森下 suu（もりした すう）
ショートケーキケーキ
第04巻評価：★★★☆（7点）
総合評価：★★★☆（7点）
理久にキスをされた天。そのキスの意味を考えてテンパリます。一方、理久も自分の行動に驚いて…？ そんなふたりを見守る千秋にも大きな変化が…。気持ちの方向が見える第4巻！
簡潔完結感想文
- 衝撃が走る雷の後、理久とは距離が出来る。一方で千秋と急接近すると思われたが…。
- 男性同士の正々堂々としたライバル宣言で三角関係が明白になったが、時すでに…？
- 海で見た その人の心からの笑顔が忘れられない。彼のいない風景の中にも彼がいる。
誰もが自分の気持ちに正直になる 4巻。
作者も購入者への おまけペーパーで書いている通り、
「起承転結でいうと、ようやく『起』が終わった感じの4巻」になっている。
この『4巻』で いよいよ恋の舞台は整った。
ヒロイン・天（てん）、理久（りく）・千秋（ちあき）の三角関係が成立し、ここから面白くならない訳がない。
…が、驚いたのは その先の道筋まで整えていること。
『4巻』のラストで これまで曖昧だったヒロイン・天の気持ちが明確になった。
これは予想外の展開。
ここから しばらく膠着状態が続き、男性側の一進一退の攻防が見られるのかと思っていたが、
早くも恋愛的な結末を見せるとは驚いた。
ここから両片想い状態のキュンキュンする展開が待っているのか、
それとも敗色が濃厚な彼が、驚異の動きを見せるのか、
今後の予想をするだけで楽しいではないか。
主人公の天が淡々とした性格なのもあって、どの描写もアッサリしている。
気づくと何も起きないまま、ページばかりが進むなぁ、
内容が薄いなぁと思った所に、予想外の展開がくるから面白い。
理久の告白も『1巻』と、恋をしないと予防線を張っている割に早かった。
その後、1巻ごとに千秋、天に大きな心の動きがあり、
そして この『4巻』では三者三様に心を乱されるような出来事がある。
前にも書いたが、恋愛の準備が整う時間差が面白さの源だ。
さっさと恋に落ちる人もいれば、恋だと分からない人も、恋だと認めようとしない人もいる。
恋愛はタイミング。
急いては事を仕損じるし、遅きに失しては意味がない。
特に天の、まだ理久が自分の事を好きなのか、という悩みは深い。
以前の自分では考えられなった理久との交際も、今なら簡単に描ける。
けれども理久は、それ以降、自分に好意を見せない。
理久にしてみれば、隙を見せないようにする事が、
天の重荷にならないようにする事なのだが、距離感を保ち続ける理久の態度が天の重荷になってしまう。
げに恋愛は難しい。
これまで自分からは行動しなかった天が、きっと ここからは行動を開始するはず。
今回で一応は成立した三角関係の均衡が、どう破られていくのかが楽しみ。
そういえば千秋もまだ自分から積極的に動いていない。
この三角関係では、彼に一番 注目している。
具体的に どう動くのか、変わっていく関係に どう心が動くのか、緊張感をもって見守りたい。
雷の夜、頬に理久からキスされた天。
この行為は好意なのか、それともジェントルマン故の厚意なのか。
その意味を図りかねる天。
理久にまだ自分への好意があるかどうかしりたいが、それは分からないまま。
彼自身は雷に怯える天を安心させるため、というが…。
ある日、町中で天と千秋が遭遇する。
理久に間接的に嫌がらせをするため、彼のお気に入りの天を狙う鈴（れい）。
その彼の天への接近を認めた千秋は、偽装交際設定を発動させ、天とラブラブ演出をして、彼女の手を引く。
手を握るのは いつぞやの雨の日以来ですね。
あの時も敵である鈴から逃れるためだった。
だが千秋は繋いだ手を、鈴が見えなくなっても離されない。
今回は、そこに千秋の意志が入っている。
そして千秋は自分が矛盾だらけの人間である事に気づく。
友人の恋を応援しながら、応援していない自己中な人間であることに。
そして、その友人と同じ人に恋をしていることに…。
だが千秋は、それに気づいただけで天に直接的なアプローチをしない。
話の流れで天と恋バナをするのだが、好きな人を認めても、それが天とは認めない。
本人を前に架空の人物を仕立て、その人への偽装片想いの中に、天への本音を潜ます。
これは まだまだ理久へ遠慮しているということなのか。
ここで千秋が、かつての理久のようにストレートに告白したら、天は どう対応しただろうか。
好意を示し続ければ彼女の心は少しずつ揺らぐだろうか。
千秋も お行儀よくするだけじゃなく、必死になって欲しいなぁ。
そして鈴が天を見るとヨーグルッペが飲みたくなるのは、何かの合図でしょうか。
好きな人を見て緊張したからか、
お酒やタバコのように強張った精神を弛緩させるためか。
精神安定剤に近いのは確かかな。
そうして恋愛の土台が出来上がるが、そこからは天が忙しくなり、事態は進展しない。
天は縁あってバイトを始め、期末テストがあり、下宿の人達と顔を合わせる場面がない。
理久とも あの雷の日以来、「会話という会話をしなくなった」。
その膠着状態を解くのが、夏休みも迫る中、下宿で企画されたバーベキュー。
そこで千秋は理久との会話で、天を好きだという自分の率直な気持ちを彼に知らせる。
天は理久と話す機会を自分から持って、普通に話せたことに安心する。
下宿から離れない理久と夏休みの予定について話していると、
千秋も会話に合流し、3人で出掛ける話の流れになった。
恋のライバルであっても、千秋の中では、
この3人は1つのユニットとして考えているようだ。
それは作品全体のスタンスでもある。
千秋は理久にとって恋の邪魔者であるが、
同時に天と2人では気まずいところに緩衝材となってくれる役に立つ一面もある。
千秋は自分を駄作小説の滑稽な主人公だと思っているかもしれないが、
ちゃんと友人の恋を応援する役割を無自覚に果たしている。
自分を好きなイケメン男子2人と、それを知らないヒロインの三角関係。
気温の上昇と共に、いよいよ少女漫画らしくなってきました！
3人で出掛けたのは海。
それぞれにスキンシップがありながら水着で楽しく過ごす。
その後の海釣りでのハプニングで、天は理久の笑顔を見る。
それは理久の心から思いっきり笑った笑顔で、その顔は いつまでも天の網膜に焼きつく。
そして その笑顔で、天の恋愛の扉は完全に開かれた。
ただ視点を変えてみると、理久が この笑顔になったのは、やはり天と2人きりじゃないからと言える。
2人だったら、理久は天を傷つけないように気を付けて行動してしまっただろう。
こんなに楽しくなかったし、こんなに話せなかった。
そして こんなに笑わなかった。
この3人だから、彼は仮面をつけることなく、素顔の理久でいられた。
やっぱり この恋の背中を押すのは千秋である。
中学校の頃の好きだった記憶は、
後に、その時の男が登場して波乱を起こす伏線ではなくて、天の中の恋情を理解する糸口だろう。
それに似た感情を覚えた時、彼女は理久への気持ちが恋だと知る。
そして千秋が恋を知って物語に上手く没入できなくなったように、
下宿から離れた地元の風景の中に、
いや、それ以前に下宿から遠ざかるバスの中から自分の心には理久が現れていた。
天は、恋してる。
