《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

元カノの亡霊に悩まされるヒロイン。奪略愛は いつまでも安心できないというメッセージ!?

コイバナ!―恋せよ花火― 9 (マーガレットコミックスDIGITAL)
ななじ 眺(ななじ ながむ)
コイバナ!―恋せよ花火―( こいせよはなび)
第09巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

誓とついに本物のカレカノにと思ったら、まさかの「オトコ拒否症」復活!! 好きなのに思い通りにならない自分に悩む花火に、誓がキツい一言を…。さらに、あの彼女も登場し、花火の恋は最大のピンチに立たされる!!

簡潔完結感想文

  • 交際編がないまま、別れの危機のクライマックスへ突入してしまい腑に落ちない。
  • メアドの変更、ピアスも捨て、何もかも花火仕様にしているのに、花火が拒絶とは…⁉
  • 人のものだった時は宝石に見えたけど、自分のものになった瞬間ただの石になった??

愛が義務と化している少女漫画の悪い所ばかりが見えてくる 9巻。

本書のテーマは、誰もが誰かを好きになり得る、ということかもしれない。
友人たち4人の恋は まさに それを体現している。ヒロイン・花火(はなび)は男嫌いだが、学校の男子生徒の中で1人だけ違ってみてた誓(ちかい)に接近し、当時の彼に恋人がいても その気持ちを抑えきれなかった。2つのマイナスからスタートしても花火は恋愛成就だけを願い、逆境に負けずに邁進し続けた。
そして しのっちょ。『9巻』で明らかになったが彼女と恋人のマサトは人生の背景が何もかも違った。母子家庭に加え弟妹の多い しのっちょ に対し、お金持ちのお坊っちゃんであるマサト。この家庭の差により しのっちょ は将来の見通しが立たなかったのかもしれない。玉の輿ではあるが、高校生同士ではなく、家庭同士の話になると、その家柄の差が問題となってしまう。
美衣(みい)もまた意外な人物を好きになった。彼女は最初は誓が好きだったのだが、友情を優先しようと、他の男を積極的に好きになることで誓を忘れようとした。その相手が尾山(おやま)。彼を利用することで友情を継続しようと思っていた美衣だったが、いつの間にかに尾山自身のことを気に入り始めた。これは美衣にとっても意外な変化だったようだ。
最後は厚実(あつみ)。彼女自身は恋に目覚めた時には体型の差という問題があったが、それよりも大きいのは恋をした相手・佐々(ささ)の恋愛問題だった。佐々が恋をしたのは同性の大人の男性。佐々は中学時代は女性を、そして高校に入ってからは男性を好きになった。彼にとっては好きになった人の性別は関係ない。自分が好きな人の性別が、男または女だったということだ。


火にとって、理想的な恋心は佐々のような心境ではないか。彼のように性別を乗り越え、「その人」を好きになったと胸を張れれば、誓との肉体的な接触(と書くと変な意味が出るが、本書の場合はキス)に嫌悪感は出ないのではないか。
現に誓は花火にそんな心境になることを願っている。そして誓が彼女にそう願うのは、自分がそういう心境になっているからではないか。ここまでで元カノ・雪音(ゆきね)にまつわることを全て消してきた誓。雪音の誕生日が入ったメアドは変更し、彼女が部屋に忘れていったピアスは捨て、思い出は全て捨てている。それは『9巻』で誓グッズを一か所に集めて、恋心に けり をつけようとする花火とは対照的だ。誓の心は順々に雪音を捨て、どんどんと花火でいっぱいになっている。なったから交際し、そしてキスをしたのだ。
だが、キスをしたことで花火は そんな誓の変化を見逃し続けている。キスは花火にとっては拙速な行動だったかもしれないが、誓にとっては自分の溢れる気持ちを行動に移しただけ。そんな2人の気持ちの差異や誤解は埋まるのだろうか。答えは最終巻にある。

自業自得の別れの危機に元カノの襲来で最大のピンチ! 同情できる余地が少しもない花火のピンチ!

かし両想い後が こうもグダグダになるとは思わなかった。こうなると花火は恋愛成就だけを目的にしていた感がある。つまり花火にとって誓は人のものであった時に輝いて見えて、自分に近づいてくると ただの男に見えてきたのか。花火自身も人のものじゃなかったら、恋心は こんなに一気に育たなかったと自白しているしなぁ…。愛が世界をキラキラにしたが、恋愛成就を知らせる「花火」が散ってしまうと、あとは生々しい肉体だけが残るというのが花火の正直な所ではないだろうか。要するに奪略愛を楽しんだ、としか思えない節がある。それに暴言を吐かせてもらえば、散々人のことを傷つけておいて、いまさらカマトトぶってんじゃねーよ、と思う。

そして そもそも花火に関しては恋をしなきゃいけないの?と思わざるを得ない。三角関係で選べないヒロインとか、余りにも幼稚なヒロインとか、恋をする資格が無いような人が、恋愛に片足を突っ込んで、自分も相手も傷つけるような話を見かけるが、本書も そのパターンに近い。

「男嫌い」という性格は、それを花火を付与することで花火が誓を好きになるのは肉食系ではなく、抗いがたい運命だ、と言い訳に使っているようにしか見えなくなってきた。そうして読者に嫌悪感を覚えさせないようにして、奪略に成功した後、今度は男嫌いを交際の障害に使う。本書は花火のままならない恋愛を描いていると言える。

