那波マオ(ななみ まお)
3D彼女 リアルガール(スリーディーかのじょ)
第06巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
綾戸さんからの告白をキッパリ断ったつっつん。色葉への想いを明言し、男度もレベルUP!! 2人の絆も深まって、初めてのリア充デート。でもその帰り道、謎のイケメンに突然殴られて!? なんと彼は色葉の弟で、冴えないつっつんを姉の彼氏として認めず、敵意丸出し!! 誰か!こんな俺にもできること、大至急教えてください!!少女漫画界最弱ヒーロー男子×リア充美女のありえない純愛!? 新装版で登場!
簡潔完結感想文
- 初登場、即 暴力。まるで世紀末の世界。彼女の弟という中ボスに どう対応⁉
- 少女漫画あるある。プレゼントのための すれ違い、を既に乗り越えている2人。
- 同じ過ちを繰り返さないために行動に出る男たちの経験値は増えるばかり。
この2か月半で誰もがレベルアップしていく 6巻。
『5巻』のラストから登場し、主人公・つっつんを殴打した新キャラは、
ヒロイン・色葉(いろは)の弟・千夏(ちか)だった。
高梨(たかなし)に続いて、いきなり殴られる つっつんだったが、
この計3回目(多分)の殴打による横たわり は、つっつん の現状の力を確認するものではないか。
千夏は、いわば中ボスではないかと思われる。
彼女の家族にして つっつんのライバルという立ち位置を与えられている千夏だが、
暴力的なことは さておき、つっつん は彼に決して負けていない。
つっつんが千夏に しっかり対応できる人間になったことで初めて千夏は物語に登場する。
ここでは作者の優れたゲームバランスを感じさせる(ゲームじゃないが)。
全力をもって対応すればギリギリ勝てる、というヒリヒリ感がプレイヤーの楽しみに変わるのだ。
留学帰りイケメンで完璧設定の千夏だが、
つっつん は実は彼に精神的なダメージを与え続けていると言える。
まず殴打についても、彼の姉・色葉は一貫して つっつん を擁護し、弟を責めている。
これは自分の行為が正義と疑っていなかっただろう彼にとって大きな衝撃ではないか。
そして その後に行われる顔合わせにおいても、彼のアドバンテージは崩れる一方。
千夏が親切心や英語力を見せた外国人幼女との触れ合いも、
つっつんが勇気ある行動を見せ、そして独学でも英語を操れるというスキルを披露した。
千夏が何の目的で留学していたかは不明だが、
自分が姉の傍を離れていた時に、つっつん は姉の信頼と英語力を身につけていた。
それは千夏に留学を後悔させるものではなかったか。
こうして高梨以上に攻略の難しい人物であるはずの千夏なのに、
つっつん は彼との勝負に決して負けていない。
これは、つっつん側は千夏を単なる恋人の弟と認識していて、
ライバルと認識していないことが劣等感に直結しなかっただけという可能性もあるが、
難敵に対して色葉と2人で、揺るぎない連携を見せたことは、この交際の成熟度が上がっている証であろう。
その上で つっつん は交際を より強固のものとすべく行動に出ている。
これは千夏の言葉が、敵に塩を送ったことによって起きた行動とも言える。
『6巻』では つっつん のフットワークが全編に亘って軽い。
思い立ったが吉日、誰かのために即座に行動を起こせる人になったことに彼の成長を見る。
千夏は留学して1年が経ったところだが、色葉を心配して帰国したらしい。
弟が緊急帰国するほどに、色葉の事態は急を要しているということか。
後日、色葉がセッティングして3人で食事に行くが分かり合えない。
姉の彼氏への不満を隠さない千夏に対して、
対人関係が苦手なはずの つっつんが好きな漫画の話題などを聞くことで、歩み寄っているのが印象的。
以前なら、相手が不機嫌を隠さないなら、こちらも態度を変える必要はないと思っていたところだろう。
つっつん は これまでの人生で しっかりと勉学に励んでいたから得られたスキルだろう。
高校3年生の秋に いきなりバイトを始めたりするのも、勉強が得意だから出来ることに違いない。
一方、色葉は英語が苦手だから、男同士で英会話をしている内容が分からない。
男同士の秘密の会話で互いを分かり合う場面であった。
ここの つっつん は、かなり大事なことを言っているので、伝わって欲しいぐらいだ。
高梨をはじめ本書のイケメンたちは謝ることを知らないが、
この千夏も謝らないかわりに、自分が割った つっつん のメガネを修理し、
それで これまでの非礼を手打ちにしようとした感がある。
と思いきや、千夏は後日つっつんだけに会いに学校前に登場し、再び つっつんを詰問する。
(詳しく語られないが、千夏は帰国後は元の高校に戻ったのか? 編入したのか?)
