《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

恋人がいる奴はリア充で悩みがない。そういうレッテルを貼って逆差別していたオタクの俺。

3D彼女 リアルガール 新装版(5) (デザートコミックス)
那波マオ(ななみ まお)
3D彼女 リアルガール(スリーディーかのじょ)
第05巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

キャンプの最中に綾戸さんのつっつんへの想いを知り、飛び出してしまった色葉。色葉を追いかけるつっつんだったが、恋愛能力の低さから彼女の本心が掴めない…。なんで、ただ好きなだけじゃだめなんだろう?  リア充はやはり幻だったのか!?……いや、恋愛わからなくても、コミュ力なくても…あきらめるな、俺!! 少女漫画界最弱ヒーロー男子×リア充美女のありえない純愛!?  新装版で登場!

簡潔完結感想文

  • 自己愛のない飾らなさが つっつん の魅力だが、それが他人を傷つけていく。
  • 青天の霹靂に打たれて自分の意気地の無さを痛感する。告白は彼女の勇気。
  • 彼女の勇気に応えること、応えられないこと、その線引きを明確にしていく。

弱ヒーローの意味は精神面のことかもしれない 5巻。

少女漫画の中で ここまで間違えるヒーローも珍しい。
思い浮かぶ中ではアルコさん&河原和音さんの『俺物語!!』の猛男(たけお)ぐらいか。
猛男は肉体が人類最強クラスでビジュアル的には真逆の2人だが、
初の交際で恋愛の難しさを身をもって知るという点は同じである。
こればかりは間違いながら成長していくしかない。

少女漫画のヒーローは、ヒロインとの交際が初めてである方が珍しいぐらい。
その多くの交際経験が交際の余裕に代わり、女性をエスコートしていく。
そして過去の多くの女性の中からヒロインを選び、
彼女だけが彼にとって特別という構図が幸福感を倍増させるのだろう。
本書において このヒーロー的役割はヒロインの色葉(いろは)が担っているのが面白い。

一方 本書の主人公の つっつん は余裕がない。
それに加えて男女交際のマナーどころか、人間関係のマナーすら怪しい。
今回は他人様に対して これをやったら いけないという禁止事項ばかりして間違い続ける。

自分に対しての悪意は、これまでの経験で心にシャッターを閉める術を身に着けたが、
自分に対する好意に対する処世術を彼はまだ知らない。

三角関係は少女漫画では あるある の展開ですが、
本書の場合は、それが つっつん の人間的成長に直結している問題であるため必要性が感じられる。

つっつん を表す「少女漫画界最弱ヒーロー」というキャッチコピーは、
殴られては倒れ込むばかりの肉体的な弱さを表しているとばかり思っていたが、
この『5巻』を読んで、精神的な、社会的に最弱なヒーローという意味もあると分かった。

これから もっともっと成長して、
それに伴い、つっつん の良さを理解する女性も増えていくだろう。
その時に、どう対処するのか、また そのことに動じない2人になるのかが楽しみだ。

…と思ったら、この交際は半年間限定なんだった…。
ずっとずっと先の未来の姿も見たいなぁ。


福は糾える縄の如し。
楽しいことがあれば、その後に絶対 楽しくないことが起きるのが主人公・つっつん の人生。
宿泊キャンプの前半が楽しければ、後半には地獄が待っていた。

恋人・色葉(いろは)は つっつん には推測不能の悩みを抱えているらしい。
その悩みに思い当たらないのは、これまで彼が歩んできた人生からすれば仕方ないことでもあるのだが…。

つっつん は、自分に恋人が出来るという青天の霹靂を経験したのに、
もう自分には恋愛イベントはないと思い込んでいる。
良くも悪くも自分の人生には何も起きないと思っている つっつん のリスク管理の甘さが出ている。

つっつん は、一般的な社会の見識を持つ石野(いしの)さん や高梨(たかなし)に教えを乞うても その言葉にピンとこない。
彼が それを身をもって分かるのは、本当に自分に好意を持つ人が現れた時であった。
無自覚でいること自体が罪であると痛感した瞬間であろう。


回の つっつんの行動は悪手ばかり打つ。

この場面、綾戸さんが好きと言う前に、
つっつんが色葉に好きと言うことから逃げている点が秀逸である。

自分の都合ばかり優先して言うべきことを言えない。これは高梨と同じ種類の弱さだろう。

色葉が欲しい言葉の一つであろう「好き」を自分の恥やプライドのために逃げた つっつん。
なのに綾戸さんは、恋人がいる人に言っても十中八九 振られることが分かっていながらも言った。

