目黒 あむ（めぐろ あむ）
ハニー
第03巻評価：★★★☆（7点）
総合評価：★★★☆（7点）
ついに両想いになった奈緒と鬼瀬くんですが、夏休みは会う時間がなく2学期に突入。以前より極悪顔のせいでクラスから孤立していた鬼瀬くんですが、そんな彼に興味を持つ1人の男子が…。彼の名前は二見彩葉。明るい人気者の彼と鬼瀬くんはすぐに仲良しに。その様子にちょっと複雑な奈緒ですが…。
簡潔完結感想文
- 自分が交際相手に望む理想の距離感に いつの間にかにいる二見を、それぞれに羨望する。
- 二見は当て馬ではなく、男ヒロインの親友 兼 ライバル。正々堂々 戦うことで後腐れなし!?
- 自分以上の男性といた方が彼女が幸せになれる と考えてしまうが、それでも一緒にいたい。
少女漫画の3巻は三角関係の始まり、を採用するのは早計だったのでは？の 3巻。
おそらく2巻で終わるはずだった連載が継続することが決定してから誕生した新キャラ・二見（ふたみ）。作者は連載の継続のために全エネルギーを投入し、読者の興味を引く展開を用意したのだろう。それが「三角関係」である。
といっても、奈緒（なお）と大雅（たいが）は交際したばかりで、しかも あれだけ劇的な告白をした直後であるから、二見が入り込む余地など どこにもない。結果論にはなるが、全8巻の長さになるならば、二見の三角関係参戦は もっと後でも良かったかもしれない。奈緒がモテモテになって読者の承認欲求を満たすような作品じゃないから、この後に何度もヒロインを好きになる男性は出せない。たった1回きりのチャンスを前半に使ってしまったのは惜しい気がする（前半で人気を獲得・維持したから全8巻まで継続したというのが正しい認識なのだけど）。
ここは交際における独占欲と、当て馬の出現は分けても良かったのではないか。常に人気を獲得しなければならない過酷な雑誌連載では、動きのある派手な展開が求められるし、新人作家さんほど作品を終わらせたくない、という気持ちが強いのだろうと推測する。しかし せっかく劇的な両想いが達成された直後に、イケメンを投入して当て馬になるのは情緒が失われてしまう。作家生命がかかっているとはいえ、少し行き急いだ展開なのが残念。この辺は本書の持つ柔らかさとスピード感がマッチしていないし。
相手の呼び方が変わるまでを、二見を使って描いて、その後で、二見（または別の男キャラ）が当て馬として作品の中盤、または終盤を支えるという形式でも良かった。ヒーローの人気を食うほどの当て馬というジョーカーを切るタイミングが早すぎたような気がする。もうちょっと作品やキャラクタたちの読者の熱い支持を信じられたら、作風である ゆったり感ともマッチしたのではないか。
やはり面白いのは、大雅はヒーローでありヒロインだということ。大雅の二見に対する対応は、ヒロインのそれであった。よって二見は当て馬ではなく、男ヒロインにとっての同性ライバルと言ったほうが的確かもしれない。二見は友達と同じ人を好きになってしまったが、正々堂々と戦うことで、その役割を終えても物語に残れるようになっている。恋愛では敗者になったが、男ヒロインの大雅の友達ポジションの役割があるため、作品から排除されない。この辺はライバルと当て馬を上手く使い分けている。女性同士のライバルの場合、ヒロインを絶対に不安にさせないためにフェイドアウトや謎の転校で物語の外に放出されるが、当て馬は いつまでもヒロイン＝読者をモテモテ気分にさせるために作品内に残留できるというのが少女漫画の男女不平等のシステムなのだ。
大雅にとって二見は、人気も容姿も優れていて勝ち目がない相手。でも そんな人がライバルであっても、自分の恋心を貫くところにヒロインらしさが見られる。三角関係に悩み泣いちゃうところなど、ヒロイン全開である。
そう考えると本書は奈緒と大雅のＷヒロイン体制と言ってもいいかもしれない。カップル2人とも恋に一生懸命だから、読者の感動も倍になる。そしてイケメン・二見を恋に参戦させることによって、彼が奈緒を好きになることで読者は承認欲求を満たすことが出来る上に、大雅が男ヒロインとして彼の猛攻に負けない健気さを見せることで読者は一層 この三角関係の結末が気になるという お得なシステムになっている。
そう考えると『3巻』からフルスロットルで本気を出したのは間違えではないかったような気もしてくる。
交際開始から早くも2か月が経過する。交際後に大雅と仲良くなった二見は、大雅のことを呼び捨てに出来るのに、自分は鬼瀬くんと名字で呼んでいることが奈緒の最大の悩み、という非常に平和な状態である。
ある日、二見と遭遇した奈緒は 二見に対するモヤモヤを間接的に彼に相談する。その問いに 二見は誠実に答え、やきもち を焼くのも分かると理解を示す。これまでも奈緒と接点を持っていた二見だが、彼女が大雅の彼女だということを遅れて知った。奈緒との会話を重ねるごとに、二見には その現実がモヤモヤ・苛立ちに変わっていく。やはり このイケメン、ただの友人の枠には収まらなそうである。
