《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

突然 降り出した雨から始まる2つの恋。1つの恋は翌日に成就するが、2つ目は前途多難!?

理想的ボーイフレンド 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)
綾瀬 羽美(あやせ うみ)
理想的ボーイフレンド(りそうてきぼーいふれんど)
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

マイペース・ラブストーリー、始まります。強引男子が好みの結沙は、バスケ部の先輩がタイプ。でも、友だちの奈々未と先輩が急接近!奈々未の恋を応援するため「好きな人ができたの!」とウソをついた結沙。たまたま近くにいたクラスメイトの春田くんがその作戦を察して、彼氏のフリをしてくれました。淡々としているけど、ときどき、とっても優しい。そんな春田くんに、結沙の気持ちは…?

簡潔完結感想文

  • 友人のために身を引く健気なヒロインは、疑似的俺様ヒーローと偽装交際をする。
  • 「俺様彼氏」を演じてくれる時の彼にまでキュンとする自分が好きなのは、誰か。
  • 天然で恋を知らない春田に注目が集まるが、ヒロインも かなり変。だからコミカル。

様ヒーローへのアンチテーゼのようにも読める 1巻。

本書のヒロイン・立川 結沙(たちかわ ゆさ)は、2次元・3次元を問わず俺様ヒーローが好物という設定。ちょっと横柄な人を見ると すぐにトキメいてしまう。だが本書のヒーロー・春田 楓(はるた かえで)はマイペース男子で、俺様とは対極に位置する。本来は自分の好みではない人を好きになっていく過程が丁寧に描かれるのが『1巻』である。

俺様の その先のヒーロー像を模索した作品、かもしれない。模造品を乱発しても読者は飽きるよ☆

『1巻』は少女漫画界で吹き荒れた俺様ヒーローのブームを取り入れつつ、作者が納得できる形にアレンジしているように思えた。最初にヒロイン・結沙が好きになるのは俺様男子のバスケ部の先輩。そして親友と同じ人を好きになったと知った結沙が「泣いた赤鬼」のように自分が身を引くことを知った春田は、彼女が推す漫画のキャラになりきって、結沙の彼氏を偽装する。

読者が喜ぶ俺様シーンを作中に取り入れつつ、そのブームによって画一化されるヒーロー像からの脱却を図ったと考えるのは深読みのし過ぎか。でも作者が完結後に言う通り、発表媒体が当初は別冊マーガレットではなく、関連する別雑誌であったことは大きかったように思う。本誌である「別マ」ではGOサインが出ないヒーロー像だけど、短期連載の好評から本誌に春田というヒーローを逆輸入できたことで、他作品との差別化が出来ただろう。

俺様要素を変則的に利用し、その上で平和な(女性が酷い扱いを受けないコミカルな)展開を用意するのは この頃の「別マ」の特徴なのだろうか。全体的な雰囲気が湯木のじん さん『これは愛じゃないので、よろしく』を連想させた。展開とかではなく、めげないヒロイン像が似ている。春田のマイペースや天然の影に隠れているが、結沙も なかなか変わった人である。ちょうど この2作品が始まった2016年頃は こういう作風が編集部によって主導されていたのか。右も左も似たような作品で俺様疲れしていた少女漫画読者に届いた作品たちであろう。この頃がブームの終焉と考えて良いのだろうか。

掲載誌で言えば本書は中盤から「りぼん」かな、と思う展開と世界観(内輪の話)になったが、主役たちの両想い後の交際を描いたり、多くの登場人物を幸せにしたりと連載が継続したからこそ叶ったことが いっぱいあったと思う。

そして やっぱり読切短編や、今回のように短期連載が連載化する作品は芸が細かいと思わされた。ヒロインを応援してもらえるような言動や、春田が偽装彼氏として覚醒する流れも素晴らしい。そういえば上述の『これは愛じゃない~』は優等生が俺様ヒーローに豹変していたが、本書は人畜無害な春田がヒロインのピンチの時だけ「俺様」に変身しているように見える。目立たない春田が、一時的に二重人格のようにヒーローとして輝く姿が面白い。こういう変身を恥ずかし気もなく やれてしまうのは、春田が あまり周囲の視線を気にしないマイペースだから という合理的説明もついている。1話は結構な話の展開の速さなのだが、そこに無理が生じていないのが作者の巧みな筆致のように感じられた。


常の少女漫画なら、結果的に俺様彼氏に振り回される多難なヒロインを描くが、本書のヒロイン・結沙(ゆさ)は最初から俺様に振り回されたい願望を持つ。ある意味で少女漫画の俺様ブームが生んだモンスターなのかもしれない。2次元上だけで存在が許されている俺様を3次元に願ってしまい、自分=女性に優しくない男性ばかりに惹かれる不幸のスパイラルに突入していく…。

