《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

はじめて好きな人に渡すために 2時間 悩んだ/15時間 頑張った、花束を君に。

ハニー 2 (マーガレットコミックスDIGITAL)
目黒 あむ(めぐろ あむ)
ハニー
第02巻評価:★★★★☆(9点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

最初は怖かったけど、鬼瀬くんの素顔に触れていくうちに彼の優しさに惹かれていく奈緒。そしてその輪に、三咲くんと矢代さんも加わるようになりました! そんな中、育ての親・宗ちゃんへの「好き」は恋愛感情ではないと気づいた奈緒。そして、それは鬼瀬くんへの気持ちにも変化を及ぼして…。

簡潔完結感想文

  • 2人の男性への思慕を判断するのはキスが一番てっとり早いが、まさか大雅が⁉
  • 好きがあふれると人は衝動に突き動かされる。彼女からの話は絶縁か それとも…。
  • あの雨の日に逃げ出してしまった私が、今度は貴方から離れない約束をするから。

ての行動が男ヒロインのすることだと思えば愛しくなる 2巻。

やっぱり大雅(たいが)は男ヒロインだなぁ、と思わざるを得ない。想いが通じ合って泣いてしまうとことか、好きな人に会うときは綺麗でいたいとか(精神的に)、とてもヒロイン思考の男性である。

今回、大雅は寝ている奈緒(なお)にキスをしてしまう。それは彼らしからぬ行動で、無抵抗の女性を襲ったとも言える。本来、こういう一方的なキスは嫌いだが、男ヒロインの愛らしい行動と考えれば許せる。男女逆転だと考えれば許せる、と思うのは男女平等の精神からは間違っているのだろうか…。

ただ このキスが大雅の罪の意識になり、負い目となる。この失敗で奈緒に嫌われたのではないかと彼は考え、奈緒と友達でもいられない恐怖に怯える。大雅は自分の心の弱さや不安を表に出すような人ではないので、いつもと変わらない態度で奈緒に接しているが、内心は怯えていた。実際は、このキスが奈緒に「好き」を目覚めさせるスイッチとなったのだが、大雅は自制できない自分を反省する取り返しのつかない失敗だと思っている。この大雅の描写がもっとあれば良かったが、心理描写は正ヒロインの奈緒の方を重視しているので仕方がないか。

今回の見所は何と言っても告白シーンだろう。1話の場面を盛り込んだ素晴らしい告白シーンである。2人の出会いとなった雨の日と同じシチュエーションを使うことで、奈緒の心の持ち方が大きく変わったと思える場面となっている。彼女はもう大雅の前から逃げないし、彼の おひさまのような心も知っている。だから その後の高校での出会いのシーンと鏡写しのように、今度は彼女が胸に(クッキーの)花束を抱え、大雅に自分の気持ちを伝える。この場面、奈緒の側には一切 恐怖がない。むしろ大雅に近づきたいという気持ちが募っている。

このシーンは、室内にいる私の目にも雨が降ってきて困った。こんな感動的な告白シーンは滅多にない。

だが一方で、1話とは逆に大雅の方が奈緒の言葉に恐怖している。それは上述の通り彼にはキスの負い目があるから。嫌われたかもしれない、二度と話すことも出来ないかもしれないという恐怖に彼は怯えている。ちょうど奈緒が1話で殺されると思っているように、大雅は絶縁という絶望に殺されるかもしれないと思っているのだ。

それがあるからこそ、気持ちの反転が鮮やかになる。あの日、雨の中 言葉も交わさずに別れた2人が、今度は気持ちを重ね合わせ、雨が止み、空が晴れ渡るまで2人で一緒にいる。その対比と過程の鮮やかさが素晴らしい。もともとは全2巻の両想いになるまでの物語で、ここで終わった方が作品の評価は高いところで保持されただろう。この作品の続きを読みたいという読者や、それに応えた編集者の狙いも分かるけれど。

そして やっぱり読者は、大雅の一途な想いが通じて良かったね、と通常ならヒロインに抱くような温かな気持ちを大雅に抱くのであった。自分でも予期せぬ恋心に振り回されながら(キス)、唯一無二の恋心を成就させた男ヒロインの純粋な恋が読めて本当に幸せである。