つっつん は「好き」から逃げることで色葉を再度 傷つけていることにも無自覚だ。
気持ちの けり の付け方の違いに その人の強さの違いが明確に表れている。

しかも つっつん は、その告白からも逃亡する。
自分の過失に気づいたことは良かったが、綾戸の勇気に対する誠意を忘れている。
自分の世界で生きてきたからか、良くも悪くも思考が自分、自分となってしまっている。

それを叱咤するのは、綾戸を好きになって苦しい恋となった伊東(いとう)。
今の つっつん には、自分を正してくれる友人たちがいる。

迷えるカップルに対して、異性の友人が それぞれに声を掛ける場面が良いですね。
これ同性同士にして、つっつん・高梨に話をさせたら、高梨のプライドが邪魔して話が進まなくなってしまう。

つっつん には自分に対して率直な意見を言ってくれる石井の存在、
そして色葉には同じように多数の交際経験があって背景の似ている高梨が陰ながら応援している。

男性に対してはクズな高梨だが(自分に対しても素直になれない)、
これまでの交際女性と揉めた様子もないことから、女性にはデフォルトで優しいのだろう。
これは彼が母子家庭で、女性に囲まれていることと関係するのかな。
(母子家庭設定は まだ出てきてないかもしれない)


途中で自分の社会不適合を遺伝のせいにしようとする つっつん に母親が、
「お母さんも お父さんも わりと お友達は多かったわよ!」と言っているが、
後半に登場する つっつん父は決して お友達が多いタイプには思えない。

この時は父親を登場させるつもりはなかったのかな?

自分が人に対して(悪)影響を与えることに慣れていないから、コマンド選択は「にげる」。

白への返答のシーンでは、つっつん が色葉の存在に気づく分かりやすい1コマが欲しかった。
木の影から髪が出ているのは分かるが、気付くシーンがないから、
つっつん が色葉の手を握るシーンが唐突に想う。

紆余曲折があったからこそ「好き」という言葉に重みが出た。
ここから交際が本格的にスタートしたと言える。

だが既に交際から3ヶ月が経過しようとしている。
これは半年後に引っ越すという色葉との交際の期間限定の交際のちょうど半分。

前半は交際までがあっという間だったが、想いを言葉にするまでは随分かかった。
この後の半分は別れがメインになってしまうのだろうか。


そんな前半戦をまとめるのは色葉の回想編。
色葉視点で初めて語られることが多く、彼女側の考えが読み取れる。

どうやら鍵となるのは病院や『1巻』で出てきた医師ですかね。

ここは どうやら重いテーマを扱っている割に表現が軽いのが気になる。
病気を知った色葉の不安が夢の中に出てくるという場面で、
布団の中にいる色葉が涙(汗?)を流すという場面がデフォルメされて描かれていることに違和感がある。
この調子で後半のシリアスも描くなら問題だなぁ。

つっつん が恋に不器用で奥手なことが、
色葉にとっては自分の言葉が ちゃんと伝わる安心感になっているのだろう。
今回の三角関係のように傷つけることもあるが、頭が色欲ばかりではないことが良い方向に作用している。
色葉は軽薄な自分に集まる軽薄な人たちを軽蔑していたが、つっつん はその反対にいる人。
色葉の弱いところも含めて見ていてくれる。
そういうことが つっつん を一層 特別にしていく。

彼に対する愛情は ますます募り、一緒にいたいと思うが、色葉にはタイムリミットがある。
幸せになればなるほど、別れが辛くなるだけ。

そして つっつん は色葉と離れてしまうことを前提にしているから手が出せない。
イムリミットを意識する中、時間に追われるように、急いてしまうのが嫌みたいだ。


の回想は良い話だが、これは大きな山場と山場を結ぶブリッジの役割が大きい。
ラストで登場する新キャラが次の波乱を巻き起こす、のだろう。

本書の中における つっつん は良いことがあったら悪いことが起きる。
色葉との仲が順調になったら、不調にさせる要因が現れるらしい。

つっつんが男性キャラに取り敢えず殴られるのは様式美みたいなものか。
そして最弱ヒーローの冠を守るためか。

それにしてもキャラの顔が同じに見えるなぁ。
この新キャラが高梨っぽい台詞を喋ってたら、絶対に100%見分けがつかない。