森下 suu（もりした すう）
ショートケーキケーキ
第03巻評価：★★★☆（7点）
総合評価：★★★☆（7点）
「天は、俺のだから」鈴の嫌がらせを終わらせるために天と千秋は付き合っているフリをすることに。でも、そのことで天はかつての初恋（のようなもの）を思い出します。そして千秋と理久も天のことをもっと意識しはじめて？ それぞれの心が大きく動く第3巻！
簡潔完結感想文
- 勉強回からの風邪回。一緒にいる時間が長くなるほど新しい一面を知る。
- 恋愛応援団の千秋による お節介と恋愛妨害団の鈴による第三者査察が入る。
- 苦手を前にして一緒にいたいと思う気持ち、その人を守りたいという気持ち。
3巻にして ようやく主人公が物語の真ん中に来る 3巻。
ここまでの2巻では、『1巻』は理久（りく）の内面的変化が大きく、
そして『2巻』では千秋（ちあき）、
そして この『3巻』では天（てん）の内面に焦点が当てられている気がする。
「岩女」と評されていた天が、ようやく恋愛面で心に変化が起きた。
天の心に据え置かれた岩を動かすには、下宿生活の充実や、好きと訴えてからの少々の時間が必要だったみたい。
少しネタバレになるかもしれないが、天（と その兄）の名前の由来や、
舞台となった町を考えると、天が岩と評されるのは天岩戸からなのだろう。
最初は作者のモチーフばかりが先行して、岩って何？という状態でしたが、
理久が天の恋愛の扉を、押したり（告白）引いたり（フラれたら いつも通り）することで、
天に恋愛の世界を見せ、千秋の応援や下宿生活の楽しさが、
動くことのない扉を動かしたのだろう。
天の夢に過去の恋愛に関する淡い記憶が出てくるのは、
彼女の心の扉が開いたことを意味しているのか。
『3巻』にして ようやく主人公の事が分かり始めた。
作者の作品は人物を把握するまでに時間を要する。
そして少女漫画の構成というマクロな視点から言えば、
こういう時間差で恋愛に開眼していく展開は、無理なく物語を続けられて便利かもしれませんね。
本書では、まだ千秋も恋愛と向き合っていなくて目を閉じている状態。
彼が自分の心を見つめて動き出すことで、また違った展開が待っているはず。
ここから三角関係が明確になるのが楽しみで仕方がない。
また、読者には兄弟というキーワードが浮かび上がってくる。
諍（いさか）い の絶えない理久と鈴（れい）の2人も「兄弟」らしい（ちなみに鈴が兄）。
千秋と3歳年上の兄も兄弟。
ちなみに天も3歳年上の兄がいて、全員に兄がいるという設定。
彼女だけは兄との仲は良好である。
千秋も兄とは折り合いが悪いところがあり、こちらも後々 問題になるかもしれない。
そんな千秋の兄は『3巻』で顔見せの場面がある。
千秋と同じぐらい顔の整った人だが、千秋に会えないまま すぐに帰宅してしまう。
その場面だけ切り取ると何の問題も無いように見える。
千秋がどうして兄を快く思っていないかは、千秋が語るまで分からないのだろうか。
序盤は勉強回。1学期の中間テストだろうか。
2つの学校に通う学年もバラバラな6人の生徒が一堂に会して勉強をする。
これぞ下宿生活という感じで良い。
1年後の未来を考えたり、互いが この下宿に来てよかったと話すなど結束も固まる。
これで天の足場が固まって、ここから恋愛を考えるまで余裕が生まれるようになるのか。
それぞれ部屋に引き上げることが多いだろう夕食後に集まり、いつもは知らなかった顔も見られる。
理久は日中はコンタクトをしていて、夜はメガネになる。
商業高校に通う理久は経営情報科で経営学を学んでいるらしい。
地元が一緒の葵（あおい）と有人（ゆうと）は中学の時も勉強をしていた仲らしく、
学校も科目も違う今でも、年下の有人が勉強を教える側なのは変わらない。
天が学校がテストを終えた日、管理人の蘭（らん）が風邪を引く。
これが変則的な風邪回になる。
下宿人たちの料理は出前になるが、
蘭と昔から交流のある理久は彼女のために おかゆ を作る。
実家で料理を よく作っていた天も手伝うが、理久はそれ以上に手慣れている。
そんな所にも理久の過去が見え隠れするようだ。
テスト前後の天は、理久の細かい点まで よく気が付く。
これは彼女が理久のことを見始めているからだろうか。
