森下 suu(もりした すう)
ショートケーキケーキ
第02巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
「何? あんた 私の事好きなの?」 思いがけず知ってしまった(聞いてしまった)理久の思い。天も理久も今まで通りに接しようとしますが、そんな2人を千秋は複雑な気持ちでみつめていて? 心が少しずつ動き始める下宿内青春ストーリー第2巻!
簡潔完結感想文
- フラれた当事者よりも、フッた側、そして目撃者の心が揺れる 告白の後始末。
- 理久が怒った時も一緒。その人を心配する天と その両者を心配する千秋がいる。
- 三方まるく収まる偽装交際。だが協力者である千秋は偽装が偽装で心を痛める。
神の視点で読み返すと、面白さが倍増する 2巻。
作中の季節は移ろい、梅雨を迎える。
なので『2巻』では雨のシーンが多い。
そして雨がセンチメンタルや孤独を倍増させているような気がする。
ハッキリ言って、初読では序盤は それほど引き込まれなかった(後半は大好きだけど)。
簡単に人を好きになるし、アッサリ告白するし、主人公はモテモテだし。
しかし再読で、それぞれの事情や性格、
作者が そのキャラに託しているものが分かった上で読むと色々なものが見えてくる。
全ての描写は、あのゴールのために必要だったのか、と合点がいくのだ。
少女漫画なので当然ではあるけれど、
初読の私は恋愛方面にしか目がいっていなかった。
けれども世界は恋愛だけで成り立っている訳ではない。
人間関係の複雑な機微を感じられる視点を持って初めて、本書は真価を発揮するのではないか。
これは連載前から最終回への道筋が出来ているからこそ、
性格や展開に、大きな矛盾がないまま話を進められることが出来たのだろう。
その全体像を読者が掴めるのは終盤になってから。
一読で楽しいスピード感のある漫画も良いが、
読み進めれば読み進めるほど、その作品世界の深さを感じられる漫画も一興である。
何かの縁で本書を手に取ったのならば、是非 完読して欲しいと思う。
再読で注目したのは千秋(ちあき)。
二度目まして、で ようやく彼の内面が理解できた気がする。
そして初読時には思いもしなかったが この『2巻』の主役は彼のような気がする。
この段階で、恋愛市場に参戦もしていない彼だが、
どうして彼が恋愛に躊躇するのか、
どうして人の幸せを願うのか、など再読すると彼の奇異な立ち位置が目立ち、そして分かる(気がする)。
『2巻』の冒頭で理久(りく)は天(てん)にフラれるのだが、
それに一番 動揺しているのは当人たちではなく、千秋ではないだろうか。
理久は表面上は平素どおりに振る舞い、そして天も そんな彼の助言で自然な言動を取り戻す。
しかし千秋が動揺している事に対しては誰も助けてくれないから、彼の動揺は長引く。
ここで理久の想いが天に届くことを願う、千秋の気持ちも、
初読時には臆病者や理想論者のように思えたが、
彼の本当の性格を知ってから読むと、その言動に納得がいく。
理久(りく)が天(てん)を一番に守りたくて、守るためなら牙を剥くのに対して、
千秋は、天も理久も守ろうとしていることが見えてくる。
千秋にとっては等しく2人が大事なのである。
理久の想いが届かないことは、千秋にとって悲しく、
そして天が理久に応えないことは、千秋にとって嬉しくもある。
ベクトルの違う好きを抱えてしまった千秋に一番 力が作用している。
そのことを再読時に気づかされた。
バスで下宿へ帰る道すがら、天は男性同士の会話を聞いてしまい、
どうやら理久が本気で自分を好きあることを察した。
だが、天は理久とつき合うことを考えられず、断る。
この時点で天は理久を好きになるほどの材料を持ち合わせていない。
自分を好きだと言ってくれた人に対して、
しかも自分が その好意を遠ざけた人に対しての対処法が分からない天。
早くも同じ下宿内での恋愛沙汰の、一緒に暮らすという難しさを感じたことだろう。
だが、理久は周囲や天への態度を変えない。
対応に悩む天に対しても、理久は「そのままでいいよ」と言ってくれた。
この人間的な器の大きさに惚れてしまいそうである。
一方で、2人の告白と拒否で影響を受けているのは、千秋。
あれだけ没入していた本の世界に集中できない。
他人の話も本の文字も頭に入らない。
これは彼の興味が空想から現実に移行しているからでもあろう。
理由は、本よりも大切な人が出来たから。
