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少女漫画と小説の感想ブログです

おそらく本書 一番の聖女であるモブキャラの言葉は、現在・未来を見通す正確な予言。

テリトリーMの住人 4 (マーガレットコミックスDIGITAL)
南 塔子(みなみ とうこ)
テリトリーMの住人(てりとりーえむのじゅうにん)
第04巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

言えたヒト、言えないヒト。そばにいたい、その気持ちは一緒なのに。こまちゃんにフラれた郁磨(いくま)を見て、「考える暇もないくらい、私のことでいっぱいになればいい」と猛アタックし、付き合うことになった瑛茉(えま)。みんなに報告しますが、瑛茉が好きな宏紀は受け入れられない様子…。少しの不安を残しつつ、瑛茉が銀鼠町で過ごす初めての夏がやってきます。

簡潔完結感想文

  • 夏祭り回。好きな人の窮地を見渡せるのはヒーロー特有の千里眼なのだが…。
  • 各々に恋愛スイッチが入る。1人は意識的に、1人は無意識からスイッチが出現。
  • 花蓮ちゃんの言葉は絶っ対~!! 彼女の言葉は恋愛の本質と物語の未来を語る。

言を託された怜久(りく)が全知の神になる 4巻。

児玉 花蓮(こだま かれん)は予言者である。
ラノベみたいな文章になったが、『4巻』の主役は彼女であろう。
といっても彼女はモブキャラで、今回で ほぼ出番は終了するんだけど…。

おそらく本書で一番 性格がいいのは花蓮であろう。
そんな聖女である彼女の言葉は、全て正しい。
彼女の言葉を応用していけば、これから先に起こることは見通せるようになっている。

それは主人公・瑛茉(えま)にとっては辛い未来を思わせる予言だ。
これが幸福の中にある一抹の不安を増大させることになって、読者の心をざわつかせていく。
『4巻』は特に波紋の広げ方が秀逸である。

そして その予言の言葉を聞いているのは花蓮と別れた恋人・怜久(りく)だけ。
彼は その言葉の重さに一時 身動きが取れなくなるほど思い悩む。
だが その予言に従って、自分の意識も変えていく。

そして瑛茉の未来を知っている状態の怜久は瑛茉に少しだけ優しさを見せる。
これまで悪魔のような所業だったが、唯一 予言を託された者として聖人の振る舞いを見せる。

予言の中には怜久自身のことも含まれているが、
彼が予言通りになるのかどうかは、まだ分からない…。

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この2ページの言葉は全て、怜久と その周囲の人々に適用できる。聖女様の言葉に間違いはない。

『3巻』以降、関係性が目まぐるしく変化していることもあって、
5人が お互いの状況を よく見ている場面が多いのが良いですね。
そこから気遣いだったり、距離感だったりを出すから関係性の描写に繊細さが生まれている。

物語の後半に足りないのは こういう関係性の描写ですね。
5人で動いていた物語が、当事者だけの話になってしまったのが残念です。
最後まで複数人を動かし続けることが出来たら傑作になったのに。


祭りの日は、2人の男性が それぞれに大事な人と接触する。
櫛谷(くしたに)は駒井(こまい)ちゃんの具合が悪いことを察して助けてあげる。
それは彼の優しさと洞察力が成せるわざだが、
彼女である瑛茉を祭りの会場に一人置いていってしまった。

櫛谷は駒井ちゃんをおんぶして自宅に帰る(体力ないのに)。
その様子を、入り込めないテリトリーの外から瑛茉は眺める。
そして そこから1時間、櫛谷は戻ってこなかった…。

これは『3巻』の櫛谷と駒井ちゃんの2人の海辺での告白場面と状況が似ていますね。
瑛茉は、どうしても あの2人の間に入り込めない。
ヒロインなのに傍観者にしかなれない。


宏紀(ひろき)は持ち前の恋の眼力で1人放心状態の瑛茉を発見し、
明らかに自分に好意を持たれている後輩をさし置いて、瑛茉のもとに進む。
これが宏紀の恋の選択となる。

瑛茉をナンパしようとする男性から彼女を守って、手を引き走る。
これは『2巻』での怜久と同じようなヒーロー的行動ですね。

その行動に思う所があったのは宏紀の方だった。
自分はどうやっても瑛茉を忘れることは出来ない。
自分の瑛茉への気持ちを殺そうとするより、
櫛谷の前では態度に出さず、静かに大切に想う、それが宏紀の愛の進化形となる。
だから攻めのスイッチはオフにする。
これまでのように毎日のように好きと言うよりも、真剣さが増していると感じられる。

そして この時、宏紀が瑛茉を見つけてくれたことが、
孤独になりかけた彼女の心を救い、
そして瑛茉にとって宏紀が本当に自分を想ってくれていると実感できた出来事になる。
これは瑛茉が初めて感じる人に想われる幸せなのではないか。

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女性のピンチに発動するのがヒーローのスイッチ。でも どうして違う女性に発動するのか…。

に、攻めのスイッチをオンにするのは櫛谷。

駒井ちゃんとの急接近で自分の気持ちを再確認してしまった形となった櫛谷。
風邪の看病をして、眠ってしまった彼女にキスをしようとしてしまう自分に気づく。

櫛谷は自分を精一杯擁護しようと必死。
異性を目の前にした男性の正常な行動であって、自分自身の問題じゃない。
だけど「奥西(おくにし・瑛茉の名字)さん しか見ない、奥西さんのことだけしか考えない」という言葉は、
駒井ちゃんのことで頭を占領しそうになる自分に対する防御呪文である。
そして、櫛谷が全く瑛茉に恋をしていない証拠である。


