《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

交際開始から3年間で数えるほどしか彼女と しとねを共にできない国見 真 20歳(?)の受難。

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末次 由紀(すえつぐ ゆき)
Only Youー翔べない翼ー( ーとべないつばさー)
第06巻評価:★★☆(5点)
  総合評価:★★☆(5点)
 

ただ1人、自分を愛し、守ってくれた母の死を受け止められず、優の超能力(ちから)は爆発した。破壊的な力(パワー)の中に、優の絶望的な孤独を見た真(シン)とこころは……。「超能力(この力)がなかったら、きっと君に出逢えなかった──」差しのべた指先に、優しさと強さが宿る、未来へのトゥルー・ロマンス、第6章!

簡潔完結感想文

  • そして母になる。本書のグレートマザーは他家の子を育て、自分の子を宿す。
  • 本書において結婚=子を設ける覚悟だったはずが、今更 悩んでヒロインづら。
  • 問題が起きても、ヒーローがヒロインを全肯定するだけの展開が続き 退屈。

存している親でも口出しする権利が与えられない 6巻。

やや辛口な感想になるが、本書の若い男女は好き勝手に生きている。
大学進学と同時に親元を勝手に離れ、彼氏と同棲を始める。
間もなく結婚をし、そして人を殺した過去を持つ子供を引き取り、更には妊娠をする。

親ならば子供を心配して口を出したくなることばかり続くが、
本書の世界に親という存在は排除されるばかり。
ヒロイン・こころ、ヒーロー・国見(くにみ)、彼らと暮らす危険な超能力者の子ども・優(ゆう)、
この3人の片親は死亡し、もう一方の親は物語の外に追いやられる。

これは 連載開始時点での作者が大学在学中だったことも関係があるのかな。
主人公たち若い世代が綺麗に映るためなら、古い世代を残酷に扱える。
そういう世界観が思春期の人にとっては受け入れられ、私には受け入れがたいところとなる。


主人公たちがドラマチックに行動していた前半に比べると、
後半はツッコミどころが少なく、やや緩慢な空気になっている。
主人公が巻き込まれる事件も減り、作品の密度は低下する一方。

それに主人公カップルの立ち位置が決まって、
物事の解決のパターンが いつも同じなんですよね。

ヒロイン・こころ は理想論ばかりで、
ヒーロー・国見は、こころ が おれ のすべて、という言葉で大体のことを納めてしまう。

主人公たちに新鮮味が失われることを補うのが新しい家族たち。
若い親となった2人だが、15年後には一つ前の世代として、
楽園から追放されてしまうのだろうか…。


は手術中の母の死を直感し、超能力を暴発させる。
それは優の力を上回ったはずの国見の力も越えて、国見に傷を負わせる。
こころ ではなく国見が怪我を負うのは初めてですかね。
国見が傷つくことが、どれだけ心配で心を痛めるかを知る こころ。

優の母親は 優を出産以来ずっと入院生活だった。
父と兄、男だけの3人の生活だったが、父や兄は優の力に怯え、彼を遠ざけていた。
孤独の中に生きてきた優は、唯一慕っていた母を亡くし、安定を失う。

優の母親の葬儀に参列した こころ は、国見の叔父と共に優の父親と面会する。

優との男たち3人の生活で疲弊した父は、
再び優に怯える暮らしで優を孤絶させるぐらいなら、
息子の能力を活かせる道がある場所で彼を生かそうと、
優を研究の素材として提供することを暗に示唆する。

それに激昂する こころ。
優の父親に お茶をぶっかけて、優を孤独にした彼らに怒りをぶつける。

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大切な人から貰った ぬいぐるみを切り裂き、大切な人を喪った人に お茶を浴びせる前代未聞のヒロイン。

父親の言動には冷たさが見えてるから彼女の怒りにも もっともだと思う部分もある。
しかし こころ の言うこと全てが理想論であるとも思う。

何より、妻を亡くした葬儀後の喪主に お茶を顔にかける行為が青臭く、失礼に思う。
母親の身代わりだった ぬいぐるみ を引き裂いた時もそうだが、こころ は激情を制御できないらしい。

