《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

白泉社の上流階級イケメン 講談社のイジメ描写 小学館のエロ、が 融合しないで瓦解する作品。

学園王子(1) (別冊フレンドコミックス)
柚月 純(ゆづき じゅん)
学園王子(がくえんおうじ)
第01巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

ここは伝統ある名門校「私立城史丘(じょうしおか)学園高等部」――通称「ジョシ高」。圧倒的に女子が多く、男は数えるほどしかいない。男子達のハーレム校……と思いきや、そこは女子が男子を支配する世界であった――。イケ男(メン)を巡って繰り広げられる、乙女たちの熾烈なバトル! 身の危険を感じたイケ男転校生・水谷梓(みずたに・あずさ)が選んだ秘策とは? ハイテンション・エッチラブコメ!!

簡潔完結感想文

  • イケメン × エロ × 上流階級 × いじめ × 庶民派ヒロイン=作者にも収拾がつかないカオス。
  • ある意味で時代の変化を如実に表した作品。エロの取り締まりが厳しくなって作風が漂流⁉
  • 自分の身は自分で守るしかない荒廃した世界で、2人が手を取り合えば取り敢えずは安泰。

ずは こちら をご覧ください、の 1巻。

1話の扉絵の後の作者の手荒い洗礼。引き返すなら今の内。

私は どんな場面よりも、この作者の「ごあいさつ」が本書の作風を表していると思う。
思いつくままに、品のないことでも書き連ねる、それが本書のアイデンティティ
この時から15年以上が経過し 年齢を重ねた今、こんな文章を書いたことを恥じていて欲しいものだ。

私は、この文章、このレイアウト、品性とは何かを考えさせる内容に「地雷」を感じたものです…。

まず 訴えたいのは、本書は少女漫画ではないということ。
少女漫画誌に掲載され、そのレーベルから発売されてはいるが、これは少女漫画ではない。

本書の連載終了の少し前に、同じ講談社の青年誌で、
設定が酷似している(ように思われる)『監獄学園(未読)』が始まったのは必然か偶然か。
そんな男性誌向けでも通用する設定を女性側の観点から取り扱ったのが本書に思える。

この時代(2000年代半ばまで)の少女漫画の問題点は、
主に男性向けの漫画は、少年漫画に対する青年漫画の位置づけがしっかりしているが、
女性向けの漫画は、青年漫画のような内容も少女漫画に取り込まれていたことだろう。

男性向けに比べて、性に特化すると、市場が小さくなってしまうからなのか、
少女漫画の枠と見せかけて、過激な内容を売りにしていったのだろう。

社会的な規制が進んで 今は内容が整理されているのだろうが、
出版業界が安易な売り上げの上昇を望んだ結果、より過激な内容に走ってしまったように思える。

それはまるで 本書における この学校のようである。
女性とたちの欲望が一つの渦となり、その狂乱はモラルやルールを破壊していく。

こうして読者も女生徒も 新しい作品・エロいイケメンを心待ちにして、
容易に心を満たすような、物語の内容や「核」が存在しない一過性の物語が粗製乱造されていく。
男性器が白塗りになっている少女漫画なんて初めて見ましたよ…。


が そんな狂乱は、社会の「風紀委員」である条例や世論によって規制されていく。
少女漫画が これだけ乱れた校風であることを外部監査の者は問題視したのだろう。
(ここら辺、本書の結末とマッチしているように思える)

2008年から2011年に発表された本書は、
少女漫画界の全体のトレンドに強く影響された作品と言える。

同じことを繰り返す訳にもいかないからもあるだろうが、
当初の過激なエロやイジメの描写は 次第に鳴りを潜めていく。
狂乱に水を差されて、読者がエロを求めにくい雰囲気が蔓延してしまい、
それにより最大の売りを奪われた形になったのではないか。

少女漫画では注目を集めるために1話目でヒーローに極端なキャラ付けがされることが多いが、
そこで人気を得ると、キャラの維持も難しくなり、段々とヒーローが丸くなっていく。
そして最終的には凡庸な人間となって終わることが多い。

