マキノ
黒崎くんの言いなりになんてならない（くろさきくんのいいなりになんてならない）
第03巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
「あたしは黒悪魔のモノなんかじゃぜったいないから！」髪をばっさり切って黒崎（くろさき）くんに絶縁宣言をした由宇（ゆう）。これで心おきなく白河（しらかわ）くんと距離を縮めたい♪ それなのに、夏休み、ベッドの上で、屋上で、談話室で、黒崎くんのご無体が止まらない!? 別冊フレンドで大人気！ 見たことないほどドSで悪魔な黒崎くんと24時間ドキドキラブ☆
簡潔完結感想文
- 友人や恋人を続けざまに裏切るヒロインが一番 黒い。快楽に溺れる女性の堕落記なの⁉
- 自己評価が低いはずなのに、相手に好きと言われたら何の疑いも持たないで交際開始。
- 再読すると整合性のない描写がチラホラ。やっぱり少女漫画にはトラウマは必須か…？
恋のキューピッドは黒猫の姿をしている、の 3巻。
外見だけは整っている2人の男性から、自分に自信が持てないヒロインが振り回される、というシチュエーションだけは最高の本書。だが誰の行動も理解できないから一切 琴線に触れることのない本書である。
登場人物紹介
1．黒崎（くろさき）。黒悪魔の通称でヒロインに対してだけ性的暴行を重ねる。不器用な性格ゆえの行動らしいが、不器用なら無断でキスしても、背中や耳を舐め回してもOKというイケメン無罪の無法地帯が生まれている。
2．白河（しらかわ）。通称は白王子。誰にでも優しいが誰にも優しくない心がない人。この世界で黒崎しか興味がなく、彼への嫌がらせのためにヒロインに手を出す屈折した人。嫌がらせをするという意味では黒崎と同罪。
3．由宇（ゆう）。本書のヒロインだが『3巻』で一番の問題児は彼女だろう。彼女に恋心を一切感じられないため、少女漫画的な切なさが生まれない。肉体的快楽に溺れた上に、白河と交際した直後から浮気をする淫乱ビッチ。
…と全員ロクでもない人間でお送りする本書。いくら頭脳明晰、運動神経抜群、眉目秀麗で炭酸が苦手という可愛い弱点で個性を出したつもりでも人間性が欠如した人たちの話が面白いとは思えない。駆け出しの作者は長期連載が喉から手が出るほど欲しいのだろうが、シチュエーションを重視し過ぎて、情感は限りなくゼロに近い。イケメン限定でスキンシップ（もしくは愛撫）されるだけの漫画である。それが読者に受けたのだろうが、作品として冷静に見るとヒロインが とんでもないビッチに見える。
そして何より問題なのは超長期作品になった時に、この罪が汚点として残る事だ。性的暴行するヒーローと、彼氏がいるのに他の男を受け入れるようなヒロインの交際を祝福するには広い心が必要だ。別に初恋成就だけが少女漫画だとは思っていない。その一瞬一瞬で本気で恋をしているヒロインなら、何人と交際しようが それはそれ。だが本書の由宇のように、男性に流されるままに その瞬間で一番の幸福（もしくは快楽）に手を伸ばすような生き方は軽蔑の対象だ。今回、「しんじゃえっ」とか「あたしを ほろぼして」とか過剰で頭の悪そうな言葉が並ぶのも嫌だった。
話の運び方もスムーズと言えず、作者が描きたい場面を繋ぎ合わせるために必要な要素を詰め込んだだけに思え、全体的にゴツゴツとした印象を残す。もう『3巻』なのに設定としておかしいところがあったり、作者は場当たり的に作品を描いているのではないかと疑ってしまう。そして『3巻』で既に もう終わって良いような話を どうにかして長引かせようという延命処置を感じる。寮内での肝だめしや嵐の夜に2人きりなどシチュエーションだけで読者の心拍数を上げていく。ただし過激なことをすればするほど、後に個性がなくなって一般化するヒーローとの整合性が取れないのは目に見えている。変なキャラで売り出す芸能人が長続きしないのと同じ。飽きるし、キャラ変して落ち着いたら個性が無くなる。これはスタートダッシュ漫画の宿命と言えるだろう。
