柚月 純（ゆづき じゅん）
学園王子（がくえんおうじ）
第03巻評価：★★（4点）
総合評価：★★（4点）
全校生徒の前で愛を誓う「婚約式（フィアンサイユ）」を終え、気持ちを通わせ始める沖津（おきつ）リセと水谷梓（みずたに・あずさ）。だがそれも束の間、リセは梓の衝撃的な「心の内側」を垣間見ることに！ 消沈するリセに、赤丸臣（あかまる・おみ）が告げる。「もう、あいつにおまえを傷つけさせない」と――。そして梓に危機が迫る!! 特別付録、幻の各キャラインタビュー＆心理テスト集「秘密の花園手帖」も完全収録!!
簡潔完結感想文
- 婚約式を経て日常回。そうなると途端に見るべきところがないから困ったもの。
- サイコパスヒーロー誕生。性的搾取からは全力で逃げるが、性的奉仕ならする。
- 口だけヒーローは「男ヒロイン」でもあるからピンチの連続。構図が毎回 同じ。
今まで守ってきたものは何だったのか、の 3巻。
『3巻』の中盤で、衝撃的な事実が発覚する。
それがヒーロー・水谷（みずたに）の貞操観念。
彼は生きるためなら自分の身体を女性に差し出すことが判明。
そして何より、人の心というものを全く理解できないサイコパスだった。
これまでも理解できなかった水谷が完全に分からなくなった。
そして同時に作者が水谷に何をさせたいのかも全く分からない。
ここまで彼の評判を地に落とさせて、どう復活させようというのだろうか。
水谷とは、恋愛における価値観の一致は、ヒロインのリセには遠いものとなった。
いくら水谷が「男ヒロイン」であっても、一つも良い所を描かないまま話は進む。
私たち読者は むしろ水谷が、クラスメイトの男子・赤丸（あかまる）や学校側から非難されることに悦びすら感じそうである。
これは この学校のモブ女子生徒たちと同じような享楽ではないか、と思いながらも、
水谷という男は一度 痛い目を見た方がいい、と今回の「公開処刑」の結末を楽しみにしてしまう。
そういう意味では実に恐ろしい作品である。
人の醜さを引き出す悪魔の書といってもいい。
だが、少女漫画としては完全に ここで終わった。
この後に水谷がどんな行動を取っても、
どんな愛情表現をリセに見せても、狂った彼が やっている事としか思えないだろう。
ここからの挽回は どうやっても難しい。
そして作者が そんな奥の手を用意しているとは到底 思えない。
作品の内外どちらにも彼の味方はいなくなった。
作者はバランス感覚を誤ったとしか思えない。
婚約式を経て、学園生活に平和が戻る。
だが水谷は、赤丸に対して挑発。
婚約式のキスも「その場しのぎで やっただけ」と言い出す。
本当にコイツは「性根が心底 腐ってる」。
これもまたサイコパスの片鱗か。
こうして水谷と赤丸の直接対決になるのだが、その直前で水谷が高熱でダウン。
物語は、彼をリセが見舞う風邪回となる。
水谷の家は四畳半のアパート。
男性が入学するのは非常に難関である 学校に学力ゼロで入った水谷。
彼のバック（家柄）は相当な権力があると思われていたが、彼の生活レベルは低かった。
これは少女漫画のテンプレ、ヒーローの家族問題が最終関門になりそうですね。
にしても少女漫画ではアパート暮らしのイケメンの登場確率が実に高い。
イケメンが貧乏していると読者の女性の庇護欲が掻き立てられるのでしょうか。
そこからは風邪回ならではのハプニング連発。
内容は本書ならではの過激なものとなる。
リセが聞き出したところによると、水谷は親とケンカして仕送りを止められている。
そして食事は近所のオバサンに、天涯孤独の少年を演じることで恵んでもらっているらしい。
これが中盤への伏線なのだろうか。
このぐらいなら可愛いものだったが…。
