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少女漫画と小説の感想ブログです

金石 悟郎の華麗なる五変化。幼なじみ・編集者・当て馬・恋愛アドバイザー・オカン。

椿町ロンリープラネット 6 (マーガレットコミックスDIGITAL)
やまもり 三香(やまもり みか)
椿町ロンリープラネット(つばきちょうロンリープラネット
第06巻評価:★★★☆(7点)
  総合評価:★★★★(8点)
 

「俺とつきあうか」暁の突然の告白。心、浮き立つふみですが、初めての恋人が暁ということに少し不安を感じます。そしてなにより暁の『天然ジゴロ』っぷりにドキドキがとまらなすぎて──。初恋、初彼、初デート、の6巻です。

簡潔完結感想文

  • 家政婦から恋人になったことで、居候から同棲に生活様式も名前が変わる。
  • 彼の年齢も携帯番号も交際後に初めて知る。それらは飾りでありますッ!
  • お互いに気遣いあう初デートだが、最後には心が歩み寄り、手が重なる。

ちよち歩きの交際編スタート、の 6巻。

この巻で先生の年齢が初めて分かります。
(更には巻末の架空インタビューでは アイドル並みの詳しいプロフィールが掲載。文芸誌だろうに…。)

現在28歳、この10月で29歳になる木曳野(きびきの)先生。
対するヒロイン・ふみ は、一回り年下の16歳の高校2年生。
年齢という現実を前にすると、
物語が一気に、アラサー男が お金で女子高生を囲っているように見えるから不思議だ。

勿論、ここまで読んできた読者が そんな陳腐な感想を抱くわけもなく、
ここまで重ねてきた2人の関係があるからこそ、
『6巻』にして初めて先生の年齢を公表したのでしょう。

ふみが(そして読者も)先生を好きになったのは年齢以外のところ。
数値化できない真面目さも優しさも不器用さも全部ひっくるめて好きになったのだ。
もしかしたら 守銭奴の ふみ は先生の年収は気になるかもしれませんが(笑)

そして年齢がただの飾りになるのは、男女交際においても同じ。
そして 2人は この年齢にして、中学生か というぐらいの初々しい恋愛を展開していく。

男性に交際歴があっても純愛を成立させていくのが少女漫画。
木曳野の場合はむしろ 過去の記憶があるから、ふみ の特別性が際立っている。
こういう「ほんとうの恋」が少女漫画読者は大好きなのです。


居してから3日。
先生は ふみを迎えに来た。
そして「付き合うか?」という言葉もくれた。

その言葉に嬉しくて泣く ふみ に対して、
困惑しながらも、肩に手を伸ばし、そして頭に手を置く。

やはり頭に手を置かれると恋人っぽいですね。
頭ポンの破壊力たるや。
肩から順にというのも、先生に愛おしさが募った感じがして一層いいですね。

『3巻』で 押入れにいた ふみが泣きだした時には どうすればよいか逡巡していた手ですが、
今回は、肩に頭に行き場所を見つけた。
後半のデート回といい、手が重要な場面を担っています。

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先生の表情に揺らぎが見られるのに、泣いている ふみ は気が付かない(2回目)

こうして交際が決定してから ふみ は、先生に年齢を聞く。
現在28歳、今年で29歳。

この言葉によって、今年の木曳野の誕生日は まだ来ておらず、
作中時点での8月下旬(?)以降から12月までに絞られるが、
どうやら ふみ は、これを記憶しなかったらしい。
このことが、とある騒動を巻き起こすが それはまた別の話。
それだけ、交際の申し込みに頭が舞い上がっていたとも考えられる。
(ちなみに巻末の架空インタビュー記事によって木曳野の誕生日が10月30日と確定する。
 他にもB型・身長185cm、体重72㎏と個人情報が盛りだくさん)


ポンに続いて、先生が3日ぶりに家に戻りシンクで家事をする ふみを見て、
背後から耳元で「おかえり ふみ」というのには参った。
恋愛イベントが満載である。
しかも どれも わざとらしさがないから良い。
不器用で愛情深い先生なら、これぐらいやりそう という塩梅なのだ。