千夏の つっつん への塩対応は、本書で唯一の色葉側の家族の反対となる。
しかも色葉と千夏は血が繋がっていないという設定まで持ち出される。
彼らは5歳から一緒に育ってはいる義姉弟。
またまた色葉に変な設定を盛り込みました。
色葉が荒れていたのは、こういう家庭環境もあったからなのか。
にしても これは通常の少女漫画だったら、ヒーローが養子で血が繋がらないことに荒れて、
その家族関係という名のトラウマをヒロインが修復するやつ。
が、本書では そんなイベントは全く起きない。
色葉の この設定に関しては深入りしないで終わる。
なので この義姉弟・義家族設定は作者が何を狙っていたのかが全く分からない。
(物語のラストで機能していないこともないが)
色葉に悲劇を上乗せしたかったのか。
考えられるのは、千夏は弟ではなく、つっつん のライバルという動きをさせたかったのか。
初登場時に つっつんを殴ったのも、高梨初登場時と同じく、
誤解に加えて、単純に姉の彼氏が気に入らないからということも考えられる。
千夏からの嫌がらせもあり、
交際を深めるためにも色葉に何かしてあげたいという気持ちが つっつん の中に湧いてくる。
そこで石野さんに紹介してもらって遊園地での着ぐるみのバイトを始めた。
着ぐるみだと子供に無条件に好かれ、ご満悦の つっつん。
オタクが、匿名性の高いネット上で生き生きとするのと同じような感じか?
彼女へのプレゼントのためにバイトを増やして、一時的なすれ違いが生じるのは少女漫画あるある。
といっても、2人の場合は交際初期の疑心の時期は過ぎていて信頼している。
私は同じことを繰り返さないのが賢い作者かどうかの見極めのポイントだと思っています。
つっつん は眠る色葉の指の周囲の長さを計り、指輪を買う準備を着々と進める。
ちなみに つっつん が買った指輪が中指用だったのは、「たまたま急いで測ったら中指だったから」。
薬指だと意味が出てきちゃうので、結果オーライという感じでしょうか。
つっつん の この行動は、自分たちの交際が、
他の人の恋心の上に成立しているという考えが生まれたから、その交際をより強固に大事にするための儀式だったのだろう。
2人の恋愛が もう一段階 強固になったので、続いては友人の恋となる。
かつて つっつん に告白した後輩女子・綾戸(あやど)に恋する伊東(いとう)の話となる。
着ぐるみバイト中に伊東の恋の相手を知った つっつん は余計な気を回す。
色葉と伊東、綾戸を誘ってピクニックをする。
が、以前のキャンプ回(『4巻』)で このメンツで問題を起こしたばかりなのだからデリカシーが無いといえば無い。
色葉はそれを理解して、ちゃんと怒ってくれる。
もはや夫婦のような良いバランスです。
だが男2人の帰路で、伊東に彼の好きな人を既知であることがバレ、伊東を傷つけてしまう。
しかし友情に関しても、乗り越えてきた歴史がある
色葉と交際し出した時に関係性が変化したことで気まずくなったが、それを修復してきた。
今回も、つっつん は伊東を傷つけた自分にショックを受けるが、
それを即座に乗り越えて、伊東を追いかけ、そして対話することにした。
ここも行動が早くて素晴らしい。
重複を避けることで成長が目に見える形になっている。
つっつん と色葉との関係も、
「言うこと言っていかないと あたし達すぐ こじれるから」と忌憚のない意見が飛び交っていて風通しの良さを感じられる。
そんな変化・成長していく2人の様子を間近で見ていた伊東。
だから彼も新しい一歩を踏み出す。
彼に変化をもたらしたのは、つっつん の直接的な お節介ではなく、
逞しさを増してきた彼の背中を伊東が見続けてきたから、とも言える。
この変化の連鎖も非常に良いですね。
この伊東の勇気は、かつての綾戸さんの勇気に似ている。
自分の好きな人が誰を好きなのかも分かっているけれど、言わずにはいられない気持ち。
そうして気持ちを伝える勇気に加えて、
どんな結果であっても受け入れる勇気を持って初めて 相手と向き合える自分になれる。
そうして かつての自分は出来なかったことを することが その人の経験値となる。
この巻では誰もがレベルアップしていて、青春を感じられる。
この半年の出来事は、皆にとって忘れられないものとなるだろう。