《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒーロー側の家庭問題は少女漫画のクライマックス。ここで終わっとけば いいものを…。

三神先生の愛し方(6) (別冊フレンドコミックス)
相川 ヒロ(あいかわ ヒロ)
三神先生の愛し方(みかみせんせいのあいしかた)
第06巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

女子高生なつめと三神先生はひみつのカレカノ。なつめをとりまく溺愛イケメンズ、三神先生・響くん・いっちゃん・白くんの4人だけでもタイヘンなことになっちゃってるのに、さらに5人目の男が現れて…!?

簡潔完結感想文

  • 本書では珍しく1話完結型ではなく、1巻4話で1つの話になっていて楽しめる。
  • 長らく離れ離れになることで三角関係を再構成、惣介の存在価値を再評価している。
  • 惣介の最後の行動は初見だったら笑えたが『1巻』のアイデアの再利用に過ぎない。

数巻では親族追加が本書の お約束、の 6巻。

『2巻』ではヒーロー・惣介(そうすけ)の弟・響(きょう)が、『4巻』では その兄・宗一(しゅういち)が登場し、そして この『6巻』では惣介たち三兄弟の父親が登場することになった。次の親族誕生は『8巻』かな?

この『6巻』は本書には珍しく1話完結型ではなく、『6巻』全体で1つの話である。惣介の父親によって2人の交際に変化が訪れ、父の計画に対して2人が どういう答えを出すのか、という過程が描かれる。

年齢差や知性に差があるカップルだと、恋心の誘導≒グルーミング問題が起こりがち。

少女漫画においてはヒーロー側のトラウマや家庭の事情にヒロインが足を突っ込むのは、ラストエピソードとして使われることが多い。膠着状態となったヒーローの家庭の事情を、ヒロインという聖母が介入・干渉することによって動かすという展開が王道である。

だが本書では その お約束を2つ破る。1つは本書ではヒロイン・なつめ は何もしない。今回、父親は惣介の能力をフル活用するために、彼に自分が社長を務める会社で働いてもらおうと、2人の仲を引き裂こうとする。父は なつめ のことを溺愛してはいるものの、なつめ によって息子の将来を狂わされることを望んではいない。いわば本書における最初で最大の敵なのである。これはクライマックスに相応しく、なつめ が父親からの要求を撥ね退けるとか、自分が認めてもらうために努力するとかヒロイン側が動くターンである。
しかし溺愛漫画だからか、なつめ は ここでも何もしない。父親に対して絶対に別れません、という強い意志を示さずに、別れを内諾してしまう。その代わり、惣介に勝手に学校を辞めたり、2人の別れを決めないで、と自分の決意は棚に上げて、彼に行動を促す。これによって惣介が動き、事態は治まる。最後の最後まで何もしなかったヒロインである。

そして破られた2つ目の お約束は、ラスボス的存在の惣介の父親を黙らせても物語が続くことである。ここから一気に幸せになればいいものを、変な方向性で話が継続していく。

それが惣介の高校生化。なつめ に「普通」のスクールライフを満喫させるための惣介の奇抜なアイデアなのだが、本書では惣介が高校生になるというアイデア自体は『1巻』で やっている。初見なら面白かったと思えただろうが、再放送だから辟易する。しかも年齢差や社会的立場による問題は全く解決されておらず、そして何より題名と内容が本格的に乖離する。

この連載継続という決断をフォローするとすれば転校生・白瀬(しろせ)問題が片付いていないから、とも思えるが、その問題と惣介高校生計画とは 土俵が違うだろう。ただし白瀬問題は なつめ がヒロインとして頑張れるラストチャンスである。ここまで三神(みかみ)家の男性に無自覚に溺愛されている なつめ が、白瀬に しっかりと告白され、そして お断りすることで少しは成長できるはずである。白瀬の気持ちが勘違いだったとか自然消滅しないことを祈る。

それでなくても なつめ は両親の存在が完全に抹消され、惣介の母親という血の繋がらない身近な女性も生死不明のまま物語から排除されており、姫プレイ状態が悪目立ちしている。せめて最後ぐらい何か彼女の強さや長所を知れるエピソードを用意して欲しい。読者は完全に飽きている。


21話では惣介の父親が5年ぶりに帰国する。三男・響がアメリカの大学を卒業しているのは会社社長である父親の仕事についていったからなのだろう。

その父親にイチャイチャしている所を目撃され、2人の交際は最初からバレる。ただし響や宗一とは違い、惣介の父は最初から なつめ を溺愛モード。でも彼の場合は溺愛と、冷静な現実的思考のバランスが取れており、場合によっては なつめ の望まない未来を作ろうとする。

父親から結婚を考えているのかと問われ、惣介は肯定する。なつめ を溺愛する父親は、まるで なつめ の父親のように惣介が なつめ に ふさわしいか1週間の花婿修行をさせる。なつめ が努力するのではないのが本書らしい…。

評価は父親がするもので、なつめ を大事にしてるか、と節度を持てるかが基準となる。つまりは指一本 触れては いけないらしい。こうして3人による共同生活が始まる。要するに第三者の介入で離れ離れパターンである。この頃、惣介はスキンシップ過剰になってきていただけに、この我慢生活で心身のバランスを崩してしまう。

