《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

どんな問題の多いカップルでも、結婚させてしまえば 幸せに見える少女漫画マジック。

世界でいちばん大嫌い完全版 7 (花とゆめCOMICSスペシャル)
日高 万里(ひだか ばんり)
世界でいちばん大嫌い(せかいでいちばんだいきらい)
第07巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

万葉(かずは)と真紀(まき)、扇子(せんこ)と徹(とおる)。育ち変わっていくそれぞれの想いと関係。そんな中、美容師という夢とモデルという可能性に揺れる万葉は、真紀とすれ違ってしまう。万葉にとって一番大切な気持ちとは? そして2人が選ぶ未来は…? 大嫌いから始まったラブストーリー、ついに完結です♥

簡潔完結感想文

  • 最後の最後でヒロインの179cmという高身長設定を利用。悩みは共感できないなぁ…。
  • 最後まで成長しない主役カップル。特に25歳で相手のことを配慮できない真紀はナイ。
  • そりゃ ヒーローさえも教えを乞う、全知全能な神のような徹が人気No.1になるよね…。

愛の悩みは1種類。意思疎通をしないことで生じる すれ違い、の 最終7巻。

結婚させておけば、大団円に見える少女漫画の力技が炸裂する最終巻。
最初から最後まで このカップルは、自分の意見や意思、不安を相手に伝えないまま いたずらにページを浪費することを繰り返していた。両片想いが異常に長かったし、トラウマ解消と両想いが同時で、その後に交際編はなく、すぐに遠距離恋愛編となった。本書では2年弱、万葉(かずは)と真紀(まき)の「世界でいちばん大嫌い」だと思っていた2人の変遷が描かれているのだが、最後まで精神的に成長を感じられなかった。遠距離恋愛に続いて将来像の違いというすれ違い2連発が、クライマックスの問題の大きさを読者に理解しにくくしたように思う。もうちょっと分かりやすいクライマックスを提示してくれた方が読者は安心だ。

そして何回も繰り返すが、24~5歳の真紀に大人としての魅力や包容力を感じなかった。10代の万葉が何を悩み、何に喜ぶのか真紀は全身全霊で考えなければならないのに、彼は最後まで自分のことばかりであった。特に最後の すれ違いとなる万葉の就職問題は、万葉や彼女の親のためにも真紀が安心させなくてはならないのに、彼は自分の体面を第一にして、答えを保留し続けていたのには幻滅した。20代の男性が10代の女性を見守るような視点や年齢相応の思考が真紀にはなかった。それを描くには作者は若すぎたか。本書における真紀は いかにも想像上の生き物である。


た万葉の就職先に関しても疑問が残る。最後まで真紀に任せっぱなしだし、何もかも真紀と同じにすることが幸せだとは限らない。結婚という結末には異議はないが、就職先は万葉が自分の足で選んで、自分を高めてくれる店を選ぶべきだったのではないか。一度、真紀から離れて美容師の道を進んだ方が、万葉のためになった気がする。これでは万葉が選んだ未来は依存になってしまい、自立ではなくなってしまう。20年以上前という時代的な背景もあるだろうが、恋愛と人生を混同していて共感しにくい。そして真紀の自分の気に入った人を自分の手元に置いておきたいという願望は、父・紀一(きいち)と同じ考えで、先に万葉のための席を用意して、事後承諾的に(制限時間ギリギリで)そこに座らせる手法も好ましいとは思えなかった。

恋人になったり結婚したりと恋愛イベントはあったが、最後まで2人を隔てる悩みが同じようなものだったのが一本調子だった。真紀という人間は腕のいい美容師で複雑な過去を持つという少女漫画らしいヒーロー像であったが、その年齢や経験が一切 万葉に対しての優しさに変換されなかった。優柔不断で中途半端な態度は父・紀一そっくりではないか、と真紀が一番 嫌がりそうな嫌味を言いたくなる。

