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少女漫画と小説の感想ブログです

天然メンヘラ VS. 後天的メンヘラが、史上最低のヒーローを巡って 泥沼の戦いを繰り広げる!

Oh! my ダーリン (4) (講談社漫画文庫)
上田 美和(うえだ みわ)
Oh!myダーリン
第04巻評価:★☆(3点)
 総合評価:★★(4点)
 

妊娠。17歳のひかるはとまどうばかり――。そんな折、だんな様のシンちゃん(=担任教師!)との恋を描いた小説が、なんと大賞を受賞! 華々しいライトを浴びるひかるだが、そんな彼女を見つめる視線は優しいものだけではないのだった。同級生のレイプ、カンニング、生徒をかばったシンちゃんへの、罰……。圧倒的な人間の「悪意」や光と影を描く。

簡潔完結感想文

  • 少年漫画同様にインフレは止まらない。特に「別フレ」は不幸のインフレで過酷な運命を演出する…。
  • マスコミを操作すれば平凡な人も一躍アイドル。時代の寵児から一気に転落する落差を大衆は待望する。
  • 隠し子騒動で懲りたかと思いきや高校生妻を妊娠させる下半身が だらしなさすぎる20代中盤のヒーロー。

福の象徴だったはずの香りも、やがて自分の気分を害するようになる 4巻。

相変わらず読ませる。そこは本当に凄い。
そして怒涛の展開だけではなく、人の配置や小道具の使い方など舌を巻く部分が多い。

その展開には現実的に考えれば かなり あり得ないものも含まれている。
その1つがヒロイン・ひかる の小説家デビューだろう。
『1巻』から ひかる は「小説家になりたい」という文面はあるものの、まさか それが実現するとは思わなかった。精神的に幼稚すぎる彼女が書いた小説が人に評価されるほど優れている訳がないと思うものの、どうやら彼女の未熟な文章の裏にある、とある秘密の匂いを嗅ぎ取った者による采配が背景にあるらしい。優れているものより、売れるものを売り出す、そんなプロデューサーの目に留まった ひかる が時代の寵児になり、そして転落していくというのが『4巻』の内容である。

だが『4巻』で どうしても私は受け付けられない展開がある。
それが ひかる の妊娠だ。

そして私が幻滅したのは晋平(しんぺい)という人間だった。
なぜなら第2部では彼に隠し子騒動があって、身に覚えがあるからこそ、彼は その子の存在を認めようとしていた。ひかる は もちろん、彼女を傷つけてしまう自分も苦しかった あの騒動を経て、彼らは身体の関係を持つ。1部ごとに2人の距離が近づく構成の狙いは分かる。だが、近づいた途端これはない。

もしかして晋平は避妊をしない主義の人なのかと思ってしまう。
以前、彼が「一度 一線を踏み越えたら自分の気もちが抑えなくなりそう」(『3巻』)と言っていたが、これは避妊をしないで快楽を求める自分を自覚していたのか、と思ってしまう。
晋平は第2部で ひかる に手を出さない理由を頭でっかちに考えていたくせに、その理由であった教師と高校生の生徒という関係の内に彼女を妊娠させるとは…。

身体を重ねたからこそ起こる騒動だから話の流れとしては分かる。ただ心理的には全く納得できない。それは晋平への幻滅だけでなく、こういう展開を用意したら晋平のヒーローとしての資質が問われることになるのは明らかなのに、それでも この展開を物語に持ち込んだ作者の考えも全く分からない。
これが高校生同士の予期せぬ妊娠なら まだ展開として許容できるが、この夫婦は年の差が8歳あって、晋平側の性経験や性知識の不足ということは絶対にないことは証明されている。1年前には肝を冷やしたばかりだ。これまで ひかる の進路や将来をあれだけ心配していた男が、こういう未来を望むわけがない。言葉でどれだけ語っても、行動や責任が伴わなくて なにが大人か。晋平には高校生にない社会的立場や自分で彼女を養うという責任感があったはずなのに、それを根本から瓦解させて どうするというのだ。
私が多く読んできた2000年代の漫画では妊娠騒動が起こることは少ない。だが今、思いつく限りでは作中で妊娠した作品2つのそのどちらも本書と同じ「別冊フレンド」であることに思い当たる。この展開は、大味な展開が好きな雑誌の色なのかもしれないが、晋平という人間から人間性を全て奪うような展開に幻滅するばかりである。


