《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

三角関係に必要なのは、男と一緒にいる場面を 別の男に見つかるようなビッチ ヒロイン。

学園王子(11) (別冊フレンドコミックス)
柚月 純(ゆづき じゅん)
学園王子(がくえんおうじ)
第11巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

「俺が、鎮めてやる――」何者かに薬を盛られ獣(ケダモノ)のように乱れる沖津(おきつ)リセに、赤丸臣(あかまるおみ)はそう応えた――。それは、リセへの想いを断ち切るべく生徒会に入った水谷梓(みずたにあずさ)にとって、残酷過ぎる光景だった……。さようなら、沖津――。生徒会で生きることを決めた梓に、リセは!? 官能学園浪漫譚、クライマックスまで秒読み!!

簡潔完結感想文

  • 2人の男性がヒロインのために自己改革。だがヒロインは守る価値のない浮気者
  • リセは水谷のために行動する自分に無自覚で、更には赤丸を傷つける事にも無自覚。
  • 単独行動で拉致、薬を盛られて危機一髪、全てを操る黒幕の存在。展開が全部 同じ。

立たしさの相手が水谷からリセにチェンジする 11巻。

ヒロインのリセに終始イライラさせられた『11巻』。
赤丸(あかまる)という交際相手がいながら、ずっと喧嘩友達のような水谷(みずたに)の事を気にする彼女。
水谷を思っての行動をしているのに、彼への気持ちに気づかない振りをするのがイタい。

この『11巻』なら、赤丸との関係が気まずくなる とある事件以降に水谷に気持ちが傾くのなら分かるが、
赤丸が ずっと真摯な態度を取っている時に、リセは水谷のために行動を起こしている。

本書は最終的な結末が予測不可能な三角関係にはなっているが、
それは行き当たりばったりの歪な構図が読者に未来予測の根拠を与えてくれないからである。

そもそもがリセが水谷を好きになる根拠が薄弱。
彼らの間に流れる感情は、ダメな子ほど可愛い的な、格好のつかない水谷に対して、
長女で「委員長」的な性格の放っておけないぐらいのものしか感じられない。

その一方で、赤丸は後発的に そして後付け感が満載のリセとの過去が明らかになった。
これによって一気に赤丸が正ヒーローっぽくなったが、
そうして彼らの関係を これ以上ないほどに補強したのに、リセがフラフラしているから何も信じられなくなる。

揺れ動く乙女心こそ三角関係の維持に必要な要素ではあるが、
リセの心の天秤が、なぜ水谷に傾くのかが全く分からないから共感がなく、彼女の行動に唖然とするばかりだった。

今回も学園内での事件の展開は一緒。
黒幕がいて、その人の手のひらの上で全員が踊っているというカタルシスのない構造。

そして最後には真の黒幕が現れ、急速に物語が畳まれ始める。

最初の感想文で、本書が過激な内容で読者を釣るだけの青年誌みたいな内容だ、と書いたが、
作品に対する人気が失われると、一気に物語を終わらせようとする点も青年誌っぽい点である。


頭からリセは自分の目が何も見ていないことに気づかされていた。
そして それは自分の態度が赤丸を傷つけていることに無自覚なことに通じるだろう。
結局、リセは小学校以来、自分の狭い物の見方を拡げられていないと言える。

リセは、友人・郁(いく)がイジメの対象になっていることに、その場面に直面して 初めて気づく。
思い返せば予兆はあったが、リセは それを見過ごして毎日を過ごしていたのだ。

郁がイジメられるのは、彼女を追い詰めて、リセに赤丸との別れを進言させようとする女生徒たちの奸計だった。
リセと赤丸の交際から一呼吸置いてから、別れさせようとする随分と回りくどい手法である。
本書の唯一の特徴であった過激な性描写とイジメ描写は、本当に奪われてしまったのか。

女子生徒たちは、これまでは大目に見ていた、赤丸の一時の気の迷い、などという理由をつけているが、
これはセリハ事件の後に同じような事件を起こすのはメリハリがつかないという作品上の都合もあろう。
通常の、この学校の生徒なら、交際を知った その日の内に嫌がらせ行動を起こしているはずだもの。
女生徒たちの動きが、作品の都合で決められている気がする。
こんなに大人しい訳がなかろう。

リセは郁の窮状を感知できなかったことを悔やむ。
そして今度は郁のことで頭がいっぱいで赤丸との交際も上手くいかない。
しかも赤丸と別れさせようという女子生徒の企みを赤丸本人に言う訳にいかないから一人で抱え込む。

ヒロインが自分で何とかしようとして、彼氏を頼らないで2人の間に溝が出来るのは少女漫画的なデフォルト展開ですね。


徒会に入った水谷は奮闘していた。
学校の改革を目指し校内を見回りする水谷は、リセたちが女子生徒と揉めている現場に遭遇する。

だが直接的に制止をしようとした水谷は上手くいかない。
同行した生徒会副会長のように、権力と制裁を口にして、生徒をコントロールするのが利口らしい。

同様に水谷をマインドコントロールしようとする副会長だったが、
水谷が心を動かされる前に、リセが水谷に声を掛け、事なきを得る。
いつだってリセは水谷のヒーローなのだ。

漫画あるある。平時 目が線の人、怒ると怖いか裏切者 説。副会長は組織の忠実な犬なだけで裏切者ではないか。

しかも不器用なりに生徒会で悪戦苦闘する水谷の姿を見て、リセは心が動く。
赤丸も自立を目指して猛勉強中なのだが、その事実をリセは知らない。
そして赤丸は自分がリセから頼られないこと、
そしてリセの水谷との接触に心を悩ませているのだが、それも知る由もない。