家族が優を愛し守るべきだ、というのは分かるが、
善悪どころか言葉さえ分からない1歳の頃から超能力が発現した優に、
家族は ずっと振り回されてきた。

妻は入院中のため、父親は子ども2人をワンオペ育児を強いられたうえに、
人を殺した人間と暮らすストレスと、自分たちを殺すかもしれない刃物をチラつかせる息子との暮らしは
恐怖で心が休まる時がなかったと推察される。
激昂した こころ に、そういう背景まで想像が及んでいるかが甚だ疑問である。

同席の国見の叔父も こころ に同調する様子を見せ、
優の父親に その資格がないと告げ、優を引き取ることを申し出る。

ただし これは叔父が こころ の理想論を肯定したわけではない。
彼の行動は、こころ の怒りに乗じて、自分の計画を遂行しようという冷徹な考えからだろう。


儀から帰宅後、自分の胸の内を国見に吐露する こころ。
聖女の彼女にとって、家族がバラバラになること、誰かが孤独になることは胸が張り裂けそうな痛みなのだ。
それが分かるからこそ、こころ を信奉する国見は彼女の意向に従う。

そして母になる。
聖女から聖母へ。
全ての母親を遠くに追いやって、こころ というグレートマザーが降誕する。
こういうヒロインばかりを褒め称える雰囲気が苦手な部分です。

また徹底的な母親を遠ざけようという姿勢は、作者の考えが滲んでいるのだろうか。
母親との確執とか、恨みとか そういうものが ありそうな気がする。


母を失ってから眠り続けていた優が目を覚ます。
だが無差別攻撃をして、誰かれ構わず傷つける。
優は周囲の者が自分を怖がる気持ちを察し、その恐怖を自分が感知しないようにするために、
恐怖を感じる人を傷つけていた。

だが それ以外は何もしない彼は衰弱していくばかり。
そこへ立ち上がるのが聖母と最強の能力者。

こころ は国見がいてくれることを安心材料に、優に傷つけられる恐怖に打ち勝つ。
そして こころ と接触することで、優は自分を取り戻す。

一層 母の死を実感し、そして ただただ泣く。
こころ は彼に一緒に暮らすことを提案し、「ひとりにしないよ 絶対」と約束をする。

しかし叔父は国見に問う。
2人とも守れるのか、と。
優と暮らすことは、国見に負担が大きい。
こころ だけじゃなく、優にも配慮して守っていかなければならない。


ころ は優に「ひとりにしない」と言いつつ、精神的に ひとり に させていく。
それでなくとも こころ は大学があるので、授業の間は優を研究室に預ける。

国見の叔父の研究所は無料の託児所か。

優に対し職員が恐怖心を覚えるのも当然だが、
こころ は、もう攻撃したりしない、という根拠のない説明をする。
本当に こころ は綺麗事のかたまり みたいな人に成り果ててしまった。
彼女の思う綺麗な世界の実現のために誰かに しわ寄せがいっていることに無自覚すぎる。

優を家に迎えた日、優は こころ の お腹に何かがいると言った。
殺人者との接触を、本来の仕事ではない研究所職員に押し付け、さらには予定外の妊娠をする。
向こう見ずな行動ばかりが目立つ。

誤解なきように言っておくと、妊娠したことに対する非難ではない。
2人にとって結婚とは、自分の子供を持つ恐怖に国見が打ち克つことだったから。

でも今更、妊娠を国見に告げるのが怖いというのは ちょっと話が違うだろ、と思う。
そういう考えで お互いの肉体を重ねたのではないのか。
しかも何も避妊の手段を取らなかったんだし。

この2人の間では手を触れたと同時に秘密が共有されてしまうから、
隠し事がある場合は、身体さえ近づけない。

こころ は、妊娠の事実を国見に話せないでいる。
それは守るものが増えることが、国見の負担を増幅させ、更には彼の寿命すら縮める可能性があるから。
彼の負担になりたくない。
だから黙っている。