婚生活も2年以上が経過し、高校3年生になった ひかる。3年時の担任は晋平。これは今後の展開のために必要な配置なのだろうが、ただでさえ危険な橋の教師と生徒の結婚で、わざわざ担任に据えるかね、とは思う。

クラスメイトには寮で同室の川崎(かわさき)、当て馬・小土居(こどい)と全員集合。そして成績の低下に悩む女子生徒・沖野(おきの)が新キャラ・キーパーソンとして登場する。晋平は担任として進路指導をすることで沖野に深く関わっていくのだが…。
中間テストで、沖野はカンニングペーパーを用意するが、それを小土居の机の下に落としてしまったため見つけた教師は小土居を疑う。更に何かと問題の多い小土居に退学処分が検討される。身の破滅を恐れた沖野は真実を話せないが、その真相を知った ひかる の ご高説によって沖野は謝罪をする。

この際、沖野は晋平に抱きついて号泣するのだが、愛されている自負がある ひかる は それを温かく見守る。精神的余裕が彼女を寛大にさせているらしい。「夫婦って ほんのちょっぴりの我慢や思いやりが とっても大切だったりするのね」、と少しの我慢も思いやりも無かった人が言うのだから鼻で笑ってしまうけど。
ただ この余裕や精神的安定、第2部開始の時も同じような状況だった。第2部開始時では「愛してる」が特効薬だったが、第2部の終盤ではそれも通用しなくあって錯乱するばかり。今回もまた同じことを繰り返すだろう。


うやら ひかる夫婦は、もう晋平の収入だけで生活をしているらしい。高校での学費は不明だが、ひかる が大学進学を希望する際は、晋平が学費を負担するらしい。そのため晋平は質素倹約し、自分の身の回りの物を買い替えないで、ひかる に お小遣いをあげる状態だという。

しかし そもそもが人並み以上の預貯金があるから、自分の亡き後、遺産目当てに ひかる に近づく男を排除するため孫の結婚を急がせた祖父。なら学費なり、生活費ぐらい援助すればいいのに。まぁ きっと晋平のことだから、結婚して夫婦になったら自分が支えるという意識なんだろうけど。

ひかる は卒業後のことを全く考えていない。
相変わらず晋平の嫁が夢なのだろう。そして それは もう叶っているから それ以上の展望を持たない。
これは1990年代と、2020年代の大きな違いだろうか。2020年代なら例え作中で結婚する展開があったとしても、女性側も何かしら自立の手段を持っている場合が多い。まぁ、本書もとんでもない方向から自立する。

それが、ある日、本屋で立ち読みした文芸誌の小説応募。「ちょっと文章書くのが好き」なのが取り柄の ひかる は、晋平との話を小説風にしようとする。新人賞の大賞の賞金は100万円で、この賞金で晋平の通勤カバンを買い替えることを目論む。こうして ひかる は1か月以上かけ完成させた小説を応募する。

小説を応募し終えた ひかる は自身の妊娠疑惑に直面する。元から不規則とはいえ1か月以上生理がこない。心配になり、本屋で妊娠に関する本を読むと、妊娠の初期症状に当てはまるものが多く…。

小説家でなくとも誰でも一冊 書けるのが自分のこと。ひかる は小説家として大成しなさそうだが…。

かる の妊娠が確定するが、好事魔多し。このことを晋平に話すのは事態が最悪な展開を迎えてからだった…。
この ひかる の優先事項の付け方は非常に疑問。色々と2人に障害を用意しているものの、こんな大事なことを伝えなくてどうする、と苛立つばかり。まぁ そういう心の動きこそ本書の面白さなんだろうけれど。

晋平に妊娠を話そうとする最初のチャンスに、晋平の部屋に闖入者が来る。それが沖野だった。厳格な父親によって転校させられそうだと訴え、今日 海外に発つ父の説得を晋平に懇願する。こうやって大事な話し合いを妨害されるのは、第2部の仮想敵・アヤコでも よく見られた傾向。アヤコの時もあったが、晋平の部屋に上がって、秘密や自分に有利な情報を手に入れるのも同じ展開である。

