清野 静流（せいの しずる）
純愛特攻隊長！（じゅんあいとっこうたいちょう！）
第12巻評価：★★☆（5点）
総合評価：★★☆（5点）
超強力キャラ御巫真鶴（みかなぎ・まつる）、登場!! その可憐で乙女な萌えパワーに、千笑（ちえみ）＆平田（ひらた）は大混乱!? クラス替えで一緒になった真鶴の、平田を見る目が怪しい……？ もしやこれは愛が芽生えちゃった!? いや――!! 必死で仲を裂こうとする千笑に真鶴が告げた衝撃の真実とは……!?!?
簡潔完結感想文
- いつの間にかに進級。作中に季節が分かる描写（イベントや服装）が無さすぎる。
- 新キャラは長編の始まり。内容は明るいけれど、今回も家庭の事情が描かれている。
- 平凡ヒロインはなぜモテる⁉ 美形に千笑がモテるってのは立花編で見たんですけど…。
二度読むこと必至の 12巻。
作者は話の運び方が上手いな～、と感心する。
これまででも話の布石を打ったり、伏線を張るのが上手な部分があったが、
今回は読者が二 度読むことで納得する部分を潜ませているの上手い。
いきなり冒頭から新キャラが登場して長編が開始したが、
どうやら これまでの長編のように暗い話でなくて一安心。
ここから妙に社会派になったり、静かに狂った青少年が出てくることは ないでしょう。
話の運びは上手いけど、話の作り方は迷走してましたもんね。
今回の新キャラは、クラスメイトとして今後も登場しそうで一安心。
新キャラの使い捨ても見てられない状況でしたから。
作者の中で長編では恋か家庭環境、もしくは その両方を取り扱うことにしてるのかな。
今回は主人公・千笑の恋のライバルだった倉森（くらもり）編と、
複雑な家庭環境から性格が歪んだ人間が、千笑を通して恋を知った立花（たちばな）編を、
混ぜて、明るい作風で味付けしたような内容となっている。
それによって どこか既視感もあるが、
笑いの入る要素があるので、最後まで楽しく読めた。
序盤は新キャラ・真鶴（まつる）に対して敵対心を燃やしていたのに、
敵じゃないと分かると仲良くなり、その人の心の内側まで入り込んでいく千笑。
恋人の平田（ひらた）を盲目的に愛している千笑の絶対に攻略不可能な感じが、
男性の中の挑戦の炎に火を点けるのだろうか。
千笑の特技は、自分より美形の人と仲良くなることだろうか。
親友の由香里（ゆかり）たちも立花も真鶴も、そして この後も、美形としか仲良くならない。
この『12巻』から2年生に進級。
『11巻』の平田留年の危機も進級を念頭に置いた話だったんですね。
しかし この作品、ずっと制服で、厚着をしないから季節を感じられない。
季節イベントも学校イベントも少なくて、時の移ろいが分かりにくい。
（学校イベントは『5巻』の文化祭ぐらいだろうか）
全ての出来事が一直線上に並んでいるように感じられず、オムニバス形式のように思ってしまう。
もう ちょっと交際と時間が進んでいく関係が しっかりと描けていれば、
読者も 2人が育んだ愛の長さが実感できるだろうに。
それがないから、いつまでも安定感のないカップルのように映る。
ここら辺も、長編化する時に作者が見落としていた点ではないか。
立花編が全体の1/3以上（13巻中5巻）を占めるというのもバランスが悪い。
進級によって平田や女友達2人とクラスが別れてしまった千笑。
千笑のイトコの瑞希（みずき）は、千笑と同じクラスになる。
追加キャラの中で彼だけは、少しずつ顔を出してますね。
千笑の親族で、ギャグ寄りのキャラだからですかね。
シリアスキャラは長編が終わるとお払い箱になってしまうのとは対照的だ。
新キャラは美形だという決まりがあるらしく、
新しいクラスメイト御巫 真鶴（みかなぎ まつる）も綺麗な顔立ちをしている。