このカップルは同じことを繰り返しますね。
今回の悩みはタイミングが悪かった、とも言えるし、考えがなさ過ぎるとも言える。
そもそもが在学中に妊娠することもないだろう。
大学卒業後に計画的に妊娠する、という展開より、
作品として少女漫画読者が共感できる年齢の内に こころ に妊娠してもらう必要があったのだろう。


こころ の1人4役(妻・母・妊娠・大学生)を実現するため、
彼女をサポートするために、男たちが我慢しなければならない。

思えば国見は、同棲を開始してからというもの、
こころ の身体に触るどころか、一緒のベッドに寝ることすら数えるほどである。
そして優を迎えたことで こころ は優と一緒に寝るし、妊娠してさらに性生活は困難になっていく。

今の国見はまだ20歳ぐらいだろうか。
苦行の日々が続く。


は、新しい命、しかも自分とは違う血の繋がった存在に、
せっかく得た心休まる場所を奪われる可能性を敏感に感じ取り、攻撃性を増す。

ただでさえ第二子が生まれる際の、第一子は変化を敏感に感じ取るのに、
彼らの長男は、血の繋がらない迎えたばかりの優なのである。

国見が妊娠を知るのは思いのほか早いタイミングだった。
妊娠のこと、国見のことが頭を占める こころ に、国見が異変を感じ取ったからだ。
これは以前、優に出会った頃は こころ の心配事に気づけなかった国見が(『4巻』)、
妻の変化に即座に気づくという彼の成長でもあるのだろうか。


国見が心配して声をかけても、こころ は現実から逃げてばかりで、部屋に閉じこもる。
けれど その逃亡の際に国見と手が触れ、彼に妊娠の事実が伝わる。

それを知って心から喜ぶ国見。
ただ国見の身を心配する こころ は、ドアの向こうで うずくまって顔を覆うばかり。

そこにテレポートして現れた国見。
いつものように彼女を全肯定して騒動は納まっていく。
国見は こころ が自分の全て、という考えの持ち主。
その究極的な愛は美しいが、漫画としては いつも同じ落としどころで飽きる。
特に彼が用いる言葉にバリエーションがないから既視感ばかりが目立つ。

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喧嘩やすれ違いが解消される度、国見は大仰な言葉を使う。感動よりも既視感が上回る。

り返しになるが、2人にとって結婚=子供を持つことだったし、
優を迎えることは、タイミングが重なっただけで無計画という訳でもない。
欲張りだな、とは思うけど。

こころ の理想論も、何を根拠に、と思う。
簡単に不安になって、簡単に万能感に浸る。
少女漫画ヒロインとしては正しいが、こんな精神を乱される人に、
非常に難しい家族関係を維持できるか信じられない。

21歳ぐらいで結婚し妊娠し、他の家の子供と家族になろうとする。
しかも大学に通ったまま。

この頃には国見に収入の当てが出来たし、
新しい家族を迎えたのだから、こころ が大学生でいる必要性は薄い。

ここで こころ が大学を辞めるという選択肢がないのは、
父親に迷惑をかけて 国見と暮らす際に(『4巻』)、
ちゃんと大学を卒業しなさい、と言われたからだろう。
まさか父親も、在学中に妊娠するとは思わなかっただろう。

親としては一言いいたくなる場面だが、妊娠を否定させる訳にいかないから、父親の反応は無視される。
20歳そこそこで聖家族を完成させるためには、親は邪魔みたいです。

こころ は来年度は休学するらしいが、その後は復学して、もしかしたら働きに出るかもしれない。
彼女の頑張りには頭が下がるが、落ち着かない人生だな、とも思う。


そういえば、国見と優、最強の超能力者2人と一緒に暮らしているのに、
こころ に移る超能力の話は一切 出てきませんね。

こんな環境なら、彼女にも何かしらの能力が出てきても おかしくない。
超能力のオーラを浴び続ける弊害ありそうだ。

しかし そんな話は一切 出てこない。
以前に、影響を受けて彼女が悩むシーンが続いたのだから、
今回、影響が出ないことについての説明も欲しいところ。

だが、作者自身が そんな超能力が伝播する設定を忘れてそうなのが、本書の怖いところ。
失明という障害も、親という壁も、超能力の設定も、一度 ネタとして使ったら 破棄されるだけ。