交際2か月目の記念の花2本を大雅から贈られ、彼の真心を受け取った奈緒は、自分の二見への やきもち を正直に話す。自分の汚いトコも見せて、彼らの距離は一層 縮まる。その安心感で奈緒は、ずっと大雅のことを呼びたかった「大ちゃん」という名前で自然に呼んでいた。今回の奈緒は、自分の思っていることが思わず溢れ出てしまっている所が可愛すぎる。
だが、そこに ちょうど通りかかった二見が、2人を見つけ、奈緒を「奈緒ちゃん」と呼ぶ。そのことに今度は大雅がモヤモヤする版となる。学校で孤立しがちな自分を親しくしてくれる二見に対する黒い感情。奈緒と同様に男ヒロインの大雅は その自分の感情に悩まされる。しかも大雅は どんな感情も自分の中に仕舞ってしまうような部分があるから、この感情を誰かに話すのは奈緒よりも難しいかもしれない。
二見との関係に恋愛が持ち込まれようとしている中、学校イベント・体育祭が目前に迫る。
奈緒は男性たちの内面が よく分かっている。大雅が二見に対するモヤモヤした感情を抱いて以降、彼の様子が少し変だと勘付いているし、二見に対しても彼のストレスを見抜く。こうやって自分の隠していることを見抜いてくれる、癒してくれる存在に男性が惹かれていくのは納得。特に二見のような人気者の、誰にも気づかれない心の悩みを見抜くことは、それだけで彼にとって奈緒が特別になるだろう。
奈緒に内面を見抜かれ、二見は人気者を演じる疲れを正直に話す。奈緒は、そんな彼の働きを認め、その上で二見はいい人だと笑顔で認定する。奈緒の笑顔は無敵だから、二見はいよいよ彼女に惹かれていく。
そこからの二見は積極的に奈緒と接点を持とうとする。体育祭の練習で負傷した奈緒を いの一番に保健室に運んだのは二見だった。身体の反応が遅れた大雅は、遅れて保健室に近づく。
だが、その保健室では二見が奈緒に対し「奪ってでも手に入れたいって思ってる」と奪略宣言をしていた。急展開に混乱する奈緒だったが、二見は冗談に切り替え、その場を立ち去る。この時の二見の心の動きは後に彼の口から語られる。
保健室を後にした二見は練習場所に大雅がいないことから、保健室での話が聞かれた、と推察する。そして大雅に対しては自分の気持ちを冗談にせず、本気で宣戦布告をする。
二見という存在のせいで、なんとなく気まずい関係になってしまう2人。そんな彼らの様子を見た奈緒の叔父・宗介（そうすけ）は大雅を夕食に誘う。それとなく大雅と2人きりになり相談に乗る。
大雅は、学校のカーストの上にいて、恩人でもある二見が奈緒を好きになったことが、混乱を深める。自分より何もかも勝っているような人の方が、奈緒を幸せに出来るのではないか、そういう奈緒のため、という考えが浮かぶ。だが、奈緒が幸せになっても、自分の一緒に居たいという願いは叶わない。そのことに涙する大雅。さすが男ヒロインである。こんなにもストレートに泣いてくれることを奈緒が知ったら愛おしさが止まらないだろう。大雅の涙を知るのは私たち読者の特権である。
自分の願いを再確認した大雅は、二見と2人だけで話す機会を設ける。呼び出すための「果たし状」というタイトルと、その内容のギャップに笑う。大雅は 可愛いグッズが大好きな乙男（オトメン）でもあるの⁉
呼び出しては みたが、大雅は「俺から言うことは何もない」と現状維持を申し出る。二見に対し奈緒に近づくな とは思うものの、それでも やっぱり二見のことも好きで、どちらかしか選べないという選択肢ではないというのが大雅の結論。恋も友情も大事なんて、やっぱりヒロインっぽい。
その大雅の公明正大な意見を聞いて、二見は大雅が知らない事実を話す。大雅は それを聞く前に立ち去ってしまったが、保健室で奈緒を奪うと言った後、二見は すぐに冗談にしたこと。なぜなら奈緒の眼には大雅しか映っていないと感じたから。二見はフラれるのが怖くなって、すぐに撤退した。人として大雅は二見に勝ち目がないと思うかもしれないが、この2人の関係に立ち入る隙など二見にはないのである。
更に二見は体育祭当日、大雅と話す奈緒の笑顔を見て、大雅にしか向けれられない愛情を含んだ笑顔であることを自覚する。
自分に自信を持ちたいこともあって、大雅は自分の出場する種目で1位を取れたら、奈緒とのデートを望む。だが、奈緒はデートに条件なんて必要ない、と優しく微笑む。こういう奈緒の柔らかい対応力は本当に素敵だ。作品として菜緒の容姿は可愛く描かれているが、例え本当に冴えない容姿をしていても奈緒はモテるであろう。
だが競技に参加する大雅のいない隙に、二見は奈緒に近づく。再度、保健室の一件を冗談にする二見に奈緒は安堵するが、安心する彼女の顔を見て二見は また奈緒のことを最初に見つけられなかったことを後悔し、彼女に身体を寄せる…。
「ハニー ～はじめてのおつかい～」…
7歳の奈緒が1人で おつかいに行きたいと言い出す。宗介はテレビ番組よろしくバレないように尾行するが…。
少女漫画あるある。実は主役カップルは子供の頃に会ってたというエピソード作りがち。
奈緒がおつかいをしたいと言い出した理由が良い。そして おまけ漫画として描き下ろされている空想の幼稚園なども含め作者の描く子供は可愛すぎる。時計野はり さん『学園ベビーシッターズ』みたいに子供たちが活躍する話も読んでみたいかも。まぁ今やっても『学園～』の二番煎じと言われてしまうだろうけど。