いつまでも同じ悩みで周回していたら、後発カップルに人気も関係性も抜かれてしまった。

して本書の最大の構造的欠陥は、徹(とおる)というヒーロー・真紀の上位存在を作ってしまったことだろう。徹には万葉だけでなく真紀も相談に来て、2人の悩みを仏様のように聞き入れ、そして全てを見通すのが徹の役割となった。
当時の読者たちも その構造を見破っていたからこそ、徹こそ この作品世界の支配者だと察知して、彼に人気投票の票を投じたのだろう。少女漫画では 嫌というほど万能なキャラクタが存在するが、通常 それはヒーローが担う。だが本書の真紀は最初はハイスペックのように描かれていたが、惰弱な精神が判明し、より万能な徹という存在に立場を奪われていった。

真紀も最初から居住エリアが違ったりする中で、万葉に対して そこそこ頑張って会いに行っていたのだろうが、都合が悪くなると避けたり会わなくなる。それよりも近くに住んで、彼女(扇子)の心の内をしっかり把握し、決める時に決める徹の男らしさが光っていた。ブレないし逃げないし絶対に失敗しない神のように完璧な男性がいたら、ヒーローは太刀打ちできない。

トラウマ解消後にも遠距離になるカップル2人の不幸を、扇子と徹が中和してくれた。それもあって後半は彼らに話題を奪われた。だって主役たちが同じコースを周回している中で、猛スピードで恋愛イベントをこなしていく扇子たちは新鮮に見えた。


んな扇子が徹と くっついた後、万葉の弟・千鶴(ちづる)が喫煙により停学になる。この件では親は出てこない。肝心な時に息子や恋人に向き合わない本書の男性陣はダメダメである。この件は千鶴の友情も絡んでいるのだが、それを仲介するのは万葉。万葉は自分のこと以外だと物分かりが良く、行動的になる(後の神谷(かみや)の件も含めて)。
千鶴の話は、万葉と年齢が近い事もあり、「秋吉(あきよし)家シリーズ」としては この作品内で触れないと おかしいのだろう。でも単体作品として読むと、解決編のないミステリのような中途半端な扱いになっている。作品世界も読者層も最初から限定されているようで狭い。

真紀の過去の態度が生んだ神谷の「大嫌い」問題が本書最後の壁か。にしても2年前の真紀、性格悪すぎじゃない? これじゃあ 確かに、今更、性格が軟化してニコニコしてても許せない気持は分かる。神谷が真紀に劣等感があるのなら尚更。恋愛とは別の意味で相手に振り回される感じがするのだろう。本書における「大嫌い」は自分のペースを乱す存在に会った際の戸惑いから生まれるのかもしれない。

そして東京にモデルとして呼ばれる万葉。だが真紀が母と企画した以上に、雑誌に大々的に掲載されることが分かる。そこに東京での関係者が一堂に会する。真紀の両親であるカレン・紀一、そして真紀の同僚の甲斐(かい)と神谷、

撮影の休憩中、神谷は真紀に喧嘩を売る。それを買うのは万葉。人に対する悪意に、正義感をもって対応するのは万葉の特徴なのか。これは『6巻』収録の万葉と扇子が仲良くなった過去編と似ている。でも、一方を擁護し、相手を罵倒する万葉の戦闘スタイルは あまり好きじゃない。万葉が神谷の事情を理解できる訳ないし。その点は後に本人も反省しているが、いかにも視野の狭い正義感である。万葉の説教にしても、その後の紀一の説教にしても、人間性に問題があるから、あまり響かない。良いこと言っているんだろうけど、それを彼らが実行できているとは思えない。自分の事は棚に上げている。

こうして神谷の態度が軟化して、真紀との距離、そして真紀の黒歴史は水に流されることになる。中学時代から20代前半までの荒れていた時期の後始末も これで終了か。でも真紀に過去の自分の言動に対しての反省の色が無いのが気になるところ。


の撮影を通して、万葉は自分にモデルの道があるのを知る。就職先を真紀に見繕ってもらうつもりの他力本願の万葉は、真紀が中々 その件について話さないから、モデルという選択肢も迷い始める。

全ては真紀のハッキリしない態度が原因だが、真紀は真紀で、まだ若い万葉の将来の選択肢を狭めることを危ぶんでいた。これは特に何をするにしても真紀と同じにすることで安心感を得ているような万葉なら 尚更だろう。選択肢を示すのは真紀の度量の広さでもあるのだが…。

