《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

本書の天気は晴れが15%で、後は曇りか雨。交際描写が短く、天候の急変に身体が慣れない。

彼はトモダチ 完全版(3) (フラワーコミックスα)
吉岡 李々子(よしおか りりこ)
彼はトモダチ(かれはトモダチ)
第03巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★(4点)
 

佐々本と琴音の過去を知ってショックを受けるヒヨリ。事実を受け入れ、なんとか前に進もうとするヒヨリだけど、もう元のようにはもどれない……。そんななか、佐々本が出した“答え”とは――。

簡潔完結感想文

  • 幸福な交際は半年以上になるが、紙面上は『2巻』の半分だけ。不幸の分量が多すぎる。
  • お互いを想っての前向きな別れ。切ないはずなんだけど熟慮の末というより短慮である。
  • 別れたら すかさず別の男のターンだが、この水野は最初から行動がゲスでドン引き…。

ファスト映画を見ている気分になる、ダイジェスト感が拭えない 3巻。

作者は本書で、色々な意味の「彼はトモダチ」を目指しているんだろうか。
それなら その試みは成功している。
トモダチだと思っていた佐々本(ささもと)は恋人になるが、
今回をもってトモダチに戻っているから。
もう1人の男性・水野に対してもトモダチ宣言をし、
主人公・ヒヨリの周囲はトモダチだらけとなった。

自分の想いが伝わらないから相手を責める。水野も幼稚すぎて誰もヒーローの資格なし。

…が、立場が目まぐるしく変わりすぎて感情が追いつかない。

それは本書における幸福な期間が短い事も関係しているだろう。
両想いまでを描いた当初の全4回の短期連載分から話が飛んでしまったのが悔やまれる。
(中学3年生で交際したので、その後に高校受験があるから心から交際を楽しめないが)

一気に時間が経過し、半年以上になる交際期間における幸福は省略されて、
『2巻』の中盤から早くも暗雲が立ち込めている結果となった。
そこに連載の あからさまな方向転換が見えるようで楽しめない。
なんとか連載を継続させようという焦りが、早急な展開を招いたのだろうか。


して本書の読書中は、下手の考え休むに似たり、という言葉が浮かぶ。

登場人物たちの視野の狭い行動を見ると、勉強法を間違っている がり勉という印象を受ける。

確かに彼らは一生懸命 恋愛をしようと頭を悩ませているが、
全体像を把握しないまま、場当たり的に目の前の問題だけに対処し続けている。
自分では全精力を恋愛に注ぎ込んでいるつもりでも、その力の入れ方が間違っているから、結果が伴わない。

若さゆえの不器用さで、その青臭い感じが好きな人もいるだろうが、
何一つ成果が上がらないのに、頑張ってるんです!というアピールだけが過剰で白ける。

『2巻』でも書いたが、本書には友人という客観的視点がなく、
また、後述するが、親という従うべき倫理観や規制もないため野放図な印象を受ける。

彼らに与えている試練に対して、解決する能力が圧倒的に足りていない。
少しの光明も見つけられないまま、事態だけが混沌としていく。


ヨリに隠したかった琴音との肉体関係が、
琴音が密かに繋いでいた携帯電話を通した会話でバレてしまった佐々本。

もちろん諸悪の根源は、いつも幼なじみの男性2人の中心にいないと気が済まない琴音ではあるが、
琴音への態度を決められないまま、ヒヨリと交際に突入した佐々本も悪い。

『1巻』では「運命」とか大層な言葉を使っていた2人だが、
現実を前に綺麗事は風前の灯火となる。

この琴音の勝手な行動に佐々本は怒りを隠さないが、
その前に嘘をついて、ヒヨリの前から消え、琴音の前に現れる選択をした佐々本も悪い。
そして琴音に怒ることで、琴音の寂しさが倍増するのを見ないふりをする。

登場人物全員に自己満足という言葉しか浮かばない。


ヨリを残した自宅に戻るが、彼女を既に家を出ていた。
追いかけようとする佐々本だが、弟たちの世話に阻まれ、ヒヨリに言葉が届かない。

ちなみに佐々本の親は仕事中らしい。
(この後の話では父親は求職中じゃなかったか?)
まだ保育園に通うような子を残して家を空け、その後に帰宅する高校1年生の長男に夜間を任せるって どうなのかな。

ヒヨリの両親も長期に留守しているし、親を排除することで物語の中の自由度を高めている。
深夜に家を出ても自由だし、仲間たちと家で酒盛りをしたり、恋人と仲を深めたり何でもありになる。

この泥沼の恋愛に助言をくれる「友人」もいないし、
まだまだ未熟な15歳の生活の異変を察知してくれる家族も排除する。
とことん本人を恋愛の主役にする舞台設定なのかもしれないが、
そのせいで作品世界が狭くなる、子供だらけの王国の内紛にしか見えなくなる。


