《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

読切から長編化した白泉社作品の序盤では恋愛は飾り。日常回で いかに話を引っ張るかが大事。

水玉ハニーボーイ 2 (花とゆめコミックス)
池 ジュン子(いけ じゅんこ)
水玉ハニーボーイ(みずたま )
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

オネエと侍、と時々バカ。カオスな三角関係!? 第2巻!強さを求める剣道部主将の侍・仙石さんと、女子力最強のオネエ男子・藤くん。仙石の嫁の座を狙う藤だが、仙石に斬り捨てられ、交際相手(?)の七緒に邪魔される日々。そんな中、藤家でまさかの交際宣言!? 文化祭でまさかのウエディングドレス!?止まることを知らないハイテンションラブコメ!!

簡潔完結感想文

  • 日常回&新キャラ続々登場という新人作家さんの白泉社の王道コースを爆走していく。
  • 本格連載スタートで あちこち に布石や伏線がある。約束の成就は作中で1年後かな?
  • 通常のヒーローだと しゃらくさい演出も、女ヒーローだと受け入れられる現象が多数。

泉社の商魂の逞しさが見え隠れする 2巻。

この巻の収録分から本格連載がスタートしている。読切短編から長編化になった作品において大事なのは、いかに恋愛を保留させるかである。読切短編で良い感じになったはずの男女2人の関係を一旦リセットし、そして色恋沙汰と近すぎず遠すぎずの距離を確保しながら日常回を進めるのが初長編の序盤の流れである。匂わせはするが核心はつかない。その絶妙な匙加減と、話や世界の広げ方が作家さんには求められる。
また本格連載の人気に便乗して作者が過去に発表した長編とは全く関係のない これまで未収録だった読切短編を収録する。この『2巻』は本編が1/2、特別編1話、そして過去の読切短編が2/5を占めている。個人的には 折角エンジンがかかってきた本編をもっと読みたいが、出版社的には いつ終わるともしれない長編の人気に早いうちに便乗しておけ、ということなのだろう。なにも『2巻』に詰め込まなくても、とは思うが…。

上述の通り本格連載が始まったことで、恋愛を早期に決着しなくてよくなり、作品内の要素の詰め込みも減ったように思う。特に女ヒーローである仙石(せんごく)さんが自分の気持ちに早急な答えを出す必要性がなくなったので、彼女が求める「強さ」などの肩に力が入った要素が少なくなり、自然とコメディ色が強くなって作風も柔らかくなったように感じられた。

長期連載になったことで設定の上に ややこしい設定が生まれ、それが笑いを生んでいく。仙石さんや藤(ふじ)君、七緒(ななお)一族などマイペース組は どんな状況でも逞しく生きていけるが、その歪みは常識人の心の傷となって波及する。本書で一番、周囲に振り回されているのは藤君の父親ではないだろうか。仕事で出張ばかりしていたら息子は立派なオネエになっていた。家庭を顧みなかった報いであろうか。本書で一番好きなのは仙石さんが表情を無くした時か、藤君の父親が膝から崩れ落ちる時である(笑)


きなり日常回&新キャラ7人増加という前代未聞の本格連載のスタート。といっても7人とも、留年し同級生となった七緒の弟妹である。彼は8人兄弟の長子だったのだ!
『1巻』の感想でも書いたが、本書は新キャラが増えるといっても身内が多いので、最初から親近感を持って接せられる。

七緒の7弟妹が登場すると一気に時計野はり さん『お兄ちゃんと一緒』『学園ベビーシッターズ』感が出る。

そして改めて思うのは、王道の設定を男女逆転でやっているということ。もし仙石さんが男性なら、男女の垣根なく話題の中心にいて、周囲からキャーキャー言われる場面はヒーローのための過剰演出に見えるだろうが、そうはならないのは やはり女性だからだろう。同性からモテても男性とは縁遠い、そんな仙石さんの性格の長短が描かれているから押しつけがましくない。
そして もし仙石さんが性転換しても、少女漫画的にはヒーローになりづらいとも思われる。剣道部・硬派・身なりに気を遣わない男性をキャーキャー言う風習は現代日本、特に少女漫画では絶滅している。ヒーロー像も世間の流行に乗っかっているから、こういう同時代性のないヒーローは格好良くても使いづらいのだろう。ここも男女逆転だからこそ出来るヒーロー像で、仙石さんは貴重な硬派ヒーローを実現していると言える。

