《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

結婚が既定路線とはいえ、結婚式の場面で終わらせて良い話っぽくする強引な手法。

純愛特攻隊長!本気(4) (別冊フレンドコミックス)
清野 静流(せいの しずる)
純愛特攻隊長!本気(じゅんあいとっこうたいちょう!マジ)
第04巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

キタコレ最高!! 超ラッキー♪ 千笑(ちえみ)&平田(ひらた)が、なんと二人でお泊まり!? 友の恋路のために奔走(暴走?)する千笑だったけど、気がつけば自分と平田の関係には進展ナシ!? そんな二人の関係に不安を感じ始めた千笑に舞い込んだのは、福引一等「海辺のリゾートペア宿泊券」! 準備は万端、いざ平田とラブラブ旅行――のはずだったのに……!!? 不滅の最強(凶)恋愛ストーリー、ついに完結!

簡潔完結感想文

  • 断続的長編・友人の恋 完結。千笑のお節介は万能薬という結論なのか…?
  • これも友人の恋。千笑は愛の使者。だが平田だけが我慢をして不幸になる。
  • 通算5回目の「するする詐欺」。既視感満載の再放送だが大団円で誤魔化す。

て馬ではなく友人にヒーローの座を奪われる平田の悲哀、の 最終4巻(通算17巻目)。

読者は主人公・千笑(ちえみ)と平田(ひらた)の2人の恋愛模様が見たかったのに、
作品自体が平田を排除する方向に動いたことが まことに残念でならない。

少女漫画のヒーローの登場は、ヒロインがピンチになってからなので、ただでさえ遅い。
それなのに本書は、ヒーローがヒロインの暴走を放置することこそ「大きな愛」とした。
1話から両想いになった本書では、カップル2人の関係の変化は描きづらかったのだろう。

だからヒロインばかりが好き勝手に暴れて、
ヒーローの平田は彼女が問題を解決した時に帰ってくる居場所と成り果てた。
平田は後半 空気。
作品が彼の存在感を薄めに薄めたのに、
最後の最後で平田とのハッピーエンドを描かれても、場違いな空気が流れるだけ。

もしかして平田の最終形態は千笑の母なのではないだろうか。
千笑とそっくりな、千笑同様に暴走する夫のすることを無視し続けられる精神力の持ち主だもの。
少女漫画のヒーローは最終的にヒロイン化するのは よく見られるが本書もその道を辿っているのかも。


そもそも作者の別作品で夫婦で登場した(らしい)2人の馴れ初めの話なので、
2人の結婚は最初から決まっていたこと。
だけど、ラストを結婚式の場面にすれば少女漫画的に大団円になると言わんばかりの構成には疑問ばかり残る。

もっと2人のことを好きになれるような内容に出来なかったのか。
渡辺あゆ さん『L♥DK』をはじめ「別冊フレンド」は上手く話を膨らませられない作品が多い。
どうも出涸らし とか、死に体とか いう言葉が浮かんでしまう。
きっと編集者や雑誌の方針が私とは合わないのだろう。


書において大野(おおの)が人気なのは、
当初、読者が平田に期待した役割を大野が果たしているからではないか。

怖そうに見えるし、硬派で何考えてるか分かんないけど、
その裏では好きな人を静かに深く愛している、そんな役割を平田には期待していた。
だが、平田は千笑への溺愛を隠さなくなって、
行動原理が常に千笑優先で、ある意味で つまらない存在になった。
少女漫画読者の願望を刺激するような魅力が消えていった。

しかも千笑を制御することを放棄し、彼女の好きなようにさせて、
自分のもとに帰ってくればそれでよし、という寛容すぎる愛を提示して千笑との距離も広がった。

そんな平田の体たらくがあるからこそ、
恋をして接近するドキドキ感を味わえる大野と由香里(ゆかり)の恋に読者の興味が移ったのだろう。

作者は千笑を自分勝手の怪物にし、平田を作品から遠ざけてしまった。
作品を通して2人をしっかりと育てていかなければならなかったのに、
まさか最後には個別で動くことが基本姿勢になるとは思わなかった…。


局、千笑が動けば丸く収まる、という水戸黄門的展開に終始した。
それが不快。

由香里と大野の恋愛においても、一度は千笑のお節介は当事者たちから非難・嫌悪されたのに、
最後の最後で千笑のお節介が2人を結ぶ、という実績を作ってしまった。

それは今回のクラスメイトの恋も同じ。
千笑が間違った方向に指導しても、結果的に物事は好転する。
それで平田を傷つけても お構いなしなのは唖然とするしかない。

平田の手を離れて、制御を失った千笑だが、彼女の暴走パワーは無限大!
それが本書の結論になっていることが実に腹立たしい(笑)

