清野 静流(せいの しずる)
純愛特攻隊長!本気(じゅんあいとっこうたいちょう!マジ)
第03巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
由比翔(ゆいかける)編、ついにクライマックス! 由比を喜ばせようと、内緒で彼が撮った写真を広報誌に応募した千笑(ちえみ)だけど、由比に「余計なことはするな」と拒絶されてしまう。原因が由比の父親にあると感じた千笑は、直談判するべく由比家に侵入しようとして……!? さらに――「べつにあんたが好きってわけじゃないんだからね!!」ツッコミ女王・由香里(ゆかり)×クール大王・大野(おおの)の恋は!? 最強(凶?)恋愛ストーリー!
簡潔完結感想文
- 由比編終了。問題が解決したなら、これより新キャラ追放の儀式を始める!
- 千笑が戻ってくると信じるのが平田の愛。だから動かない。ヒーロー消滅。
- アクセサリが行きつ戻りつする由香里&大野編。本書の最後の希望です。
1994年頃の設定なのでテレビの奥行きはあるのだが、作品の奥行きはない 3巻。
私には本書はギャグとシリアスの間を行き来して、どちらも楽しめなかった。
作者の こういう方向性の話が描きたいという信念が感じられない。
また作品や世界観に対する集中力も疑問だ。
作者の中では本書の1話は1994年を舞台としていた。
それを堅持するのか、それとも連載時(2004年~2011年)に合わせるのかの葛藤があったのだろう。
そんな設定の曖昧さが色々なところに出ている。
主人公たちに携帯電話を持たせない、という点だけは徹底していたが、
この『3巻』でいうと新キャラ・由比(ゆい)が使用しているカメラがデジカメ仕様なのが気になる。
これはヒロイン・千笑(ちえみ)が彼の撮った「ある写真」に気づくために必要なんだろうけど、
これでは物語の中で整合性が取れないのが気になってしまう。
また、テレビは分厚いのに、パソコンは薄型ディスプレイだったり、
以前も作中でネットの存在を示唆していたりと脇が甘い。
こういう点が作品への集中力を維持できてないように思えて、作者への不信感に繋がる。
意味の不明な改題とか、ワンパターンな話の構成とか、長編化するほど短所ばかりが目につく。
そして今回、千笑の暴走が公式に容認されたのも悪印象。
これは立花(たちばな)編を経験した千笑と平田(ひらた)の新しい愛のカタチだといるのは分かる、
でも これは千笑が 今後も美形キャラの家庭の事情に土足で踏み込む土壌を造れるという前例になりかねない。
そうなる前に作品自体が終わったが、平田の存在意義すらも奪ったことは作品の末期症状と言える。
作品全体でも描きたいことは分かるのだが、
それが読了のカタルシスと結びつくかというと疑問が残る内容が多い。
世界観構築を作品への評価の大きな基準にしている私には、奥行きの感じられない世界だった。
千笑の お節介で勝手に提出した由比が撮影した写真が市の広報紙の表紙に採用された。
だが、それを父親に見咎められて由比は再び暴力を振るわれる。
そんな現実を前に口論を交わす2人。
千笑の理想論を前にすると、窮屈な現実が際立つ。
だから、由比は学校の屋上からカメラを捨てようとする。
それは彼にとって「緩やかな自殺」であるのだろう。
屋上・自殺は、長編の新キャラの最終的な行動目的となる本書。
だが今回の由比は、これまでとは違い悪行に手を染めている訳ではないから、罪の意識もない。
これまで長編キャラたちが悪行が上手くいかなくて、
簡単に死のうとしていたのとは違い、由比が目指したのは間接的な自殺だろう。
それを防ぐのが、千笑。
由比の分身であるカメラを守って、自分が屋上から落ちる。
ここも屋上がクライマックスの場面、自殺をしようとするのを身を挺して守るという慣例が続いている。
のは分かるが、本当に こういう展開しか描けないんだと作者の引き出しの少なさに落胆するばかり。
上手くいかないことに対して自分を殺して生きようとする若者一辺倒なのも頭が痛い。
ラスト付近が全部一緒の展開で、生死をかけた行動で全ての幕引きを図ろうとするところもズルい。
