池 ジュン子(いけ じゅんこ)
水玉ハニーボーイ(みずたま )
第10巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
オネエと侍、真剣交際宣言…!! 「一生愛してるわ。」 ついに交際に至ったオネエ男子・藤くん&侍・仙石さん。ラブラブカップル生活突入!!…と思いきや一筋縄ではいかないのがこの2人。 初デートにプール、夏祭り、誕生日!! これでときめかないハズがないけど、ハプニングも起きないハズがない!!勢い止まらぬ最終巻★
簡潔完結感想文
- 結婚した両親の初デートの場所に行ったり、仙石さんからの結婚フラグが乱立。
- 高校3年生の日常回連発。同じ日常回だけど1年前とは違う2人の関係の対比が◎。
- 地味だけど最大のフラグだった文化祭が最終回。ここから また藤君のターン!?
終わり良ければ総て良し、の 最終10巻。
こんなに幸福感に溢れた最終巻も珍しいのではないか、と思うぐらい幸せな内容である。特に最終回は、登場人物の1人1人を好きだなぁと思いながら読んで、笑いながら泣いてしまいそうになった。きっと藤(ふじ)君と仙石(せんごく)さんの2人も そういう騒がしいながらも楽しい毎日を過ごしていくのだろうと思って本を閉じた。
『10巻』では高校3年生になった2人が描かれており、学校生活の大半は勉強ばかり。だから少女漫画における高校3年生は鬼門なんだよ、と思ったりもしたが、実は この受験勉強の中にこそ、2人が到達した2人の交際の姿を見た気がした。
藤君は愛されて育った末っ子だからか、誰かから ご褒美や罰ゲームを設定されないと苦手なことを頑張れない。だけど そんな彼に今は ご褒美を与えてくれる仙石さんが近くにいてくれるから無敵と言える。彼のことを決して見捨てない、家族以外で彼を愛してくれる仙石さんが、きっちりと手綱を握り、絶妙な ご褒美を用意してくれるからだ。だから本書には描かれてはいないが、この様子だと ちゃんと大学への推薦も貰えたのではないか。頑張るためのモチベーションは しっかりある。
そして息抜きが下手な仙石さんも藤君のお陰で根を詰め過ぎずに受験勉強が出来ている、と幼なじみの姫(ひめ)は実感している。このことから仙石さんも『7巻』で学校見学に行った大学への進学も確実だろう。
あまりにも片想いや両片想いの期間が長すぎて、そこが本書の停滞ポイントだと思っていた。それによって交際時期も後ろにずれ、高校2年生の冬になって ようやく交際が始まり、あっという間に受験生になってしまった。恋よりも優先しなければならないことの多い受験勉強を描くと作品が陰鬱になるから嫌なのだが、本書の場合は受験勉強という高校生の最大の難関も2人で力を合わせ、2人のバランスが取れている感じがしっかり出ていた非常に良かった。受験勉強をしていることをしっかり描きつつ、その中の日常回をコミカルに描いていて作品内は いつも晴れている印象を受けた。
また、登場キャラが多い割に内輪カップルが少ないのも好印象だった。真正ヒロインには意外な相手が現れたのは予想外だったが、作品の都合に巻き込んで周囲の人たちの恋愛まで強引にまとめないところに作者の賢明さを感じた。まぁ 姫(ひめ)と七緒(ななお)などはフラグだけ立てて放置しているようにも感じられたが。この辺は特装版の お楽しみになっているのだろうか。私が読んだのは通常版なので分かりません。こんなにキャラたちを好きになるなら特装版を読めばよかった。
卒業式を迎え、3年生の乃木(のぎ)たちは卒業するが、七緒の妹・更(さら)が来春から下級生として入ることに。関係性が変わっても、変化する日常でも、そこに幸せは見つけられる、と言った感じか。
『10巻』は時間の流れが速い。これは白泉社特有の最初の1年は日常回で費やす、というノルマのような方針が終わったからだろうか。
