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少女漫画と小説の感想ブログです

移りゆく季節の表現で5月に蝉を鳴かせてみた。これは五月蠅い ならぬ 五月蝉い ってこと!?

彼はトモダチ 完全版(2) (フラワーコミックスα)
吉岡 李々子(よしおか りりこ)
彼はトモダチ(かれはトモダチ)
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★(4点)
 

佐々本と同じ学校に進学し初キスも経験……と、順調な高校生活を送るヒヨリ。だけど、琴音が水野に別れを告げているところを目撃してしまう。さらに琴音は、ヒヨリから佐々本を奪おうとしてきて……!?

簡潔完結感想文

  • 長編化するにあたって こしらえられたヒーローの過去。春は過ぎ不快な湿度が高まる。
  • 6月1日は作品にとって大きな転換点となる日。全員がフラフラし過ぎて酔ってしまう。
  • 2人の距離を より近づけるはずの携帯電話が機能しない。道具立ては良いんだけど…。

への想いを乗せた オレからの発信は君には いつも届かない 2巻。

『2巻』の主役は携帯電話である。
ヒロインが携帯電話を入手することで2人の距離が近づいた。
だが最終的には2人の距離を遠ざけるツールとして用いられているのが辛い。

この1巻を通したツールの使い方は非常に好感が持てる。
そしてヒロイン・ヒヨリにとって携帯電話が発信機ではなく、
恋人・佐々本(ささもと)からの電話の着信機である事にも意味があるのだろう。
この一方通行な感じが彼らの恋愛の形を示唆している。

今回、彼女から電話をすれば少しだけ未来が変わったのではと思う場面があった。
だがヒヨリにとって携帯電話は使い慣れない道具で、まだ身体に馴染んでいない。
だから彼女は発信にしても、着信に対しても鈍感で、それを持っている意味があまりない。

彼女にとって大事なのは その人が目の前にいる事。
異性の体温こそ、信じられるものなのかもしれない。

だからこそ、目の前の男性に揺れてしまうのだろう…。


して今回 思ったのは、「別冊フレンド」のヒロインって友達がいないよね、という点。

どうにもヒロインに恋愛相談をするような気を許せる友達がいない場合が多い。
それは彼女たちに客観的視点を持たせない事を意味する。

友人たちに相談すると自分だけでは浮かばない解決策が出てきたり、
相談する事で自分の悩みを客観視できて、冷静になれる作用がある。
もしくはヒロインより賢く強い友達がいれば、ヒロインの行動をたしなめたりする人もいるだろう。

だが「別フレ」は、ヒロインの考えだけで物事が進む。
そうすることで、ずっと何かを抱えている悲劇のヒロインが誕生するのだろう。

常に主観で物語を お送りする事で臨場感が出るメリットがあるのだろう。
だが一方で、主観しか持たないヒロインの世界は狭くなる。
こうなると いわゆる「恋愛脳」的なヒロインが生まれる。

特に本書はヒロインと幼なじみ3人組の計4人の世界ばかりな上に、
彼らが足を引っ張り合うような展開が続くので閉塞感が倍増していくばかりである。


4回の短期連載が延長され、連載5回目以降となる この『2巻』から佐々本の「過去」が後付けされる。

冴えないはずの佐々本に元カノ(中学3年生時点で3人)がいたり、
琴音との過去ができて、物語を不快な方向に進ませる。

一応、佐々本に彼女が出来る過程も用意されていて納得がいく。
なぜならヒヨリ自身が その典型でもあるから。

佐々本が交際に至った過程は、
「(元カノ3人は)みんな最初 ユーマ(水野の名前)がスキで」
「オレに協力してほしいって言ってきて」
「フラれて さみしいときに オレがそばに いたもんだからスキだと錯覚して つきあって」
「別れるときの言葉は『やっぱり水野がスキだから』」だそうだ。

これ、水野(みずの)に告白してないからフラれてないとはいえ、彼を好きだったヒヨリも同じパターンである。
…ということは、最後の行の「やっぱり水野が…」も当てはまってしまう!?