日、ヒヨリの家の前で待ち伏せしていた佐々本に対してヒヨリは、
改めて佐々本に、琴音と会わない事を約束させる。

そうする事で自分の不安が、琴音の影が払拭できるとはヒヨリ自身も思っていないが、
そうしなければ彼女の心に安寧は訪れないのであろう。

そんな不安を象徴するのがヒヨリの電話嫌いなのであろう。
嫌がらせへの恐怖、琴音という存在の象徴が携帯電話になってしまっている。

疑問なのが、なぜヒヨリは琴音からの嫌がらせを佐々本に相談しないのだろうか。
今回、無断で通話をされて、佐々本にも琴音の悪意は見えたはず。
密告する事で自分が嫌な人間に見えるのが嫌なのだろうか。
全体的に登場人物の思考をトレース出来ない部分が多すぎる。


がヒヨリと佐々本は、ヒヨリが援助交際、2022年ではパパ活をしている場面を目撃してしまう。
明らかに気にしている佐々本だが、ヒヨリの前から離れない。
そんな彼に対してヒヨリがGOを出して、追いかけさせる。

こういう場面って、普通なら不安を乗り越えて確かな信頼感に結ばれた女性が、
彼氏と自分以外の女性の特殊な関係性を理解して、彼の背景にあるものも受け止めるという2人の関係の成長の場面となる。
だが、ヒヨリの場合、佐々本を派遣したけれど心は晴れていない。

好きだから相手の気持ちを優先する。例えそれが自分以外の女性に向けられた思いであっても。

そんなヒヨリの曇った顔を晴れやかにするのが水野。
自分の誕生日以来、ヒヨリの事が気になりだしている彼はヒヨリに元気を出してもらいたい。

そんな2人の姿を見ていた佐々本は、ヒヨリが水野の前では屈託なく笑う事を知ってしまう。
佐々本はそこで2人に背を向けるが、その後 ヒヨリは涙を流していた。

苦しいほどに悩むヒヨリに対し、水野は佐々本と別れろと忠告するのであった。

この頃の佐々本は「みんなにとって なにかいい方法が あるんじゃないか」と考えているらしい。
ヒヨリだけでなく、彼女以外の自分たち幼なじみ3人も含めた解決策を模索しているのだが…。


んな中で実行される約束の遊園地デート。

お弁当を作ってくれて来た佐々本に、ヒヨリはお礼をしたいと申し出る。
そこで佐々本はヒヨリに、今日は最後まで ずっと笑てて、と頼む。

そんな1日の終わり。
少女漫画的に重要な乗り物・観覧車の中で2人はキスを交わすが、直後に佐々本は別れを切り出す。

このままヒヨリの笑顔を奪ってしまうのなら、別れる事が彼のヒヨリへの思い遣りだった。
そしてヒヨリもまた、佐々本を精神的に楽にするために別れを受け入れる。

遊園地内で別々の道を歩き出す時までヒヨリは笑顔を保って、交際は終わった…。


休みに突入し、そこからは水野のターンとなる。
これまで以上にヒヨリへの好意を隠さない水野。

両親不在のヒヨリの家で勉強合宿が企画される。
結局、プールに言ったり酒盛りが行われたりと遊んでばかりの一同。

酔ったヒヨリは寝てしまい、水野を残して仲間たちは部屋を去る。
寝ているヒヨリに水野はキスをするが、酩酊状態のヒヨリが呼ぶのは佐々本の名だった…。

そこからの水野の行動は謎。
彼女が誰を好きなのか明白でも、寝ているヒヨリの服を脱がそうとするし、自分も服を脱いでいる。
情事には至っていないが、目論んだことは明白で、それだけで気持ち悪い。

多くの少女漫画では、違う男の名前を呼ばれた時点で男性は意気消沈し、黙って部屋を出るものだ。
だが、水野は自分の服を脱いで同じベットで寝る始末。
これは乱暴狼藉を働こうという意志の表れで、女性に不安を抱かせる行為だ。

ヒヨリたちへの言い訳として、水野はヒヨリが寝言で自分をスキだと言ったからと嘘をつく。
男性は自分の都合の良いように嘘をつく、というのが教訓か。
そして例え寝言を言っても本人の同意なく 事に至ろうとした事には変わりなく、不快感が残る。

更にヒヨリが水野をトモダチとしてしか見られないと言えば水野は逆ギレする始末。
「オレのコトも ちゃんと見ろ
 トモダチとか言って 目ェそらしてんな!」とダメ押しの言葉を告げる。

それでもヒヨリの心は この時点では揺れない。
そして佐々本も まだヒヨリのことを想っている。


休み中、琴音が寂しくないように一緒にいるが、それは監視と言ってもいい。
佐々本が そんな自分の心を整理できたのはクラスメイト・当道(まさみち)がいたからであった。

ようやく男女4人の狭い世界に、外部の目が加わりましたね。
これによって事態と作品が良い方向に動けばよいが…。