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少女漫画と小説の感想ブログです

さすが女ヒーローの仙石さん。自分のトラウマも自分で解決してしまったぜッ☆

水玉ハニーボーイ 9 (花とゆめコミックス)
池 ジュン子(いけ じゅんこ)
水玉ハニーボーイ(みずたま )
第09巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

上げまくれ、恋のハードル!!!「仙石さんのいじわる」侍・仙石さんとオネエ男子・藤くんが両片想いを拗らせている中、仙石父が帰国! さらにクリスマスに2年参りと、年末の怒涛の追い込みでついに2人の関係が!? 玉突き事故で、藤&七緒の迷カップルにも転機が訪れ……大変動の第9巻! 新たなステップをお見逃しなく☆

簡潔完結感想文

  • 女ヒーローの仙石さんはヒロインとの1人2役で自分で自分のトラウマを解消する。
  • 恋愛を解禁した仙石さんは年末年始の冬のイベントを利用して一歩前へ進んでいく。
  • 交際までの事前準備と事後報告。何だかんだで恋愛偏差値が低めの2人が可愛い。

想より1巻早くゴールインする 9巻。

やっぱり本書の面白さは男女双方がヒーローとヒロインを行き来できる点だと再確認した。序盤は オネエ 口調の藤(ふじ)君が普段は男ヒロインでフィジカル的には最弱なのに、しっかりとヒーロー役をこなすメンタルが備わっている所にギャップから胸キュンが生まれると思っていた。だが この『9巻』では仙石(せんごく)さんが凛々しい女ヒーローでありながら、しっかりヒロインをしている場面にやられた。『9巻』ほど仙石さんが何度も可愛いと思った巻はない。特に勝負と勝ちにこだわる仙石さんが藤君に白旗を上げた場面の可愛さは特筆に値する。この場面が見られただけでも長すぎる恋愛の停滞が帳消しになったような気がした(再読したら やっぱり長すぎると思ったけど)。

『9巻』で恋愛の最後の障害が女ヒーローの仙石さんの過去の喪失感にあることが分かった。いわばヒーローのトラウマという少女漫画の典型的な再終盤の展開だが、本書では その解決法がユニーク。ヒーローのトラウマを、仙石さんがヒロインとなって解決するという1人2役が見えた。藤君は仙石さんの事情に介入しない。ただ話を聞くだけ。だけど彼の存在が仙石さんの原動力になったのは間違いなく、藤君の価値観が仙石さんを変えた。この介入し過ぎない塩梅が とても心地よかった。

ようやく高校2年生の終わりになって交際する2人。白泉社漫画って、他社に比べて片想い(または両片想い)時期が非常に長く、そして交際開始時期が遅いような気がする。恋に結論を出すことから逃げているのはヒロインではなく作品自体である。そういえば直近に読んだ伊沢玲・津山冬さん『執事様のお気に入り』も高校2年生の終盤で交際が始まっていたなぁ。そして交際までの時間が長すぎて、蜜月の期間が短すぎる。更には高校3年生は進路問題が出てきちゃうのに。長期連載化を想定していないから高校2年生で物語が始まると、恋愛を進ませない1年間の日常回を経ると、もう高校生活が終わってしまう。これから全白泉社作品は高校1年生始まりにした方が良いかもしれない…。


頭は父との遭遇。…だが、空気を読んだ藤君が挨拶も そこそこに早々に帰宅したので何も起こらない。本当、本書の巻跨ぎって肩透かしばかりである。といっても これは藤君は、その人を仙石さんの「師範」としか聞かされてなかったので「父」だとは知らなかったから。

仙石さんは帰国した師範に夢中。指導されることが嬉しく、藤君は放置気味。父親と言えども異性であるから、藤君は面白くない。

そして藤君は姫(ひめ)の引っ越しの手伝いのお礼に、仙石宅へ招かれ、再度 父親たちと食事を共にする。その時、仙石父は藤君のオネエ口調も否定はしない。むしろ彼の作ったお味噌汁を褒める。オネエ口調が否定されないのは、藤君の、ひいては本書のアイデンティティーが崩壊するからだろうか。姫や西郷(さいごう)さんの兄など大人組から攻撃対象になる藤君だが、仙石父とは割と穏当。というか興味が持たれないのか…? まぁ、仙石さんが藤家に歓迎されるように、藤君も将来の親族とは仲良くなるということか。

実は仙石さんは師範ではない「父」との距離を分からない。だが、病院通いをしている西郷さんの兄に、仙石父の姿を病院内でよく見かけると言われて…。

老けて見える仙石父。アラサーの親だが年齢不詳な藤父のほうが老けてる可能性が高いが、貫禄は仙石父。

分の身体のことを隠していた仙石父。仙石さんが助言をしようとしても聞く耳を持たない。父子の断絶を前に男ヒロインの藤君は仙石さんに少しばかし お節介をする。と言っても彼女の傍にいるだけ。口を出さないし行動もしない。彼なら もっと仙石家問題に介入することも出来るだろうが、仙石さんが話さないからという理由で しっかりと線引きをしている。