緒は叔父・宗(そう)ちゃんへの気持ち、大雅への気持ちが分からない中で、クラスメイトの矢代(やしろ)に話を聞いてもらい、気持ちを軽くする。矢代の助言としてはキスで自分の心を判断できるというが…。

ここで起きるのが勉強回。気になるのは、冒頭では中間テスト対策だと大雅がメールを送っているのだが、中盤でのテスト終わりの約束をする際には期末テストになっていること。どうやら7月のテストなので期末が正しいようだけど。

勉強回では、かつて研修合宿で大雅が手作りの しおり を作ってきたように、先生役の奈緒は要点をまとめたノートを作って来るという。相手のために こんなに動ける2人が良い。だが自身の感情に振り回されて寝不足気味の奈緒は、その途中で寝てしまう。

そんな奈緒の寝ている姿を見て、大雅は思わず彼女にキスをしてしまう。キスの瞬間に奈緒は目を覚まして、なんと加害者の大雅の方は謝罪しながら逃亡してしまう。男ヒロインだなぁ。
ここでは一度は「忘れろ」と勝手なことを言って逃亡した大雅が、戻ってくるのが良い。奈緒に したことは、気持ちが悪く困らせるけど、キスを忘れないでほしいというのが大雅の偽らざる本心。2人が こういう真っ直ぐな気持ちを ぶつけられるから読者も爽快感を得る。

そして そのキスを通じて、奈緒に生じた気持ちは、嬉しさだった。

人として愚行に対する謝罪と、乙女として自分を忘れないでほしいという気持ちの葛藤が見える。

乱と反省の中、大雅は三咲(みさき)を呼び出す。矢代といい 双方に友達が出来て、恋愛話をしているというのが嬉しい。

大雅は「ファーストキスは結婚式までとっておく」はずだったのに、身体が反応してしまった。それは友達と奈緒の傍に居れば幸せと思っていたが、奈緒といるとどんどん好きになって、欲求はふくらんでしまうという自分の気持ちだった。だから大雅は やはり友達ではなく、彼氏として一緒に居られるよう動くことを三咲に決意表明をする。

奈緒もまた混乱の中にいるが、宗ちゃんが自分の異変を察知してくれていることを、特別なメニュー・オムライスで知る。宗ちゃんは手の怪我があっても、奈緒のために料理してくれた。
そんな彼の真心を知って、奈緒は自分が恋をしていることを正直に告げる。相手は大雅だということ、そして宗ちゃんのことも大好きだと言えた。宗ちゃんこと宗介(そうすけ)にとっては10年間の労苦が報われた瞬間であり、そして子離れしていく我が子に寂しさを感じる所であろう。


日は初めは図書室で友人4人で勉強していたが、追い出されたため、奈緒は大雅に部屋に誘われるままに向かう。キスの件もあり緊張しながら、大雅の部屋に入る奈緒。いきなり倒れ込むハプニングなどあり、一層の緊張感が2人に漂う。

だが いつでも優しい大雅を見ていると奈緒の中に好きがあふれてくる。だから奈緒は思い切って、テスト終わりに話を聞いてもらうことにする。大雅は奈緒への好きがあふれてキスをしてしまい、そして奈緒は大雅への好きがあふれて告白をしようとする。

ただし上述の通り、大雅にとっては絶望の始まりでもある。落ち込んでいる所に思わぬ吉報が入るから喜びは倍になり、胸キュンが生まれるのである。


緒は 例え大雅が自分を好きでなくても告白しただろう、と想像する。そのぐらい損得なしに自分の気持ちを伝えたい。そして大雅への感謝を伝えるために、苦手な料理を頑張ってクッキーを独力で作る。そのクッキーの形は初めて大雅が自分の気持ちを示してくれた時と同じ薔薇である。
今の大雅は不安だが、奈緒側からすれば告白は両想いの確認に過ぎない。だけど彼女にも 溢れ出す気持ちがあり、それを形にしたいというのがクッキーなのだろう。ヒロインだって努力してます!