して2人に「距離」も用意されていく。

1つは佐々本とのクラスの違い。
2人(と水野)が進学した学校には特進クラスがあって、普通のクラスのヒヨリ(と水野)とは世界が違う。

そして佐々本は更に1年生で入学したばかりなのに予備校に通っていて、
ヒヨリと会う時間を作れない。
会えるのは登校と昼の1日40分余りである。

そして それが分かっているのに、
朝の待ち合わせに遅れてくるようなヒヨリなので彼女には同情の余地もないのだが。

その「距離」を埋めるためのツールがヒヨリが手に入れた携帯電話となる。

これまで金銭的な問題で入手できなかったが、
自分で おこづかい をため、2人の距離を縮めようとする。
掲載時の2008年前後でも、高校生の携帯電話普及率は95%以上なので、ヒヨリはレアな存在。
時が進んで2022年現在では親がスマホを用意するような時代になっている。
大変だぁ。

このヒヨリからの「距離」の歩み寄りが嬉しくて、2人は口づけを交わす。
この頃は まさに この世の春であった…。


スに浮かれたヒヨリは3つのミスを立て続けに犯す。

1つは、この日、おフロ上がりに呼び出されたヒヨリに佐々本が着せてくれたブレザーを そのまま着て帰ってしまったこと。

もう1つは、それを返そうと彼を追いかけって行ったこと。
ここで携帯電話を使っていれば幸せなままでいられたのに。
まぁ 買ったばかりで、携帯で連絡をする事に頭が回らないのも仕方がない。

その途中の公園で、水野が琴音(ことね)と別れる別れないの問答をしており、
琴音と佐々本の間には何かしらの過去がある事、琴音は佐々本が好きだから水野と別れる事を聞いてしまう。
この2人が別れる事も、そして何らかの過去があるのも連載が長編化になったための悪影響かな。

彼らの立ち話を聞いている事が露見するのが、佐々本からの電話で着信音が鳴ってしまったため。
この一連の携帯電話の使い方は よく考えられていて感心する。


…が、恋の幸せな季節=春がおわろうとしている、という表現で、いきなり蝉が鳴くのは どうかと思う。

まだ全員がブレザーを着ているような季節なのだ。
具体的には5月である。
この後の話で、6月1日の水野の誕生日の話が出てくるため、この回は5月が確定している。
季節が変わりゆく表現が蝉というのは無理があるのではないか…。


ヨリのミス3つ目が寝坊。

なんと昼休みが終わる間際に登校したヒヨリ。
(この時のヒヨリの家庭は両親とも不在という設定があって寝坊が許されている。)

水野にはキスがうれしくて眠れなかったと報告するヒヨリだが、
彼女の胸を高鳴らせるのはキスだけでなく、水野との接触も一因であった。
異性と身体が触れて、気持ちが高揚したのか。
どうもヒヨリには浮気者の素質がある。

好きな男の 腕の中でも ちがう男の 夢を見る。そういう生き方が人生を何倍の楽しむ方法!?

水野も寝不足な理由に思い当たらないのは頭の働きが鈍すぎると思うが、
ヒヨリが自分を過小評価して思い上がっていない証拠でもある。
良い意味でも悪い意味でも、自分が愛されていると思っていないのだろう。

そんなカップルに忍び寄るのは琴音。
五月蠅い蝉の鳴き声のように、佐々本に電話をかけて人を困らせる。

また、立ち読みをしているヒヨリにも背後から声を掛け、
「彼女」であるヒヨリよりも佐々本の事を知っているとマウンティングを仕掛ける。
そして自分が彼とキスをした事も ほのめかして ヒヨリを不安にさせる。

そんな嫌味攻撃から助け出してくれたのは水野。
動揺するヒヨリのために気持ちを切り替えさせ、違う場所へ連れ出す。
(その前にヒヨリが水野を食事誘うのが、どうかと思う。
 ヒヨリにとって水野は「彼はトモダチ」なのかもしれないが、女性として脇が甘い)

2人で来た海で、ヒヨリは この日が水野の誕生日だという事を知り、
そこで彼へ砂で作ったケーキをプレゼントし、花火のロウソクで お祝いする。

あぁ、こういう事を佐々本として欲しい。
こんなんじゃ本当に水野がヒヨリを好きになってしまう…。

そして琴音は佐々本にも近づき、
水野はヒヨリがスキだと吹聴し、それが自分と水野が別れる原因になったと被害者ぶる。


うして琴音は、佐々本に着実に不安の火を灯していく。
その不安に駆られた佐々本は駅でヒヨリを待っていた。

だが そこに現れたのは水野と2人で歩くヒヨリの姿。
やはり、この時も携帯電話は役に立たない。
佐々本からの電波を遮断しているのは、ヒヨリが目の前の異性に夢中になっているからでもあるのだろう。

