《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

きっと次の君の誕生日は、祝ってくれる人がいるから、俺が一緒にいるのは ここまでかな。

ハニー 4 (マーガレットコミックスDIGITAL)
目黒 あむ(めぐろ あむ)
ハニー
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

鬼瀬くんと仲良くなった二見くん。明るくて気さくな二見くんは鬼瀬くんの彼女である奈緒にも仲良く接してくれます。最初は鬼瀬くんの話などを楽しくしていた2人ですが、徐々に二見くんは奈緒を意識するように…。そんな中、体育祭が始まります。ついに想いを抑えられなくなった二見くんが…!?

簡潔完結感想文

  • 君の心に一歩も踏み込めなかった俺が出来る事は、この場から一歩も動かないこと。
  • 長編化の定番、三角関係の次は これまた定番の「友人の恋」が近いところで始まる。
  • たった一つの恋愛の形だったはずが、様々な「好き」に触れたことで価値観が変化する。

一難去った後の平和な時間には、友人の恋が物語をうごかす、の 4巻。

『3巻』から続く二見(ふたみ)編、そして中盤からの矢代(やしろ)と三咲(みさき)の始まりそうな恋に共通して言えるのは、その人の世界が広がったから関係性が変わるということだろう。風が吹けば桶屋が儲かるではないが、奈緒(なお)と大雅(たいが)が心から信じあえる恋愛をしていることが周囲の人の心に作用していく。2人の恋愛の影響が広がっていく様子が伝わってきて、その連鎖が心地よかった。

二見が奈緒に恋したのは、大雅に恋する奈緒の充実した表情を含めての彼女の魅力に気づいたからだと思う。そして それが二見の恋が絶対に実らない理由になっているのが悲しい。
1話のようにクラスに気軽に話せる友達もいないような奈緒だったら、二見は奈緒の存在を知らない同級生として3年間を過ごしたのではないか。だが恋愛によって自信がつき前を向いた大雅が、クラスに友達を作ることを目標にしたから二見と知り合い、それが二見と奈緒の出会いにもなった。そういう連鎖を感じられるから二見は降って湧いた当て馬とだけの認識ではなくなる。

そして『3巻』の感想文でも書いたが、二見は当て馬であるが、男ヒロインの大雅の親友 兼 ライバルという1人3役を担っている。だから失恋後も親友ポジションでの活躍が期待できる(『4巻』では失恋直後なので それほど顔を出さないが)。
少女漫画は当て馬というポジションに非常に優しい。女性ライバルが いつまでもヒーローの周囲に居たら、読者もヒロインも落ち着かない。ヒロインに黙ってライバルがヒーローに接近し、いつか浮気をするかもしれないという不安があるとハッピーエンドにはならない。その反面、ヒロインは浮気をしないという絶対的な信頼があるからか、当て馬は いつまでもヒロインの周辺に顔を出す。そしてヒロインと恋人との距離が生まれるやいなや、当て馬は再度 自分の役目を果たそうとする。

少女漫画の世界では、女性ライバルがヒーローに接近するのは1回限りなのに対し、男性の当て馬は何度でも再挑戦が可能なのである。何度でも再チャレンジできる社会を目指そうとしている中、非常に偏った男女の不平等が見て取れる。


緒と大雅の2人のバカップルの様子を見て矢代も自分の恋の価値観を変化させていったことが中盤からの展開に繋がる。

いわゆる「友人の恋」の役目を果たす矢代と三咲の関係だが、これは主役カップルに動きが生まれない時の少女漫画の補助動力である。動きのある恋に目を奪われる少女漫画読者のために、作品内で常に動きを生むためのシステムと言っていい。矢代の場合は、交際と その終わり、そして次の恋に動き出すという、とても本書の主役たちには出来ない働きをしている。