だが、待ち合わせ場所に向かう際、双方にトラブルが続出する。奈緒は街中の人のトラブルを解決し、大雅は入学式でトラブルになった上級生に呼び出されてしまう。

突然の雨の中で奈緒は、ぐったりと倒れ込む大雅を発見する。彼は反撃もせず大人しく殴られていた。なぜなら誰かを殴った後に奈緒に会うのは嫌だったから。こういうピュアな考えが大雅らしい。
そして大雅は、キスの後から奈緒に嫌われているのではないかと恐れていた。せめて友達でいることをやめないでほしい、それが彼の切なる願い。

そんな彼に対し、奈緒は自分を1番大切にして欲しいと怒る。「好きな人」が傷つくのなんて絶対嫌だから、それが怒る理由である。そして奈緒は作ったクッキーを差し出しながら、結婚を前提にしたお付き合いを大雅に申し出る。
1話でエピソードが詰まっているのが素晴らしい。そして今回は雨の中、奈緒から差し出されるのは愛の告白とクッキーの薔薇の花束だ。

思いもよらぬ奈緒からの告白に、大雅は涙を見せる。さすが男ヒロイン。こういう感受性があるから、私たちは大雅を好きになる。愛おしい、という言葉が本当にピッタリだ。


れ上がった空の下、手を繋ぎながら2人は歩く。そこで奈緒は大雅の傷の手当てを提案する。強がる大雅だったが、奈緒は彼の言動から、とある推論に辿り着く。それは目に見えない部分、服の下に怪我があるのではないか、と。こういう奈緒の思考力 好きですね。自分のこと以上に相手のことを考えられる2人なのだ。

そして自宅に彼を連れて行き、2人は濡れた衣服を替える。そうして服が乾くまで奈緒の家で過ごし、夕暮れ時にまた2人で歩く。

大雅はそこで、最後の心残りを奈緒に聞く。それは奈緒の宗ちゃんへの想い。奈緒は自分の中で結論を出していたが大雅には伝えてなかったから大雅は気になっていたのだろう。奈緒の答えはシンプル。宗ちゃんには家族愛、恋しているのは大雅だけ。


宅後、その話を反芻する大雅は1つの決意をする。それが宗ちゃんへの挨拶。結婚を前提に交際しようとするのだから、奈緒の父であり母である宗介に、交際の挨拶をしようとするのは当然、それが大雅の考えなのだろう。まぁ、こうなると同じ気持ちの奈緒はいいのか? ということになるが、一気に処理してしまうと話が続かないので、後回しにしたのだろう。奈緒に そういう考えが浮かばないように見えるのが残念だが。

だが宗介は少し大雅を突き放す。幸せにするという彼に具体的にどうするのか、を問う。

だが その意地の悪い質問にも大雅は それにバカ正直に答える。今は子供で漠然と思っているだけだけど、俺は俺なりに、自分が感じる幸せを奈緒に返していく、それが大雅の返答だった。奇しくも それは宗介が奈緒を育てると決めた時の決意と同じであることは宗介にしか分からない。
自分と同じ決意を胸に秘める若者に、宗介は姪であり娘であり、最愛の家族を託す。もしかしたら奈緒が大雅を好きになったのは、根底で宗ちゃんに似ていることを無意識に感じ取ったからかもしれない。


10話からは新学期となる。ここからが連載の延長部分だろうか。2学期から大雅のクラスメイトとして新キャラ・二見 彩葉(ふたみ あやは(男性))が登場する。クラスの人気者である彼は、大雅が噂ほど悪いヤツじゃないと思い始めていた。そして二見の誘いもあり、大雅は ここから お昼ご飯を奈緒たちではなく、二見と食べることにする。

はじめは彼の世界が広がることが純粋に嬉しい奈緒だったが、2週間もすると、彼が友達関係だった頃をより、交際後の方が自分から離れていくような気がしてくる。その後に二見と接点を持った奈緒は、彼が大雅のことを呼び捨てで呼んでいる事も羨ましく思う。自分の知らない彼のことを話すことに嫉妬さえ覚える。

二見は奈緒にとってライバルのような存在なのが面白い。大雅の世界が広がることは、彼の頭の中の奈緒の占有率が下がるということでもある。奈緒の中に湧く暗い感情に彼女が どう対処していくのか。