南 塔子（みなみ とうこ）
テリトリーMの住人（てりとりーえむのじゅうにん）
第06巻評価：★★★☆（7点）
総合評価：★★★☆（7点）
新しい季節。もうひとつの恋が、走りはじめる―― こまちゃんと郁磨（いくま）が互いに想いあっていると気づいた瑛茉（えま）は、自ら身を引くように郁磨に別れを切り出し、ふたりは別れました。季節はめぐって、春。山吹中央高校に入学した宏紀は、少しずつ瑛茉との距離を縮めようとします。一方、怜久（りく）は、これまでとは違う感情を瑛茉に対して抱き始めていて――？
簡潔完結感想文
- 「実は幼い頃 会っていたことがある」 というヒーローの条件を満たすのは男性は2人。
- ヒロインは無自覚のまま 男たちの負けられない戦いが始まる。承認欲求 大満足の展開。
- 膠着状態となっていた5角形の残り2角も いよいよ動き出す。実は櫛谷モテモテ伝説？
テリトリーMの恋愛、第2期のはじまり はじまり、の 6巻。
『5巻』で1回全ての恋愛関係が崩壊した本書。
ここから恋愛は再構築され、いよいよ本当の恋人選びが始まります。
全体的な流れとしては、最初の恋ではヒロインの瑛茉（えま）が愛する喜びを知った。
だが それは愛される喜びと双方向の関係にならないことを悟り、彼女は初めての恋を終わらせた。
第2期となる今回は、瑛茉が愛される喜びに満たされ、
そして その気持ちが一致する最高の交際がテーマとなるだろう。
まず男性から愛される必要があるので、瑛茉の気持ちは 今は明確にならない。
ここまでは予想外の展開の連続が面白かったが、ここからは ある意味で少女漫画の王道展開となる。
ただし王道が読者から支持されるのは、そこで夢みたいなことが起こるから。
自分の知らないところで甲乙つけがたい素敵男子が自分を巡って争っている、という単純明快な三角関係が始まる。
予言者だった怜久（りく）の元カノ・花蓮（かれん）の言葉は ここまで。
この恋の決着は誰も知らない。
そこがＷヒーローモノ（?）の面白いところです。
そして どの恋愛でも、好きな人の好きな人、または好きな人を好きな人には敏感なのが面白い。
というか本書で敏感なのは男子陣だけか？
瑛茉は、好きだった櫛谷（くしたに）の恋心を見抜けなかったし、今も怜久の自分への感情に無自覚、
駒井（こまい）ちゃんも、怜久への想いが叶わないことは見抜いていたが、櫛谷の気持ちに全く気が付かなかった。
男性たちだけが、自分の恋敵になりそうな人を しっかりと感知している。
女性は一途に恋するが、男性は視野を広く保って恋愛の成否に気を揉んでいる、というところか。
どうも 所々、顔が崩れているのが気になる。
間違いなく繊細な絵だが、崩れやすく不安定という意味もある。
絵といい話の構成といい、力の出し方が一定じゃない部分があるのが気になるなぁ。
巻を跨いでの衝撃展開、かと思いきや、一緒に「マ メゾン」で食事をしただけの瑛茉と怜久。
本書の煽りって、高確率で大したことがなくて肩透かしに思える。
その帰路、近所の公園の傍を通る際に、小学校1年生だった瑛茉が宏紀（ひろき）と初めて会った時の話になる。
その話から、宏紀が死んでしまった思って大騒ぎした その男の子こそ怜久であることが判明する。
出ました、少女漫画あるある の一つ、
「カップルとなる2人は、実は過去に会ったことある」。
これで宏紀、そして怜久もヒーローの資格を手に入れたことになります。
瑛茉も「運命みたい」と言っているし。
いや怜久が運命だったらいいな、と思っているだけなんだけど。
作者はヒーローを確定せずに描き始めたらしいが、
ここに櫛谷が出てこないとなると、彼と別れるのだけは必然だったのだろうか。
翌日、遠足で怪我をした瑛茉の足の状態を心配した宏紀が自宅まで迎えに来て、支えとなってくれる。
瑛茉が このマンションに入居した約1年前は一緒に歩いていたが、瑛茉の櫛谷との交際で中断していた。
実は瑛茉の足は順調に回復している。
その証拠に怪我当日の前夜も歩き回っていたし、その時は怜久を支えにしようなどと考えていない。
でも「足のため」という合理的な説明をつけて、彼女は宏紀の腕を貸してもらう。
1年前は学校も違い、年下の大型犬ぐらいにしか思えなかった宏紀が、
今は同じ学校に通い、人を支えるにたり得る存在になっている。
そんな宏紀は現在、成長期。
それは肉体だけじゃなく、精神的にも言えること。
自分が成長を果たした、と感じた時、彼は 改めて瑛茉に気持ちを伝えるという。
押しつけるだけじゃなく、必要とされる自分になる、それが この1年での彼の変化で、今は雌伏の時。
既に瑛茉は宏紀の成長の兆しを しっかりと認識している。
こうして宏紀と怜久のＷヒーロー候補体制が整った。
仕切り直して、この2人をヒーローにするためか、モブ女子たちを活用して、2人の価値を高める演出が加わる。
その中の1人から積極的なアプローチを受けた怜久は、交際を断るために、瑛茉との交際を でっち上げる。