矢代が今の恋に終止符を打つと決断したのも、ここまで数か月、奈緒たちの恋愛を見てきたことが影響している、というのが話の流れが自然で良い。そして矢代の彼氏・郁巳(いくみ)も本書にしては若干(かなり)クズな部分もあるが、間違いなく矢代を救った人間だし、彼女を手放そうとするのも彼女のため、という所に本書らしい本質的な優しさが見える。

別れの場面の矢代の寂しいけれど満ち足りた、感謝を含んだ笑顔もいいし、ラストの三咲の弾けるような笑顔も良い。本当に笑顔が印象的な作品である。それは中盤のカラオケにおける二見の笑顔も同じ。その恋が終わって悲しいけれど それでも この世界に1人きりじゃないという確信が その人を笑顔にしている。


二見は この気持ちが奈緒に届かない自分の現状を理解した上で、彼女に好きだと伝える。その二見の真っ直ぐな気持ちに、奈緒も真っ直ぐに自分に正直に気持ちを伝える。自分が好きなのは大雅である、と。

自分を好きだと言ってくれた人に断ることの しんどさを知った奈緒。そんな大雅に言えない事情を軽くしてくれるのは矢代。奈緒の表情だけで彼女が問題を抱えていることが分かる。矢代の良い変化だけど、奈緒は自分で抱える癖が最後まで抜けないのが気になった。そこが奈緒と大雅の共通する点なのだろうけど、基本的に人を信頼していない頑なさで、最後まで残念な部分だ。

二見は大雅と同じチームでリレーに出るが、この競技で1位になったら奈緒と大雅がデートしてしまうと思うと足が動かなくなる。これは せめて2人の未来を妨害しようとする彼の気持ちが そうさせているのか。
だが奈緒が変わらずに自分に応援してくれる声を聞いた二見は、走り出す。奈緒は変わらずに友人として応援してくれるし、これからも自分の立ち位置は変わらないという二見の納得が足を動かしたか。こうして新しいスタートを切って二見は吹っ切れる。

奪い去ることは出来なかったが、友人として奈緒と共に歩くことは出来る。そんな始まりの再スタート。

一方、大雅は二見がフラれたことを知り、対応に困っていた。だが、二見がこれまでと変わらずにいること、全てのことを包み隠さず話すことに、自分にとって友達であることは変わらないとする。

その夜、奈緒と大雅は待ち合わせをして、今日の出来事を話す。奈緒は大雅に隠しごとをしたくないから、全てを話す。匿名の人からの告白という形式で話しているが、大雅は その相手と結末を既に知っている。そして奈緒は、大雅が奈緒の気持ちを信じていたから、何もしないと決めていたことを知る。自分が信頼されていたことを胸が破裂するほど嬉しい奈緒

こうして2人とも、三角関係の危機を乗り越えて、大雅は帰り道に奈緒のことを名前で呼ぶ。二見は そのために存在していたといっても過言ではない。


11月に入り、いつもの4人で一緒に下校している際、大雅は、かつて自分を殴った男から声を掛けられる。

だが その男・権瓦 郁巳(ごんがわら いくみ)の目当ては大雅ではなく矢代。大学2年生の郁巳は矢代の彼氏であった。15~6歳の高校1年生が大学2年生の男性と交際中か。15歳以下、または5歳以上の年齢差だと罪に問われる世の中で危ない関係だ。

終わる恋、次の恋、性行為など奈緒たちでは描けない恋の形がいっぱい詰め込まれた矢代の恋愛である。

そのことに一番衝撃を受けているのは三咲。矢代に少しずつ好意を抱いていた彼には彼女の恋人の出現はショックだったらしい。しかも その夜、矢代の彼氏の浮気現場を三咲は目撃してしまう。

翌日、その話を何気なく切り出す三咲に対し、矢代は黙認済みという事実を知る。このことに矢代本人よりも三咲が彼女の心配をする。矢代も彼氏が世間一般から見ればダメ男だということは分かっている。それでも矢代にとっては代わりのいない人物だから交際している。だから郁巳との関係に口出しする三咲を平手打ちにしてしまう。


