《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

どんな過激な性描写よりも、長身の高校生男子がドッジボールの練習している姿に萌える?

学園王子(5) (別冊フレンドコミックス)
柚月 純(ゆづき じゅん)
学園王子(がくえんおうじ)
第05巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

俺の躰(からだ)でアイツを助けられるなら……。 梓(あずさ)、女生徒(ケダモノ)の群れに身を投ず! 「壊しちゃいなよ、自分の殻……」 リセを護(まも)るため、女生徒の群れに自ら身を投じる梓。必死で闘う梓の蔭で、信長(のぶなが)は甘い毒牙をリセに突き立てる。やさしい言葉とともに……。公開処刑編、ついに終局!

簡潔完結感想文

  • 閉じ込められては逃げて、逃げては閉じ込められるだけの学園パニック やっと終了。
  • 性的な描写は続いても性暴力は いつも未遂に終わる。これがコンプライアンスの限界?
  • 水谷の武者修業編。せめて1巻分ぐらい続けた方が彼の成長を実感できたのではないか?

がしたいのか よく分からなかった公開処刑編が ようやく終わる 5巻。

私にとって楽しい読書とは、登場人物の心の動きが手に取るとか、
作者は こういう狙いで このエピソードを考えたんだなどが分かる場合だが、本書には それがない。
何を考えているのか分からない人たち(作者も含め)が、ワーワーと立ち回っているだけ。

もう水谷(みずたに)が どんなに努力しても読者の気持ちは取り返せないのではないか。
恋愛をする資格もないような小学生の感性に加えて、
人の心を理解しないクズ属性を与えてしまい、
彼がヒーローであり続ける限り鼻白む読者が多いのではないか。

そんな彼を見捨てられないヒロイン・リセの恋愛感情も分からない。
『5巻』の中で言われる通り、彼女に同情や上から目線の憐れみ以上のものがあるのかは私も疑問だ。
彼らのどこに恋愛が生まれる要素があるのかが全く描けていない。

作者の中で水谷に関する譲れない一線(プライドや愛情)がないみたいなので、
そもそもが恋愛漫画としては崩壊している。

このところ続いた この「公開処刑編」も今回で終わる。
水谷のクズさ加減に権力のある生徒が私刑を言い渡すというものだったが、
どこを楽しんでいいのかが全く分からなかった。

結局、水谷やリセが学校の大半の人間を敵にして、
ピンチの中で、2人の距離が縮まっていくというのは これまで通りの展開だった。

異常な空気だけを作り出して、読者に深く考えさせないのは、この学校の制度と全く同じだろう。
一度その狂乱に飲み込まれれば、善悪や この行為自体の目的を考えることもしなくなり、
ただ その熱の広がりを思考停止して見続ける人となる。

この事件に対して水谷もキレるだけで、暴力で復讐を遂げるだけだったし、
幕引きは結局 宗近(むねちか)が最高権力者の生徒会長を連れてくることで成される。

しかも巨悪は生き延びて、彼に扇動された者だけが放校処分を受けるという歯切れの悪い結末。

もうちょっとメインの2人が賢く動けないものかと思う。
1人が目の前の問題だけを解決しようと窮地に陥り、
それを助けるために もう1人もまた窮地に陥るという思考能力ゼロの展開は全く楽しいものではない。

アホの子に恋愛する資格はない。
相手を思い遣れない人間と恋愛して、傷ついて、
そして最後の最後で その人に救ってもらうばかりの展開は もう飽きた。

水谷という人間を中心に据えたのが本書の大きな過ちであろう。


てこもっていた教室の周囲を性欲ゾンビに囲まれて絶体絶命の水谷とリセ。
彼女を守るために水谷は体を張ろうとするが…。

水谷はヒモ生活で身につけたテクニックで女性を陥落していくが、
リセは水谷によって閉じ込められた場所から自力で脱出し、またピンチを招く。
この事件を陰で操る生徒会メンバーの信長(のぶなが)に出会い、
それを知らないリセは彼に良いように誘導されてしまったから。

リセも水谷も その行動に警戒心が無さすぎるというか、
どちらとも袋小路に自分から入っていくようで爽快感が まるでない。


リセが助けられず女生徒たちに包囲されそうな水谷を助けたのは赤丸(あかまる)。
恋敵と言うべきライバル同士はリセの救出のために共に行動する。

だがリセは信長の言葉によって、過去のトラウマを的確にえぐられ 経つ気力も失う。
それに乗じてリセを陥落させようとする信長だったが、
最後まで抵抗するリセを見て、信長は強硬手段に出る。