仙石さんは母を亡くした記憶が ある種トラウマになり、「大切な人」を作らないようにしていた。自分が尊敬する最強の師範である父でも、母を守れないなら、自分は何も守れない。だから「大切な人」を作らず、ひたすら自分の強さだけを目指した。

父の入院の世話は藤君が、父親と距離を置く仙石さんに代わって行う。その甲斐甲斐しさに接して、父は藤君に娘と交際しているかを聞く。片想いとだけ言い逃げして、藤君は父のリアクションから逃げる。藤君の危機察知能力によって直接的な対決は無い。

その父は退院直後に日本を発つという。その前に父娘の会話をする2人。この場面、笑うな、と仙石さんに念を押されていても、父と娘の呼び方には笑わざるを得ない。普段 無口なのに、こんな面も持ち合わせていると分かれば、仙石さんも戸惑うしかない。

この親子の会話が頑なな仙石さんの心を溶かす。まず大切な人を亡くした父の現在の心境を聞けた。亡くしても残っているもの、得られたものがあるということも。「大事な人」が増えることは不幸なことではなく、幸せなことなのだ。こうしてトラウマの解消は成された。

仙石さんの父は、藤君への抵抗勢力にはならない(表立っては)。藤君が父に認めてもらう、という展開も出来ただろうが、藤君の味噌汁が認められて、その意味もあったのか。藤君が同居しても父は食に文句を言わない。昔ならば味噌汁は家庭に入るという象徴だったのだから、藤君の嫁入りも認められたも同然だろう(違うか)。


してクリスマス回。この日、仙石さんは告白しようとしていた。これまでのような半端な覚悟ではなく、トラウマを乗り越えた真の告白である。
だがパーティーでは告白できず、一度は帰宅するも、仙石さんの気持ちは止まらない。ここに これまでなかった恋の躍動感が生まれている。理性より情を優先する珍しい仙石さんが見られるし、読者の大半が忘れているであろう「白手袋で顔をはたく」勝負の決着(『3巻』)も、藤君からの手袋のプレゼントによって再現される。

ここからが名場面。勝負事に負けたくない、強さだけを目指していた仙石さんが「参りました」というシーンは その表情と共に心を動かされた。そして仙石さんは藤君に想いを伝える。

こうして9巻分の片想いが実った藤君は現世に思い残すことなく雪の中、昇天する。寒いよパトラッシュ。実際は、仙石さんの手作りお菓子を食したことで入院する。これは七緒(ななお)と一緒。この漫画、入院する人 多いな。


が交際を前に まだ藤君に残っている問題として、設定上の七緒との交際があった。ちなみに仙石さんは交際する、ということが分からないので、想いが伝われば、交際に関してはどうでもいいというスタンス。ドライである。

しかし そうはいかない藤君は七緒との清算をするために鬼ごっこ対決をする。紆余曲折あるが、オネエ男子らしい優しさで藤君が勝利。そして藤君が勝って告げる命令も、彼らしいものだった。破談や絶縁では七緒が物語から追放されてしまうが、これなら七緒はずっと一緒にいられる。本書らしい笑いの中に一抹の切なさが入る良い、お別れだったのではないでしょうか。交際も随分 長かったなぁ…。

七緒の当て馬役も本当に終了。ライバルであり交際相手という奇妙な関係が成立したのも奇怪な七緒だから。

は恋人たちの季節でイベントもたくさんで、初詣回となる。年が明け、新しい日が昇る時、2人は交際を始める。クリスマスといい、何かと恋愛を始めるには区切りが良いイベントが多いのも冬が恋の季節たる ゆえんであろう。


白や交際の覚悟を決めた仙石さんはオープン。交際も公表するし、藤君への気持ちも隠さない。もう彼女の気持ちは揺らぐことはないだろう。
この回は交際を始めた2人の周囲への地ならし、と言ったところか。西郷さんを始めとして周囲の人間が2人の交際を知っていく。

こうして周囲への追及が多く、忙しく始まった交際だが、藤君もまた交際の経験値はゼロだから、2人はどういう関係性でいれば分からない。しかし2人は交際をしながら自分たちだけの関係をゆっくり模索する。なんでも正直に話せる彼らの関係性は気持ちがいいものだ。


「貝樹桜子の怪奇な兄達」…
身寄りを亡くした貝樹 桜子(かきき ようこ)と幽霊・宇宙人・悪魔の3人の兄達との日常4コマ。

もうちょっと読んでいたい設定と内容。まぁ続き過ぎたら飽きるだろうけど(笑) この作品も白泉社というよりスクエア・エニックス系の匂いがする。