清野 静流（せいの しずる）
純愛特攻隊長！（じゅんあいとっこうたいちょう！）
第08巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
彼女を信じていたいけど……。千笑（ちえみ）と立花優弥（たちばな・ゆうや）の度重なるアヤシイ行動に平田、爆発!! 思わず立花を殴ってしまった平田は、千笑に「……つきあいきれねぇ……」と別れを告げた。それでもまだ平田が好き！ 今の自分を変えることを決心した千笑に、ゲームはまだ終わっていないと再び立花が近づいてくる――。波乱再び!!
簡潔完結感想文
- 詐欺に騙されて周囲から人は去った。千笑は生まれ変わるというが信用ならん。
- 最終回前の展開なら分かるが、問題が起きるたびに別れると言い出すことに辟易。
- 千笑のモテ期が始まる。お節介ヒロインは男性の心の問題を探り当てるから便利。
少女漫画において彼から贈られるアクセサリは愛の結晶である、の 8巻。
古今東西、少女漫画のアクセサリは恋愛の可視化である。
そもそもが異性にアクセサリを贈るという状態が特別で、ほぼ その2人の交際を意味する。
贈られた時は幸せの絶頂で、それを身に着ける、近くに置くことで幸福を感じられる。
また渡す前からドラマを作りやすいのも作家側としては便利なアイテムだろう。
気軽に変える物じゃないから、贈る側（多くは男性）は お金を貯めるために時間を費やす。
それが2人のすれ違いになって、一度2人の関係は危機に陥るし、
ようやく渡す場面では その下がった気持ちを一気に帳消しにして、2人を幸福の絶頂に導ける。
気持ちの乱高下は、読者に胸キュンをもたらす。
アクセサリを渡す一連の流れは本当に便利。
そして物語の最終盤で アクセサリを紛失する話も用意できる。
2人の交際や幸福だった日々の象徴だったアクセサリが無くなることで、恋愛はピンチを迎える。
大抵は、紆余曲折の末に見つかり、それが2人の再交際のキッカケとなる。
もはや ここまでがテンプレ展開である。
…が本書は、その愛の結晶であるアクセサリすら渡せない。
ヒーローの平田（ひらた）が恋人の千笑（ちえみ）にアクセサリを渡す前に、
悪意を持って千笑に近づく男・立花（たちばな）が千笑にアクセサリを押しつけていたから、とも言える。
少女漫画で女性が手に出来るアクセサリは1つと決まっている。
立花が返却を拒み続けることで千笑の手元に残っただけという経緯はあるものの、
千笑が立花に有無を言わさず返却するという強い意志が無かったのも確かな事実。
今回、平田のアクセサリが千笑に渡らなかったのは、彼女の優柔不断が招いた自業自得の結果であった。
アクセサリを渡す前に一騒動あるのが少女漫画のお約束としても、本書の騒動は長すぎる。
これが最後の長編なら展開も長さも気にならないが、この後も物語はダラダラと続く。
作風もギャグと社会派を交互に混ぜているつもりなのかもしれないが、
社会派パートが長すぎて、ギャグの配分がどんどん少なくなるのが不満です。
※ そういえば大野（おおの）と由香里（ゆかり）のペアもアクセサリで繋がっているといっても過言ではない。
由香里にとっては、大野から貰ったアクセサリは自分の片想いの象徴。
何度か捨てようとするが、ずっと手元にある物である。
平田が千笑のためにバイトして、清水の舞台から飛び降りる覚悟で買った指輪。
だが、指輪を購入した直後に平田が見たのは、立花に手を引かれて歩く千笑の姿だった。
それもこれも立花の企み。
立花は幼なじみの繁（しげる）から平田の行動を知り、彼が千笑の浮気を疑うように仕向けた。
こんなに上手く物事が運ぶかなという不自然さも感じるが、全体的に罠は上手く練られている。
それもこれも千笑も平田も猪突猛進型で、行動の予想がつきやすいのだろう。
不自然さの中でも、千笑が立花に深く関わろうという動機が見えないのが気になる。
「友達」という言葉を前面に押し出して、千笑に断りづらい要求ばかりする立花だが、
千笑が ずっとNOと言えないことに違和感が残る。
広く言えばクラスメイトの大野（おおの）や広田（ひろた）も千笑の男友達だが、
千笑の対応は立花に対するものとは大きく違う。
動機が弱いとなると、ただ単に顔の良さに釣られているように見えてしまい、千笑の軽薄さが悪目立ちする。
最初から義理人情には厚かったが、こんな思考力ゼロの人間ではなかったはずだ。
作者も悩んだ節は見られるが、初期の千笑との性格の違いが残念だ。
その一件でモヤモヤしていた平田は、更に千笑と立花の下校風景を見かけて堪忍袋の緒が切れた。
立花に殴りかかる平田だったが、千笑は平田を制止し、立花を守るような行動に出る。
人の気持ちなど気にせず天真爛漫に行動する千笑からしてみれば、
