《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

互いに身動きの取れなくなった恋愛物語の中弛みを防ぐのは、東京からの訪問者たち。

青夏 Ao-Natsu(4) (別冊フレンドコミックス)
南波 あつこ(なんば )
青Ao-Natsu夏(あおなつ)
第04巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

東京から来た友達グループや吟蔵(ぎんぞう)たちとの、サマーキャンプみたいな夏休み! でもその夜の肝だめしで、くじ引きでカップルになった菅野(かんの)が理緒(りお)に急接近! そんな菅野のことを、明らかに意識しはじめた吟蔵に、理緒の心も大きく揺れて――!?

簡潔完結感想文

  • 誤解も解けて、心の距離が縮まってから交際を申し込むジェントルな当て馬・菅野。
  • 男性たちの密かな対決は最後まで引き分け。夏休み明けの東京では菅野が有利すぎる。
  • 諦めていた恋心を奮い立たせる友人に続いて、諦めた夢を目覚めさせる理緒の母 登場。

し菅野が夏休み中 この地にいたら恋の戦士たちは死んでいた、の 4巻。

夏休みも中盤に入り、作品的にも『4巻』のラストで折り返し地点に入る。
恋愛的にはヒロイン・理緒(りお)は既にフラれており、相手の吟蔵(ぎんぞう)も自分の人生の進路を変えない限り、理緒への気持ちを明かすことはないため、膠着状態が続く。吟蔵は明らかに理緒への想いに目覚めつつあるが、ハッキリする訳にはいかないので歯がゆい展開が続く。この辺りは もし初期メンバーだけで話を続けていたら、絶対に中弛みした部分だろう。
それを防いだのが『3巻』から登場している東京の高校生たち。彼らの存在によって理緒、そして吟蔵 双方に心の膠着状態を解放する場面が用意されている。特に吟蔵にとって、理緒の東京での生活の仮想敵である菅野(かんの)の存在は大きいだろう。あからさまに理緒に好意を抱く菅野によって吟蔵は独占欲や対抗意識を隠さなくなってきている。東京から掛かってきた理緒への電話で、その存在を知っただけで警戒心を抱いていた吟蔵は、本物を目の前にして無茶をしてしまう。足に怪我をしながら全力で泳いだり、熱いお湯に浸かり続けたり、男性同士の理緒を巡る熱く、そして意地っ張りな戦いが続いている。もし東京組が3泊(だったかな?)で この地で離れなかったら、吟蔵と菅野の戦いは延々と続いていただろう。そして一層 過激になっていただろう。物語的にも良いアクセントになったし、吟蔵が理緒を1人で東京に帰したくなる動機にもなるし、菅野の存在は光っている。
菅野は性格も真っ直ぐで、本当に素晴らしい当て馬であった。そして当て馬らしく、理緒の心を揺るがすのではなく、吟蔵の心を奮い立たせている所が見事。もし ここで理緒が簡単に菅野も良いな、と思ってしまったら、物語としては面白いが、吟蔵への愛が少し濁ってしまっただろう。菅野のアプローチ直後に、理緒の心に吟蔵が絶対的な地位にいることを示させることで、菅野のことは人生で初めて自分と交際したいと言ってくれたことへの動揺や喜びに留めている。ヒロインを優柔不断な人間にしないという配慮からも、本書は細心の注意が払われて構成されていることが分かる。

そして菅野たち東京組の帰郷と入れ替わるように、理緒の母親が実家に里帰りするのも飽きさせない展開だ。東京組の高校生たちによって理緒の恋心が再燃したように、理緒の母親は吟蔵の心に火を灯すことになりそうである。そして その吟蔵の人生の進路変更は、2人の恋愛の心理的障害の除去を意味する。それを どういう過程で描くのか、興味は尽きない。最初から最後まで こんなに面白さが維持する作品は本当に少ない。いよいよ中堅~ベテラン作家へとキャリアを積み重ねる作者の技量の成長がしっかりとみられる作品である。


き続き東京から来た高校生たちとの交流が続く。
夏と言えば肝だめしで、男女ペアで決められたコースを往復することに。理緒のペアは菅野。肝だめし効果で、菅野と手を繋ぐ理緒。そして物理的だけでなく、精神的にも打ち解けた雰囲気になったことから、菅野は理緒の恋愛事情、つまりは吟蔵への気持ちを聞き出す。ここで菅野が自分の好意だけを押しつけるのではなく ちゃんと距離を見計らっているのが良い。こんなに相手のことを考えてくれる当て馬は咲坂伊緒さん『アオハライド』の菊池(きくち)くん以来ではないか。初めは電話口の仮想敵だったという推移も同じく『アオハライド』の成海(なるみ)と重なる。

