《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

主人公が巻き込まれ型のヒロインから、ただの お節介ババアに成り果てる末期症状。

純愛特攻隊長!本気(2) (別冊フレンドコミックス)
清野 静流(せいの しずる)
純愛特攻隊長!本気(じゅんあいとっこうたいちょう!マジ)
第02巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

やっぱり言えないよ、平田(ひらた)には――。最強カップルに、重大ヒミツ発生!? 危うすぎて。この男からどうしても目が離せない……。成績優秀だけど、どこか心が空っぽのような不思議な感じの美少年・由比(ゆい)は、誤解されて他人に殴られても、ただ静かに笑うだけ。そんな由比のことが気になる千笑(ちえみ)は、彼に大接近しちゃって……!?

簡潔完結感想文

  • 彼氏以外の男性との夜のピクニック。親を排除するための作者の悪戦苦闘。
  • 彼氏に近づく女は絶対に許さないが、自分が男に近づくことは問題もない?
  • 諦めた17歳に諦めない17歳。千笑が由比に関わる理由を作れなかったか…。

品と作者の如実に なってきた 2巻(通算15巻目)。

終盤になって本書の悪いところが出まくっている。
ヒロイン・千笑(ちえみ)のお節介も輪をかけて酷くなっているし、
恋人の平田(ひらた)が いる意味が どんどんなくなっていく。

これまでは千笑が新キャラの事情に巻き込まれるだけの理由があったが、
今回の由比(ゆい)に関しては、千笑から積極的に関わり、暴走しているのが目に余る。
千笑の義侠心は最初から提示されていた設定ではあるが、
由比が全く望まない方向での お節介ばかりが続いて辟易する。

作者は恋愛関係以外で千笑が新キャラの事情に踏み込む新展開を描きたかったのだろうが、
千笑の行動の動機に関して線引きを間違えたとしか思えない。

作者は物語と、千笑の好感度を徹底的に破壊したいのか?と疑ってしまうほど酷い。
今回、由比は平田から嫌われるようなことをして間接的な自殺を試みていたが、
作者は読者から嫌われることを わざとしているのだろうか。


編になると平田の存在感が一気に薄くなる悪癖から抜け出せていない。

何よりも千笑のダブルスタンダードが暴走し続ける。
平田に近づく女性は友達でも排除するのに、自分は男性の事情に介入し続ける。
千笑にとって平田の意見は無視してもいいものという扱いなのが気になる。
前々から思っていたが、千笑が平田を大事に想っていることを証明するような行動が少なすぎる。

千笑は一つの問題に猪突猛進してしまうのだろうが、
彼女が関わる作品の最後の長編なのだから、
平田との折り合いを千笑が しっかりつけられるようになった、などの成長を見せて欲しかった。

肉体関係の「するする詐欺」ばかり挿んでいるのに、精神面での成長を最後まで感じられなかった。

最後の話は平田と協力して、2人で解決するというこれまでにない展開があったら、
読後感も随分と違うものになっただろう。
私の場合は、ネタ切れ・尻すぼみな感じが、作品への悪印象と繋がった。


田と由比が初めて対面。
といっても隣のクラスなので体育などの合同授業で顔と名前は一致している。

平田は由比を
「オレはちょっと見てて キモチ悪い」
「あいつって なんか人形みたいじゃね?」
「雰囲気が独特っつーか 得体しれねーっつーか」と評する。

さすが本書のヒーロー。
新キャラのことを見抜いている。
「おまえは深入りすんなヨ」と釘を刺すが、そんな警告は千笑には通用しない。


そんな由比は学力テスト3教科満点。
由比が勉強する理由は学生の本分であり、
目的もなく勉強しているが、良い結果に まわりが喜ぶから、自分にとって最良の選択をしていると割り切っている。
ロボットみたいな思考と、達観した考え方は千笑には理解できない。

学校の図書室で由比と勉強会をして脳細胞を酷使した千笑は、由比と下校中の電車で寝てしまう。
起きた時には、山の中の駅。
終電もなく、取り敢えず人気のある町の方向に歩き出す2人。

そもそも千笑が住んでいる場所はどういう設定なのだろうか。
てっきり東京が舞台なのかと思っていたが、地方都市だったのだろうか。


うして夜通し由比と歩くことになった千笑。
そこで由比がカメラが趣味なことなど人となりを知り、2人の距離は近づく。

電車に乗った時点で暗くなってはいたが、
千笑の両親が心配して平田に電話を掛けた頃には、午後11時を回っていた。

そもそも千笑が なぜ帰れなくなったことを、まず親に報告しないのかは謎ですね。

さらには公衆電話(1994年頃の設定なので)を発見しても、タクシーを呼ぼうとする千笑。
高校生が親よりも先にタクシーを呼ぼうとするかなぁ…?
今後の展開のために親というワードや存在を由比の前では出せないのは分かるが、不自然すぎる。

やがてお巡りさんに発見され、親に連絡を入れられる2人。
由比は自宅への連絡を軽く拒否するが、千笑が彼の生徒手帳を奪い、警察官に連絡させてしまう。
1994年当時は高校生にとって生徒手帳って重要なアイテムなんですね。