突然 彼氏が「友達」を殴ったのだから当然の行動だが、
平田は千笑を「…つきあいきれねぇ…」と突き放し、立ち去る。
呆然とする千笑に泣き面に蜂。
2人の仲を引き裂くという目的を達成した立花は、腹を抱えて大笑い。
こうして千笑は立花の本性を知る。
立花にとって千笑は賭けの対象だけでなく、
人と人との関係を信用しない立花が、校内で有名なカップルの交際を終わらせることは
至上の爽快感を味あわせてくれると思い千笑に近づいた。
事の真相を知った千笑は、立花を糾弾するよりも平田にも真相を伝えようと彼のもとに向かう。
だが平田の前で開口一番、立花に騙されたと訴える千笑の姿は平田にとっては
自分の不貞を人のせいにするようにしか見えなかった。
彼女である千笑の言葉にも耳を貸さない平田は、再び千笑から遠ざかる。
こうして千笑は初めて自分の罪を自覚する。
これまでのウソも平田に自分が軽蔑されたり叱責されることから逃れるための方便であったことも自覚した。
そんな関係に陥った千笑だったが、険悪になる前に約束していたデートの日が到来する。
約束の時間に遅れてきた平田。
ここに平田の悩みの深さと、そして無視は出来ない平田の優しさを感じる。
これは前回のデートの約束で、自分の都合で待ち合わせ場所に顔を出さなかった千笑とは明確に違うところだろう。
登場から いつもの雰囲気とは違う平田。
その雰囲気から逃れるために千笑は空元気で応じるが、平田は もう逃さない。
千笑は、次からはこうならないようにする、と反省の態度を見せるが、
平田は涙を流しながら「……先見えねぇ……」と交際の継続が望めないことを宣告する。
千笑は、あの平田に涙を流させるほど、彼を追い詰めていた。
話の流れは分かるけど、大体のことは男女逆バージョンで倉森（くらもり）編でやったこと（『3巻』～）。
あの時も別れそうな雰囲気が漂ってたなぁ…。
何かあると すぐ別れを切り出すのはリアルな雰囲気だけど苦手です。
少女漫画読者は揺るぎない愛を読みたいのだから。
まぁ今回は千笑が平田を裏切るような行動を取り続けたから仕方ないか。
これも平田は倉森との関係をしっかりと断とうとしたのとは対照的だ。
千笑がとんでもない悪女に思えてくる。
家に帰った千笑が平田との思い出を思い返して泣くが、同情の余地はない。
学校でも平田は自分を避けるような態度を取る。
それでも千笑は彼と喋る機会が欲しくて、バイト先を訪れる。
自業自得ながら未練がましくもあり、いじらしくもある。
だが平田のバイト時間より早く到着してしてしまった。
しかし そのお陰で、千笑は平田のバイト仲間と話す機会を得て、
そして その人から平田が自分のために指輪を用意してくれていたことを聞かされる。
指輪＝アクセサリは、冒頭で書いた通り、愛の結晶である。
それを手に入れるために平田が汗を流していた時に、自分はほかの男と遊んでいた。
千笑は、いかに自分が相手のことを考えて行動してなかったかを再度思い知らされる。
そうして千笑は自分の足りなさを自覚し、変わることを宣言する。
平田なしでも頑張ること、そして これまでの彼への感謝を述べる。
街頭の選挙カーの上で…。
作品が ここから千笑の成長や変化が しっかり描けていれば、この最悪な状況も許せますが、
結局、最後まで千笑は同じ間違いを繰り返すから、目も当てられない。
新キャラと千笑が関わるためには、千笑が天衣無縫でなければならないんだろうけど、
いつまでも学習しない女の話を読まされるのも辛いものがある。
作品を長編化させるために、思考能力を奪われるヒロインは被害者でもあるのだが…。
こうして心機一転した千笑は、乙女モードから暴力モードへと暴走する。
千笑は再び近づいてきた立花に復讐を果たす。
これまで封印してきた腕力に物を言わせ、今度は千笑が立花の主導権を取る。
そして ここからは全てが反転する。
千笑の復讐の一つに、千笑の父と立花の接点を作るというものがあった。
非常に迷惑な父に、こんな活用法があったのかと膝を打つ。
そして立花が千笑一家の個性豊かな家族に囲まれて食事したことは、
彼に幼かった頃の繁一家との食卓を思い出させたことだろう。
自分が憎んでいたものは、かつて自分が喉から手が出るほど希求した温かさ。
そのリンクが、立花の中で千笑を温かいもの、優しい象徴として位置づけたのではないか。
更に千笑の復讐の一環で海に落とされ、濡れた服のまま3時間 歩かされた立花は、
その後に高熱を出し、千笑に看病してもらうこととなる。
ここでも立花は弱っている心に、食事や人の温かさが入り込んでいく。
そうして千笑のことが忘れられなくなっていた。
3日で千笑をオトすはずの立花が落とされる。
ミイラ取りはミイラ化していく。
ここから本当の意味での三角関係が始まろうとしている（1つの話が長いなぁ…）。
