池 ジュン子（いけ じゅんこ）
水玉ハニーボーイ（みずたま ）
第07巻評価：★★★（6点）
総合評価：★★★（6点）
知ってはいたけど、愛が重い!! 「ファーストキス、予約したからね★」オネエ男子・藤くんの告白攻撃を切り捨てていた侍・仙石さんが、ついに藤に恋★★★ だけど未だに藤くんと交際中の筋肉バカ・七緒先輩がライバルとして立ちはだかり、奇妙な両片想いに!? さらに藤家の美人３姉妹が勢揃い★ 個性強めの姉妹に翻弄された侍は…!? パワフルに第7巻!!
簡潔完結感想文
- 修学旅行編の続き。一大騒動を巻き起こそうとしているけど小粒。巻を跨がなくても…。
- 藤家の4姉妹、いや3姉妹+弟が全員集合。長姉の結婚というより仙石さんの嫁入り準備？
- すれ違い回からの誕生回。性別を逆にしたら一瞬で分かる お約束なのに、分からなかった。
長女の結婚は、仙石さんの結婚への道と読めばいいのか、の 7巻。
うーん、盛り上がらない。巻を跨いだ修学旅行の誘拐事件も身内の犯行でアッサリと終了（顔を知らない人間を誘拐しようとする人たちの思考が怖すぎる）。折り返し地点の『6巻』から見事に女ヒロインになった仙石（せんごく）さんが藤（ふじ）君に告白しない理由を色々と考えるのは、頭でっかちな彼女らしい。けれど高校2年生から受験や進路などを見据えているのなら、自由に高校生活を送れる残された時間が日一日と少なくなっていることも分かっているだろう。その癖、仙石さんは藤君が特定の人の隣にいることは許さず、割って入ったり落ち込んだりと自分勝手な行動をしている。
全部、連載の終了を少しでも伸ばそうという目的なのだろうが、読者としては納得しかねない理由で両想いが成就しないのはストレスに感じる。作者の中で、次の文化祭をゴールにしてしまったから そこまでは何も動かせないのかな。ちょっと意固地な作者が仙石さんと重なる。この何も起きない中盤で、あれだけ格好良かった仙石さんが段々とワガママなヒロインに見えてしまっているのが残念。
唯一、楽しみを見つけるのは、作品内で進んでいる藤君の長姉・一華（いちか）の結婚話。これは彼女の結婚が楽しみなのではなくて、そこに至る過程が仙石さんが藤家に入る準備に読めるからだ。『7巻』で藤君の3人の姉が全員そろい、仙石さんと一堂に会する話がある。これが仙石さんが将来的な小姑たちに認められる お話に見え、藤君の両親と姉たち全員と顔を合わせていることから、少女漫画的には仙石さんの結婚に何ら障害が無いことが発表されたと言える。仙石さんからの告白も2人の交際場面も読みたいシーンは読めていないが、結婚だけは既成事実のようになっているんだと自分を納得させて作品を楽しむしかない。
藤君が男ヒロイン、そして仙石さんが女ヒロインと全体の半分で役割と攻守交替しているのは面白い構成だと思うが、仙石さんが動かない理由が弱すぎるのが足を引っ張っている。これによって物語が進まないことばかりが気になり序盤のように作品を隅々まで楽しめない。その気持ちは感想文を書く再読時に強くなるばかり。再読で作品世界の深さを知ったり、小ネタを拾うよりも、恋愛が動かないことばかりが気になってしまう。後半の仙石さんのターンは もっともっと短くて良かったのではないか。
巻を跨いだ割に、あっけなく解決する誘拐事件。犯人は身内に変人が多い本書らしい人だったが、善良な市民であるはずの実行犯の動機や、顔を知らないまま犯行に及ぶ思考停止しているのが好きになれない。本書には悪意が無いのが特徴で、恋のライバルとの対決も気持ちよく決着し、だからこそ誰も退場しない世界が構築されている（西郷（さいごう）さん・七緒（ななお）の恋の敗者たち）。だが、今回は悪意が無いからこそ変な決着の仕方になってモヤモヤが増した。これなら普通に西郷家に恨みがある人の犯行とかの方が、その犯罪に見合った動機だった気がする。
