《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒーローが強すぎるから作品から追放されるのではなく、弱すぎて話に参加できない水谷。

学園王子(8) (別冊フレンドコミックス)
柚月 純(ゆづき じゅん)
学園王子(がくえんおうじ)
第08巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

ジョシ高に転入してきた世界的トップモデル・瀬里葉(せりは)。輝ける美貌と凛とした強さを兼ね備えた彼女に、沖津(おきつ)リセは心酔する。瀬里葉もまた、リセにのみ心を開き、打ち明ける。赤丸臣(あかまるおみ)を好きになったということを……。だが、リセの心は揺れていた。赤丸の言葉によって。「俺はお前に頼られたい」

簡潔完結感想文

  • 少女漫画あるある。新キャラや当て馬を活躍させるために初代メンバー弱体化しがち。
  • 水谷は弱すぎて排除されるし、自力で生きてきたはずのリセも簡単に洗脳されすぎだ。
  • もはや この学校の特性が形骸化している。婚約式はあるものの、後は普通のイジメ。

期的展望がないまま始まった少女漫画はバランスが崩壊する 8巻。

少年漫画だけでなく少女漫画のヒーローもインフレを起こしがちである。

ヒーローに美貌や知力、腕力など全てを兼ね備えた設定を盛ってしまったがために、
彼がヒロインの悩みや不安を一瞬で解決してしまい、話が継続できないヒーロが時折 確認される。

そして その手のヒーローは物語から追放されがちである。
少しでも物語を先延ばしにしたい作者と ヒーローの相性が悪いからである。
(同じ講談社作品では栄羽弥さん『コスプレ★アニマル』や、清野静流さん『純愛特攻隊長!』である)

これらの作品は読切や短期連載から、その後に長期連載となったから序盤は先の展望がない。
だから とにかくヒーローを無敵にした結果、『ワンパン マン』的な悩みが生じてしまうのだ。


だが本書のヒーロー・水谷(みずたに)は、この事例とは真逆で役に立たなさ過ぎて追放されがちである。
適切な時にヒロイン・リセを助ける赤丸(あかまる)に比べて役立たずが過ぎる。

ここ最近の水谷は自信を喪失しているため、
リセに情けないことを言って、彼女の庇護欲をかきたてるだけの存在に成り果てている。

水谷を擁護するのなら、今の彼は雌伏の時なのであろう。
大器晩成の彼が、最後の最後で本書の どの男性キャラよりも大きく育つための準備段階。
情けない、出番がない、幼い、こんな汚名も今は甘んじて受け入れる覚悟だろう。

が、水谷の問題は、もうコールドゲームを言い渡されるほど赤丸との点数の差がある事であろう。
最初と最後だけヒーロー気取りで出張ってきても、読者の誰もが彼をヒーローとは認めないかもしれない。

皮肉にも『8巻』の表紙にヒーローたち2人が並んでいるが、現状は横並びではなく大きな差がついている。

弱すぎるヒーローに、頭が弱くなってしまったヒロイン。性描写も奪われて、作品の良い部分が…。

して 作品が長編化すると もう一つ起こるのが主人公のキャラ変。
本書のリセもいつの間にかに思考力が奪われて新キャラ・セリハの言いなりになっている。

こうやってヒロインが新キャラに簡単に心酔してしまう展開は物語を動かしやすいのだろう。
特に「別冊フレンド」では よく見る気がする。

本書の方が発表は古いが、後には北川夕夏さん『影野だって青春したい』や ぢゅん子さん『私がモテてどうすんだ』などでも、
主人公が新キャラに簡単にマインドコントロールされて 都合の良い手足に成り果てていた。

どの作品でも主人公は簡単に人を信用するタイプではないのだが、
そんな設定はお構いなしに、作者に都合のいいように話は進む。

厳しいことを言えば誰もが思いつくような展開で、
どの作品も説得力や工夫に賭けている。

本書のリセの場合は「友達」という彼女のトラウマを刺激するようなワードが用意されているが、
セリハが登場していなかった お泊り回でもリセは楽しくやっていたんだから、
新しい世界を求める理由はあまりない。

こうやってリセがセリハ教を妄信することで、
外から見ている水谷や赤丸には、その光景が異常に映り、彼らがリセを助ける理由となるのだろう。
しかし これも男性に助けられることを前提にして話が出来ているような印象を受ける。