これは、水谷とネクタイを交換していた時の、リセの赤丸への態度と同じだろう。
要するに、リセは婚約者や交際相手がいるのに他の男にフラフラしているということだ。
そして それが相手の男にとって胸をかきむしるほど嫌な事を、リセは知らない。
一番近くにいる男を 精神的に苦しめるのが悪女・リセなのかもしれない。

そんなリセを縛り付けようと、赤丸の焦燥は募るばかりで…。
このような赤丸の心境が後の事件の伏線となっているのだろう。


徒会に入りたての水谷に親身になるのは副会長。
だが副会長は水谷をコントロールするだけでなく、全てをコントロールしようとしていた。

彼は、公開処刑編の信長(のぶなが)、セリハ編のセリハ に続いて、暗躍する者だろう。
こうなるとリセ・水谷・赤丸が ただ手のひらの上で踊っているだけで爽快感がない。
話の作り方が一緒なんですよね。

リセはゲイとの噂の副会長の魔の手から、水谷を守りたいという気持ちからか、彼に直談判に行く。

ワンパターンな本書において、単独行動をするとどうなるのか。
そう、軟禁・監禁・薬を盛られる、という本書の お約束展開が待っているだけ。

そもそもがリセの副会長との面談におけるスタンスは身勝手が過ぎる。

ただ副会長がゲイだという ちょっとした噂だけで動くし、
生徒会に入った水谷のことを心配するあまり、
彼の悪口を言うのは、副会長が指摘する通り、レディとして美しくない。
更に そのことを指摘されたら副会長に逆ギレする始末。
出された毒入りのお茶を飲むための流れとはいえ、話の流れが乱暴で意味不明である。
リセの言動に信念を感じられないのが残念なところ。

こういう行動全てが赤丸に対する裏切りだと一瞬でも思わないリセを嫌いになる。


うしてリセは催淫効果のある薬を盛られ、
副会長がリセの携帯を使い連絡し 助けに来た赤丸の理性を崩壊させてしまう。

そして副会長は その様子が見られる教室に水谷を呼び、彼に情事を目撃させる。
水谷は副会長の思惑通りにショックを受け、その場を立ち去る。
副会長の狙いは、水谷のリセに対する個人的な思い入れを捨てさせ、大きな視点の獲得か。
彼が何を考えているのか いまいち分からない。

リセは赤丸の愛撫を受けながら、うわ言のように呼ぶのは水谷の名。
うーーん、これも最悪ですね。
どちらかと上手くいきそうになると 違う男のことを考えている。
それが薬を盛られて、意識朦朧とした中での本音だから赤丸にとっては萎える現実だろう。

そういえばリセは以前、山で遭難した時も水谷が目の前にいるのに赤丸の名を呼んでいましたよね(『7巻』)。
これは水谷と赤丸が 同じようにリセから傷つけられた互角の痛みなのだろう。
でも、これではリセのビッチ感が補強されただけである。
好きな男の胸の中でも、違う男の夢を見る♪ ってか⁉

翌日に、事の真相を知りたい赤丸に対しても、
自分が副会長に面会を求めた理由が、水谷のため、リセは真実を話せない。
郁のイジメの時は赤丸に心配をかけまいとした気持ちだが、今回は完全に他の男のこと。
リセは もう有罪で、弁護はできない。

他者のことを考えられないのは水谷もリセも同じで、
割れ鍋に綴じ蓋という意味で、彼らはお似合いなのである。
赤丸はリセなんかに似合わないのだ。


件翌日のリセとの会話の中で赤丸は、自分はリセに「最後まで」したことを告白する。
リセは それを頭で納得しようとするが、身体は赤丸に恐怖を感じてしまう。

自分の過ちによって もうリセには触れられなくなった赤丸。肉体的接触の希薄が 心も離す!?

そうして2人に距離が出来る一方で、水谷は学内の生徒から人気と信頼を得ていた。
着々と成長する彼を見て、リセは何を思うのか。

一方、リセは赤丸の努力を宗近から聞かされる。
自分のために、自分との将来のために、今から自立しようとする彼の目的も知らずに、
ただ苦しみたくないから赤丸から逃げていた。

リセもまた、初期の水谷と同様に こうして人から聞かされないと相手のことが分からない人なのだ。
2人とも友達なんていらないと自分を社会から切り離して生きてきたから、
こういう不器用な性格が出来上がってしまったのだろうか。


セと水谷は生徒会長の誕生日パーティーで再会する。
水谷は参加者の女性たちから逃げるためにリセをダンスに誘う。
これは彼の即席のリセを誘うための理由なのか、それとも未だに自分本位なのか判別が難しい。

リセは赤丸に見られることを危惧して断るが、結局踊ってしまう。
同じフロアにいるんだから、きっぱりと断れ、と思うが、もうリセに何を言っても無駄であろう。

そうして互いに憎まれ口を叩きながら踊る2人。
ダンスの後、水谷は、失恋してから気づいたリセへの愛を告白する。

遅すぎる その言葉にリセは傷つき、その場を去る。
戻れない過去に涙を流すリセに水谷が追いつき、そして赤丸が現れ、役者は揃った。


ラストシーンは副会長と宗近(むねちか)は 水谷の父と面談で終わる。
このシーン、コマが繋がっているので とても分かりにくいが誕生日パーティーの後日談なのだろう。
副会長の服装がフォーマルから制服になっていることで そうと分かるが、
私は てっきり同日 同時刻の事かと思ってしまった。
時間経過を示すものがないので、この コマ割りだと そう誤読してしまう。

副会長と宗近は どちらも水谷の父の命を受け、水谷の指南役をしていたと思われる。
こうして最終巻への布石は打たれたのであった…。
恋愛に関する布石は あやふやなままに。
そして色々な意味で、一気に物語が変な方向に方向転換する悪い予感しかしない。