それは自分が天に惹かれ始めているかもしれないという焦りにも似た感情。
だが天が理久のことを好きになってくれて、
2人が交際してくれれば、今なら簡単に封印できるぐらいの感情。
上記の通り、一番 複雑な感情が渦巻いているのは千秋なのである。
千秋が天と並んで帰宅していた ある日、車から鈴(れい)が降りてくる。
そこで鈴は「俺の女になれ」と天に命令する。
千秋は そんな傍若無人な鈴から離れるために、天と手を繋いで家路を急ぐ。
この鈴の行動は、因縁のあるらしい理久への嫌がらせだと千秋は推測する。
バスの中での告白が、町内の誰かに聞かれ、それが鈴の知る所となったという流れ。
この鈴の非礼には天より千秋の方が怒っているぐらい。
これは鈴の初登場時の、鈴に対する理久の怒りに似ていますね(『1巻』)。
鈴は、普段 穏やかな彼らの怒りを引き出すための装置でしょうか。
またはヒロインのピンチを身を挺して救うヒーロー的な行動を見せる敵役である。
更に 2人が下宿に帰ると、鈴から玄関に置いとけないほどの花が届けられていた。
鈴の名字が理久と同じ「水原(みずはら)」だと知った天は、
理久を昔から知っているらしい管理人の蘭(らん)に彼らの関係を聞こうとする。
その時、理久が帰宅し、鈴の所業を知り、彼は鈴の住む お屋敷に抗議に向かう。
それを追うのが天と千秋。
天は理久の心配をし同行を求めるが、
千秋はというと、理久と天の心配をしている。
きっと これが彼の本心なのだろう。
友情と愛情、情の種類こそ違えど、どちらも同等に好きなのだ。
だからこそ彼の中で均衡がとれていて、身動きが出来ない。
三角関係寸前の この3人の関係ですが、一番 苦しく戸惑っているのは千秋だろう。
この時、天は初めて理久に、彼と鈴の関係を聞こうとする。
だが、理久から返答がない一呼吸後に「言いたくないなら いいよ」と質問を撤回し、帰宅を促す。
この雨の日、先ほどは千秋が天の手を引き、鈴から遠ざかったが、
今度は天が理久の手を引き、鈴の周辺の、理久にとって嫌な事から連れ出してあげる。
その光景を見て千秋は胸を痛めるのだが…。
場面は移り、鈴の住む お屋敷に。
やはり鈴は理久の邪魔をし、嫌な気分にさせたいがために天に接近していることが分かる。
鈴にとっては天は、理久に嫌がらせをするための間接的な道具に過ぎない。
彼までも天を簡単に好きになってはいないだろう。
この鈴のストーカー(?)騒ぎから、天の下校時に千秋と理久が警護につこうとする。
だが守られヒロインとは属性が違う天は、即座に2人を巻く。
しかし鈴は下宿で待ち構えていた…。
この時の、イケメンに守られるだけじゃない天のスタンスは好きです。
ただ、もし何かあった時には軽率な行動になってしまうのがヒロインの行動の難しい所。
一緒に帰って守られてばかりじゃ姫ポジションになってしまうし、
もし自分で解決しようとして失敗したら、独り善がりになってしまう。
ヒロインの行動選択は難しい。
下宿の玄関先で一悶着あって、天は鈴を失神させてしまう。
その看護のため鈴を管理人の部屋に寝かせ、理久とバッティングさせないように注意を払う。
天が鈴の食事の心配をするところは、『1巻』1話で天が無断で下宿に寝泊まりした時と似ている。
そして あの時と違い天はすっかり下宿の住人である。
が、食事を運んだ行動を千秋に見られてしまい、鈴と遭遇してしまう。
千秋は鈴という敵の手から天を守るために、偽装交際を画策するのだが…。
天も千秋のプランに乗り、愛を伝えると、それをキッショイと罵倒して鈴は帰宅していった。
だが、鈴が迎えの車に乗る前の天との会話で、理久が顔を出してしまった。
鈴が理久と天を罵倒し、険悪な鈴と理久。
そんな一触即発の空気を、天が一刀両断する。
だが本格的な肉弾戦が始まる気配は収まらず、理久は天を庇うように前に出るが、
鈴に早急に帰る事情が出来て、一件落着。
やっぱり鈴が登場すると男性はヒーローに変身するみたい。
この帰り道、鈴の運転手の白岡(しらおか)は、
天が千秋と交際しているのなら、理久は十分 傷ついていると指摘し、
鈴が天に拘らないよう諭す。
そして この「兄弟ゲンカ」の行く末を案じる。
この騒動後に、千秋は関係者の同意を得て、天との偽装交際は始める。
理久としては理解はできるが納得のいかない状況。
だが、ここでも一番揺れているのは千秋なのである。
なぜなら気持ちは偽装ではないかもしれないから。
周囲も自分も騙し、そして傷つけながら偽装交際が始まろうとしている。