沖野は、小土居から 仄めかされたヒントもあって晋平の妻が ひかる である可能性を思いつく。ここで分からないのが この小土居の言動。彼はなぜヒントのように晋平の妻のことを沖野に話したのか。深追いするだけ衣傷つくから止めておけ、という同類だからこその同情による警告なのか、それとも2回も当て馬役を割り振られた腹いせで、ひかる と晋平へのささやかな復讐なのか。ただ その後、沖野が晋平の結婚相手を確信した際には、小土居は「だれかに一言でも しゃべったら二度と学校こられへんようにしたる」と言っているから ひかる の味方なのか。

この推理によって晋平に密かに恋をしていた沖野は、間接的に失恋した。しかも相手はクラスメイトで、長い間、関係を隠して近しい距離で生活していたこともショックを倍増させるものだっただろう。瞬時にそれを悟った傷心の沖野は晋平の家を飛び出すが、その夜道に暴漢に襲われ、性暴力を受けてしまう…。晋平は そのケアをするために沖野にかかりきりになる。


うして沖野に晋平を取られる形になった ひかる が出会うのが小説家の多々羅(たたら)。

ひかる が、妊娠の兆候が身体に はっきりと出る前に退学をしようと決意していた。
だが その翌日、ひかる の応募した小説が文談大賞受賞となり、校門前は多くのマスコミで溢れていた。いくら現役高校生の受賞という話題性があっても、今回の受賞は小さめの賞に過ぎない。それでも注目が集まるのは、多々羅の印象操作によるものが大きいのだろう。

これによって ひかる の側も晋平と話す機会を奪われる。接触の機会を奪えば、それだけ すれ違いが生じていく。また、ひかる も優先順位をつけられるような賢い人間じゃないから、最も大事なことを後回しにする。これだけ近い距離で生活しながらも妊娠の事実は彼に伝わらない。

一方、晋平も性的暴行を受けた沖野のケアで忙しかった。その凄惨な経験によって精神的に不安定になった沖野は、悪者を探す。その対象に沖野が選んだのが ひかる。自分から晋平を奪い、どん底の自分とは対照的に時代の寵児としてマスコミに騒がれる彼女に全ての怨念が向かう。
これまでも眼鏡を取り、髪型を変え、バージョンアップしてきた沖野は、髪を切り、最終形態へと進化してしまう。本書にメイン級で登場する女性は大体 狂うのだ…。

沖野は徹底的に ひかる と晋平を邪魔する。役割としてはアヤコと同じである。彼女は時代の寵児となった ひかる の私生活=結婚をマスコミにリークする。


分に迫りくる影を知らないまま、華やかな授賞式に出席する ひかる。彼女は晋平を担任教師として招いていた。
ここで問題なのは ひかる の執筆した作品が私小説風であることを晋平が知っているか、である。知っていたのならわざわざリスクの高い行動を取るべきではないだろうに。実際、多々羅には見抜かれているし。

そして ひかる の文章が どんなに お粗末でも対象を受賞したのは、作家でありプロデューサー的一面を持つ彼の慧眼だろう。彼は ひかる の作品から売れる「匂い」、そしてスキャンダラスな「匂い」を その敏感な嗅覚で嗅ぎ取ったのではないだろうか。第3部は匂いに包まれていると言っていい。

その多々羅の思惑通り、ひかる の一件はスキャンダラスな展開となる。
沖野の密告から、戸籍を入手したマスコミは、ひかる と晋平の結婚を事実として確かめる(これは内容が1993年の連載部分で、2008年の戸籍法改正で戸籍の入手が厳しくなる15年も前だからこそ出来る展開である)。

こうして ひかる と晋平は、理事長である祖母によって、二人で会うことは許されなくなった。これは妊娠の事実を ひかる が一人で抱える、ということでもあった。

晋平の周囲に沖野が まとわりつくように、ひかる の周囲には多々羅がやたらと現れる。
彼はペットショップで見つけて似てるからという理由でプードル犬を ひかる に贈る。いやいや、生き物って…。寮生活であるのに贈るのは理由があって、無理なら晋平に飼ってもらえというカマをかけるためでもあった。でも晋平も ひかる が自発的に飼いたいのならともかく、他の男から贈られた品を横流しされても、という感じであろう。この犬の登場は必要だったのかなぁ…、と存在意義があまり分からない。