ちなみにクリスマス回、初詣回、ときて残る冬の3大恋愛イベントだったバレンタインデーは割愛。これは『9巻』で仙石さんの手作り品で入院した藤君が強引に自分で渡したからという危機回避のためであった…。
続いては仙石さんから初のデートのお誘い。彼女が藤君を連れて来たのは両親が初デートした場所。結婚して家庭を持った両親と同じ場所に連れてくるって、これはもうプロポーズなんじゃないだろうか。恋愛解禁まで すっごく長いが、解禁した途端、結婚を意識するのが白泉社作品である。長年 異性に縁が無かった人が、交際した途端、一足飛びに物を考えるような視野の狭さを感じるが、出遅れを取り戻すには結婚という未来を用意する必要があるのか。
続いては日常回。赤ちゃんだった七緒家の末子が立ち上げれたり、藤君の姉・一華(いちか)が妊娠したり、と嬉しい時間の流れが感じられる。この回は、春の到来と共に、西郷さんにも春が来たことが衝撃すぎて、他の事が頭に入ってこない。
また季節は流れて、5月23日の藤君の誕生日回。そういえば新年度で学年が変わっても、クラス替えなどの場面は割愛されてますね。だって、2人とも同級生に友達いないもんね…(笑)
サプライズでお祝いされただけでも感無量の藤君。だが遊園地デートも用意されていた。この所、外出が多いですね。朝から晩まで はしゃぎすぎて途中で体力がゼロになり眠ってしまう藤君は まさしくヒロイン。仙石さんのしたこともヒーローっぽい。交際後も男女逆転交際が続いているようです。
水着回、そして花火デート回。なんだか『3巻』辺りの日常回に戻っている気がする。ただし1年前とは2人の関係が違う、というのは上述の通り。そして この前後から匂わせられるキスするする詐欺が始まっている。これは最終回に向けての布石だと思えば良いのか。
最終話は文化祭。全員集合のお祭り回となっている。
実は文化祭が重要な局面だというのは再読するとフラグがしっかりあるのだが、フラグを立てたのは『2巻』でそこまで記憶にないので、ちょっと唐突な感じがする。キスするする詐欺と合わせて、文化祭が勝負ということを匂わせておくべきだったのではないか。
文化祭が重要だと思わない一因は藤君にあって、彼は その前から結婚してとか花嫁にしてとか約束を連発している。花火回でも分かる通り、彼は記念日を連発して本当に大事な日が分からなくなっているパターンなのではないか。
読み返すと『2巻』、または1話(#0)での文化祭との対比が非常に面白いものになっているが、それは作者の集中力や読み返した記憶があるから効果的なのであって、ライトなファンには表層面しか伝わらないのが残念。やっぱり事前に藤君に回想させて、読者に記憶をよみがえらせるような手法があった方が良かったと思われる。
ファッションショーでは これまで一度も見られなかった仙石さんの姿が見られる。そして彼らは高校最後の文化祭で、もう一つ約束をする。1年前の約束を叶えた彼らだもの、将来的な約束も きっと叶えられるだろう。
ラストの藤君の不意打ちも見事。#0から『5巻』辺りの物語の半分までは藤君のターン、そして『6巻』から仙石さんのターンへと変わっていったが、最終回でまた藤君が猛烈にアピールしたことで、物語が循環したような心地よさが生まれた。おまけ では すぐに仙石さんのターンになり、この2人は こうやって攻守を交代して、一生 敵わないと思いながら相手に恋をしていくのだろう。
交際したから藤君がオネエ口調を止めたり、自分のスタンスを変えることが無くて本当に良かった。その人の持つ個性を殺すことなく、恋愛していく様子を丁寧に描いた本書に出会えて良かったと心から思う。そうそう、最後までスタンスが変わらないと言えば七緒もそう。暴走要員、当て馬、オチ担当と中盤を支えてくれたことに感謝したい。