彼の言動の一つ一つが天の心に残る。
彼が「今」、自分の事をどう思っているのかが気になり始める。
一方、並んで料理する天と理久が千秋は気になっている…。
出前の片づけをする天と千秋。
その最中、千秋は天に「理久の事 どう思ってる？」と聞く。
そして千秋は天に理久と付き合えばいいのに、と彼を薦める。
これは千秋が ずっと胸の中で思っていたこと。そして彼の願望でもある。
2人が そうなることを、彼は心から望んでいる。
さらに焦った千秋は、その後も理久がまだ天の事を好きだと、彼女に伝え、
天の心に変化がないか見極めようとする。
理久が告白と その お断り以降、少しも恋情を見せないかわりに、
千秋が彼の心を代弁するかのようにグイグイと迫ってきた。
全てを、そして自分の心も丸く収めようとする千秋の越権行為には さすがに理久も黙っていられない。
ただ、理久は自分の気持ちを代弁された焦りや弁解も見せず、
そのこと謝るばかりで自分の気持ちが どこにあるのかを見せない。
それを天は、理久が仮面をつけているように感じたのではないか。
これでは「今」の理久の気持ちが分からない。
だから「もっと頼ってほしい」、本音を言って欲しいと思うのではないか。
翌日、理久は天と一緒に下宿を出て、天を学校まで送る。
その途中で、天は、女性が多い商業高校の理久の同級生と何人も会い、
理久に会うなり笑顔になる彼女たちの顔を見る。
天は そこに疎外感や寂しさを感じたのではないか。
彼女たちには理久と交際の可能性が残されているが、
一度 交際を断った自分には その権利も可能性もないと考えているのかもしれない。
そんな天の態度に気づいた理久が学校まで送り届けてくれる。
その際、天は自分のペースを失う。
もう、今まで通りには いられない状態なのかも。
一方で理久は、昨日のことが尾を引き、天に嫌われない事ばかりを考える。
だから2人は互いの不自然さに気づかない。
内気な2人の じれったい恋愛のようになっている。
まるで前作『日々蝶々』の すいれん と川澄（かわすみ）状態である。
理久が気づかない天の変化に気づくのが2人を監視していた鈴。
彼から見れば理久を見つめる天の表情には好きが漏れているように見えた。
そのことに苛立った鈴。
彼もまた天に惹かれ始めているのかもしれない。
理久と天の仲を深めたいのが千秋。そして阻みたいのが鈴。
だが結局 双方ともが、ミイラ取りがミイラになっているのが おかしい。
天は無自覚にモテていくばかりである。
制服も半袖になった ある夜、雷鳴が轟く。
天は雷が苦手。
そんなヒロインのピンチの中、ヒーロー的行動が目立つ。
食事中の停電に理久が機転を利かせて、スマホのライトを固定して食卓を照らす。
この場面、千秋も一応、天の気を紛らわらそうとしてくれているのだが…。
また理久が一人で自分の部屋から電池を取りに行こうとするのに、天は同行を申し出る。
これは大袈裟に言えば、命の危機の中で、一緒にいたいという天の本能的な行動だろうか。
だが天は途中で うずくまってしまう。
そんな彼女に手を差し伸べる理久。
天も その手に自分の手を添える。
そして理久が手を引いて、2人で階段を上がっていく。
これは『2巻』から続く雨の日に手を引くパターンの最後の形かな？
1回目は千秋が天の手を取り、
2回目は天が理久の手を取り、それぞれ苦手な鈴や彼の住む お屋敷から その人を遠ざけた。
今回は天の苦手な雷から守るため、理久が天の手を取った。
これで3人それぞれに手を取ったことになる。
残されたのは、天が千秋の手を取るパターンと、千秋⇔理久が交互に手を取るパターンか。
まぁ後者は男性同士なので無くてもいいが。
天から手を取ったのは理久の方というのは気になる。
これで天から千秋に手を繋ぐことがなかったら、それが恋愛の答えとなるか。
そして手を繋ぎながら、天は理久の細部を知る。
手の大きさ、襟足、背の高さ、これは「好き」が細部に宿っているということなのか。
手を繋ぐことで天は安心を覚える。
これは天の好きなタイプ「落ち着く人」と似ている感覚ではないだろうか。
理久の部屋からの帰り道、アクシデントで今度は理久が うずくまる。
そこに雷光が走り、そして天に衝撃も走る…。