また、玄関を開けっぱなしにしていた先生にも、
不用心よりも、必死さの残骸が見てとれて愛おしくなる。
食事中に、鍵も掛けずに ただ ひたすらに頭の中にいる女性に会いに行ったことが窺える。
あの先生の頭の中をいっぱいにするなんて、本当に稀有なことである。


だし両想いになっても不安が拭えないんのが この恋愛。
なぜなら互いに恋愛初心者のような2人だから。

なので交際に際しては、恋愛アドバイザーたちの働きが光る。
ふみ には、クラスメイトの洋(よう)ちゃん と一心(いっしん)。
特に先生に聞けない男心は、一心が教えてくれる。
といってもアドバイザーたちも、実際の経験というよりは想像の産物で答えている訳ですが…。

一方、木曳野には幼なじみの編集者・悟郎(ごろう)がいる。

先生は悟郎が ふみ に対して好意を抱いていると思い込んでいるため、
自分が横恋慕した上に、ふみ と交際することになったことにケジメをつけるため、
悟郎に「思い切り殴れ」と要請する。
なんとも義理堅い。
そして騙されやすい。

考えてみれば、先生は ふみ と悟郎、2人の罠にまんまとハマっているのだ。

ふみ の架空の好きな人に頭を悩まされ、
悟郎が買って出た当て馬役に 嫉妬を引き出されている。
自分を強く持っているかと思いきや、割と周囲に影響されやすい。

でも恋愛ひきこもり を扉の外に出すためには、外に出る動機が必要だったのです。
28歳でこれですよ。
先生の恋愛に対する意識の低さは中学生の恋愛を読んでいる気分です。
「もう 鈍感なんだからッ!!」と、女性がプンプン怒るヤツです。

まぁ 先生にとっては本当に初恋みたいなもので、
だからこそ恋愛初心者の2人を温かく見守る人々が必要なのです。


た、先生は「自分の気持ちも固まってないのに男として生半可なことは できん」と
恋人として、ふみ に何もしない宣言をしだす始末。
もう同棲しているのだから、それだけで充分らしい。
久々の恋愛ということもあるが、怠惰が癖になっているのだろうか。
相手が ふみじゃなきゃ、早晩、終わりを迎えるヤツですね、これ。

でも、この2人。
もし最初から一緒に暮らさないままで、
交際していたら、同棲に至らなかったかもしれませんね。

先生は自分のテリトリーに誰かが入るのを嫌がるだろうから。
ふみが年端もいかない年齢で孤独だったからこそ、
先生は猫を預かる気持ちで 彼女を迎えた。

そうでなければ 木曳野の過去の恋愛と同じく、
一方的に好意を持たれ、一方的に破綻していくだけだったかもしれない。
その意味では、この恋は始まりこそが奇跡的であったと言える。


去から何も学習しない木曳野に対して悟郎は、
「付き合うって もっと相手を特別扱いしてあげること」と極意を授ける。

先生は愚直、または素直だから、
悟郎のアドバイスを受けた その日に ふみをデートに誘う。
ちなみに本番のデート服も悟郎のアドバイスにより直前変更している。
もはや悟郎は、いつまでも色気づかない息子を応援するオカンのようである。

そういえば31話の扉絵で、ふみ と木曳野が作者の前作『ひるなかの流星』を読んでいるという
設定の絵があるが、先生は少女漫画をハウツー本にしたら、良いと思う。
馬村(まむら)に影響を受けた先生が、ふみ のすることなすことに全部 赤面するとか、見てみたいなぁ…(妄想)

そして初デート回。
先生は午前中に仕事のため、12時に駅で待ち合わせ。
同じ家に住みながら、待ち合わせするのもデートっぽさを引き立てている。

ベランダ越しに移動できる隣同士の幼なじみも、初デートは駅前集合にして非日常感を演出していた。
確か、水瀬藍さん『ハチミツにはつこい』だったはず。
先生は無意識で それをやってのけている。
流石、天然ジゴロである。