ヒロイン・由宇は肉体的快楽を黒崎から、精神的充足を白河から貰っているが、本書の特性は前者と言える。毎回ドキドキさせてくれる予測不可能な行動が本書の魅力だろう。つまりは黒崎が丸くなったら 作品は つまらなくなるということかもしれない。
高校1年生の休み突入。
『2巻』のラストでプールで救助されてからクラスメイトの芽衣子（めいこ）が黒崎を好きになった。明らかな2人を両想いから遠ざける障害なのだが、夏休み中ということもあり芽衣子が動くこともなく、ダラダラとした不安定さが続く。
1学期の終了を記念してして寮の屋上で肝だめし＆花火大会が催されることになる。
この話から黒崎父（通称・黒父）が話に登場し、また この巻から黒崎の中学時代が語られ始める。トラウマ＆黒歴史といったところか。
どうやら黒崎は父からの電話を無視し続けているようで、関係性の悪さが垣間見られる。男性側の家族に問題があって、トラウマがあるんですね、分かります。ベタで王道ですね、…などと思っていたら、実際は予想外の方向に話が進んだ本書。何か起きそうで何も起きない、悪そうで悪くないというのは本書に肩透かしの連続をもたらす。この回の黒父の「いっそ消えて ほしいぐらい…」という今回の台詞と彼の本質は整合性が取れない気がするが、弁解されてたかなぁ…。
寮生以外も巻き込んだイベントとなったが、由宇はお化け役で参加し、黒崎は このイベントに不参加。お互い単独行動のお陰で黒崎と2人きりになる。今回も由宇のピンチをまたも救い黒崎のヒーローポイントは加算されていく。
この回では お化け役が逆に人から隠れるスリルを味わう。そして人に見られるかもしれないという緊張感が変態の2人を昂らせる。吊り橋効果と同じように恐怖や緊張感を愛に変換しているのだろうか。
黒崎が感情表現に不器用というのは分かるが、彼がキスをしたり耳や身体を舐めたりするのは どうやっても理解できない。未だ好きだと自覚していない男性から いきなり愛撫されるなど、お化けより怖いはずだが、由宇も「アンタなんか しんじゃえっ」というぐらい嫌う割に、本気で拒否しない。翻弄されている状態が読者を喜ばすのかもしれないが、私には由宇が淫らな人にしか見えない。などと書いていたら、後半で由宇は自分を「いんらん」と評していて、意外に冷静な自己評価が出来ていることに笑った。
黒崎は由宇が反論すればするほど、性的に興奮するタイプ（推測） 本書では一方は拒絶する振りをして受け入れ、そして もう一方は拒絶する姿に興奮していくという気持ち悪い連鎖が始まっている。
この回で黒崎は由宇が白河を好きなことを知る。その修羅場の三角関係状態が黒崎を生まれ変わらせたのか、これ以降の彼は大人しく、強引な手段に出なくなる。要するに由宇が好きな「王子様」のような白河に黒崎なりに なろうとしているのか。この時点で実は黒崎は由宇の言いなりになっている、と言えるのかも。
由宇は夏休みにバイトを始める。これは白河が購入してくれた服代の返却のため。もしかして これで借りがなくなったら、由宇の白河への想いも無くなるのだろうか（早くも後半で返却）。
もう1人のバイト仲間の小兼井（こがねい）が、黒崎と同じ中学だと知る。小兼井を通して黒崎の中学時代の問題を匂わせるが、この巻で匂いの根本に辿り着くことはない。色々と伏線を張っているが、その回収は随分 先。匂わせるだけで何も解決しない状態が続くから停滞感を漂わせる。もうちょっとテンポの良さが欲しいところ。
由宇は白河に電話越しに「大嫌い」という声が届いたことを弁解しようと彼と2人きりで話をする。その会話の中で、白河から自分をどう思っているのか問われ、由宇は好きだと答える。大嫌い疑惑を晴らすはずが、好きという怒涛の展開である。白河は由宇の気持ちに応じ、帰り道は2人で手を繋ぎ、交際が始まる。
といっても『2巻』で書いた通り、白河は黒崎から由宇を奪うという悦楽のためだろうが。というか元来は自己評価の低い由宇が、白河みたいな人が自分を好きだという訳がない、と疑わないのが変。どこが好きなの？と聞こうとしない所に実は由宇は自信満々疑惑が浮かび上がる。白河が「好き」という言葉を使わずに交際しているのも本当は由宇を利用しているからだろう。