ヒヨリは琴音に負けないように佐々本の全てを知ろうと努力する。
だが それは過去を知りたい、知ってしまう事でもあり、
中2の夏に佐々本と琴音がキスをした事実を聞く。

「キスは そのとき1回きり あとは なにもナイ 誓ってもいい」

それでもヒヨリの不安は拭えない。
「うれしくて うれしくて ドキドキした」日から わずか1日(?)で、
「不安で 不安で 苦しい」。

早くも2人を別れさせる準備が始まる。好評を得て長編化したら誰も得しない内容になった。

して佐々本のこの一言は実は嘘、というのが本書を好きになれない部分である。

2年前の水野の誕生日、
互いに水野が原因で傷ついてたと言える佐々本と琴音は、
その寂しさから肌を重ねてしまった。

この時点でも、彼氏以外の男とあちこち出掛けるヒヨリは脇が甘いし、
琴音はクラッシャーとして縦横無尽に動いてるし、
佐々本まで衝動的な行動をしたり彼女のためとはいえ嘘をついたり隠蔽工作をしたりと、
なかなか癖のある登場人物たちである。
今のところ水野がマトモに見える。

佐々本の隠蔽工作の甲斐もなく、ヒヨリは琴音から2人の間に肉体関係があった事を ほのめかされる。
そうして再び距離が生まれそうな2人に、佐々本は歩み寄りを見せる。

それが2人が出会うまでの14年間を埋めようとする努力。
自分が生まれてからの写真して、彼女への誠意を見せる。

うーん、誠意というか言い訳や取り繕いにも見えてしまう。
なにせ「誓ってもいい」と言った誓いが嘘だったのだもの。
彼は一体、何に誓ったのだろうか…。


んな2人を徹底的に破壊しようと、琴音は毎日、ヒヨリの家に嫌がらせの電話を掛け始めた。

そのせいでヒヨリは電話恐怖症になり、
どんな電話の着信音にも過剰に反応してしまうようになった。

ちなみに この嫌がらせの電話は家の電話に掛かってくる。
(琴音はヒヨリの携帯番号を知らないのだろう)。
これに対してヒヨリの家族が反応しないのは、まだ両親が不在だからか。
そして妹の異変に気づいてもおかしくないヒヨリの姉は家に寄り付かないで遊び歩いているのだろうか。

琴音は佐々本との関係を脅迫材料にし、彼を自分の傍にいるように従わせる。

また、ヒヨリへの嫌がらせを注意する水野には、
ヒヨリはもともと水野がスキだったと知らせ、
水野が動くことでカップルに亀裂を生む事を期待する。
男たちを操り、自分以外の女性に気持ちを奪われる事を許さないらしい。


音の暗躍のせいで、佐々本の事を、信じる 信じないで揺れ動くヒヨリ。

そんなヒヨリは不安を払拭するために、
「あたしが佐々本のモノだって証拠が欲しい」。

高校1年生が どんなに夜に出歩いても怒られないし、
恋人を家に招き入れても 誰にも咎められない。
そのために、様々な理由をつけて親を排除している。
これは本書に意見を言ってくれる友人がいないのと同じような構図である。

恋にだけ生きる事が出来るし、15歳の彼らも好き勝手やれる。

佐々本も、ヒヨリがらしくない行動を取っているにもかかわらず、
どんどんと服を脱がしていく事に違和感を持つ(彼もふるえていたらしいが)。

据え膳食わぬは、という健全な男性なのかもしれないが、
交際前だからとキスをしなかった あの佐々本像は『2巻』で大きく崩れていった。

しかも その最中にかかってきた電話の相手が水野だと嘘をついて琴音のもとに向かってしまう。

聡明な佐々本ならば、今 ヒヨリが何と戦っているのか、
何を不安に思っているか分かるはずなのに、こんな時でも嘘を重ねるのが嫌だ。

そして琴音の術中に はまり、
佐々本が隠そうとしていた過去もヒヨリにバレてしまう。

高校生になった途端に、純愛は黒く染められていく…。
初めてキスをした巻の終わりに、もう別れるとか、
展開が早いと言う褒め言葉よりも、恋愛が軽いという嫌味を送りたい気分である。