だが本書の場合、ヒーローの水谷の性格は さほど変わらない。
本書においては作品全体が、そのキャラ付けを失っていったように思う。

そして当初のキャラが通用しなくなったと見ると、
急に仲間内でワイワイしだしたり、新キャラを投入していったりと延命に余念がない。

そうして売れる要素をとにかく煮込んだ作品となり、
あらゆる活路を模索していったが、じきに失速していった。

そこには顔を売るために変人キャラをつけすぎた芸能人みたいな悲哀がある。
エロ特化しすぎて、そのバブルが崩壊したら何も残らなかったのだろう。

掲載誌が「別冊フレンド」だと知って、妙に納得した。
私と「別フレ」は相性が悪い。
別フレ作品は、1話目の展開、そして特殊シチュエーションで読者の興味をそそることに並々ならぬ情熱を傾ける。
だから出オチの作品が多くなる。
しかも作品に人気が出ると出涸らしになるまで連載をさせて、多くの作品で引き際を見誤る。
恋する人の心の機微を繊細に描く、など別フレ作品に期待してはいけない。

男が貴重な世界。ここは監獄学園? それとも彼らは終末のハーレム? なんだか逆白泉社っぽい。

容は、↑ の あらすじ通り。
改めて書き起こす気も起きない設定である。

ヒロインは沖津(おきつ)リセ。
訳あって地味に生きることを選択している上流階級の中の庶民。
庶民である彼女が学校の最高峰クラス&最高峰(?)イケメンに見初められる、というのが読者の承認欲求を満たすのだろう。
普段かけている眼鏡を外すと美少女になるという20世紀のような設定を持つ。

ヒーローは水谷 梓(みずたに あずさ)。
この学校のルールを一切知らないで入学した転入生。
彼の登場によって、この学校のルールが示され、
そしてリセは、彼の自己保身に巻き込まれていく。

王子様の手によって女性は誰でもシンデレラ。醜くても美しくても女性はイジメるんですけどね…。

まず、水谷の無責任さが目立つ。

まず水谷がリセを巻き込むことで保身に走った。
ヒーローとしては最低な人間で、読者に彼をどう好きになれというのか疑問である。

本書は「カップル」となった2人ともが巻き込まれ体質で、
ともに学内の異常性から自分を守ることに必死になっている。

基本的にはリセこそヒーローなのは分かるが、
水谷に彼女への感謝はなく、騒動に対し幼稚園児みたいに叫んでいるだけで物語にカタルシスがない。
役割が男女逆転でもいいが、水谷に知性がないため、恋愛感情などを持っているとは思えない。

リセの水谷への行動も優しさや お節介以外の感情が見い出せず、
彼女が水谷に惹かれる要素が一つも感じられない。

作者自身も水谷の長所を見失ったまま話が進むので、
奇抜で下品な設定以外 どこを楽しんでいいのかが分からなかった。
感性が古い私にはギャグの数々も何が楽しいのか さっぱり分からないし。


もそも本書の問題は、女子生徒の飢えに対する理由が無いことだと思う。
この学校が、全寮制で陸の孤島のような場所に位置するとかなら分かるが、
自宅から徒歩や車で通えるような環境にあるのに、なぜ この学校の雄(オス)を求めるのか。
元女子校ならば、異性を求めるのではなく、遠ざける者もいるだろうに。

そして「厳格な風紀」なんて およそこの学校に相応しくない理由を用意して、女性を ただの性欲お化けにしている。
こいつらが家で大人しくしているとは到底 思えないですけど…?

こういう作風で読者は不快にならないのだろうか。
それとも こういう下劣な女性を読者の下に置くことで、
自分だけは彼女たちとは違う、という優越感を生じさせているのだろうか。

ヒロイン以外は盛りのついたメス。こういう描写は少女たちにとって不快要素じゃないのかな?

そして本書の男性たちも、その価値は希少性しかない。
女生徒たちも読者も、限られた人数の男性から自分の好みを探しているだけに過ぎない。
まるで学校が世界の全てであるような描き方をして、
ロクでもない人間たちに、芸能人のような価値を与えようとしている。

作品に没入できる読者には女生徒たちと同じような魔法が効くだろうが、
冷ややかな目で見ると、異常な世界にしか見えない。

ネクタイ交換や、この後の儀式、生徒会や風紀委員など、
生徒たちが反発できないルールや存在が幾つか設けられているが、
なぜ それらだけが生徒たちに通用する社会的ルールなのかの理由がさっぱり分からない。

世界観もキャラ設定も作者自身が掴んでいないまま、過激な描写だけが続いていく。
もう少しでも学園にリアリティがあれば そんな描写も楽しめた気がする。
作者が考えられないのならば、編集者が助けてあげてほしかった。
いくら何でも これはない。

そしてラストの話で水谷が兄の存在をほのめかしている場面があるが、
これはないことになっている設定ではないか。
兄がいるのならば最終盤の展開が変わっているはずだから。
まぁ、本書に一貫性を求めること自体が間違っているんです。