1話では結沙が「良い子」であることが強調される。冒頭から甘味処を経営している家の手伝いをしていることが明かされる(途中から全く手伝っていないような気もするが…)。

その甘味処にクラスメイトの春田が来客する。突然の雨が降ってきたから雨宿りのために店に入ったという。考えてみれば、この日の突然の雨が後に2組のカップルが誕生する契機となっている。結沙と親友の2人は それぞれに運命的な出会いとなったことを彼女たちは まだ知らない。

春田にタオルを持って来ようとする良い子の結沙だったが、その結沙を春田が呼び止めようと湯呑みを割ってしまう。結沙は それを自分が割ったことにするが、それに対し、ここが結沙の実家だと知らない春田は、彼女が怒られると思って ちゃんと自分の責任にするのも良い。そこで結沙は実家であることを話し、いつもミスが多いから大丈夫だと春田を庇う。そのことが春田の恩となる。読者は最初から この2人に対して好感度を持つことになる。

そして本好きの春田が持っていた本が雨に濡れてページが上手く開かなくなったことを知った結沙は春田に自分の お薦めの少女漫画を貸す。その中の俺様キャラのヒーローが自分の理想で、学校の先輩に似ていて好きだと自分のことを全部 話す。


日、結沙は親友の奈々未(ななみ)が憧れの先輩と相合傘をして帰ったことを聞かされる。だが奈々未に傘を返してきた先輩に対して奈々未が好意を持っており、そして先輩もまた同じであるということを2人の空気から感じ取る結沙。先輩の初登場のシーンで結沙よりも奈々未の名前を先に口にしているのは、彼の好感度の順番だったのかもしれない。こういう部分も芸が細かい。

なかなか自分の本心を言わない奈々未に代わって、結沙は身を引くことを考える。そこで先輩への好意は憧れに過ぎず、他に好きな人が出来たと取り繕う。だが奈々未は結沙の片想い遍歴と、好みのタイプを熟知しているため、結沙は追い込まれる。
春田に聞こえるような距離で春田の名前を出してみると、その空気を察した春田は結沙が望む彼女が好きなキャラを見事に演じ切って見せる。どう考えても あまり空気を読めなそうなキャラの春田だが、この時は多くの読書経験から「行間を読んだ」という説明が加えられる。しかも春田は自分たちが もう交際を始めた彼氏彼女の関係だと言い出し、今度は結沙が それに全乗っかりする。

彼女のピンチに現れる変身ヒーロー。ヒーローになると言葉遣いや性格が悪くなるけど(笑)

急展開だが、それで自分の恋の障害が無くなる奈々未は その情報を信じる。信じたい情報を信じるのが人というものか。こうして奈々未も すぐに遠慮する気持ちを消失し、いづれ先輩に告白するという。ちょっと自己中心的すぎる奈々未の気持ちの推移だが、これは本来は連載が3回分だったこともあって「巻き」で行動したのだろう。

こうして自分で失恋を決めた結沙。春田が協力的だったのは、前日の湯呑みの件があったからだった。
結沙は春田の彼女になったことが周囲に広まり、彼に迷惑を掛けないか心配になるが、春田は交際中の彼女どころか、人を好きになったことがないから安心だという。ちょっと俺様な男性ならば すぐに好きになってしまう惚れっぽい性格を結沙は反省するが、春田は逆に恋愛感情を理解しない自分が冷たい人間ではないかと悩んでいた。


んと奈々未は この日のうちに行動し、結沙は その告白の様子と先輩もまた彼女が気になっていて交際を成立する場面を見聞きしてしまう。

分かっていた結果だったが、涙が止まらない結沙。その感情を表現できるのは、何もかも事情を知っている春田の前だけだった。奈々未は自分の告白の結果を結沙に伝えたいと言い出すが、それを受け止める余裕は今の結沙にはない。だから春田は結沙を抱きしめることで泣きはらした彼女を隠し、のろけ話なら明日 聞くと伝え、俺様口調で奈々未を退散させる。

奈々未の拙速な行動はページの都合もあるだろうが、先輩への恋に完全に決着がつくことが2人の恋のスタートラインになるのだろう。俺様のことは早めに忘れて、マイペースでも人の心情を しっかりと掬(すく)ってくれる優しい彼を早々にヒーローに就任させている。先輩自身は良い人だが、奈々未は読者から反発されても仕方がないかな、と思わざるを得ない。