断の関係である2人の徹底的写真はマスコミの狡猾な罠によって撮られてしまう。
ひかる と会えない晋平は夜の街に繰り出し、そこで沖野を乱暴した一味と遭遇する。彼らを警察に突き出そうとする晋平だったが、頭をビンで殴られ倒れてしまう。その連絡が ひかる のもとに入り、彼女は晋平のもとに駆け寄るが、その瞬間をマスコミは狙っていた。ひかる への連絡が晋平を尾行していたマスコミによるものだったのだ。

2人の結婚の事実、そして ひかる の受賞作が ほぼ実話であることが一斉に報道される。
そして男女交際禁止の学校の理事長の孫が結婚をしている事実がひかる に周囲の厳しい目となって突き刺さる。
職員会議によって、晋平は退職、理事長である祖母も解任された模様。ひかる だけは晋平によって この学校に留まれるように取り計らわれていた。それは転校よりも、この学校で友人といた方が幸せであろうという晋平の判断だった。だが一体、ひかる が何を許されたのかは不明だ。これは彼女を晋平と引き離して、また ひかる が1人で間違い続けるための布石でしかないだろう。

また直前のレイプ犯との暴力事件が晋平の攻撃材料となってしまう。だが弁解すると沖野のレイプ被害まで やぶ蛇に騒がれるかもしれないという晋平の配慮で彼は沈黙を貫き、この一件は事実として報道されていく。
小土居はリーク犯が誰だが分かっているから晋平に反論するよう水を向けるが、晋平もまた犯人が分かっていた。彼には教師として守るべきもの、沖野にセカンドレイプの苦しみを味わわせたくないのだろう。こういう点は根っからの教師である。

だが、当の沖野は ひかる の苦境は望んだように深まっても まだ満足しておらず、今後も嫌がらせの継続を宣言する。ひかる の地獄は続くのか。

沖野という復讐の鬼がいるから、妊娠について深く考えずに物語は進む。いつでも ひかる は被害者なのだ。

平の転職先は北海道。本書の運命の地は いつも北海道なのである。

ひかる は晋平の出発の日を知らず、ショックを受け倒れてしまう。その報せを聞いて晋平は、川崎の手配で寮に侵入し、ようやく2人だけで話す機会を設けられたことで、ひかる は ここで初めて自身の妊娠を告げる。

こうして晋平は2人で北海道に行く決意を固め、2時に駅のホームで待ち合わせをする。『1巻』以降の2度目の駆け落ちである。
だが駆け落ちの情報もまた沖野にリークされる。アヤコといい沖野といい、仮想敵はいつでも情報強者なのだ。

マスコミ報道は過熱するばかりで、ひかる を取り囲み、彼女の横にいた川崎は揉みくちゃになり転倒して怪我をする。更には祖母が心労で倒れたとの一報が入り、ひかる は出発を迷う。

彼女の門出の後押しをするのは小土居。ひかる が妊娠していることを知っても尚、彼女を助けてくれる損な役回りを立派に果たす。その道中で追いつかれたマスコミから ひかる を守るために彼は散り(笑)、その直後には多々羅が ひかる の前に現れ逃避行は続く。

だが多々羅は車中で ひかる の心を揺さぶることばかりを囁く。不安にさせながらも彼らの愛を見届けたい。そんな多々羅の複雑な心中が覗く。

時間ギリギリに駅に到着した ひかる は、晋平に新しい通勤カバンを渡し、一つの嘘をつく。自分は妊娠をしていない。だから北海道に行く理由もない、と。
そうして彼女は発車間際の電車から飛び降りる…。

これは、2人の愛の大きさを世間に認めさせるため。マスコミに追われ、禁断の愛だと言われることから逃げるのではなく、小説という武器で戦い、2人の愛を正当なものだ知ってもらうため離れる。また離れても2人なら平気だということが愛の証明になると ひかる は考える(ほとんど多々羅に洗脳のように吹き込まれた言葉だけど)

どうしても この2人は揃って北海道には行けない運命みたいだ。北海道は彼らにとって鬼門なんじゃないだろうか。2人で暮らす新天地には北海道以外を選ばないと一生 何かに悩まされる気がする。