こんなん されたら好きになってしまう! 田舎に来なければ菅野と恋してたルートだったのかなぁ…。

菅野は理緒から話を聞いてみると、2人の出会いは少しも「運命的」ではないことが分かる。だから菅野は正式に理緒との交際を申し込む。彼らの出会いが運命でないなら合コンでの出会いという自分にも機会があると考えたのだろう。その返事は東京に帰ってから。これは菅野に許された特権である。この話は後に吟蔵も知ることになり、夏休み後には理緒が菅野と接触してしまう、という吟蔵の危機感とタイムリミットになる。

理緒は好きだけど断られた男性と、自分を好きと言ってくれる男性、どちらを選ぶのか…。


だめしの後、東京のJKたちは恋バナに花を咲かす。そこで浮かび上がるのは理緒が誰が好きかということ。告白されても尚、吟蔵が心の真ん中にいる。
それを炙り出す友人たちの連係プレーが良かった。高校1年生で、まだ出会って4か月に満たない関係だが、理緒は大事にされている。周囲に比べて天然で、テンポが遅い彼女だから、初めての合コンも見せしめのように裏で嘲笑されていたのでは、とか、良い子ぶる理緒は陰で嫌われているんではないかなどと思っていたから、こんなにも腹を割って話せる人たちだと思わなかった。本当に本書には悪い人が出てこないのである。

友人たちは理緒との やり取りの文面が浮かれていることを察知していた。だから理緒のことを観察し、そして罠にハメた。地元の高校生たちにも理緒の好意はバレてはいるが、まだまだ相談できるような関係ではない。そこで東京から友人を召喚し、理緒の心を整理し、そして助言するという役目を与えている。失恋から立ち直らせてくれる大切な友人なのである。

そして『3巻』あたりから、地元組のナミオ と さつき の恋が描かれる。ナミオは来春から東京で漫画家修行をするため別離が決まっている。その運命の中で どういう風な恋の結末を見せるのかは、理緒の参考になるのだろう。


性たちの密かな戦いは続いており、吟蔵は午前中の実家の酒屋の手伝いを速攻で終わらせて、菅野が理緒に近づかないために牽制する。だが高校生たちで神社に行く前に入った町の共同浴場で、菅野と浴槽で我慢対決をしてしまったため、2人は のぼせてしまう。
水泳対決に引き続き、この勝負も引き分け。だが、未来は常に菅野に分がある。理緒の傍にいるために生き方を変えられるのか、吟蔵の覚悟が問われる。

吟蔵の急所を的確に狙う菅野。同性の前では身も心も裸になって、ジェントルマンでいる必要がないのか。

本当に些細なことだが、本書でも男性の入浴シーンは少女漫画特有のバスタオルを巻いて入浴している。その割に↑のように湯船に浸かっているシーンでは、普通のフェイスタオルの大きさに見えるのが気になるところ。雑誌によっては お尻NGな所もあるみたいだし、鉄壁のガードのためにバスタオルを使っているのか。いや、本書の場合は浴室にバスタオルとフェイスタオルを2枚持ち込んでいる描写があるなぁ。彼らは何で水滴を拭くのだろうか…。

吟蔵の介抱をしようとする理緒だが、吟蔵は強い口調で断ってしまう。これは一緒にいる未来を描けない苛立ちから出た言葉だろう。東京では菅野が理緒を待っている。だが動くことは出来ない自分。その焦燥が吟蔵を苦しめる。
しかし理緒は その口調に傷つき、菅野の介抱をするといって吟蔵から離れようとする。だが離れゆく手を吟蔵が引き止める。吟蔵の心は明らかに傾きかけているが、まだ行動には出せない。歯がゆくも むずがゆい展開である。

こうして夏休みと作品の折り返し付近で、東京組は帰って行く。彼らの滞在中、恋愛面では菅野という波紋を起こしていた。


入れ替わりのようにやって来るのが理緒の母親。理緒の母親の役割は、吟蔵の将来像に波紋を起こすこと。有名なサイトのデザインをしている理緒の母の仕事を間近で見て、吟蔵は封印していた願望が顔を出す。

ここまで半分は吟蔵が動かない理由が描かれていたが、ここからは動き出す理由が描かれるのだろうか…。