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少女漫画と小説の感想ブログです

台風到来かと思われた千秋の一手だったが、天は ただ 彼への想いを肥ゆらせるだけの秋。

ショートケーキケーキ 6 (マーガレットコミックスDIGITAL)
森下 suu(もりした すう)
ショートケーキケーキ
第06巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

「どうしたら、天は俺を見てくれる?」 千秋から突然キスをされ、戸惑う天。理久を想う気持ちを知りつつも想いを告げた千秋。天の答えは…? 「好き」が交じり合う第6巻! 【同時収録】ショートケーキケーキ 番外編

簡潔完結感想文

  • 巻末で頬にキスされても、唇にキスされても、次の巻の冒頭では やり過ごすだけ。
  • 両片想い状態の一番楽しい日々。悩んでいたことも 彼と話せば 頭は もう彼一色。
  • 理久が天に接近した『3巻』巻末、天が理久に近づく『4巻』 千秋から天の『5巻』。

業主義を色濃く感じる 6巻。

考えてみれば、理久(りく)が天(てん)への気持ちを吐露した『1巻』からそうだが、
分かりやすくジェットコースターの最高到達地点を巻末に持ってきている。
ただ1回 急激な落下はあるものの、それ以降は惰性で走って、
最後にまた落下のために上昇しているという中期的な流れが見えてしまう。

『2巻』の巻末は静かだが、『3巻』の巻末は例の雷光の下でのキスがあり、
『4巻』は天が理久への想いを確定させ 彼に会うために急いで帰宅する動きがあった。
そして『5巻』では恋愛的窮地の千秋(ちあき)が起死回生のキスをしたところで終わった。
そして この『6巻』も読者が一番 気になる所で終わっている。

今回も何か起きるだけの予感で終わる ドキドキ詐欺なのか、
それとも ここで両片想いに けりがつくのか、次巻が気になって仕方がない。


になって仕方がないが、この『6巻』の中盤は あまり楽しめなかった。
両片想いの、少女漫画で一番楽しい時期にもかかわらず だ。

きっと、ヒロインの天が恋愛に目覚めてから、恋愛しかないような世界観が あまり好きではないからだろう。
恋を知って大きく変わっているんだろうけど、「石」と評された天も、今では立派な恋愛脳だ。

そんな彼女は、理久の一挙手一投足に一喜一憂を感じる。
それは分かるのだが、具体的なエピソードがなく、ぼんやりと物語が進んでいるように思えてしまう。
まるで巻末まで何も起きないように調整しているかのように。

完読すると、本書の肝は後半で、
作者としては前半は そこに至る過程という位置づけなのかな。
そして この天の気持ちの大きさが、後半の展開の揺るぎない根拠となる。
ここで「好き」を全開にさせることが、この後の災害の事前準備なのだろう。

でも もうちょっと前半の一般的な恋愛のエピソードを濃くすることが、
より多くの読者を後半へと導く方法だと思うのだけど。

幸福感はあるんだけど、充実感に乏しいのが『6巻』である。

まさか天が こんなに恋愛に重きを置く人だとは思わなかった。「岩」設定? 何それ??

してバス通学で友人との時間が作れなかった天の高校生活が下宿によって広がるのかと思ったが、
広がったのは恋の世界だけで、舞台は下宿だけの狭い世界になってしまったのが返す返すも残念。

しかも他の住人は早々にモブ化し、天に影響を与えない。

『1巻』1話で友人たちと恋バナをしていたように、天には第三者のアドバイスが欲しいところ。
下宿内の恋愛は秘密だから、誰にも話せないという設定はあろうが、
女性が1人で悩んで、モテモテを謳歌すると、モヤモヤした気持ちが高い湿度に変換されてしまう。

もうちょっと風通しを良くして、
天に客観的視点を与えてあげて欲しかった。


にとっても、千秋にとっても恋愛総決算となる『6巻』。
その恋愛の軌跡を振り返る言葉で気づいたのは、理久という人の立ち位置。

理久は いわばマイナスからのスタート。
いわば「こんな人 絶対に好きにならないんだからねッ!!」という悪印象からの大逆転なのだ。

この第一印象が最悪な人と恋に落ちる展開は少女漫画では散見されるもの。
マイナスから始めるために、少女漫画では性格に難があるドSだったり俺様ヒーローが重宝されていた。