由比の事情をよく知らない千笑のお節介で、由比の父親が登場し、現れるなり由比を2回殴りつける。
当然のように息子を面罵する父親に対し、由比はただ謝罪の言葉を述べる。

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ネグレクト、DV と家庭環境が悪い美少年たちが続々 登場。千笑が教師なら問題の介入も分かるけどさ…。

ちなみに この時、両親が迎えに来ていたはずの千笑だが、
元レスラーの父が、母の乱暴な運転でダウンしていたのは、
この場で由比の父親の暴力に対して、対抗する気概と能力のある人間を排除するためだろう。

そんな父親の姿を目の前にし、
千笑は、由比が家に帰るのを出来るだけ先延ばしにしていたのではないかと推理する。

由比もその夜は父親が家にいることを了解している言葉を吐いており、
彼にとっては歩き続けても家に帰れなくても、父が家にいる嵐のような一夜を やり過ごしたかったのだろう。


が翌日、由比は何事もなかったかのように振舞う。
それこそ、彼が壊れている証拠だと思い、千笑は彼に関わり続ける。

ただし昨夜の出来事を平田には話さずに。
タイミングを逸して話さないだけだが、これは立花(たちばな)編でも何度も起きていた事象。
この既視感満載の展開には辟易するばかり。

平田はヒーローで最強だから、問題から遠ざけられるのが本書での運命。
平田だけが千笑の暴走を止める権利とパワーを持っており、即座に問題を解決してしまうから作品から嫌われているようだ。

更には突然、由比にキスされたことが千笑の口を重くし、平田に話せない秘密は増える一方となる。

だが平田は千笑以外の人から、千笑が由比とキスしたことを知ってしまう。
これは由比がクラス内で千笑とキスしたことを暴露し、それが間接的に平田に伝わったから。

しかし それを知っても平田は動かない。
今度こそ千笑を信じると決めているらしい。
これは立花編を通じて、千笑を信じきれなかった自分の反省の意味もあるだろう。

てっきり由比編の最後まで平田は動かないと思っていたらm
由比が千笑に襲い掛かってきた最大のピンチに平田は登場する。

ヒーローの面目躍如だ。
だが、これは由比に仕組まれたこと。
平田が動き出すのを由比は演出していただけであった。
千笑も平田も由比に良い様に使われていた。

由比は平田が自分の行動を止め、そして自分の鼓動を止めてくれることを願っていた。

そう、由比のやっていることは間接的な自殺ではないか。
自分から死のうとはしないけど、屋上の柵を越えて座ってみたり、
平田をわざと怒らせて、自分をボコボコにさせようとしたり、
何度も自分の命が危険に晒されている状況を作り出している。

由比は自分で問題を起こせない。
もし失敗したら、父親の罵倒は更に酷くなり、地獄が続いてしまう。
だから巻き込まれた事故のように自分が被害者になる手法を探っていたのではないか。

そういう由比の魂胆を見抜いた千笑は、
平田が怒りで由比を殺してしまう前に、機先を制す。
ここではヒーローの立場が逆転して、千笑が平田の犯罪者への道を防いでいる。


の一件の後、千笑は平田に由比との一連の出来事を話す。

平田の答えは「それはおまえが首をつっ込むことなのか?」。ごもっとも。
「お得意の正義感であいつを救ってでもやりたいわけ?」
「よけ―なお世話だろ あいつがおまえに助けでも求めてんのかよ」

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平田は千笑に意見表明をしっかりしている。平田の意見など千笑にとっては馬耳東風だけど…。

すごい。千笑の存在意義を根幹から否定する言葉の連発。
平田にこれを言わせるほど、作者は千笑の暴走に困っているのか。
作者自身の苦悩が見て取れるような気がする。

だが何度 釘を刺されても、千笑のお節介は止まらない。

カメラで写真を撮っている由比のために、千笑は彼を写真展に誘う。
こういう男性との2人きりのお出掛けを世間ではデートと言うのではないだろうか。
平田が他の女性とそんなことをしたら怒り狂うだろうに、千笑ばかり行動が自由である。

その写真展で由比の心からの笑顔を見る。


の後の千笑の行動動機は、この由比の笑顔にヤラれてしまったからとしか思えない。

確かに由比は平田に殴られる前までは由比はワザと千笑に接触していた。
だが、その後は由比が千笑に関わる理由は一切ない。逆もまた然り。
ここからは完全に千笑の独断専行で、行動理由は ただのお節介でしかない。

これまでの倉森(くらもり)や立花は恋愛関係があったから最後まで動き続け、それに千笑が巻き込まれたという形だったが、
この由比編は恋愛関係にもならないし、目の前の人を救う完全に千笑のお節介でしかなくなる。

そして千笑は暴走し、人の机から物を持ち出して、勝手に行動する始末。

いよいよ千笑が身勝手になってきました。
こういう千笑の行動の線引きや動機付けを作者は上手にコントロールしなくてはならなかったのに、
もう それを放棄したかのようで不快だ。

最終巻で「いくらでも続けることは可能」などと書いていますが、
もうネタがなくて、キャラの行動すら崩壊している本書には未来はない。

神経の行き届かない雑な物語になってしまって残念です。