…が、キスすら受け入れられないような心持ちの人には交際なんてする必要はない。そこに徒労感を覚える。花火は誓に恋をして、彼の恋愛を壊してまで何を手に入れたかったのかが分からない。暫くは手を繋いでいるだけで満足なら そう伝えるべきだった。なのに誓に捨てられたくないから追いすがり、彼の飼い犬として生きた。交際の先の展望がないまま、彼との交際という形だけを望んだ。そこもまた花火の恋心が不十分だと思う点である。想像力が足りないし、表面上の関係しか望んでいない。

本当に交際するなら考えておくべきことを何も考えないまま、恋に恋して、奪略愛を成就させた。そういう印象ばかりが強くなる最終盤である。男嫌いの設定があるから当然の展開なのだが、ここにきてヒロイン側に愛が足りないとか読んでいて楽しくない展開である。

作者は色々と言葉を探して、面白い表現をしようという努力をしているのが見える。だが回りくどすぎて何を伝えたいのかが分からない。そして作者が若い人に向けた言葉には説教臭さが出てしまっている気がする。そして展開に疑問が多いので、それらしいことを言って煙に巻いているようにも見えてしまうのが惜しい。


スをしてから距離が出来てしまった2人。その最中、誓のもとに元カノ・雪音から連絡が入る。
誓は雪音の誕生日が入ったメアドから変更していたため、雪音は直接連絡を取るしかなかった。メアドの変更で自分の誕生日が彼の記憶から消されたようでショックを受ける雪音。

今回、彼女は自分が変わったことを伝えに来た。だが誓は花火の存在を理由に雪音の復縁を断る。それを知り、誓に背を向ける雪音。逃げるような彼女の腕を掴み、誓は雪音を気遣う。これまでの雪音なら平気な素振りをしていたであろう場面だが、今の彼女は弱音と涙を誓に見せるようになった。

更に後日には、雪音の母親が入院したことを誓が知り、入院の準備などを手助けする。この誓の行動は微妙な所。元カノとはいえ この場面で手を差し伸べないような人は冷たすぎるし、反面、手を差し伸べるのは交際のマナー違反であるような気もする。事前に花火に了解を取ればいいかな。ただ今の彼女は面倒くさくて、それなら黙って雪音を助けた方が良い。それに雪音を助けるというよりは、これまで色々と お世話になったであろう雪音の母親に対する優しさでもあるだろうし。


火は誓のそばにいたいのに、顔を見て話すことも出来ない。誓は一緒に登校することを止めようかと提案し、花火も誓がこんな自分といたくないかと思い、それを受け入れる。
どんな気持ちも正面からぶつけてきた花火が、今は それを出来ない。それを克服するために、花火はわざわざ男子生徒ばかりの教室の前を通って、女子クラスに辿り着く。一種の修行である。

だが、誓は俺様だから、自分が他の男の延長にあるのが気に食わないらしい。「男」という全体ではなく「誓」という個体と向き合って欲しいのだ。それでも花火は誓が接近すると身体が反応してしまう。

キスで生まれた距離はキスで埋めればいいと考えた花火は、誓にキスをしてもらおうとする。だが、どうしても誓にも生身の男性の感覚があり、苦痛が大きい。それもまた誓には不愉快。誓が言うには、誓は男ではなく「オレ」という一つのジャンルらしい。花火の中に、その認識がまだ生まれていない。誓を好きなら性別をも超越する。なのにしていない。それが佐々とは違う点だろう。だが、花火は誓は好きだが、彼は男だと強く意識している。誓の中で、自分は花火にとって特別な人ではないのかもしれない、という疑いが出てしまう。

追いかけ続けていたドS・俺様ヒーローが いつの間にかにヒロインに夢中。少女漫画あるある です。

の時、誓の携帯が鳴り、彼が出るのを逡巡していることから、それが雪音からの連絡だと推理する花火。
花火は そこに裏切りを感じる。雪音の家庭の事情を知らない花火は、誓を責める。メアドに彼女の痕跡を見て、誓がそれを変えたのに、満足しない。どんな場合でも元カノの連絡は許さない。花火の悩みは雪音の実体から、彼女の亡霊に困らされるフェイズに移行したと言えよう。それに彼女から誓を奪ったのだから、彼女が再び誓を奪う事態になっても花火は文句を言えない。そして今、2人は交際が危うい状態である。

春休み中も会わない2人。花火はバイトをして過ごし、そして誓は雪音の家で入院生活をフォローしたお礼をされる。その帰り、誓は雪音に好きでい続けてもいいか、と聞かれる。それは彼女がいるのに誓を好きになった花火と同じことだと雪音は言う。人を呪わば穴二つ。同じことが自分に降りかかってくる。それに誓も自分がちゃんと別れる前から花火に気持ちを傾けていた。彼が浮気したは、自分が浮気されるリスクとなる。花火の奪略愛が交際後にもスッキリしないのは こういう点があるからだ。


んな膠着した2人を打破しようと動くのは花火の飼い犬・ナンパ。本書ではずっと犬が2人の縁を結んできた。今回、ナンパは花火に踏ん切りをつけさせようとするのだが…。

ナンパは『1巻』で花火が誓から犬の木工細工を噛み砕いた。これは いわば誓から贈られたアクセサリで、花火にとっては最初の誓への愛の象徴。それを破壊することで、ナンパは花火の苦しみを除去しようとしたのだが…。