男女逆転と言えば、藤君の設定もそう。お弁当作りが得意だけど、ちょっぴり おバカ、という数十年前から存在するヒロイン像である。彼が女性で内気なヒロインだったら、イラっとくる面もあっただろうが、オネエ口調で恋愛面はグイグイ責めるから気持ちが良い。そして身長は藤君の方が高く、絵面的には彼の方から責めたり、時には頼られることもあるから攻守交替がスムーズで面白さに幅が出る。

使い古されたような設定も、男女逆にするという大きな価値観の転換で新鮮になる。それはヒーローが常にヒロインの上位にいるべき、という固定観念が少女漫画読者の中から消えつつあるから出来る。その意味では藤君は読者が望む最先端のヒーローなのかもしれない。


ヒーロー側の方が常に高スペックというのも伝統的な立ち位置で、本書においては知力体力共に女ヒーローの仙石さんの方が優れている。逆を言えば藤君は おバカなのである。
試験を前に勉強回となる。これも日常回である。勉強回は男女の学力差があって、教える側と教えられる側に別れないと成立しないから、差があればあるほど便利に使えるのだろう。

勉強会の舞台は藤君の家。そこで仙石さんは藤の母親に遭遇する。藤君は4姉弟の末っ子長男で、長女とは10数才離れている。長女がアラサーということは、母も そこそこの年齢だろうが、若作り。ちなみに藤の父親も幼く見える人。これは少女漫画家特有の上の年齢の人を ちっとも描けない画力だからなのか、わざとなのか…。

仙石さんが家の中で見る作りかけの服は、随分と長いロングパスの伏線となる。最終回は『1巻』の#0だけじゃなく、長期連載がスタートした『2巻』の要素も取り入れている。

警戒心が強く、人の気配があると あまり眠れない仙石さんが藤君の部屋で、肩に寄り掛かって眠ってしまう、それだけで彼女がどれだけ彼に心を許しているかが分かるという描写が良い。やや頭でっかちな仙石さんが思考より肉体が反応して、藤君の受け入れ態勢を整えている。


いては文化祭回。初長編作品では、いつ終わるか分からないので、ハイペースに学校行事を消費しがち、というのも一つの あるある である。
仙石さんだけクラスの人と衣装が違う特別待遇も、男性ヒーローなら、読者を楽しませる人気演出だと辟易するところだろうが、仙石さんなら別に。普段しそうもない格好を見られただけで嬉しい。
藤君は家庭科部の活動でファッションショーをする。実は仙石さんが藤君の家で見た手作りの衣装は本来は文化祭のショーに出す予定だったのだが、しかし『1巻』で仙石さんと七緒の剣道対決に割って入り怪我をしたため、彼の制作はストップしてしまった。そのため仙石さんは借りを返す意味で、ショーのモデルを引き受ける。相変わらず堅苦しいが、様々な挑戦をして視野が広がっていく感じが良い。強引に巻き込まれたからこそ彼女にとって新しい経験・気持ちが生まれる。

そして この日、藤君が仙石さんと交わした約束は、将来的に果たされる。読み返して気づく、長すぎるパスであった。

作者は『2巻』にして最終回の構想を まとめていたのだろうか。これで いつでも終わる準備も整った。

特別編は、また作品内の治安が悪い。仙石さんが立ち向かう相手として犯罪がある。剣道しか取り柄のない筋肉バカという設定に作品が とらわれ過ぎている気がする。もっと日常回でいい。

「よろしくブラザー?」…
母の再婚によって、連れ子同士が兄弟になっていく話。

母親たちの身勝手さは怒りも覚えるが、親を容赦なく死亡させる親殺しの白泉社にしては、平和な家族とも言える。もしかしたら両親の 後はお若い者同士、という強制的な仲良し作戦かもしれないし。
主人公が何も出来ない年少者にイライラするのではなく、しっかり者の兄弟のせいで距離がなかなか縮まらないという展開が良い。色々考えてしまうからこそ動けないのは仙石さんに通じるものがあるような気がする。

「冬空に響く」…
コンビニでバイトしている男子高校生・長谷川(はせがわ)は とある女性客が気になるが…。

自分の声を封印した女性が長谷川との交流によって、自分の気持ちを発していく。この時、長谷川が嫌というほど彼女の長所を話しているのが、良い対比となっている。

妻に出ていかれた男性が娘を育てると親子ともども不幸になる、という設定にどこか既視感があると思ったら、少し前に読んだ三次マキさん『PとJK』で見たんだった。この場合、母親に親権が与えられる訳ないし、父親が育てても恨み言ばかりの虐待になる。困ったものだ。長谷川が彼女の生活を立て直してくれると良いのだが。