信長は その大きなガタイに騙されがちだが、彼の一番の武器は 言葉だろう。
配下の2人を仲間にした時もそうだが、弱っている人に対して優しい言葉を投げかけることによって、
自分を全面的に信頼させ、相手を意のままに操るのが彼の手法だろう。
普段は関西弁の彼が標準語で話すこと自体が、彼のマジックの一環なのかもしれない。

人の弱点を的確に突くのが信長。でも的確すぎてリセの愛情の根拠までも木っ端微塵にしたような…。

セ救出隊の男性2人が見たのは、乱暴されたリセの姿。
その姿に水谷は完全にキレ、信長に挑む。

信長は水谷に対しても言葉で その精神に揺さぶりをかける。
だが水谷は、リセの気持ちが同情だと囁く信長の言葉を乗り越え、彼女の本質を信じるという。
それを聞いていたリセは、どんな過去があっても自分だけはずっと味方でいようと誓うのだった…。

水谷はサイコパスなので、信長の暗示にはかからなかったのかもしれない。

うーーん、水谷を最後にヒーローにして それにリセが感動する いつも通りの展開。
途中、自分が嫌な思いをしたり、自分の考えとは違う人への嫌悪感を水谷が持つことで、
彼がリセへしたことを反省する場面はあったものの、
この2人に対しての共感が生まれる訳ではなかった。

物語の幕引きも胸糞の悪さを残す。
宗近によって首謀者と糾弾された信長だが、こちらも享楽的な思考の副会長によって擁護される。
信長は自分の配下である2人の男子生徒に全ての罪を被せるだけ。

そうして信長は1週間程度の停学で終わる見込み。
やっぱり本書で男性キャラは貴重なので追放されないのだろうか。

…と思ったら、彼の手足となって2人は退学処分となった。
しかも物語の中では、この後の水谷のFクラス降格の横で紙一枚での処分という手厳しい扱い。
15、6人しかいない男子生徒の内、2人が追放された。
もう男子生徒の隠し玉もいないだろうから、これからは男子生徒は より少人数での活動となる。

しかし信長の部下の彼らも思考能力を奪われたとはいえ、
動機の面では信長なんかよりも分かる部分があったからショックを受けた。
まぁ信長は、今回のリセのように、そうやって弱っている人に甘言を囁いて、
自分の思い通りに行動させようという魂胆だったのだろうが。

信長が学園にい続けるという事は、彼との再戦があるという事なのだろうか?


うして水谷は、リセの当座の騎士として再任するが彼はSクラスからFクラスへと編入される。
Fクラスは学校でも最下層らしい。
リセを守るどころか離れ離れになってしまった。

Fクラスは表面上は淑女らしく振る舞う他クラスの女子生徒と違って、女ヤンキー(スケバン?)の集まり。
ここでは女子生徒による性暴力の危険は少ないが、水谷は犬として、彼らの配下となるばかり。
扱いとしては意地悪なお姉さまにイジメられるシンデレラポジション。
さすが男ヒロインである。

全生徒・生徒会を欺いたオンナの敵である水谷の処分も軽め。しかも1話で戻るとか…。

水谷の保護者役の、宗近は水谷がFクラスの生徒たちに認められ、
クラスをひとつにまとめあげることが出来ればSクラスの復帰も可能だという。

今回は水谷の武者修業編なのだろう。
だが早速 宗近に泣きついて、Sクラスに戻ろうとする水谷の根性は そう簡単には直らないだろう。

驚くことに水谷は たった1話でSクラスに復帰してしまうが、
彼の修業編を しばらく続けていた方が 読者の人気も出たのではないか。

現に、公開処刑編も女性に対してテクニックやホスト的な立ち位置で乗り切った水谷が、
今回は人として汗水たらして分かり合うことを目標としている。
読者に受ける公開処刑編やイジメの描写ばかりが長くて、こういう大事な局面を1話で終わらせたのが残念すぎる。


クラスは親の会社が、Sクラスとは親会社と子会社の関係になるなど格差があった。
これまでFクラスでは羽を伸ばしていた彼女たちが、
学校内では身分に縛られるのを見て、水谷はSクラスに勝負を挑む。

対決内容はドッジボール
負けたら水谷は女性たちの言いなりになってしまうのだが…。

にしても高校生の長身でドッジボールの練習をする水谷の姿は見てはいけないものを見た感じがする。
今回の体操着姿が幼さを際立たせるのだろうか。
まぁ頭の中はランドセル背負っている小学生の方が賢いぐらいだろうが。

ついこの間まで性暴力が横行している学校だったのに、なぜかハチャメチャドッジボール漫画になった。

思えば、この公開処刑編が本書らしさの最後だったかもしれない。
ここからは性描写という牙を抜かれ、作風を変えて本書は延命していくことになる。
この後も一度 イジメが始まると、延々と続くのだが…。