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少女漫画と小説の感想ブログです

キスした同じ巻で2人に距離が生まれ、結ばれても心は遠ざかる。圧倒的な幸福不足!

彼はトモダチ 完全版(5) (フラワーコミックスα)
吉岡 李々子(よしおか りりこ)
彼はトモダチ(かれはトモダチ)
第05巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

水野とつきあっていても、どうしても佐々本が忘れられなくて2人の間で揺れるヒヨリ。だけど水野のまっすぐな想いに触れ、隣にいることを選ぶ。そして佐々本への想いを断ち切るためにヒヨリは、ある行動を--------!?ゼロから始まるスクール・ラブ連載、交錯する第5巻。

簡潔完結感想文

  • 元カレを信じられなくなった過去に事情があることを知り、彼への嫌悪が薄くなる。
  • ヒロインを2人の男が守る構図ながら、両者、ヒロインが近づくとツンな態度を取る。
  • 彼から贈られた物は愛の結晶。終盤で紛失して、探して見つけるのは お約束の展開。

想だけは いつも美しい、の 5巻。

ヒロインのヒヨリは、いつも後ろ向きである。
2人の男性に対して、その人のことを一番スキだった時代の記憶で見てしまう。

だから元カレ・佐々本(ささもと)と別れても、彼との記憶は美化され続け、
彼の歌うラブソング1つで簡単に心は乱されてしまう。
そこに自分が彼を信じきれなかったこと、彼も信じるに値しなかったことなどは考慮されない。

そして今の彼氏・水野(みずの)に対しても それは同じ。
水野の自分の思い通りにならないと短気を起こすような性格に難儀しながらも、
自分が彼を好きだった記憶や、彼の笑顔の記憶が 苦労を忘れさせてしまう。

自分の幸せな記憶、自分が望むような記憶しか引き出さないから、ヒヨリは間違い続けるのではないか。

そんな彼女は自分の今も見ようとしない。
自分の中に生まれつつある(もしくは消えずにいる)思いを深く考えたりしない。
そして それが色々な人を傷つけるかもしれない という事に思い当たらない。

本書はヒヨリの恋を、
「どうしたら前の恋を忘れられるの……?」
「キライで別れたわけじゃないとさ 心に想いが残っちゃうんだよ」
と、借りてきたような言葉でヒヨリの辛さだけを強調する。

だが、こういう演出がなされる度に、恋愛って絶対しなきゃ いけないもの?という疑問が出てくる。
ヒヨリが佐々本と別れるのはともかく、
水野と交際する流れが納得できないから、彼女の悩みも理解できない。

常に物語が動き続けている点は長所であるが、
そのせいで立ち止まって冷静にならない点は短所である。

ただただプロットに沿わせているだけで、話を流麗に繋げる工夫やエピソードが欠けている。

一番満たされていた時の記憶が よみがえって、全てに踏ん切りがつかないのがヒヨリの短所。

々本の想いはヒヨリには徹底的に届かない。

それは現在だけでなく過去の行動においても同じで、
ヒヨリは中2の時の佐々本が欲望のために水野を裏切ったと思っている。
実際、寂しさに負けた琴音(ことね)の誘惑に負けた佐々本がいたのは確かだが、彼から裏切った訳ではない。
佐々本も琴音に恥をかかせたくないという男の美学があって過ちを敢えて訂正しない。
それによって傷ついているのはヒヨリなのだが、これは佐々本の幼なじみである琴音への優しさなのだろう。

琴音を そんな行動に走らせたのは、琴音という彼女がいながら他の女性と遊んでいた水野であって、
彼こそが裏切りの連鎖の発端と言える。

中2のあの日、琴音がその情報を知ったのは電話であった。
それが事実かどうかは問題ではない。
水野への不審が決定的になったのが、その電話だったのだろう。

だから琴音は同じ手段をヒヨリに応用した。
三者の通報が人の心をズタズタにすることを学んだから。


が琴音が佐々本の名誉が傷つくことを許せなかった。
だから彼女はヒヨリに、あの日の出来事を琴音自身の視点から話す。

あの6月1日、琴音が佐々本の身体で水野に裏切られた寂しさを埋めようとした。
佐々本がそれを断ると、琴音は出会い系で男性を見つけようとしてしまう
それを見た佐々本が、琴音が一番 傷つかない方法として自分の身体を重ねた、というのが真相らしい。