では本書の場合は どうかというと、理久は むしろ女性の味方。
性格的に欠陥がある訳ではないが、女性への過度な優しさが天に誤解されることになる。
特に初対面での彼の天への対応は軟派で、印象が悪かった。

でも それは天が理久を理解していないし、理久もジェントルマンの仮面を被っていたことが原因。

まだ 彼のことをよく知らない『1巻』の段階で告白されても、拒絶反応の方が強かったが、
下宿生活を通じて彼という人を知っていき、彼の素顔を見たことで天は理久に惹かれていく。

この理久の身についた優しさが天にマイナスの印象を与えるのは『6巻』でも継続している。
それが、理久が女性に よく言う「かわいい」という言葉。

もう女性を見れば口癖のように出てくる理久の「かわいい」に天は振り回される。

理久が他の女性に使おうとすれば、それに不機嫌になるし、
自分に言ってもらっても、理久のそれは信用ならない。


ただし、理久のジェントルな態度はマイナスから反転して長所にもなる。

自分が恋をして 想いを伝えることも、その想いが叶わない怖さも知っていった天。
それなのに理久は自分の辛い気持ちを隠しながら、天に変わらない態度で接してくれた。
そこに天は、彼の本質を見た。

天が彼を一度 拒絶することが、彼を改めて観察する契機となり、恋の入り口となった。
フラれることが、恋愛成就の第一歩。
この構成が面白い。

そして最初から2人の男性を同列で登場させて、どちらがヒーローなのか分からないのも良い。
いかにも物語を延長させるだけの当て馬は つまらないですからね。

全体的な構成は本当に好みの作品。
それだけに巻末ジェットコースターの、似たようなリズムが残念。


秋に関して言えば、『5巻』ラストでは今回の主役を期待されていたはず。

だが秋の超大型台風になるはずだった千秋の行動も、
予報は外れ、恋の嵐は吹き荒れないまま。
むしろ千秋が向かい風を感じるだけとなる。

残念ながら天にとって千秋は比較対象。かつてない接近をしても 好きな人じゃないから心は震えない。

千秋の必死の行動、キスでも天の心は少しも揺るがなかった。

かつて千秋は、理久の恋を応援しようとして彼に大不評を買ったが、
今度は、天を これ以上 理久に近づけないことが目的なのに大失敗する。

やることなすこと、人に反発されるのが千秋という男なのか。
理久と天以外に興味を持たないから、気づかれにくい性質だが、
人を思い通りに動かすことが大の苦手なのかもしれない。

今回も千秋の天に対する身勝手な行動だが、天は同じ恋を患う者として彼の気持ちを理解する。
追い込まれたからこそ窮鼠猫を噛み、千秋は天に顔を近づけたのだ。


そうして千秋の起こした台風一号は、天の確固たる気持ちによって温帯低気圧となる。
ここまで2巻ほど天と理久に動きの無かった物語で動いてくれた彼だが、
ここからは彼らが動き出すことによって、
恋のライバルとしての彼の役目は ここで終わりになる。


状が千秋にとって向かい風なら、理久にとっては追い風なのだろうか。

天は、自分が気持ちに応えられない苦悩を感じるが、
理久はそれを気遣うことで、天の中で ますます存在が大きくなる。

天は眠れなくなるほど、千秋への対応に悩む。
目の下のクマは まるで鈴みたいである。

恋愛に対する意識が低く、直感的に断った理久の場合と違い、
その人がどれだけ自分を大切に想ってくれていたかを知っている上で、
それでも明確に線引きをしなければいけない難しさだ。

天は理久に心配されたことを嬉しく思う。
それは千秋にとって残酷な現実。
千秋のことで悩んでいたのに、理久と話せば一気に頭の中は理久でいっぱいになる。

ついさっき声を掛けてもらったのに、声が聞きたくて電話をしてしまう天。
そして何かと理由をつけて2人だけで出掛ける予定を立てる。

事態はもう一定の方向に向かって動き出している。

2人を乗せたバスは下宿から離れていく。
その2回目の時、2人の心は いよいよ重なろうとしている…。