千笑は成長することなく、平田は どんな千笑でも抱擁するという役目で落ち着いた。
ありのままの姿でも女性がイケメンに許容されるのは少女漫画読者にとって嬉しい場面でしょうが、千笑に関しては喜べない。
自分勝手に行動し、嫉妬し、相手のことを考えていないだけ。
交際編がメインなのに、男女交際の楽しみや深化などは一切描かれない。

少女漫画の尖ったヒーローは、最終的に性格が丸くなるが、平田も その例に漏れず。
平田の方が常識人で、千笑は天真爛漫に生きているだけ。
そして最終的には2人でいる意味さえ失っている。
こんな恋を誰が応援するというのだ。

それでいて最終回は性行為や結婚がメインの題材だから、チグハグさが否めない。
千笑と平田、そして読者の離れた心を引き戻そうとしても時すでに遅しだろう。


野に振り回される片想いに疲れた由香里は、
最後に告白をして想いが詰まったアクセサリを大野に返した。

しかし そのアクセサリは、大野が改造して再度 由香里に渡した。
これまでチェーンでハート型を通していただけの形だったが、
今度はハートが2つ くっついて離れないようになっている。
それだけで大野なりに意図を含んだ形状だと見て取れる。

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どうしても磁石のように反発してしまう2人。けれど一度 心が寄り添えば、このアクセサリのように離れがたくなる。

由香里は自分が振り回されているとしか考えてないが、
大野の行動の裏にも理由があることまでは考えが及ばない。

そんな膠着状態を打破するのは、最後まで出しゃばる千笑。

かつて由香里を激怒させた文化祭回(『5巻』)での失敗に懲りたかと思いきや、
遊園地でのダブルデートを企画する。
ただし今回は、2人の関係が少し進展しているために反発も少ない。
上述の通り、本書において千笑のお節介は常にハッピーエンドを迎える。

遊園地といえば少女漫画に欠かせないのが観覧車。
千笑は犯罪行為をしてまで、2人を観覧車内にとどめ、会話の機会を設けさせる。

そこで改めて由香里は、大野の物の言い方、考え方を知る。
更に その帰り道、由香里は大野がアクセサリの形に込めた意味を知った。

不幸が反転して、幸福が訪れる。
これぞ少女漫画の醍醐味ですね。

2人は長編内の断続恋愛漫画として作品を支えてくれました。
でも、この2人を主人公に ここからの話を描いても つまらないんだろうなぁ…。


笑のお節介は最後まで炸裂する。
今回も男性の事情に介入するが、例外はイケメンではないこと。
でも千笑のアホさ加減に平田も辟易している。
最終巻でこんなんでいいの?

全く2人の仲が深まらないまま、性行為に関しては貪欲。
だが5度目の「するする詐欺」となり、もはや どうでもいい。
5回も繰り返されると、読者の興味を惹くためのエサとしても機能していないだろう。
この前にも親を騙して外泊も2回(だったはず)してるし。
最後の最後までワンパターン。

父親との騒動のラストも高所から落ちるという既視感たっぷりの内容。
今回は適当な屋上がないので、サスペンスドラマのような崖の上となる。

父が高所から落ちて、命の危機の際に千笑が本音を話して父が満足する、
という内容も『2巻』で見たまんまの展開。

これは最終回での原点回帰ではなく、ただのネタの使いまわしとしか思えない。
最後ぐらい もう少し丁寧な内容が見たかったなぁ。

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もしや千笑よりは腹立たしいキャラを配置して、千笑を まだましに見せる意図がある、のか⁉

ストは、それから数年後の結婚式。
(最初は幼稚園児だった平田の弟が中学生になっているから7年以上 経過していると思われる)

2人は登場の段階から結婚は運命づけられていたとはいえ、唐突なラストシーン。
どんな場合においても、最後に数ページ追加すれば終わらせられる準備があったのだろう。

結婚式には追放された長編キャラも再登場。
彼らの恋人も「本編で描く事ができなかった組み合わせ」として暗示しているらしい。

まだまだ描き続けていたら、由香里に続いて友人の恋その2、その3と展開していったのかな。
まことに少女漫画らしい狭い世界での交際だけど、
新キャラが役目を終えて追放させられてから戻ってくる展開は見たかったかも。


結婚式には平田の祖母も出席していますが、千笑との対面は本編では全くありませんでしたね。
また、千笑が平田の両親の墓参りをするとか、そういう結婚への布石があったら良かったのにと思った。
こういう所も、本書における平田の軽視を感じる。

笑いのために、ストッパー役の平田がリストラされた、そんな結末でした。