ヒロインが強くなったり弱くなったり、
キャラの設定や、これまでの経験を安易にリセットさせ過ぎているのが残念極まりない。


リハは赤丸が好きだとリセに告げる。
これは通常なら好きな人が被って さぁ大変という場面だが、
現時点でリセは赤丸のことを好きだという自覚は何も問題がない。

だが、無自覚に赤丸と接近してしまうからセリハの目の上のたんこぶになってしまう。
(ちなみにセリハの意地悪顔は なぜか顔が長く(馬面)見える。)

赤丸はお構いなしにリセのナイトになり続ける。
そんな彼を遠ざけようとリセは必死になり、赤丸の不興を買う。
それはセリハの狙い通りでもあった。

その上 セリハはリセを追い詰めるために、リセが友人から貰った手作りペンケースを焼却炉に入れる。
ここで気になるのが焼却炉である。
1998年には焼却炉の使用の廃止が通達されているはず。
作者が ご自身の時の記憶から学校風景をアップデートせずに描いたのかな…。
(その後に「使われていないはずの焼却炉」という言葉があるのでセーフか?
 でも その場合 セリハはどうやって着火したのかが新たな謎となるが)


丸はセリハの不自然な動き、
そして自分たちが同じ小学校に在籍していた過去を意図的に隠していることを知る。

そこで彼は独自に動き出す。
セリハに、同じ学校であったこと、
そして彼女が小学校時代にリセをイジメていたことを告げる。

だがセリハは動揺せず、
自分を追い込むことはリセの破滅に繋がると仄めかす。
ただでさえ女生徒が強い この学校の更にトップに立つ自分は有利であると言う。
そしてリセを守りたいのなら、言う事を聞けと赤丸を脅迫する。

そこからセリハは赤丸と「ネクタイ交換」をして交際が始まる。
ただし これは脅迫による偽装交際だろう。

種類としては『1巻』の水谷とリセが交わした交際と似たようなものだろう。
この厳しい学校社会で守りたいものがあるから手を組んだ。

水谷は自分を守るためだけに偽装交際を利用したが、
赤丸はリセを守るために偽装交際に応じる、という大きな違いがあり、
それが読者の好感度の差でもある。

セリハはリセが赤丸を好きかどうかは問わないのだろう。

自分がリセよりも優位に立っていて、
赤丸を好きなように操れることが彼女の優越感に繋がっていく。

忘れそうな学校イベント「婚約式」の準備も初めて、赤丸との仲をリセに見せつける。
やんわりとリセが逃げ出そうとするとセリハは「親友」という言葉で彼女を縛る。


谷も彼の事情(器の小ささ)で手一杯で近づいてこないし、リセは独りになる。
そうして自分がセリハに近づいたことで失ったものがリセにも見えてきた。

だが婚約式の直前にリセが木材の下敷きになり、水谷は式の途中の赤丸に報告に行く。

ここ、水谷が自己中心的な人間であれば、報告することはなかったが、
彼はリセを赤丸に譲ることが彼女の幸せだと考えているから、わざわざ赤丸に伝えたのだろう。
やはり彼なりに、他人を思い遣る心が生まれ始めていると言える。

水谷はリセを大切に想うから赤丸を頼り、赤丸も緊急事態に素に戻る。結局 リセがモテモテって話です。

そうして式を投げ出して、リセの元に走る赤丸。
彼女の無事を確認した赤丸は引き続きリセを守るために、婚約式に戻り、完遂させるが、
セリハは式が万全に進行されなくなり面子が潰れたと感じた。

セリハは この騒動をリセの狂言自殺が原因だとし、
女子生徒たちがリセに反感を持たせるように仕向ける。
そうして方向性を定めれば、あとは勝手に行動してくれる。

こうしてリセは 穏やかな日々が終わり、またイジメの渦中に放り出されたことを知る…。

セリハが嘘をついていることを見抜き、
2人は表面上 友情が壊れていない振りをしながら、
加害者と被害者という関係が続いていく。

小学校時代から続くイジメと三角関係の第2ラウンドが今 始まる。
この1巻以上は それを盛り上げるための前座で あった。