《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

接着剤バカの父と離婚しそうな母を繋ぎ止めるのは接着剤ではなく鎹(かすがい)である子供。

3D彼女 リアルガール 新装版(8) (デザートコミックス)
那波マオ(ななみ まお)
3D彼女 リアルガール(スリーディーかのじょ)
第08巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

文化祭も終わり、色葉とのリア充ライフも順調なつっつん。ようやく平和な日々が戻ってきた……と思ったのも束の間、筒井家で父の浮気によって離婚騒動が勃発!!  しかもお母さんと一緒につっつんは長万部に行くことに!?  長万部行きを阻止すべく、両親の仲をとりもとうとするつっつんだけど…。どうなってしまうんだ……俺の家!! 少女漫画界最弱ヒーロー男子×リア充美女のありえない純愛! 新装版で登場!

簡潔完結感想文

  • ほぼ つっつん の両親のターン。お急ぎの方は8巻(7巻も?)読み飛ばし可能。
  • アニメとゲーム以外の現実への執着が生まれたからこそ つっつん 東奔西走す。
  • 主役カップルの愛は高止まりのため、脇役の別れる/くっつく をお送りします。

年の経過を待たずに、別のカタストロフがやって来る 8巻。

間延びしている。
というか今回は間延びさせているとしか思えない。

『5巻』辺りで恋愛を通じた2人の絆は高止まりしており、
きっと最後に2巻分ぐらい使えば いつでも終わらせる用意はあるのだろう。
ただ読者人気もあるし、物語を横に広げて、結末を先延ばしにしようという感じに見える(想像)。

『7巻』の文化祭回も、主人公・つっつん が社会性を獲得したという意味では重要だが削ろうと思えば削れる。
そして この『8巻』の騒動は完全に読み飛ばしても問題はない。

意味を付加するとすれば、今回 登場する つっつん の両親の姿は、
まるで つっつん と色葉のような関係であるという点。
そして両親の過去を回想することは、子供たちの未来の想像に繋がるのだろう。
両親を持ち出したことで、2人に「半年」以上先の未来があることを強く考えさせることになった。


っと気になるのは、諸問題を盛り込む割に踏み込みが足りない部分である。
今回の両親の離婚危機に際しても、ドラマ性が軽い。
夫婦が歩んできた年月を それほど感じることは出来なかった。
過去の回想も、どの人も現在のキャラと同じ体型で、
同じようなスタイリッシュ空間にいるような描写で過ぎ去った時という印象を受けない。

そして この踏み込み不足は最後まで続く。
こういう脇道を用意している間に、ラストの展開を練る時間があったのではないか、と思う。
つっつん のオタクに関しても、色葉(いろは)の盛りに盛った設定も、
全部 表層的な部分を なぞっただけなのが気になる。
物語も終盤に差し掛かっているのに、そういう点ばかりが悪目立ちしている。

そして以前から ちょこちょこ気になっていたが、
コマと台詞が合っていないというか、
喋っているはずの人が口を閉じていたりして、誰の台詞だか分かりにくい。

吹き出しに工夫があればいいのだが、まるで囲っているだけで、そういう配慮もない。
誰が喋っているか分からないと台詞と表情の相乗効果が発揮されず、どちらも死んでしまう。

特に今回 登場する つっつん の父親は、あまり感情を表に出さない人なので、
口を開いてないと喋っているのか どうか分からなかった。
(あんまり口を開けて喋る人ではなさそうでは あるのだが)

あと今回初登場の つっつん の父親、絶対に友達が多いとは思えない。
以前の 母親の証言との矛盾が気になるなぁ。

特に(左)の中段のコマは、2人とも口を閉じているのに台詞だけが発せられていて戸惑うばかり。

化祭も無事に終わり、大役を終えた つっつん は一段落して安息の日々を送る。

が、好事魔多し。
ファミレスで自分の父親の不倫現場を目撃してしまう。
当日は秘密を抱えたまま眠るが、翌朝には夫婦で浮気問題が話されていた。

父親は不倫を否定せず謝るばかり。
こうして、つっつん の筒井(つつい)家は家庭崩壊の危機を迎える。

つっつん にとって家や家族は非常に大事なもの。
以前 ロリコン疑惑が出た時(『2巻』)に、
家族が自分を信用してくれなかったことに つっつん は大分ダメージを負ったように見えたし、
彼の中で、過去のイジメに近い仕打ちも
「外で いろいろ あっても家はずっと変わらず平和」でいたから乗り切れていた部分もあっただろう。

今回、その屋台骨ともいうべき家族が崩壊しようとしている。
そんな危機に際して、長男として両親の復縁に骨を折る つっつんの姿が光る。


が母の離婚の意志は固く、父もそれに追従するだけで言い訳もしない。

母は離婚したら息子と実家に帰るつもりでいる。
ちなみに母の実家は北海道は長万部(おしゃまんべ)である。

連れて行くのは2人の息子の内、どちらか一方だという。
なぜ そういう算段になるのか、などは一切 示されない。
父親の離婚なら親権を母親が2人分獲得して問題ないだろうに。
ただ つっつんが困れば それでいいという ご都合主義が好きになれない。

でも、この北海道行きを決める兄弟の選択で、つっつんが汚い行為に走るのは笑った。

一方で、色葉は街中で つっつんの父親と遭遇し、会話を交わす。
ってか、この父親 離婚騒動になってから会社を休んでいるんでしょうか。
なんだか無職になった親父が無気力に過ごしているだけに見える。
しかし なぜ ずっと平日に家や その周辺にいるのかの説明がない。
北海道行きは息子の内1人だけと同じように、作者の脳内設定だけが生きている。

実家に帰るのは息子の内1人という話は どこから出たのか。段々 話の作り方が雑になってる。
葉が つっつん の自宅に父親との遭遇の報告をしている際に現れたのは、不倫相手の女性。 そこで彼女をひとまず遠くに追いやり、高校生2人と破壊神との3人での対面が始まる。 泣くばかりの相手女性に色葉は厳しい。 そして全ては茶番だったことを知る。 1巻分 話が伸びれば それでいいんでしょうね…。 読み返してみると、父親の態度に全く納得がいかないが。 作品に好意的な感想を述べれば、家族の修復も、つっつん が この世界に執着を持ったことで出来たことと言える。 今回の接着剤は、成長した息子が獲得した愛と絆だろう。 息子や その彼女が本当の愛に出会わなければ、 彼らの言葉が実感を持って両親双方に伝わることはなかっただろう。 婚危機の裏で繰り広げられる伊東(いとう)と綾戸(あやど)さんの話は、 これまで一度も逃げたことのなかった綾戸さんが逃げたことで こじれる。 そうして袋小路に入ってしまった綾戸を救うのは石野(いしの)さん。 石野さんは皆の良き相談相手ですね。 しかも単刀直入に物事の本質を突き、即座の行動を促してくれるから、物語の展開も早くなる有能っぷりを発揮する。 綾戸は、自分に恋愛感情を持つ伊東との関係を友達という妥協点に甘えていた自分を恥じる。 だが石野さんとの対話で、綾戸が伊東に好意を持った自分を恥じていることが分かる そんな綾戸を石野さんは叱咤激励する。 横道に逸れた感のある両親の離婚騒動ですが、 この問題に つっつんが専念していることで、時間は経過し、 そして伊東の恋愛模様に余計な口出しをしないという効用は確かにある。