あっという間に悪人が改心して、あっという間に物語から追放される。
その繰り返しを3回見せられたのが、本書の長編である。
千笑は由比には出来ない彼の父親への直談判を続ける。
一体、何が千笑を動かしているのかが分からないから全く共感できない。
そして由比が心変わりする場面が不明。
もちろん千笑の行動が心を打ったという面もあるだろうが、それにしても展開が急すぎる。
彼が新たな一歩を踏み出して、物語の外側に行くという展開で幕引きをして、
それによって由比の家庭内の事情も玉虫色の決着を見せているとしか思えない。
立花編の繁(しげる)といい、由比の父親といい、
強烈な悪を描きながら、彼らの信念があっという間に瓦解していくのが気になる。
そして今回は そもそも千笑が介入したお陰で良い結果をもたらしたとも思えない。
それほど千笑とは関係のない問題なのだ。
今回、千笑自身がヒーロを含めた全ての役を背負うのは、彼女の成長なのだろうか。
どう考えても平田が付き合いきれないだけにしか見えない。
特に今回は平田が出て行く理由もないし。
それもこれも立花編の騒動で千笑を信じると決めた平田だから、
彼は動かずに千笑が帰ってくるのを待つだけとなる。
それが、「おまえ(千笑)の全部 受け止めるって話」で、平田の大きな愛なのだろう。
その流れは分かるが、
作品的には平田の登場場面が激減して、千笑の暴走に拍車がかかるだけとなった。
読者が読みたいのは こういうことではない。
平田については色々と袋小路に入ってしまった気がする。
こうして身動きが取れなくなった主役カップルに代わって、
作品に動きを出す役割を担うが由香里(ゆかり)と大野(おおの)である。
カバー袖で作者は「今の作品は、このふたりに支えられているといっても過言ではないような…」、
「正直 こんな支持されるキャラになるとは思ってなかった」と書いているが、
それは作品自体が千笑と平田を育てきれなかったから、
由香里たちが支持されているだけという現状なのではないか。
今回、大野がタバコを止めている。
これは由香里がタバコのにおい嫌いだから、彼女に嫌われたくないという大野の誠意であった。
高校2年生で早くもニコチンの禁断症状に襲われる大野だが、
口寂しさを緩和させるための努力もしている。
時には タバコを吸えないストレスから由香里に厳しく当たってしまう大野だが、
それも彼の不器用さの表れと考えれば可愛いものだ。
由香里も大野がタバコを吸わないことに気づいているが、その動機までは見抜けない様子。
そんな不器用な2人の恋にハラハラする。
そして由香里は大野に大いに振り回される。
臨時で一緒にバイトをした週末、休憩中に突然キスをされたり、
大野の中では自分たちは交際していることになっていたり。
タバコを吸いたい欲求をキスに変換するって、格好いいのでしょうか。
大野は由香里が自分のことを好きだと知っているし、
彼もまた憎からず由香里を思っての愛情ある行動だと思いたいですが、
乱暴な行為であることには変わらず、そしてタバコの代わりに唇を吸うというのが何かオヤジくさくて嫌だ。
いつも通り、やけ食いでストレスを発散しようとする由香里に対して、
彼女宣言をしたり、大野の俺様っぷりが酷い。
彼の中では しっかりとした論理(愛情)があるからの言動だろう。
大野は本当のことしか言わないだろうから。
でも由香里にとっては彼が理解できないとしか映らない。
だから過去形となってしまったが、由香里はハッキリした告白の言葉と共に、
何度か捨てようと思ったアクセサリ=愛の結晶は、大野の手に返して走り去る。
由香里は正ヒロインであるはずの千笑よりも、
あてどもなく走る少女漫画のヒロインっぽい行動が多いですね。
今度は大野がどう真剣に返すか。
でも、アクセサリが大野の手から由香里に戻る場面って、この前も見た(『13巻』)。
タバコを止めたことが大野の決意の表れなんだろう。
でも千笑と同じく直情的な由香里とは、何度も同じ争いをしそうで怖い。
作品内で動いている恋愛だけど、今後も継続される確かな恋愛かというと、そうは思えないなぁ。