手繋ぎ場面を芽衣子に見られ、由宇が黒崎と付き合ってないと知って芽衣子は黒崎への恋心を加速する。芽衣子は寮生ではないので夏休み中に会えない黒崎の様子を由宇に撮影してもらおうとする。
黒崎が寝てるのを良い事に盗撮する由宇。だが黒崎は起きていた。そこで由宇は白河との交際を黒崎に告げ、ちょっかいを出すことを止めてほしいという。この場面、彼らが高校生じゃなければ、これまでの身体だけの関係を清算したいと申し出ている場面に見える。正式な彼氏ができたので、清純な女性に転身します、みたいな内容で女性側の身勝手さが際立つ。そして黒崎との関係を断ち切れないまま、もう1人の男性と付き合うのにはビッチ臭がする。
そこに白河が現れ、3人の関係は2対1になる。この場面で黒崎は敗者となる。ここで黒崎が唐突に拒否していた父親に電話に出るのは どんな意味があるのだろうか。敗者となって気持ちが濁ったから、自分を愛してくれる父親の声を聞いて甘えたかったからなのかな…。
最後に、黒崎が由宇を「バカ犬」呼びするのは やっぱり八田鮎子さん『オオカミ少女と黒王子』を連想させるなぁ。そんな風に呼ばれても彼氏（白河）との交際初日から別の男性（黒崎）の背中を目で追ってしまうビッチな由宇。スマホに入っている黒崎の盗撮画像も友人に送らないで、撮れてないと嘘をつく。全方向で人を裏切り続けている彼女を応援できないなぁ。
夏休みに白河が実家に帰ると言っているが、2泊で戻るらしい。この時点では白河の実家、というか両親って日本国内にいる設定なの？ カナダじゃないの？と、再読では色々と疑問が湧く。
台風の接近する中、寮生は全員が里帰りし、寮内には由宇と黒崎しか残っていない。由宇が寮に残る理由が雑過ぎる。出た、もはや少女漫画でしか存在しない町内クジで旅行が当たるパターン。推測するに お盆だろうに、娘の帰省の日程で旅行に行く両親（繁忙期には旅行券は使えないだろうに）。この巻でも頼まれていた浴衣を送らなかったり なかなか酷い親である。
その嵐の日、寮に迷い込んでいる黒猫を台風から保護しようという聖母・由宇。そんな彼女を風で飛んできた枝から守るナイト・黒崎。『3巻』では黒猫が2人の距離を近づけている。
一応、寮監はいる設定なのだが、寝かせることによって2人きりを演出。自分のために怪我をした黒崎に由宇は聖母の力で手当てする。由宇が しおらしいと性的興奮をしない黒崎は、いつものような高圧的な態度を取らない（もしくは王子様になるためにキャラ変中）。
その様子に調子が狂う由宇は、自分から黒崎を誘うようなことを言い、実際に黒崎は優しくキスをする。そこに身体が反応する由宇。彼氏と交際1週間で他の人の唇を受け入れる。しかも今回は不意打ちでもなかったし、直後に拒絶する訳でもなく、いつものキスとの違いまで堪能する由宇。彼女は そんな自分を淫乱と認める。
それが罪の意識となり、バイト代を手切れ金にして白河と別れようとする由宇。その彼女の変化に白河は、黒崎にキスをされたことを見抜き、それが由宇の弱みとなって握られる。どちらの王子にも命令されるドレイの誕生だ。ここで白河が怒りや悲しみなど恋人として何の感情も見せないのは、由宇に何の感情もない証拠だろう。大事なのは彼氏が自分という事実であって、由宇が どれだけ「いんらん」でも生温かく見守る。それぐらい彼女に興味が無いのだ。
にしても黒崎も白河も探偵かエスパーのように1つの異変から すぐに真相を見抜いていく。黒と白が言葉を交わさなくても相手の状況を把握する。この2人は「高度な情報戦」をしているのか。そんな天才たちの頭脳戦に、格下の由宇は参加できずに翻弄されるのが関の山。
後ほど改めて白河と話をするはずが、黒崎が病院に行っていることを知り、彼の事が心配になる由宇。そうして白河よりも黒崎を優先する。人として失礼な事ばかりしているなぁ。
街中を捜しまわって見つけた黒崎。だが彼は元気な様子。実は病院に行ったのは、寮内の黒猫。それに一安心し、涙を流す由宇。それでも黒崎への気持ちを認めない。快楽や安堵、まず肉体が先に動く人である。鈍感な振りをして、この1巻は消化された。