事件解決後の藤君のリアクションは、さすが男ヒロイン。ヒロインが やると あざとく見えてしまう行動や場面でも、本書には男女それぞれのヒロインがいて、ヒロインのお仕事が分担できるのが強みだろう。
早くも舞台が高校に戻って、臨時教師として藤君の3番目の姉・珊瑚（さんご）が登場。4姉弟の中で唯一、実家を出ていて1人暮らしをしているという設定。マッドサイエンティストのような性格だが、実は藤家では異端の存在。家を出ていったのも毛色の違う自分を気にしないようにかもしれない。だが一番 年齢が近いということもあり、藤君は珊瑚に親近感を持っている。一番 遅い登場だが藤君との距離が近く、舞台となる学校で働いているため登場シーンは多め。
仙石さんたちは高校2年生で、季節は秋になっているため卒業後の進路の話題が出る頃。仙石さんは藤君が海外の大学を考えているのではないかと思い、不安になる。告白しないくせに、自分から遠ざかることは許さないという仙石さんの面倒臭い性格が見え隠れする。ちなみに仙石さんは剣道の強い学校への進学を考えている。結婚は約束されたも同然だが、大学は別々の進路に行く可能性が高い。作者が文化祭をゴールにしているのなら、先に本編では描けない大学進学の話を予感させようということなのだろうか。仙石さんは、見学で出会った軽いノリの男の先輩に、大学の部活でちょっかいを出されることも決定済みなのか…。
山に秋の味覚を採りに来た一行。姫と七緒の弟妹に加え、今回は七緒の幼なじみ・乃木（のぎ）先輩がいて騒がしい。なぜなら乃木は更のことが好きで、意識過ぎるあまり彼女の前だと ぽんこつ になってしまうから。七緒も乃木も実は思慮深くて、人の変化を目敏く見つめるというのが共通点か。
…にしても、この話は一種の「友人の恋」枠なのだろうか。普通ならヒロインの友達の恋を進めることで、主役カップルの進まない恋愛から目を逸らすために用意されるのが「友人の恋」である。が、本書の男女ヒロインは2人とも固有名詞を持つ友達がいない（笑） そこで選ばれたのが七緒の友達の乃木。主役たちが同じ学校内に友達がいないが故に起きた珍事と言えよう。
そして少女漫画では山に入れば遭難するのがお約束である。
続いては3人の姉が揃った藤4姉弟と仙石さんのお買い物回。次女・双葉（ふたば）によると珊瑚と仙石さんは共通点も多いらしい。藤君の女性らしさは姉たちの影響によるものも大きいが、女性の好みのタイプも姉に影響されているのか。なかなかのシスコンで、仙石さんは大変だ。まぁ珊瑚がいたから、仙石さんは藤君に出会えたという見方も出来るが。
買い物の目的は、結婚式の為の買い出し。一華は出来る限り小物を自分たちで用意するために道具を買い揃えていた。そして制服で結婚式に参列しようとする仙石さんに服を買ってあげる。
この買い物と通して、仙石さんは3人の姉に振り回される藤君を見て、彼が育ってきた空気感を肌で感じる。もしかして一華の結婚の話、というよりは、藤君と仙石さんが結婚した後の、小姑たちとの交流の様子かもしれない。藤君は多少歪んでいるとはいえ、姉たちにいっぱい愛されて育ってきた。その末っ子の藤君が、これ、と決めたのが仙石さん。姉たちは可愛い弟の応援をする。七緒家の8人兄弟の半分で目立たないが、4人兄弟も21世紀の少女漫画では珍しい設定（逆ハーレム同居などは除く）。七緒家も藤家も、温かい家庭、兄弟愛があるという描写は本書で好きな部分だ。
ラストは君が仙石さんに余所余所しくなる すれ違い回。これ、性別を逆にしたら少女漫画読者なら正解がすぐに分かるものですね。彼氏の誕生日のために、バイトや好みを彼の友人から聞き出し準備を頑張るヒロインと、その すれ違いに悩む彼氏は少女漫画の定番。
こうして仙石さんが落ち込んでからのサプライズ誕生日回となった。まだ恋人ではないので出来ないという面もあるだろうが、2人きりでもなく、愛の象徴・アクセサリを送るでもなく、皆で祝う誕生日回を男性が主導するというのは本書ならではの展開。恋愛以外で味わう こういう幸福感は好きなんだけどなぁ…。