そんな不誠実な自分を振り払うように、櫛谷は瑛茉をデートに誘う。
デート中も、その次に会う約束でも櫛谷は積極的な態度を見せ、瑛茉に愛される実感をくれる。
しかしそれは宏紀とは絶対に種類の違うものである。
そういう自分と、そういう状況を演出するための彼の演技なのだから。


一方で、駒井ちゃんも櫛谷への気持ちに唐突にスイッチが入っていた。
彼の夢を見たり、彼の優しさを実感したりして、急に意識に上ってくる。
櫛谷が自分に振られて即、瑛茉と交際することや、お節介を焼くことに駒井ちゃんは怒る。
そうして彼女は、怜久しか見ていなかったから気づきにくかったが、櫛谷のことも大切に思っていた自分に気づく…。

ちなみに駒井ちゃんの家庭の場面で、母に「のえる」と名前を呼ばれても怒らないのは彼女の成長なのかな。


久は交際したばかりの花蓮と早々に別れてしまう。
なんとバイトで忙しくなり彼女から別れを切り出したらしい。
当然、怜久に未練はなく、そのことに駒井ちゃんは安心する。

ただ怜久は花蓮のことを好きにはならなかったが、
これまでの どの女性よりも信用したのではないかと思う。
こんなにも怜久が その行動を影響される言葉を投げかけているのだもの。

この事実を知った櫛谷が、幼なじみの同級生3人それぞれの想いが公然の秘密になった後で、
初めて怜久がフリーになったことで駒井ちゃんのチャンスだと彼女に怜久へのアタックを促す。
その余計なお節介は、その未来がくれば自分が楽になるからでもあろう。
自分が意識的に瑛茉に接近したように、駒井ちゃんが櫛谷から離れれば恋心の蓋が密封できると考えている。


して怜久が花蓮と別れることよりも大事なのが、別れの際の会話だろう。
上述の通り、この全てが予言となるから。

花蓮は、交際をしても怜久が自分のことを好きになってくれないことが分かって、別れを切り出した。
しかも性格がいいから、自分のワガママで振り回したという姿勢を崩さず、次の出会いにも前向きだという気遣いすら見せる。

ただ、最後に花蓮は、怜久と瑛茉の関係に囚われてしまったことを我慢できずに告白する。
そこからは怜久と瑛茉のことを監視するように見えてしまい、
「このままじゃ あたし 自分のこと嫌いになっちゃう」から別れてスッキリする。
自覚的なところも、意思の力で監視を止めるのも花蓮の強さである。

そして怜久は瑛茉のこと気になっている、そう花蓮は最後に指摘するのだった…。


怜久と花蓮の別れの理由は、名前を置き換えたら、テリトリーMのメンバーにも適応される話である。

『3巻』で怜久が花蓮を置き去りにして瑛茉を連れて行ったのは、
今回のお祭りの際の櫛谷・瑛茉・駒井ちゃんの関係性そのもの。

怜久と瑛茉の関係については
全てが見当外れの内容に思えるが、じっくりと考えに耽るぐらいの価値はあるらしい。

そうして予言は怜久に託されたのだった…。


蓮の予言を聞いた怜久は駒井ちゃんの2人きりの誘いに乗る。
これは これまで絶対 彼が避けてきた状況。

その変化は何だろうか。
もう秘密が公然だから櫛谷に気を遣う必要がないのもあるだろう。

だが一番 大事なのは「ハッキリふられないと ずっと片思い引きずりそーじゃん?」という予言者・花蓮の言葉だろう。
駒井ちゃんを大切にするから、駒井ちゃんの片想いを引きずらないように、自分が責任を負うことにした。
花蓮と同様に彼女が自分のことを嫌いにならない内に けりをつけてあげたかったのだろう。

告白後の言動を見るに、怜久が駒井ちゃんの好意を受け入れる気は全く無い。
これが怜久にできる駒井ちゃんへの最大限の配慮。

それとも怜久は傍観者ではなく、自分が望む未来のために動いているのだろうか。
駒井ちゃんの自分への気持ちを消失させることで、関係性がまた動くことを期待して。
その中で漁夫の利を狙っているとも考えられる。
怜久の「狙い」は、自分では無意識ながら予言された瑛茉なのだろうか…。


こうして駒井ちゃんは ふられてスッキリすることが出来た。
これは花蓮と同じ心境だろう。
ということは、駒井ちゃんも「次」に移行する準備が整ったのか…?

きっと駒井ちゃんの「過去形」の言葉は、怜久の想像外だったはず。
怜久が全てに片を付ける前に、彼女は自分で消化していた。
そしてそれは瑛茉が安心材料としていた担保が崩れる瞬間でもある。


茉は今度は櫛谷と2人きりの花火大会デートに誘われる。
櫛谷はスパダリのように振る舞うが、必要以上の接触はしない。

まだ彼の心には、常に駒井ちゃんがいる。
その疑心はあっという間に瑛茉の心に広がり、
そして瑛茉は駒井ちゃんの気持ちが変わっていることにも気づく。

これは花蓮には怜久の心の動きが分かったように、
好きな人だからこそ視線の動きや態度の端々に その人の本心が見えてしまうのだろう。


自分の今の幸福が崩壊することを恐れる瑛茉。
そんな彼女を見つけ、怜久は珍しく瑛茉を励ます。
この行動は怜久が予言を握って未来が見えているからか、それとも自分の無意識化にある本心からか。

怜久が少し落ち込んでいるように見える瑛茉にチョコを渡すのは、
『1巻』の監禁事件の時と ちょうど逆の構図になっていますね。
チョコは2人の距離を接近するツールなのかもしれない。

これは2人が友情以上に接近するということなのか⁉