これは意外な真実、というほどではないが、その行動が佐々本は優しさ故の行動だという事が分かる。

これまでヒヨリの恋を邪魔してきた琴音だが、
ヒヨリも佐々本も互いを思い遣っての行動をしている事を知り、そこに「真実の愛」の気配を感じる。
それによって琴音の佐々本への執着が薄まっていくのだろう。


は ずっと文化祭の最中。
佐々本は急遽バンドのボーカルを頼まれステージに立った。

佐々本の歌を聞いたヒヨリは涙を流す。
それを見た佐々本は焦りから強引にキスを迫り、そしてヒヨリにとって手厳しい言葉を告げる。
自分の見たくない現実に怒り出すのは、水野の悪癖である。

こうして長かった文化祭は終わりを告げる…。

佐々本が歌ったのは、連載当時のヒット曲、GReeeeNの『キセキ』(2008年)。
著作権料まで払って、その時の旬の歌を作中に出すのは珍しい。

幸いにも、この曲は2022年の今も歌い継がれているが、
あんまり流行りに乗り過ぎると、後年、歌手のスキャンダルがあったりすると、
その曲に変なイメージが付いた時に そのシーンが台無しになるリスクもあるだろう。

でも、彼女を放っておくぐらい勉学ばかりしている印象の佐々本が、
歌が上手い設定も、流行りの曲を歌えるのにも ちょっと違和感があるなぁ。

既存の大ヒット曲を使って、それを読者の脳内BGMにさせて、
作者の中では曲と自作がリンクしたのかもしれないが、曲に内容が負けている。
あたかも この恋に価値があるかのような演出をしているが、現実の曲で感動を後押しさせようとする魂胆も見える。


の文化祭から一週間、水野とは喧嘩状態。

ヒヨリには自分が悪いという自覚がある。
でも、「いつまでも 過去ひきずって… ……ねぇ どうしたら前の恋を忘れられるの……?」
と使い古され、そして自分に酔った発言をしている時点で この子はダメだ。
自分の汚さに目を背けて、悲劇のヒロインであるような振る舞いを続ける。

そもそも佐々本へのスキも怪しいのに、
たった1日で心変わりした水野に対しては ちゃんとスキか怪しいところである。


そんな膠着状態の中、文化祭でのヒヨリの盗撮写真が学校に出回る。
その犯人を水野は殴りかかったことで騒動を止めに入った佐々本と共に職員室に呼び出される。

その際に教師がヒヨリに欲情するような発言をしたことで、
水野も佐々本も その教師にキレてしまう。
佐々本は もう一人の教師に止められたが、水野は胸倉をつかんだことで処分を受ける。

こうしてヒヨリが2人の男性に守られる構図が出来上がる。
だが そんな構図とは裏腹に、騒動を聞きつけたヒヨリに、
停学処分となった水野は素っ気なく、そして佐々本も即座に背中を向ける。
ヒヨリは、愛されヒロインでありながら孤独なのだ。

とてもヒーローとは思えない表情の2人。このページだけだと少女漫画じゃなく青年誌に見える。

野が停学処分で学校にいない時に、
ヒヨリは彼がどれだけ自分が愛されているかを知る。
彼もまた仲直りの仕方を模索してくれていたのだ。

クラスメイトたちと水野の家に行くはずが、級友たちは雲隠れしてしまい、1人で家に向かったヒヨリ。

そこで水野から贈られたのは手作りのアクセサリ。
少女漫画にとってアクセサリは愛の結晶。
佐々本との愛が、あのアヒルのキーホルダーなら、水野との愛は手作りブレスレットとなる。

そうして雨降って地固まり、2人は水野の家で結ばれる…。

うーーーーん、これでいいのだろうか。
他の少女漫画では、ヒーロー以外の男性と付き合っても、
キスすら出来ないという心理的抵抗がある場合が多いのに、
ヒヨリはあっという間に肉体関係まで到達してしまった。
何とも盛り上がらない唐突な展開である(水野の家には祖母がいるというのに…)。


うしてカップルとして1つの到達点に辿り着いた2人。
そんな彼らの様子を見て、佐々本は自分の気持ちが限界を迎えている事を知る。

佐々本にとって今、琴音の傍にいるのは、彼女のリハビリに付き合っているような感覚らしい。
ただ、クラスメイトの当道(まさみち)という理解者を彼女に接近させることで、
文句を言いつつも琴音は元気になっていった。