ここで気になるのは、モデルは美容師に比べて簡単に務まる職業であるかのような描き方だ。万葉が長身でスタイルが良いのは確かだが、今回 依頼された1つの仕事が将来に繋がる保証はない。モデルで生計を立てる厳しさも美容師同様に描かれればフェアなのだが、モデルとは脚にクリームを塗るだけの仕事 ぐらいの軽い印象が気になった。

ただ、ここでのモデルという職業は選択肢の一つなのだろう。大事なのは万葉には美容師以外の道もあることを提示するこ。まだ何にでもなれる万葉を、真紀との交際が方向性を決めることへの 躊躇いを真紀が覚えることが重要であって、職業が問題なのではない。


んな悩める万葉の前に現れたのは、真紀の父、紀一だった。紀一は、真紀を自分の店に留まらせるために、万葉を利用しようとしていた。それは紀一が それだけ真紀の腕を見込み、そして彼の将来を考えての事。これは親、というよりも1人の同業者としての判断だろう。

その強い執着に対し、ヘビに睨まれたカエルのようになる万葉だが、それを断ち切るのは真紀の異母兄・沙紀(さき)だった。沙紀は真紀への強い執着が薄れて善人化している。1人の女性の存在、トラウマの解消で一番 人格が変わったのは この人かもしれない。

その後、沙紀は真紀としっかり話をするように万葉に告げるが、万葉は父と子の中を険悪にさせないようという配慮から、紀一が来訪した話を避けてしまう。そうして真紀から聞きたい言葉を聞けず、真紀が自分を放置するように感じられた万葉は真紀と喧嘩をしてしまう。この辺、面倒くさい乙女心である。沙紀先生の助言を ちゃんと聞いてればいいのに、独自判断をして間違えるのだから目も当てられない。

最終巻で万葉を助けるのは真紀ではなく周囲の人間。真紀の株が下がり、周囲が上がる最終巻…。

終回直前に生じる2人の すれ違い。少女漫画における不幸は幸せになる前の準備段階だと言うことは分かるが、いまいち切迫感がない。上述の通り、トラウマや遠距離を先にやっていて、それと比較するとスケールの点では小さい。

大体、何で万葉がモデル業を天秤にかけるのかが分からない。会話の切り出し方を失敗したのは自分なのに、喧嘩を真紀のせいにするところが、子供なんじゃないか。最後まで2人の関係は安定しない。交際しても何も変わらないし、意思疎通はとれていないのが最後まで安心できない材料である。

最後も周囲の人間の広い視野、心遣いに助けられて、万葉はやっと初心に戻る。それは真紀も同じ。かつての天敵・沙紀から情報を流してもらって、初めて万葉の困惑の輪郭が見えた。そして父・紀一は最後まで逃げてばかり。本書における歪んだ父親像は変わらないままである。

さらに徹の助言もあり、万葉は自分が味わっている焦燥や不安を真紀にも味わわせる。ここで ようやく真紀も自分が万葉の寛大さに甘えていたことに気づく。遅すぎる!


うして ようやく歩み寄る2人。真紀は自分の店を持つために、その準備に奔走していた。それを万葉に言わないのは、実現できなかったら格好悪いという自分の体面のため。そのせいで万葉が苦しんでいるとか、そういうところに想像力が及ばないのが真紀の欠点である。本当に この人は自分が年上であることを自覚しているのか。

そして真紀は自分の店に万葉にいてもらいたい。その自分の本音を言えた真紀は、万葉に指輪を渡す。一緒にいて下さい、という言葉と共に。

半年後の7月に2人は結婚式を挙げる。結婚式で万葉は以前、真紀から渡されていたピアスを初めてつける(『3巻』)。随分と長いロングパスだったなぁ。忘れずに ちゃんと触れてくれて ありがたい。

結婚も進路も万葉の父は許してくれた。仕事を理由に育児を放棄している父に反論など出来まい。そして千鶴は まだ自分探し中で、結婚式には参列しない。ハレの日ぐらい自分の気持ちを引っ込めればいいのに、秋吉家の子供たちは やはり幼い。

ラストは8年後。27歳になった万葉が描かれる。2人は仲良く喧嘩して、気軽に「大嫌い」と言い合える関係性が続いていたとさ…。