他クラスのアイドル的な女生徒を断っても、瑛茉を選ぶ、これが怜久の結論。
瑛茉は地味な存在ではないが、モテる男子が その辺の女子と一方的に交際宣言して、
それが本当の交際になっていく、というのは どこかの少女漫画の1話のような展開である。
駒井ちゃんの自分への片想いが終わってからも惰性で言われるがままに交際してきたが、それも終了。
交際経験豊富な 元ドＳ男子、そして今は好きな人以外に脇目も振らない、という少女漫画では重宝されるヒーローの誕生となりました。
宏紀は直球で、怜久は変化球ながら少女漫画読者が大好きな王道路線を進む。
口止めしたにもかかわらず（偽装）交際の噂は学校中を駆け巡る。
怜久を長く慕ってた駒井ちゃんは事情を聞いて納得するが、一つだけ納得できないのが、怜久が交際を断ったこと。
そうして じっくりと観察してみると怜久の想いが分かる。
これまでも ちょっとした仕草や視線で他者の恋情が分かる場面があったが、
まさか怜久までも そんな分かりやすく恋心をだだ漏れにしているなんて にわかには信じられない現象だ。
怜久との交際が噂されながら、宏紀と登校する瑛茉は学校中の注目を集める。
しかし今回は噂や陰口だけで直接的な嫌がらせはない。
ドラマを生むためとはいえ『1巻』の治安の悪さが嘘のようだ。
とても同じ学校とは思えない。
宏紀も噂の対象になっていることを瑛茉は気に病むが、宏紀は揺るがない。
そこでも彼は芯の強さを見せた。
宏紀は瑛茉にとって不満や不安、憂鬱を帳消しにしてくれる存在。
それは言い方を変えれば、彼は既に頼られている、ということにならないだろうか。
そして これは怜久が瑛茉と2人きりでいると心のモヤモヤが晴れたように、
瑛茉にとっては宏紀が そういう存在だということでもある。
宏紀の存在は瑛茉に確実な影響力となっている。
瑛茉の頭に宏紀が確実にいることを知った怜久は、宣戦布告をする。
3人で一緒のエレベーターに乗り、6階で瑛茉が降りた後に、
男性2人のヒリヒリした会話が始まるという一瞬で空気が変化する場面が良い。
こうして2人だけの正々堂々とした宣戦布告によって、戦いの火蓋が切って落とされた。
一方で、両想いながら この半年以上 何の変化がない櫛谷と駒井ちゃん。
櫛谷は駒井ちゃんはまだ怜久が好きだと思っている。
そして駒井ちゃんは瑛茉がまだ櫛谷を想っていると思っている。
これが駒井ちゃんと櫛谷 2人の膠着状態の原因らしい。
その間に2年生でクラスメイトになった国枝（くにえだ）さんと櫛谷の交流は続いていく。
国枝さんと櫛谷の関係を知りたいが、自分は身動きが取れない瑛茉。
そこで選ばれたのが怜久という密偵。
瑛茉に なんでもする、改め、なんでもおごる、と言われて怜久は動く。
惚れた弱みか、かつての狂犬が 忠犬のようになっているのが笑える。
怜久の楽しみは おごらせる ことではなく、これを機に口実が出来た瑛茉との食事。
彼にとっては瑛茉の笑顔が何よりの報酬だろう。
業を煮やした瑛茉は駒井ちゃんの恋心を初めて指摘する。
そして駒井ちゃんの考える自分という障害を取り払い、彼女に行動を促す。
駒井ちゃんは瑛茉との会話から、もしかしたら自分が彼女たちの交際終焉の原因になっている可能性に思い当たり、
瑛茉の厚意を無駄にしないためにも、行動に出ようとする。
が、その時に障害になるのが国枝さんである。
初登場から随分と間を置いての活躍となった。
ちなみに国枝さんと櫛谷の姿はメガネの委員長とヤンキーという凹凸カップルに見えなくもない。
まぁ 実際は櫛谷は見た目が少し怖いだけで心優しい男子委員長なんですけどね。
ただ駒井ちゃんも多少の障害には負けない行動力を持ち続ける。
好きなら動こう。
瑛茉もそうだったが、あれこれ理由をつけて動かない自分を奮い立たせる姿に好感を持つ。
上述の通り、女性たちの方が活動的なのが本書の面白いところ。
結果を急いだ瑛茉は 駒井ちゃんにお節介を焼いて、駒井ちゃんの不評を買う。
それに落ち込む瑛茉を励ますのは怜久。
これは『1巻』の時に傷口に塩を塗った怜久とは全く対照的な反応である。
『1巻』ではざまあみろ、だったけど、今回は傷口を処置することで彼女からの好感度を上げるチャンスとなる。
怜久と2人きりの場面があるなら、宏紀と2人きりの場面もある。
この恋愛トライアングラーは、一進一退を繰り返す。
今回は2人きりでの食事バトルだろうか。
怜久はファミレスだったが、宏紀と一緒に行くのは瑛茉の祖母の家。
彼女は母方の祖母で『1巻』の引越し場面で出てきましたね。
瑛茉は祖母の過剰な食事サービスに辟易していたが、今回は宏紀が食事を平らげてくれた。
そういえば怜久もファミレスで大量の料理を注文していたなぁ。
たくさん食べる男性って素敵、ってことなのか。
祖母宅で離婚した父親との写真を見つける宏紀。
新生活になり1年以上、親の離婚からはそれ以上が経過し、瑛茉の父親への感情も変化していく。
そして自分の櫛谷との別れからも1年が経過しようとしている。
瑛茉が次に好きになる人は誰なのだろうか。