うして始まる偽装交際。
結沙は春田のシスコンの面や、読書家だけど その守備範囲の広さなど彼のことを知っていく。そして自分とは合わない面も分かってくる。食べ物の好みなど、何もかもが一致するわけではない。全てが好みではないし、何もかもマッチする訳ではないけれど、総合的に好き、という感覚は非常に現実的に思える。

2話から登場するのが春田の親友・谷(たに)。彼からは春田は直接話さないであろう、春田のモテ事情が語られる。春田は多くはないが それなりに告白され、そして断ってきたという。そして谷のお陰で2人は交際しているように見えるよう名前で呼び合うことになる。2人だと歩みが遅いであろう彼らの良い促進剤になっている。奈々未が恋の破壊神であるならば、谷は恋のキューピッド役であろう。

結沙は奈々未に嘘をつき続ける無理と、春田の多大な協力、そして何より演技だと分かっていながら春田の俺様な言動にキュンとする自分に呆れ果て、この関係に終止符を打とうと考える。

それでも春田の見せる気遣いや優しさに甘えてしまう。そして そこで自分の中に芽生え始めている感情や、それを与えてくれているのは演技の外にいる春田自身であることを再確認する。春田は これまでの理想ではないが、新しく好きになるタイプ。そう自覚するまでが2話である。


沙が春田にも言えないことを言える相手は谷になる。奈々未には事情を話せないため消去法的に谷しかいない。決して男性に寄りかかっている訳ではない。でも これで谷が結沙のことを好きになったりしたら、目も当てられない状況だっただろう…。

結沙の事情を知った谷は3人での お出掛けを提案する。インドア派の春田を連れ出す限界は動物園だった。だが そこでは知性のレベルが一緒だからか、そして結沙が春田を意識して避けてしまうからか、結沙は谷とばかり行動してしまう。しかし これが春田の気に障る。今まで他者に無関心だった春田だが、谷に対して嫉妬の感情を見せ始める。この偽装交際に置いて谷は疑似的な当て馬ポジションなのだろう。

そんな2人の事情を知った谷が、気を利かせて途中退場。そこで結沙は偽装交際の終了を申し出る。だが春田は それを結沙の谷への恋心が原因だと勘違いしてしまう。自分の都合で春田を避けるあまり こんな考えをさせてしまった結沙は それを分かっていながら、春田が身を引くような発言をしたことに悲しみを覚える。

そうして逃亡する結沙だったが、体力のない春田が全力で追いかけてくれた。そこで結沙は自分の遠距離恋愛の終了宣言は、改めて春田と関係を築きたいという意思であること、その根源には春田のことが好きという感情があることを伝える。恋という気持ちが分からない春田は、それには応えない。だが春田の独白から谷への焼きもちなど、自分が頑張れる要素を感じた結沙は彼の恋人になれるように努力をすることを決めた。この後、両想いになるような展開が期待できる読切短編部分の終わり方だった。


が4話目から本格連載が始まり、春田の恋愛感情は ほぼほぼリセットされる。そして これまでの あらすじ が語られる部分が そのまま奈々未に真実を伝えたという形式になっている。こうして奈々未は初めて結沙が自分のために身を引いてくれたことを知る。奈々未は作中における悪女役から親友へと戻れるだろうか。

この回は谷のキャラクタが良い。というか谷を巡る複雑な三角関係(?)が面白い。谷は春田にとって唯一 遠慮がない人で、春田は彼にはナチュラルにSっ気を発揮すると言っていい。春田から暴力やS発言を引き出す谷に対して結沙は羨望を隠せない、というのが笑える。

俺様ヒーローの大半は母の愛情不足が原因だが、結沙は何が原因で性癖が歪んでしまったのか…。

恋に関して結沙は自分なりに頑張ろうとするが、そんな頃に文化祭が始まる。連載の仕切り直しで登場するのが新キャラ。クラス一の美少女・八重(やえ)が登場する。その八重は春田に狙いをつけたらしく、ミスコンの出場者に自分と春田がなれるようにクラスメイトの女子に根回しをしていた。

リセット状態であっても結沙は春田と一緒に帰ることは出来る。でも春田は天然で暖簾に腕押し状態。それでも諦めないヒロインらしさが光る。難攻不落の鈍感男に対して肉食系とまではいかないが、関係を前に進めようとするヒロインから動く感じが良い。

だが後日、結沙は接点のなかった八重から話しかけられ、春田との現在の関係を尋ねられる。そこで偽装交際や その終了を語ることになり、八重は その前から春田が好きだったと宣戦布告をしてくて…⁉