餡蜜（あんみつ）
カンナとでっち
第04巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
見習い大工・勝仁（かつひと）とお付き合い中のカンナ。「キスは禁止！」「デートは父同伴！」というカンナパパからの掟をなんとか守ってきたカンナと勝仁だけど、2人はガマンできずにないしょでキス…!! それをカンナの両親に見られちゃった!!! カンナパパお怒りで勝仁、解雇!? ラブラブな2人をもう見れないのー!!? 「別冊フレンド」にて大人気連載中☆ イケメン職人男子とのドキドキ同居ストーリー！
簡潔完結感想文
- キスは災いの元。勝仁がキスをすると騒動が巻き起こるので自ら封印する!?
- 早くも将来を考えるような仲なので、邪魔者を追加するぐらいしか展開がない。
- 半人前ヒーローと対照的な一人前の御曹司大工が登場。将来性より貯金額⁉
ゾンビが増殖するように、大工が増殖していく 4巻。
端的に言えば、本書には やることがない。高校生同士の恋愛としては既に2人は両想いになっているし、早くも同じ将来を夢見ていて、ハッピーエンドの結婚エンドも確定的だ。終わりのないマラソンに突入した長期連載では、勝仁（かつひと）が一人前になるまでの時間、彼らの恋を邪魔するぐらいしか 読者の目を惹く展開は生まれないのである。
カンナ父は それはそれはウザいが、この父が邪魔しなくなったら全く制約のない交際になってしまい、半人前が親方の娘に手を出して うつつを抜かしているように見えてしまうだろう。父や新キャラの邪魔者は、主人公カップルを被害者に仕立て健気に見せるための必要悪なのである。
『3巻』の感想文で詳しく書いたが、本書は「掟」または「掟（改）」による縛りプレイで、この恋に制約を設け、それを読者のドキドキに変換している。恋愛禁止の状況で恋愛をする緊張感、キスが許されない状況の中で寸止めを繰り返す忍耐と欲望の絶妙なバランスなどを駆使することで、交際編でもドキドキが持続するような対策を考え出していた。
そして今回、恋愛禁止に続いて、キス禁止も なし崩しに破られてしまい、一度は緊張の糸が切れた。そんな時に現れるのが新キャラと新しい掟である。こうして少女漫画読者が大好きな三角関係と、すれ違いを生みかねないヒーローが勝手に制定した掟が生まれ、物語に対する興味を失わせない。前者の三角関係に関しては明らかに当て馬で、長期的な視点で見れば全く心配がないのだが、後者の新しい掟は次巻で どういう扱いになるのかが気になるところ。これはヒーロー・勝仁が、新キャラ・凌（りょう）の出現の焦りもあって勝手に言い出した掟。ヒロインのカンナは聞かされていない（と思われる）から、自分たちの行動を自分たちで制限する初めての掟に戸惑いが隠せないのではないか。そして そんな掟を勝手に決める勝仁への怒りや悲しみが生まれるのではないか。
…なんて真面目に次の展開を考えているあたり、結構 作者の手中にハマっているような気がする。結末は見えているが、ずっと制約を作ったり、次の巻への「引き」を考えたりと工夫が見えるのが良い。
しかし作中に大工ばかりが増殖していくなぁ。本書では大工という職業を選ぶ人は 皆 根っこの部分では良い人という前提は絶対となる。なので大工が この世で一番崇高な職業のように礼賛されていく。職業漫画だと、一つの職業に就く人ばかりが偏りがちだ。
もし作品の幅を広げるなら、大工に関わる人たちの職業を紹介する展開でも良かったかも。建築士や林業の人、勝仁が愛する道具を作る人など、取材を重ねて、家を作るまでの物語を立体的に見せても面白かったかも。そうやって学ぶ内に、カンナが自分の進むべき道を選び、勝仁と二人三脚で仕事をするという展開も面白そうだ。繰り返しになるが、カンナは大工の妻になるからなのか、将来への動きが全く見られない。『4巻』終了時点では高校3年生の10月末なのに…。
作中時間といえば、この『4巻』で おそらく『1巻』から徹底されていた掲載号の月＝作中の月という季節がシンクロする本書のメタ的な「掟」が終わってしまった。これは当て馬の登場で これまで以上に話に継続性が出て、さすがに毎回 1か月経過させることが無理になったか。折角『3巻』ラストのキスから『4巻』冒頭で時間経過して月が変わっているという場面転換をしたのに勿体なかった。この巻で この時間シンクロの「掟」が終わるのなら、海辺のキス直後のシーンを見て見たかったなぁ。でも ここまで本当に その月のイベント × 大工仕事 ×恋愛という難しい三題噺をクリアしてきたと思う。お疲れ様です。
また この「掟」の解除は、放っておくとカンナが あと半年で高校を卒業してしまい、カンナの進路を描かなければならないという面倒くさい事態を回避するためでもあるように思う。この際、実家の小田原（おだわら）工務店で事務仕事をするという分かりやすい展開でも良かった気がするが。
上述の通り、作中時間と掲載号がシンクロしているため、『3巻』ラストの海辺でキスされた勝仁は、まるで夢オチのように、新学期にカンナが授業中に見る夢として扱われる。ただ悪夢として思い出しているだけで、キスは現実。カンナは授業中に泣き出したり、家でも魂が抜けたように過ごしたり、勝仁と口を きかなかったり2人の間に微妙な空気が流れる。