真鶴は礼儀正しくて、実家が道場なので武術を教え込まれていて強い。
いわば暴力特化型の千笑の上位存在と言える。
そんな真鶴に、千笑は倉森の時のような平田を挟んだ戦いになる予感を覚える。
その予感は的中し、平田と真鶴はハプニングでキスをしてしまう2人。
それからというもの真鶴は平田へのアプローチが止まらない。
それでもクラスに友達がいないことを避けたい千笑は、真鶴との交流を止めない。
もはや 千笑は自分の都合だけで「友達」を作ろうとしている。
友達って何かね…。
彼女の言う友達はクラス内での居場所確保の道具でしかない。
だが、千笑の我慢はすぐに限界を迎え、
平田に近づく真鶴を殴り倒そうとするが、しっかりと鍛錬を積んでいる真鶴に返り討ちにあう。
そうして牙を折られた千笑は、冷静に真鶴と話す機会を得る。
どうやら真鶴は平田には恋愛感情はないという。
「やっぱり ちゃんと話をすればよかったんだ…」
「いきなり襲いかかっちゃうなんて…」と反省する千笑。
それでこそ千笑だが、最大の被害者は平田だ…。
その対話の中で真鶴の衝撃的な事実が判明。
これは読み返してみると、魔性の女だと思った真鶴の行動は、全て理にかなっていることが分かる。
瑞希が真鶴を拒否するのも いわば同族嫌悪みたいなものだろう。
ただ、新年度初のホームルームでの自己紹介の時に、
担任は「次 女子の17番 遊佐（ゆさ・千笑の名字）」「次 男子18番 山田」と言っていることから、
クラスメイトは全員、真鶴が「男」だということが分かるはずなのだ。
千笑もクラスメイトの瑞希や広田も話を聞いてなかったのだろうか。
真鶴に女装趣味はないし、性的指向も一般的なもの。
なぜ真鶴がこうなったかというと、彼の家庭の事情が裏にあった。
真鶴の家は、両親と7人姉弟。
真鶴は7人目にして初の男で、末っ子長男。
道場の跡取りとして男児を希望した結果、大家族となった。
女性は道場を継げないのだろうか。そこは謎。
姉弟は多いけれど、道場は師弟関係に悩む。門下生は減るばかり。
道場は先細りなのに、子供が7人もいるので家計は苦しい。
真鶴が着ている制服も姉のお古。
だから女性用なのだ。
もしや昼食が塩にぎり2つなのも経済的理由もあるのか。
でも髪型が こうである必然性はない。
カバー袖の作者コメントを見ると、もっと短くするつもりだったが、
髪型が被るキャラがいるから避けただけなのだろう。
結果的に長くて良かったと思うが、真鶴が自分を「女」に見せることに寄せているようにも思えてしまう。
そうして真鶴に害がないと分かった千笑は友好的。
一方的に憎んだ後で、手のひらを返して友愛的な態度を見せる千笑の身勝手さよ…。
立花に続いて、またも男性と「友達」づきあいをするが、
真鶴にとっては初めて女性と食事をしたり買い物をしたりする機会であった…。
自分の気持ちに歯止めをかけようと、今後は2人ではなく平田と3人でしか会わないように提案したり、
熱くなり始めた気持ちに水を浴びせてみたりするが、その想いは爆発寸前。
そこに無意識の千笑のスキンシップが加わり、気持ちに蓋をしようとする真鶴の努力を水の泡にしてしまう。
好意を示すような言葉を発してしまった真鶴はなんとか誤魔化したが、
そこには千笑も感じ取るものがあったらしい。
といっても それは真鶴を女性として扱って遊ぶのを止めようかという逡巡だけ。
千笑は鈍感だから、彼に生まれつつある好意には気づかないまま、
またもや彼に深く関わっていく。
彼の実家の道場を立て直すための お節介が始まっていく。
千笑が お節介を始めないと、物語は動かないんだけど、
千笑のお節介には出口がない。
立花編 後半の繰り返しにならないことを願うばかり。