そんな彼を心配した なつめ は、ある日 父親の外出中に惣介の疲れを癒すために、彼に入浴を勧め、後から自分も浴室に入る。エロ手前のシーンを入れて読者サービスするが、いつものように暴力で中断する。メンタル崩壊寸前の人を無邪気に生殺しにする なつめ が一番 酷い。


22話。父親からの評価は結局 不合格。だが父親は復活の機会を与える。それが惣介が父親の仕事を手伝うというものだった。惣介は拒否するが、なつめ が自分たちの関係を認めてもらいたくて彼を送り出す。期間やクリア条件を確かめずに即決してしまうのがアホな所だ。

こうして再び離れ離れの生活となる。
作品的には惣介を別の場所に置くことで、彼の再評価を試みる。出先でヒーローが「あの人かっこよくない!?」と言われるのと同じである。会社の女性社員の口から惣介が至高の存在であることを言わせ、そして一般社会に出ることによって有能であることをアピールする。

惣介の変態の汚名返上のため、実社会での再評価を行い、彼の輝きを取り戻す。

そして父親と仕事に忙殺される惣介が高校にいないことで、白瀬が接近する機会となる。この生活は『1巻』1話の冒頭で なつめ が望んでいた普通の高校生ライフであろう。ただし なつめ は白瀬が自分と一緒にいるのは好意からだとは気づかないまま。それにしても『5巻』の話では、白瀬は売れっ子モデルで休みは半年前に1回きりだったはずなのに暇そうである。こういう設定の矛盾=作者の集中力の無さ は読んでいて悲しい。

しかも白瀬といる場面を 会社を抜け出した惣介が目撃し、しかも寂しくないという なつめ の強がりを聞いてしまう偶然が起きる。更に友達と放課後に遊び、男子生徒に手を引かれるという これまでは惣介が奪ってきた日常が なつめ に戻って来たのではないか、と惣介の父親は息子に囁く。全ての黒幕は父親である。

そして惣介は養護教諭を退職するという話が出る。それを聞いた なつめ は惣介に電話をするが、電話口には女性の淫らな声が聞こえてきた。そこに惣介の足を引っ張ろうとする響と宗一の悪魔の声も重なり、なつめ は落ち込むかと思いきや、本拠地に乗り込むことにする。
丁度なつめ の高校では職場体験の話が出ていて、なつめ はテレビCMも流しているという大企業の三神家の会社に決定する。


23話。なつめ は職場体験よりも惣介に直接 事の真相を問い質すのが最優先課題である。だが来て早々に女性社員からスキンシップを受ける惣介を目撃して、なつめ は彼を避ける。だが電話の一件も今回も父親による計画だった。

職業体験と言っても三神家の会社なので、響・宗一の心を なつめ が破壊していくという展開だけ。最近、この兄弟はページを埋めるためだけに登場している節がある。
そして最後に惣介のメンタル崩壊を心配した社員によって、なつめ が惣介と対面することになる。だが与えられた1時間を幼稚園児プレイに使ってしまい、学校の辞職の件は話せないままになる。それにしても惣介は『1巻』から なつめ を保育士さんとして甘えることを望んでいたが、よだれかけ を準備済みだったり本気で このプレイが好きなのだろうか…。

その後、なつめ は惣介が働いている場面を見て惚れ直す。だが社員に配ったコーヒーを溢してしまい大ブーイング。それを惣介ら男性側がフォローする。職場体験だし、敵地に乗り込んでいるから成長するかと思ったら、相変わらずの姫プレイである。

そうして自分と惣介の間に最初からあった年齢や能力の差を思い知った なつめ。そのタイミングで惣介の父親が現れ、息子と別れるように訴える。惣介の能力をフル活用できるのは実社会の中だと父親は息子の才能が発揮されることを望んでいた。そして なつめ に対して惣介を想うなら離れてくれ、と ややアンフェアな方向性から彼女の決断を促す。


24話。なつめ は父親から惣介が自主的に学校を辞めたことを確かめ、彼と離れようとする。父親は惣介が会社にいてくれれば それでいいし、なつめ が義理の娘になってくれるなら交際相手は響でも構わない。大事な人は手元に置きたい、という思考回路は似ている父子なのであろう。

惣介も なつめ に普通の幸せを選択できるように自分から身を引いた。そして そのために職も辞した。離れ離れになりそうになると惣介への執着を見せるのが なつめ というヒロインである。最後の最後に惣介に告白して、元通りになる道筋が完成する。

父親は息子に出世コースを用意するが、惣介は それを拒絶する。そして高校生になるという驚きの発言をして この騒動は終わる。

惣介が高校生を熱望するまでの話の流れもあるようで、ない。結局、年長の惣介が なつめ の人生を操作しているのは変わらないし。立場を同じにしたからと言ってグルーミング感が薄れる訳でもない。何一つ解決していないが、作品は この方向性で進む。

そして今回の黒幕というべき惣介の父親は(泥酔した)なつめ からの毒舌でノックアウトされる。わざわざ誤飲による泥酔しているのは なつめ に毒舌を吐かせるための準備と、彼女を悪く描かないためだろう。そうまでしてヒロインを守りたいのか。