろうが)。例外的に『1巻』で1コマだけ なつめ の母らしき人の姿が認められるが、それ以外は なつめ の両親は仕事を理由にして家を365日 空けている。こんなことなら最初から この世にいない設定の方が作者も楽だっただろう。中途半端に いるけど いない、という状況が違和感を増幅する。

もしかしたら本当は なつめ の両親は彼女が幼い頃に他界していて、なつめ は それを認められないから、6歳児のような思考回路しか持てないのではないか。三神家の三兄弟(宗一(しゅういち)・惣介・響(きょう))が彼女に心底 優しいのは不幸な境遇の彼女と、彼女が信じたい両親が生きている世界を守りたい と思っているから、と考えた方が、彼らの根拠のない溺愛よりも納得が出来る。

これまで偶数巻の『2巻』では響が、『4巻』では宗一が、『6巻』では惣介父が登場したので、この『8巻』では惣介の母親が登場するのではと期待したが、結局、本書における女性という存在は なつめ だけだった。もしかして惣介父が なつめ以外の女性を愛しているという夫婦愛すらも描きたくないから、惣介母の存在も抹消されているのだろうか。

溺愛の「ノイズ」として扱われて、娘と接触することも出来ない親御さんたちの気持ちを思うと泣けてくる。親の監視がないから交際前後から惣介と同棲生活のような状況となり、そして今回は3泊も4泊も男を はべらして遊んでいられる。
「ノイズ」がないからこそ、どこを読んでも嫌な気持ちにならないが、それ故に どこを読んでも同じ展開しか生まれない。少女漫画は両想いへの道筋こそ生命線だと思っている私とは決して相いれない風潮が続くのは嫌だ。

これまでの「偶数巻の法則」を破った形になったが、この最終『8巻』でも三神家に新しい家族が登場したと言えよう。それが なつめ である。三神の新しい一員として なつめ は男性5人に囲まれて いつまでも幸せに暮らすのだろう。最後までヒロインが姫ポジションの旧態依然の童話であった。


29話。『7巻』でのプロポーズがムードが無かったと へそを曲げる なつめ。そして結婚の前には まず性行為の達成だろうという話が2人に持ち上がる。そこで惣介は週末に3泊の別荘に行くことにする。上述の通り、別荘は惣介の所有物であり、なつめ には親がいない状態だから彼氏と何連泊しても誰にも咎められない。

だが なつめ は惣介に「好き」という言葉を上手く言えないまま夜になり、同じベッドで2人で眠る。惣介は すぐに身体を求めたりしないが、反対の方向を向いていたはずの2人の目が合えば、ストッパーは外れてしまう…。


30話で いよいよ性行為達成かと思われたが今回も未遂に終わる。惣介は理性を失いかけた自分を恥じ、彼の理性を保つ旅へと目的が変容する。ガマンをする彼の姿に、なつめ は自分が惣介を怖がっていないことを証明するため、彼女の方から惣介を求めることにするが…。嘘だろ!? と思うほどに中身のない1話である。


31話(最終回)。なつめ から誘惑したが、惣介から突き放されてしまう。おそらく彼には なつめ の無理が手に取るように分かるから彼女の尊厳を汚さないためにも拒絶したのだろう。

だが なつめ は落ち込む。それから惣介は別荘から出て、戻って来ては また出掛ける。寒さの厳しい別荘地でのクリスマスを前に彼は体調も悪そうなのだが、まるで なつめ と同じ空間に いたくないような感じで家を空ける。

そんな惣介の態度に、自分の恥を上塗りされた気持ちになった なつめ が逆ギレ。最後まで幼稚な精神性でゲンナリする。こうして惣介と離れ離れになって初めて彼の大切さに気付く(何回目の描写だよ)。

最後の最後まで沸点の低いヒロイン。溺愛作品だけど同時に男尊女卑だと私は思うのだが…。

なつめ が惣介に会おうと駆け出すと彼の方が なつめ を見つける。そして なつめ は惣介が別荘から外出していた訳を知る。それは近くの教会を貸し切って、何百本のロウソクで灯りを灯す準備をしていた。
惣介が風邪を押し切ってまで それを完遂したのは、この場所で愛を誓いたかったからだった。こうして改めて、なつめ が憧れるようなシチュエーションで惣介はプロポーズをする。彼の自分への絶対的な愛を知った なつめ はプロポーズを快諾し、そして その夜、2人は結ばれる。

翌朝、なつめ は自分の心配をして駆けつけた響・宗一・白瀬の3人の到着の音で目が覚める。結局、この当て馬3人は なつめ を溺愛したままで、惣介との愛を誓っても なつめ は この3人との幼なじみ・友人関係を続ける。響と宗一はともかく、白瀬は告白されているんだし、距離を取るべきだと思うのだが、と最後まで納得できない展開である。


番外編
晦日に いつもの女1男4のメンバーで家を大掃除する一同。途中で顔を出した惣介の父親が差し入れた お酒を男性メンバー全員が飲んで、変化する様子を楽しめる。

酔って気の大きくなった惣介は皆に隠れてキッチンで情事を致そうとする大人の映像っぽいシチュエーション。少女漫画の胸キュンと大人の映像の それの発想の根幹は似ている。だが皆に発見され、未遂に終わる。そして次の1年も逆ハーレムは続くのであった…。