復活したが今度は食べ過ぎで体調を悪くした水谷にリセは見舞いに行く。
この際、手作りのお弁当を持っていくため、という理由はどうかと思うが。
なぜか赤丸も同行した先でリセが目撃したのは、水谷のキスシーン。
その後、親し気に女性と連れ歩く水谷を見て、リセはショックを受ける。
ただ これは恋心とは違い、学校の外でも彼女面していた最近の自分への羞恥も含まれる。
そんな彼女の心中も知らずに、再びのリセと赤丸の急接近に、水谷はリセに嫌味を言う。
リセも その嫌味に対して、先日 目撃したキスを念頭にして嫌味で返してしまう。
だが、そこからの水谷の返答は信じられない言葉の連続。
食いもんのため、生きてくために しょーがなくしているというもの。
「助けてもらったらキスやセックスで返すのの なにが悪いんだよ」と悪びれる様子もなく言ってのける。
水谷という男は、その人生経験から、普通とは違う倫理観を持っているらしい。
彼の行為は生きるためという理由があるから、
この学校での女生徒への奉仕とは質が違う、というのが水谷の言い分。
性的奉仕はするが、性的搾取されることは彼の望むところではない。
それよりもリセを悲しませるのは、水谷の
「沖津（おきつ・リセの名字）には すげー感謝してるからな
沖津がオレとヤりてぇっつったら オレは おまえともセックスするぜ？」という言葉。
天真爛漫な笑顔が魅力の水谷だったが、彼はどこか壊れていた。
壊れているから表情がコロコロ変わり、いつだって人の心を踏みにじれるのだろう。
私たち読者が初めて分かった水谷の本質が、こんなものだとは思わなかった。
水谷は本当のバカだから、リセへの言葉も最上級の感謝を込めたらしいが、
自分の言葉が相手にとって どんな意味を持つのかを考えられるだけの頭が彼には なかった。
ゾンビと同じように、狂った貞操観念から逃げのびるために常識人の2人が手を組んでいたはずが、
水谷もまた違う方向で異形の存在であったことが分かった。
これがゾンビモノ、パニックモノであれば、物語としては面白い展開だが、
いかんせんこれは少女漫画なのである。
この水谷の態度全体が、赤丸エンドへの布石であるなら分からなくもないが…。
この水谷への嫌がらせのような展開、作者が水谷を嫌いかといえば そうでもないみたい。
傷ついたリセを受け止めるのは赤丸の優しい言葉と抱擁。
そして 今の赤丸には、水谷を追放する手段がある…。
こうして行われるのが、新しい学校のルール「公開処刑」。
撮影者や撮影方法が不明だが、先日 リセが目撃した女性とのキスが写った写真が校内中に貼り出される。
婚約式は女生徒たちから男子生徒が守られる唯一のルールだったのに水谷はそれを破った。
薄氷とはいえルールがあるから手を出せなかった女生徒たちの不満は女性は一気に爆発する。
そこで動くのが「公開処刑人」。
公開処刑の内容はまだ不明だが、それを実行する役割があるらしい。
こうして水谷は 今度は全校生徒から狩りの対象となる。
しかし何度も言うが、この学校が共学化して数年、
どうして こういうルールや裏ルールばかりが制度化されていくのか不思議だ。
男子生徒の数さえ増えて、男女比が拮抗すれば問題は沈静化するのだから、
この学校は、男子生徒を積極的に受け入れればいいのに、とか真面目な意見を言ってみる。
教師（学校側）は問題やルールを無視・黙認している描写があるから、
学校の運営側が校内の雰囲気を知らない訳ではなかろう。
続々と出てくる後出しのルールだが、
そのルールを認知していた宗近（むねちか）は、事前に水谷に忠告していた。
認識の違いもあろうが、今回はハッキリ言って、水谷が全面的に悪い。
一難去ってまた一難。
ピンチと過激な描写でしか読者を繋ぎ留められない作品は、今後どこに向かうのか…。