の件で矢代のことを何も知らないと思った奈緒は、自宅での お泊り回を提案する。これは矢代に何かを話して欲しいと強制するものではなく、矢代が消えてしまいそうだと思った奈緒がそれだけ矢代に近づきたい、一緒に居たいと思ったからの行動だろう。

その女子会に現れるのが三咲。そして三咲は矢代を連れ出してしまう。彼もまた人の事情も知らずに、自分の苛立ちをぶつけるような発言を謝罪したかったのだ。そして矢代も暴力で黙らせたことを謝罪する。

会話が矢代の彼氏からの電話で中断された時、三咲は矢代を後ろから抱き締め、そして好きだと告白して立ち去るのだが…。


代が郁巳と交際を始めたのは、彼が矢代の孤独を救ってくれたからであった。

小さい頃から矢代はクリスマスや誕生日も家族で過ごすことが無かった。仕事で多忙という言い訳で1人娘を放置する両親。冷めた人間に育ったこともあり、周囲と打ち解けられないまま誤解だけが先行する。この点は矢代は大雅と似ていると言えよう。

やがて両親は高校受験を控える娘に郁巳を家庭教師に据える。両親のいない家で、妙齢の男女が2人きりということに何の考えも及ばないのは、それだけ関心がないからなのか。

そして矢代の15歳の誕生日はまた独りになりそうな時、郁巳が彼女の誕生日を祝いに目の前に現れた。それが矢代の郁巳への信頼と愛情の決定打となった。彼は世界で唯一 ずっと欲しかった言葉をくれた人になった。その経緯もあって三咲からの依存しているという言葉は否定できないのだろう。


咲からの告白の後、矢代は郁巳の家に向かっていた。

その事情を知らされないままの奈緒は帰ってこない矢代が行方不明になったと思い、三咲と大雅を動員して彼女の捜索に当たる。三咲は最後に矢代が郁巳と連絡していたことを思い出し、通りかかった郁巳の友人に家まで案内させる。奈緒たちが郁巳の家を知らないから仕方のない流れだが、偶然が過ぎる。

そして三咲は郁巳の家に押し入り、矢代を見つける。高校生2人の会話中、郁巳が割って入り、上から目線の余裕の態度で三咲に接する。だが三咲は負けずに応戦し、自分は浮気性の郁巳と違い、矢代に一途だということをアピールする。

三咲の登場によって矢代は近頃の自分の心の動きを明確に自覚した。それは自分の世界が広がり、そして想い合う奈緒たちの姿を羨ましく思っていたということだった。

矢代が切り出すのは、郁巳の浮気禁止。てっきり別れを切り出すと思った三咲は矢代と口喧嘩を始めるが、そこで郁巳は初めて気心の知れた同級生と過ごす矢代の姿を見る。その年相応の姿に、自分の存在意義を失った郁巳は自分から別れを切り出す。

郁巳は別れ という結末を選んだが、それもまた矢代のためである。郁巳の本心は どこにあるかは分からない。分かるのは自分の気持ち以上に、相手のことを優先する、という奈緒や大雅と共通する心の優しさである。浮気に加えて、男ヒロインである大雅に暴力を振るっている時点で救いはないが、中学時代の矢代のことを救ったぐらい、そして矢代が惚れるぐらい郁巳にも良い所はある。


「ハニー ~小さな恋の話~」…
奈緒の叔父・宗介(そうすけ)を好きになった元ヤンの鈴森 蘭子(すずもり らんこ)の素直になれない恋模様。

蘭子の喧嘩の後の怪我を宗介が見て、バンドエイドを渡したことが恋の始まり。これは奈緒と大雅の時と同じですね。そして最終盤の内容からすると、蘭子の恋は実らなかったのか。この後、蘭子は本編に出てくることもなく作品世界を漂流するだけで、何だか中途半端な番外編になってしまった。こちらを公式カップルにしても良かったのに。