佐々本が琴音に寄り添うのは春頃までを予定し、それまで経過観察するつもりだったが、
その前の冬の段階で、琴音にベッタリする必要もなくなりそうというのが佐々本の見立て。

ヒヨリを離れたところから見続けるのは、その頃には止めにしたい。


野との江の島デート中に、佐々本・琴音たち3人に出くわすヒヨリ。

海辺でヒヨリは、佐々本の愛の結晶であるアヒルのキーホルダーを海に流そうとするが失敗。
パッと手を離せないのが、彼女の精神状態そのものだろう。

だが、彼女の意志とは関係なくキーホルダーは街中で落としてしまう。

それにしても遺恨のある男女4人は どうして この日一緒に過ごしているのだろうか。
合理的な説明が全くない。
後の展開に5人が固まる必要性があったのだろうが、ちょっと不自然すぎるなぁ。
これもプロット優先主義が原因だろう。
一緒に行動する事は当道の提案によるものだった、とか ちょっとでも描写があればいいのに、
それを放棄しているからゴツゴツした手触りだけが残る。


の日、ヒヨリは当道と初めてマトモに話す(文化祭準備でちょっと話してたか?)。

この時、当道はヒヨリのことを「佐々本と似てる」と評する。
「良く言えば2人とも やさしすぎ? そんで まわりのコトばっか考えてさ
 一番大事なコト見ないよーにしてるカンジ」だというという。

佐々本はともかく、ヒヨリは自分ばっかりだと思いますが…。

5人は海岸での花火に興じすぎて、既に終電間際であることに気づくのが遅くなる。
ちなみに江ノ島駅の終電は23:30ぐらいみたい。
誰の家も、帰ってこない我が子を親が心配してくれるような家庭環境ではないのが悲しいところ。


が、駅に向かう最中にヒヨリは、自分がキーホルダーを落とした事を知り、足を止める。

彼女の異変に気付いた佐々本は帰宅を優先しようとするが、
「大事なモノ」だと言って、彼女は踵(きびす)を返す。

ヒヨリにとって それは やはり愛の結晶らしい。
ただしヒヨリにとっては、自分の意志で捨てる事が重要らしい。
「失くすのと捨てるのじゃ 全然ちがう」。
この儀式を経ることで、ヒヨリは佐々本との愛を終わらせるつもりだったのだ。

一方、終電に乗って一息ついた水野が知ったのは、ヒヨリと佐々本が電車に乗っていない事実。
水野は怒り、次の駅で電車を降りようとする。
こんなにも水野が怒るのは、佐々本を信用していないから。
中2のあの日から、水野の中では佐々本は「人の女に 手ェ出せるヤツ」という人として見ている。

これが琴音が評する、水野の「被害者面して」るという事なのだろう。
中2のあの日、水野が本当に他の女性と会っていたか、確かめる術はない。
だが少なくとも待っている琴音に断りなく 彼女を孤独にさせた。
その事実を見ない振りして、自分の都合のように改ざんしている。

上述の通り、回想は いつも美化されてしまう。


の日、風邪気味だったヒヨリは、キーホルダー捜索中に倒れてしまう。

佐々本はそれを助け、ホテルで彼女を休ませる。
なぜ同室に泊まるのか という説明はない。
ここも少しぐらい説明が欲しいところ。
作者が こういう状況を作り出したいだけというのが丸わかりで萎える。
単純に金銭面とか、空室が1室しかないとか、
読む方も読み飛ばしたくなるような単純な理由でも描くべきである。

この夜、ヒヨリは自分の気持ちが大きく揺らいでいる事を自覚する。
久々に2人きりで話す佐々本の背中は大きく見え、そんな彼に見とれる自分がいる。

溢れそうになるスキに蓋をするために、佐々本から「キライ」と言って欲しいが、
彼は彼で、もう自分の我慢の限界が来ていることを自覚している。
ヒヨリのためにキライと言うことも もう出来ないのだ。


朝、水野がヒヨリを迎えに来て、2人の男たちは入れ替わる。

廊下で水野は佐々本を牽制するが、
佐々本もまた今後の自分から動く可能性があることを示唆して水野に釘を刺す。

それに焦った水野はヒヨリとの絆を強めるため、ホテル出立までの時間で身体を重ねる。

一方、佐々本は街中でキーホルダーを発見し、彼らの愛の復活に可能性を残す…。