あの日、カンナは海岸の砂で作った家を見せたかったのが、それが叶わなかった。そのカンナの願いを叶えるために、リベンジとして父と木の家を作ることにする。娘の交際を まだまだ認められない父だが、娘には とことん優しい。まるで夏休みの宿題のように親子で工作に励む。これは勝仁の見習い生活1周年を お祝いする品でもある。
翌朝には勝仁に大事な家族会議があると告げた小田原一家だったが、勝仁の足取りは重く、約束の時間になっても姿を現さない。探しに出たカンナは玄関先に勝仁を発見。彼は破門を覚悟し、その現実と向き合いたくなくて逃げていたようだ。だが それがサプライズの お祝いだったことを知り感動して勝久は涙を流す。
続いては『2巻』の「男前大工グランプリ」こと「ODG」に似たような勝仁の芸能活動（?）の話。
海の家での評判となり、勝久に現役大工としての取材が舞い込む。ODGの時と同じく、道具フェチの勝仁は憧れの作業着が着られるという動機で参加する。
当日になってカンナも新婚生活の妻役として参加することが発表され、2人はカメラ前でイチャつく。それが面白くない父親が邪魔したりするが、何とか撮影は終了。
取材陣が父親をなだめるために彼ら夫婦の馴れ初めを聞くことになった。その話を横で聞いていたカンナたちは、自分たちと同じ道を進んだ先輩として両親に憧れ、彼らのような夫婦になるという目標を抱く。
こうして2人が同じ将来を見つめ、互いの愛情が募ったところで、2人は掟（改）を破りキスをしてしまう。その場面を父親に見られて…⁉
このところ勝仁は3か月で2回も自分のキスシーンを親方に見られている。どんどん信用を失っていくのではないか。海辺のキスはともかく、今回ばかりは擁護が出来ない。衝動的に動くストレートな愛情表現が勝仁の良い所だが、死角を探したりしないのが悪い所であろう。
掟を破った勝仁に父は当然 怒り、破門まで口にする。どうにか勝仁は当分 雑用係に降格させられ、愛する道具と仕事を取り上げられてしまう。
ちなみに この号は11月号だけれど、作中の時間はまだ10月でハロウィーンイベントの前となり、時間にズレが生じ始めている。
仕事を奪われた勝仁の代役として大手建設会社の次男坊が助っ人に現れる。それが新キャラ・藤倉 凌（ふじくら りょう）。高級車を乗り回し、ブランド服を着こなす男。これは半人前で高校生の勝仁との対照性を際立たせる設定なのだろう。
ハロウィーン回もバレンタイン回（『2巻』）と同じく、商店街の横の公園に家を建てる仕事。しかし この地域には どんだけ潤沢な予算があるんだか…。しかも期間限定で壊してしまうのだ。自分が作った物が あっという間に壊されるのは大工にとっては悲痛なことなのだろうか。役目を終えた建物を重機が壊していくシーンと、呆然とする大工たちも見てみたい。
凌は学校前まで車を乗りつけ、カンナを自宅に送り届けたりと何かと接点を持つ。そういえば勝仁も そろそろ18歳を迎える頃だと思うが、彼は免許を取得したりしないのだろうか。そういう話も読んでみたかった。何だか私は本書に対してアイデアが凄い湧くなぁ。結構 好きなのかもしれない。
そして凌は勝仁に何かと突っかかり、勝仁とカンナのデート権をかけた勝負を挑む。この勝負は親方に無断で仕事をした勝仁が、カンナ父に羽交い絞めにされ お仕置きをされて終了。だが凌は大工であることや仕事にプライドを持っていて、そこは一緒なので通じ合う点もあることが分かる。基本、本書の大工は善人たちばかりなのだ。
こうしてカンナは凌とドライブデートに発進（よく父が許したと思うが）。その凌の車に勝仁も潜り込み、なんとか2人きりの時間を阻止するというオチとなった。この勝負も、後述の掟もカンナの意思は無視され、彼女の置物感が目立つなぁ。
結局、デートは終了し、カンナの家に帰る3人だったが、ここで凌がカンナ父に、半人前の勝仁と交際するより、一人前の自分ならカンナの彼氏になれると名乗りを上げる。いよいよ同年代による三角関係がスタートである。といっても この時点で凌にカンナへの好意は怪しく、彼の退屈しのぎのように見えるが。
凌は、大会社の次男だからカンナにとっては玉の輿に乗るチャンスで、将来的な安定を見越せば悪い話じゃない。ここも 身寄りがなく、見習いの身で明日も分からない勝仁と対照的な点であろう。
ハロウィーン回はコスプレ回になる。学校生活における文化祭回みたいなものか。
自分の仕事の出来を確かめ、そして そこを利用する人々の顔を見に来た凌は、勝仁を待つカンナと話をし、強引にホーンテッド・ハウスに入ろうとする。やはり彼も大工と言う仕事が好きなのだろう。
そこに現れるのは当然、勝仁。その後、係の人に押し込まれ、3人で お化け屋敷に入る。実は勝仁は お化けが苦手なのだが、その恐怖よりもカンナを凌の魔の手から助けることを優先する。カンナも勝仁が勇気を持って自分を助けてくれたことが分かっており、彼に感謝を述べる。
だが勝仁は半人前の上、この仕事に雑用としてしか関われなかったことに落ち込む。そこで勝仁は自分で自分を縛る掟、「今度 掟を破ったら オレ カンナと別れます」と宣言するが…。