集合のために初めて木曳野から電話がかかってくる。
これで ふみ は初めて先生の携帯番号を知る。
交際をして初めて知ることの多さよ。

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待ち合わせは別々にしてデート服で初対面。そんなデートの醍醐味を味わえるのもアドバイザーのお陰。

生が連れてきてくれたのは、スイーツ店。
東京ウォーカーに「女は こういうのが好きだと書いてあった」から選んだ店らしい。
うん、マニュアルくん。

でも これは過去の失敗を繰り返さないようにしているとも言える
これまでは ずっと個を維持していて、デート場所も自分が行きたいところだった。
けれど今回は、相手に合わせることをしている。

年齢こそ彼女より1回り上だが、先生にとって20代後半は、
柔軟性を獲得し、ようやく まともな交際が始められる適齢期なのかもしれない。

その次の行き先は ふみが選んだ場所。
それが江戸東京博物館

これは『3巻』での木曳野恋愛遍歴の回想で
「デートはいつも そこらへんの公園か東京江戸博物館で…(東京と江戸が逆だが)」というB子さんの発言。
ちなみにB子さんは「もっとおしゃれなカフェやレストランに行きたい」と訴えていた。

で、今回は いきなり おしゃれなカフェに行って、続いては江戸東京博物館
互いの趣味、喜びそうなものに寄り添った結果である。

過去のB子さんと思しき女性は、
デートが江戸東京博物館で機嫌を損ね「1人でまわれば?」と怒ったが、
ふみ は興味津々で展示物を見て回る。

美味しいと思う物が同じ、綺麗と思う物が一緒、
年齢や立場など関係なく、感性が響き合っていることが分かる初デートとなった。

先生は ふみ に、そのB子さんのことを語ってしまうが、
ふみ も年齢差があるから、先生の過去に何があっても驚かない。
「それに こんなこと 片想いの辛さに比べれば 取るに足らなすぎ」る、と言う。

そもそも「先生って多分 私のこと まだ ちゃんと好きじゃあない…ですよね…」と冷静な分析までも している。

これは なかなかに悲しい台詞である。

交際編は飽くまで2人のスタート。
ここから この恋が本物になるかがかかっている。

最後に訪れたのは、ふみが ずっと行きたかった高級スーパー。
心からの笑みを見せる ふみ に対して、先生は自発的に「手をつなぐか?」と提案する。

これはデート前半での からかい や形式的なものではなく、
先生の心からの言葉。

泣き顔でも笑い顔でも、先生は彼女に対する愛おしさが溢れてくる。
先生、それはもう、恋と言っていいと思うよ。


デートの余波としてお送りされるのが、
そのデートを目撃した書店員・桂との話し合い。

これは、木曳野が悟郎に対してケジメをつけたのと同じですかね。
恋愛の勝者と敗者になった女性たちに これまでのことを清算して新しい局面に向かわせる。

ただ、桂(というか大人のライバル女性たち)に対しての本書のスタンスは あまり好きではない。
ふみ と木曳野との恋愛が本物であることを強調するために、
周囲の女性たちの木曳野に対する想いが勝手に軽くさせられているのが気になる。

今回の桂も、木曳野に対する気持ちも、乙女ゲームのキャラに似ていたからと言い出す始末。
女性側の恋を、どれもこれも偽物にしていく様子は あまり気持ち良くない。

ただ桂に関しては、こうやって木曳野への想いを清算させることが必要であった。
その直後に、桂にフラグが立っているから。
そして前作読者なら、あれっ この人は と思うはず。
点と点が繋がり、世界の地平は同じであることが判明する。
ということは、「やまもりワールド」の共演もあり得るということなのだろうか。


際のスタートの儀式も終わり、続いては文化祭編。
新キャラとして学園の王子・鞍月 永人(くらつき えいと)が登場する。

ふみ とは学校の廊下でぶつかって面識ができ、
人数合わせで参加することになったミスコンで再会して縁が深くなる。

ここだけ切り取ると、まるで少女漫画の第1話のようである。
先生と息も絶え絶えに握った手を、永人は いとも簡単に握ってくる。

交際後の横恋慕キャラの登場⁉と長編化した少女漫画あるあるの展開を予感させるが…。